腰痛で3週間寝たきりだった大場久美子、リハビリの名医が教える予防策は?65歳以上は、1日5000歩で認知症や脳卒中を予防、歩幅は広めを意識して

2024年4月19日(金)12時30分 婦人公論.jp


女優の大場久美子さん(左)と、リハビリテーション医療の第一人者である安保雅博先生(右)(撮影:玉置順子(t.cube))

昨夏、腰痛の悪化から、3週間近くベッドの上での生活を余儀なくされた女優の大場久美子さん。夫や同居する義理の両親のサポートを受けながら、不自由なく動ける状態まで回復しました。再発の予防や、将来寝たきりにならないためにできることを、リハビリテーション医療の第一人者である安保雅博先生に聞きます(撮影:玉置順子(t.cube) 構成:内山靖子)

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椎間板の炎症で20日間寝たきりに


大場 今日は、リハビリの専門家でいらっしゃる安保先生に、いくつになっても元気に動ける体を保つ方法を教えていただけると、とても楽しみにしてきました。実は私、昨年の7月に、腰椎の椎間板が炎症を起こして、約20日間、ほぼ寝たきりになってしまったんですよ。

安保 それは大変でしたね。どういう状況だったのですか?

大場 発症する3ヵ月くらい前から、腰に違和感があったんです。女優業の傍らセラピストの仕事もしているのですが、高さ調整できないベッドしかないお部屋で施術するときは、やむをえず前かがみになってしまうことが多くて。

安保 無理な姿勢を続けていたために、腰に負担がかかってしまったのですね。

大場 それであるとき、トイレ掃除をしようとしゃがんだら突然、腰に激痛が走り、しだいに動けなくなってしまって。

安保 腰椎は5個の骨が連なっており、それぞれの骨をつなげるクッションの役割をしているのが椎間板なんです。ただ、年齢とともに椎間板も弱くなってきますから、過剰な負荷がかかると炎症を起こしてしまう。そのせいで激痛が起こり、動けなくなってしまったのでしょう。

大場 救急車で病院に運んでもらったのですが、1日半入院しただけで、とくに何の治療も受けずに帰ってきました。

安静は麻薬


安保 残念ながら、急性期の腰痛の治療は安静が一番なんです。痛みをブロックする注射をしたり、鎮痛剤を使うことはありますが、基本的にはベッドの上で安静にして、痛みが治まるのを待つしかない。

大場 そうなんですか。

安保 ただ、「安静は麻薬」と言って、体をまったく動かさずに、じっと寝ているのはよくありません。痛い箇所を無理に動かすのは禁物ですが、患部以外の箇所はできるだけ動かすことが大切。

そうしないと全身の筋肉がどんどん落ちていき、いざ起き上がったときにふらついて転倒し、骨折することもあるのです。いわゆるロコモティブシンドローム(運動器症候群)の状態になっています。

大場 それは怖い。動かせるところは少しでも動かさないといけないんですね。

安保 ええ。絶対安静で寝ている状態だと、全身の筋力は1週間で10〜15%落ち、1ヵ月で半分に減ってしまいます。高齢者だと、そのまま寝たきりになる可能性もあるんですよ。

大場 私の場合、寝返りは打てなかったものの、手と足は問題なく動かせたので、ベッドの周りに必要なものを置き、着替えも食事もすべて自分で。腰が痛まない姿勢をとって、ストレッチもしていました。日頃は時間がなくてできないフェイシャルマッサージも念入りに。おかげで、寝たきりだった間はお肌がピカピカでした。(笑)


「50代は60秒、60代以上は30秒、片足で立てない人は危険ゾーンです」(安保先生)

安保 素晴らしい!こまめに体を動かしていらっしゃったので、20日という短い期間で、立って歩き回れるぐらいまで回復できたのでしょう。

大場 もう二度と、あの痛みは味わいたくありません。どうすれば予防できますか?

安保 よく動いて、まめにストレッチをして、全身の筋力をつけること。一日中、テレビの前に座って動かない人はどんどん筋力が落ちていく。筋力が弱いと、腰や背中に余計な負荷がかかります。体が硬い人も要注意。日常の動作がスムーズに行えず、振り向いたときやかがんだときに腰や背中を痛めることも多いのです。

大場 自分の筋力や体の柔らかさを調べる方法はありますか?

安保 まずは歩いてみることです。背筋を伸ばしてラクに歩ければ、体のバランスが崩れていない証拠。15分程度疲れずに歩ければ、背筋や脚の筋肉もそれほど衰えていないと言えるでしょう。ほかにも、目を開けたまま片足で立って何秒キープできるか、試してみてください。

大場 片足立ち、得意です!よく家の中でやっています。

安保 50代は60秒、60代以上は30秒、片足で立てない人は危険ゾーンです。名前を呼ばれて振り返ったときに、体のバランスを崩して倒れてしまうこともありますから。少なくとも30秒間はキープできるような筋トレを、行うようにしてほしいですね。

大場 先ほど、ずっと安静にしていると寝たきりになる可能性が高まるとおっしゃいましたが、ほかには何がきっかけになるのでしょう?

