貴族に生まれたら貴族しかやることない、藤原氏でも官職に就けない平安貴族の仕事事情

2024年5月18日(土)6時0分 JBpress

大河ドラマ「光る君へ」で注目を集める平安時代。大河ドラマといえば時代は、戦国、江戸、幕末、テーマも武将や智将の「合戦」が中心でした。

なぜ今、平安なのか。

「光る君へ」の時代考証を務める倉本一宏氏は「平安時代はもっと注目されてほしいし、されていい時代。人間の本質を知ることができます」と語ります。

その倉本氏は5月21日に、平安京に生きた面白い人々の実像を綴った『平安貴族列伝』を上梓。

日本の正史である六国史に載せられた個人の伝記「薨卒伝(こうそつでん)」から、藤原氏などの有名貴族からあまり知られていない人物まで、その生涯を紹介しています。

今回はその著者の倉本一宏氏に、改めて平安時代とはどんな時代だったのか?お伺いしました。


貴族は「転職」できない?

——当時官人の仕事はどんなものだったのか?どれくらい忙しかったのか教えていただけますでしょうか?

 所属する官司によって、何をやって、何をやってはいけないか、仕事が決められています。もうちょっと後、藤原道長の時代になると、わりと自由裁量ができるようになるんですけれど。公卿と呼ばれる人は国家政策を決めるわけですが、その下に実務官人がいっぱいいて、手伝いといいますか、いろんな資料を揃えます。さらにその下、六位以下の下級官人たちが彼らの雑用をする。ということで、身分によって、職種によってきっちりと決められています。

 問題なのは、今と違って仕事が公務員しかないこと。僕らだったら、この会社が嫌だなと思ったら違う会社に移れますし、あるいは自分で会社を作ることもできますが、彼らは官人しかない。貴族に生まれたら貴族しかやる職業がないんです。

 もうひとつは、ちょっとでも没落すると子供が親よりも出世するということはほぼない。要するにちょっとでもいいから上に行っておかないと、子供は没落してしまう。特に藤原氏はものすごい数になります。平安初期でも五位以上の藤原氏は100人や200人じゃなかったと思います。最初は4人しかいなかった藤原氏が、だんだん世代ごとにねずみ算的に増えていったわけです。

 藤原氏というのは不比等が作った蔭位の制度で、ほとんどが五位以上になることに決まっています。ほぼ全員貴族になるんですが、貴族のやる官職は数が限られています。公卿というのはどんなに多くても20人足らずしかなれません。八省の卿が8人、大宰の帥とか中宮大夫などの長官を含めても、せいぜい3、40人ぐらいしかいない。五位以上の藤原氏が増えても、就ける官職は増えませんから。そうすると、ほとんどの人はそれに就けない。親父さんが上級官人でも子供は中級官人、親が中級官人でも子供は下級官人になることはよくあるんです。

 藤原氏ですらそうなので、まして他の氏族、大伴氏とか紀氏とか阿倍氏とかたくさんいますが、その人たちは高い位ももらえなくなるんです。不比等が藤原氏だけが高い位につけるような制度を作ったために、他の氏族は没落していくのは決まっていたことなんです。


現代と変わることと、変わらないこと

 それでも私が感動するのは、平安時代になって、例えば道長の時代ぐらいになっても、その末裔は生きていることです。血縁があるかどうかは別ですけども、6世紀ぐらいの氏族の子孫、同じ氏の名前の人が11世紀とか12世紀の古記録に出てくる。かなり没落して、下級官人にはなっていますけど、まだ生き残っているっていうのは感動的なことなんです。

 藤原氏に上の方は全部取られていて、今度は源氏が出てきて天皇の子孫が源氏になると、その人達にも取られてしまう。それ以外の一族は片隅の方に追いやられているのに、でも立派に生き残っていて、下級官人でもいいからとにかく生きているというのは、本当に尊いなと思います。

 現代の日本では、学生など若い世代であれば、可能性が無限にあるわけです。同じような先進国でも人種によってこの仕事に就けないというようなことは日本ではないですよね。貴族だからこの学校に行けてこの仕事に就けるけれど、庶民階級だからできないということはないんです。どんな大学の出身であっても公務員試験を受けて、成績が良ければ高級官僚になれるし、選挙に出て通れば国会議員になれる。格差社会になっているとは言いながら、他の国に比べればかなりに開かれているというふうに思います。

——平安時代とは、奈良時代と同じぐらいの長さかと思いきや、400年弱もあるということを実感していない読者もいると思います。つまり藤原道長などが活躍する、今やっている大河ドラマの時代というのは、今回の本で書かれているかなり後で、藤原氏がある程度数がいて、位も保証されている一方で、阿倍氏など他の氏族がなかなか苦しい時代を生きているというわけなんですね。

 そうですね、すごく長くて、時期によって政治の制度をはじめ、いろんなことが変わってきていますが、普通に人々が平安時代でイメージするのは道長の時代だと思うんです。この本ではまだ最初の辺り、9世紀ぐらいが多いですから、現代と全然違うんだなと、こういうことをやってきたんだなということをご覧になっていただきたいと思います。

 さらに言えば、現代と同じだなということはあるはずなんですね。貴族たちの置かれている立場は、我々とは全然違いますけれども、それでもやはり、行うことや考えることは変わらず、一生懸命生きていて、人によってはかなり間抜けなことばっかりしていたんだなって。その点では僕らと変わらないと思います。

筆者:倉本 一宏

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