夫からの「無言の圧」に負けて“女らしく”家庭に入った46歳専業主婦、娘から鋭い指摘を受ける

2024年3月9日(土)22時5分 All About

高圧的な父に従う母という家庭に育ったからこそ「自分はそうしない」と心に決めていたのに、気づけば夫からの「無言の圧」に負けて大好きだった仕事を諦め専業主婦へ。成長した娘に、そんな夫婦関係について鋭く指摘され……

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人は育つ過程で、知らず知らずのうちにさまざまな価値観を植えつけられていく。
意識しないうちに従来の「男らしさ、女らしさ」「性別や国籍などに起因するあらゆる差別」を心の中で育ててしまうのかもしれない。そしてそれは当然、次の世代へ無意識のうちに送り込んでいる可能性がある。

夫の顔色をうかがうつもりはなかったが……

マホさん(46歳)は、30歳直前に結婚したとき、自分が育った“不穏な雰囲気”の家庭にはするまいと強く思ったそうだ。幸い、同い年の夫とは友人付き合いが長く、お互いに相手のことはわかっているつもりだった。
「私は仕事が好きだったから、結婚後は恋愛時代のような不安がなくなってバリバリ仕事をしていました。精神的に落ち着いていたので仕事が楽しくてたまらなかった。残業も多かったけど、帰れば夫がいるし週末は一緒にいられる。それが楽しみで頑張っていたんです」
ところが半年ほど経つうちに、夫の様子が少しおかしくなった。結婚前はいつもご機嫌で、マホさんの笑顔を見るのがうれしいと言っていた夫が、常になんとなく不機嫌なのだ。
せっかくの週末、マホさんが「映画に行こう」「ドライブしない?」と誘っても以前のようなノリがない。
「どうしたのと言ったら、『言いづらいんだけどさ、マホ、働き過ぎじゃない? マホの会社って、女性にそこまで仕事をさせるの?』って。びっくりしました。以前から私の仕事のことは知っていて応援してくれていたはずなのに、どうして今さらそんなことを言うのかと……。
すると夫は『一緒に暮らしてみて、オレ、灯りがついていてごはんがある家に帰りたいなと思ったよ』と。
仕事をしている私が好きって言ったじゃないと夫の顔を見ると、なんだかせつなそうな表情だったので言えなくなってしまいました」

「パートでもいいじゃないか」と夫は言った

その直後、マホさんは妊娠がわかった。夫との関係を修復するにはいいチャンスだと思ったと彼女は言う。もちろん夫も大喜びだった。マホさんは産休と育休を使って、もちろん仕事は続けていくつもりだった。
「すると夫は『これを機会に仕事についても考えたらどうかな』と言い出した。でも現実的に共働きでなければ家庭は維持できないし、子どもも育てられない。すると夫は『パートでもいいじゃないか。子ども以上に大事なものはないでしょ』と。
そりゃそうですよ。だけど比べるものではないし、私の人生、のちのち子どものせいでキャリアをダメにしたと後悔したくなかった。
とにかく臨月までは働くわと頑張っていました。職場では元気なのに帰宅するとつわりがひどい時期があったんです。夫はよくため息をついていましたね。
そのため息がなんだかものすごい圧力に感じられて、気持ちが悪いのに平気な顔をして家事をこなして、通勤電車で倒れたことがあります」
それから知らず知らずのうちに、夫の顔色をうかがようになったのかもしれないと彼女は言う。

娘の鋭い一言にドキッ

パートナーに不機嫌になられたら困る、怖い。そんな理由で無意識に顔色をうかがってしまうことは男女ともにあり得る。
だが、マホさんは心の底で「夫を怒らせるのは妻に責任がある」と思い込んでいたと、彼女自身が話してくれた。
不仲で横暴な父に仕える母の姿を見ながら、彼女はいつも怒りを母への同情に変換していたのだ。ああいう夫婦は嫌だと思っているのに、自身もいつの間にかなぞっていた。
「夫の無言の圧に負けて、出産と同時に退職しました。娘が小学校に上がるまでは家でできる仕事をしていたけど、微々たる額しか稼げなかった。独身時代の貯金で少し株に投資したりはしていました」
娘が10歳になったころ、かつての同僚のつてで契約社員として仕事復帰。それでも夫に何も言われないよう、家事は手抜かりなくこなしていた。
つい先日のことだ。
「あるとき、夫が早めに帰ってくるとわかっていながら、どうしても頼まれて少しだけ残業をしたんです。帰宅途中で、つい惣菜を買ってしまいました。夫がそういうのを嫌うのはわかっていたけど、部活から帰ったばかりの娘に早く食事をさせたかったから」
夫はすでに帰宅して入浴中だった。娘も帰ってきたばかりのようだったが、ごはんだけは用意しておいてくれた。マホさんは下ごしらえしてあった料理を作りながら、買った惣菜をレンジでチンして皿に盛った。
これならおかずが少ないとは言われないはずとホッとしたのもつかの間、食卓について惣菜を口にした夫は、「これ、買ったもの?」とつぶやいた。
「ごめんね、どうしても今日は間に合わなくて。一品だけできあいで許してと私が言ったら、娘が『どうしてママが謝るの? 今日はパパが早く帰っていてママは残業だったんだから、パパが作ったっていいはずだよ』と。
夫は何か言おうとしていましたが言葉が出てこなかったようです。
娘は『ママもママだよ。いつだってそうやってパパの顔色をうかがって我慢ばかりしてる』と激しい口調で言ったんです。私は夫に逆らってはいけない、ケンカになってはいけないと思うから、理由もなく謝る癖がついていた。
夫は父ほど横暴ではなかったし、もちろん手を上げることなどない。それでもどこかで“男の人”は女より上だと思っていたのかもしれません」

夫への忖度を娘に見抜かれて落ち込んだ

その晩、マホさんはいつになく気分が沈んだ。自由に見せかけながら夫への強い忖度を娘は見抜いていたのだ。だがこのままだと、娘もまた自分のような人生を送ることになるかもしれない。それが怖かった。
「正直に夫に話しました。もともと望んでいたのとは違う家庭を作っているのではないか、夫婦の関係が間違っているのではないか……。夫はほとんど何も言わずに聞いていましたが、『オレもちょっと考えてみる』って。夫婦で娘の言葉にショックを受けましたね」
ふたりはこれからちゃんと話し合ってみるつもりだという。娘に自分たちの気持ちを言葉にして伝えたいから。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
(文:亀山 早苗(フリーライター))

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