安保 厚生労働省のデータによれば、ほぼ寝たきり状態の「要介護5」に認定される原因のトップ3は脳卒中、認知症、骨折です。また、日常生活に多少のサポートを必要とする「要支援」になる一番の原因は関節疾患。膝や腰などに痛みがあると動くのが億劫になり、その結果、全身の筋肉が衰えて寝たきりにつながる場合もあります。

大場 同居している夫の父も、年明けにギックリ腰を経験しました。当初、「あの痛みをもう一度味わうのが怖い」と、ほぼ寝たきりで過ごしていて。少しでも動いてもらいたいな、と思っていましたが……。

安保 すでに腰の痛みが治まっているなら、どんどん動いてもらったほうがいいでしょう。寝たきりを防ぐには、とにかく歩くこと。適度な負荷がかかると骨をつくる骨芽細胞が活発化するので、歩くことで骨が丈夫になります。

また、足の骨を支える大腿四頭筋(太もも)、下腿三頭筋(ふくらはぎ)、背筋などが鍛えられ、転倒・骨折の予防にも。血管の機能も改善され、脳卒中の原因になる高血圧や脂質異常症が緩和されるんですよ。

大場 「歩く」って万能なんですね。よく言われるように、1日1万歩、歩いたほうがいいのでしょうか。

安保 必ずしも1万歩歩く必要はありません。群馬県中之条町で、65歳以上の住民5000人を対象に調査した「中之条研究」では、1日2000歩歩くと寝たきりを防ぐことができ、5000歩歩くと認知症や脳卒中の予防になるという結果が出ています。

大場 2000歩でいいならハードルが低くなりますね。

「不便」を選ぶほど運動になる


安保 歩数よりも大切なのは姿勢です。視線をまっすぐ前に向け、肩の力を抜いて、肘を少し曲げて後ろに大きく腕を振る。つま先で地面を押して、かかとから着地する。さらに、普段より歩幅を1cmほど広げて歩くと運動量がアップします。

大場 ファッション業界の知り合いから、「若く見られたかったら、歩幅を広くしたほうがいい」とアドバイスされたので、人前に出るときは、歩幅を広げて歩くように意識しています。

安保 それ、重要なポイントです。歳を重ねて体が硬くなってくると歩幅が狭くなり、ちょこちょこ歩きになりますからね。

大場 2000歩って、だいたいどれくらいの距離でしょう?

安保 人によって歩幅が違うので一概には言えませんが、歩幅が50cmの人なら1kmぐらいが目安です。距離を稼ぐには、日常生活の中でこまめに歩く習慣をつけること。たとえばスーパーで買い物をする際に、1度に5kgのお米を買うのではなく、あえて1kg、2kgを選ぶ。それだけで買い物に行く回数が増え、運動の機会も多くなるので、ちょこちょこ買いがおすすめです。

大場 なるほど!ほかにも何かアイディアはありますか?

安保 あえて《不便》を選べばいいのです。外出時は車や自転車を使わず徒歩で。駅やビルではエスカレーターやエレベーターに乗らず、1〜2階分なら階段を使ってください。体のバランスが崩れないよう、荷物はリュックに入れるのがいいですね。

大場 階段を歩くのは、いい筋トレになりそう。

安保 外に出かける習慣を持つのもいい。週に1回、最寄りの公民館や図書館に出かければ、自然と歩数も増えますからね。日頃、よく行く場所やお店まで往復すると何歩になるのか、一度測っておくといいでしょう。

大場 年齢とともに出かけるのが億劫になりますが、どんどん外に出たほうがいいんですね。

安保 杖やシルバーカーを使ってもかまいませんから、高齢者ほど外に出て歩いたほうがいい。毎日歩くに越したことはありませんが、「1日歩いたら、2日休む」のように、3日に1度でも効果があります。

大場 そういえば、私は一時期、水中ウォーキングのクラスに通っていました。アクアミットを手にはめてプールの中を歩くと、心身ともにスッキリして。

安保 膝や腰の痛い方は水中ウォーキングがおすすめです。水の中は浮力があるので、関節にかかる負担が減りますからね。もちろん、どこも痛くないという方にも効果的。

水の抵抗を受けて歩くので、前に進むだけでも体幹やふくらはぎの筋肉を使いますし、大場さんのように、ミットをつけて水をかき分けながら歩けば、胸元や上肢の筋肉も鍛えられるので、最高の全身運動と言えるでしょう。

<後編につづく>

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