高橋藍選手が『情熱大陸』に登場。世界で戦う強さに迫る「男子バレー日本代表は、〈個〉の力とブラン監督の存在で世界を魅了する」

2024年5月19日(日)22時30分 婦人公論.jp


2023年7月23日、ポーランドで行われたネーションズリーグ3位決定戦でイタリアを破り、銅メダルを獲得した男子バレー日本代表。表彰式で喜びが爆発する(写真提供◎Newspix.pl/アフロ)

2024年5月15日の『情熱大陸』に高橋藍選手が登場(※「高」ははしごだか)。世界最高峰のバレーボールリーグ、イタリア・セリエAのモンツァで活躍する高橋選手の練習風景や素顔、その強さに迫ります。今回は、バレーボール日本代表の強さを解説した『婦人公論』2023年10月号の記事を再配信します。
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ネーションズリーグで銅メダル、アジア選手権優勝など、バレーボール男子日本代表の勢いがとまらない。9月末からはパリ五輪の予選を兼ねたワールドカップが日本で行われる。開催を前に、その強さを分析した

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高さやパワーを誇る世界の猛者を相手に


ご存じだろうか。今、男子バレーが面白い。来夏のパリ五輪へ向け、すでにさまざまな競技で五輪出場選手も決まり始めているこの頃。柔道やレスリングなどメダル候補が揃う競技に注目が集まるのはわかるが、なぜ男子バレー? そんな声が聞こえてくる。おそらく大方の人は、こう思うのではないだろうか。

「男子バレーじゃなくて、女子バレーじゃないの?」

確かに。2012年のロンドン五輪で女子バレーは銅メダルを獲得した。さほど詳しくない人でも、すでに引退した木村沙織荒木絵里香竹下佳江といった面々は顔と名前が一致するのでは。対して男子は、五輪の記憶を辿るなら、史上初の金メダルを獲得した1972年のミュンヘン五輪を思い出す、という人が大半かもしれない。

だからこそ何度も言いたい。今、日本の男子バレーが熱い。何より面白い。そして強い。

今年6月6日から7月23日まで行われた、世界の強豪16ヵ国が出場したネーションズリーグで銅メダルを獲得。五輪、ワールドカップと同様に世界ランキングに大きくかかわる主要国際大会での日本のメダル獲得は、実に46年ぶりという快挙だった。結果を受け、世界ランキングも5位に浮上している。

なぜ強くなったのか。理由は2つある。まず優れた力を持つ「個」が集ったこと、次にフィリップ・ブラン監督の存在だ。


五輪を除く国際大会では14名がベンチに入る。その中から攻撃の要ともなるアウトサイドヒッター(OH)2名、サーブレシーブには入らず攻撃を専門とするオポジット(OP)1名、ブロックと前衛中央からの攻撃を主とするミドルブロッカー(MB)2名、セッター(S)1名がコートに入る。さらにリベロ(L)が2名選出。なお、リベロは2名同時にコートに立てない(写真提供◎日本バレーボール協会)

1つ目の「個」、つまり選手たちについて言えば、彼らが失敗を恐れず積極的に世界へ飛び込んできたのが大きい。

象徴的なのは東京五輪から主将を務めるエースの石川祐希(ゆうき)だ。大学1年で日本代表に初選出され、アジア大会、世界選手権など多くの国際大会に出場。大学在学中から単身イタリアへ渡り、18年からはプロ選手として5シーズン、世界最高峰のリーグで勝負してきた。

圧倒的な高さやパワーを誇る世界の猛者たちを相手に、どんな攻撃ならば勝負できるのか。石川はイタリアで己の技を磨いてきた。《日本バレー史上最強の選手》という呼び声に違わず、バレーセンスは抜群で、技の種類も豊富で精度も高い。

なおかつ世界で戦い抜く強靭な肉体をつくるために、日々のトレーニングはもちろん、食事管理も徹底している。イタリアでは栄養士の指導に従っての自炊が基本。食事のメインディッシュは低脂肪、高たんぱくの鶏肉や豚肉のソテーで、朝と晩は必ず白米を摂り、茶碗に入れて量を計るのがルーティーン。夕食時にはニンジンやブロッコリーなど数種類の野菜が入ったスープを飲む。

トレーニング、食事、休息に怠らずに取り組んだ結果、筋肉量が増した。一回り大きくなった身体からしなやかに放つスパイクで、次々得点をもぎ取っていく。「ここで1点が欲しい」という場面で確実に決め切る勝負強さは石川の武器であり、口にする目標も、エースとして実に逞しいものだ。

「確実に日本のレベルは上がっています。だからこそ、大事な試合を勝ち切る強さをチームとしてつけられるようになれば、もっと成長できる。まずは自分が、勝利を決める1点を獲れる選手になりたいです」(石川選手)

ただ、いくら石川が秀でているとはいえ、バレーボールは1人で勝てるスポーツではない。石川に続けとばかりに、現在の日本代表には注目選手たちがまだまだいる。

石川と同じアウトサイドヒッターというポジションに入る高橋藍(らん)(※「高」ははしごだか)。彼は22歳の現役大学生でありながら、イタリアへ渡り、石川とともに世界最高峰リーグに身を置いている。

188センチの身長は日本でも決して高いわけではない。だがサーブレシーブや、ディグ(スパイクレシーブ)力は抜群で、高校卒業後の20年、日本代表に初選出されると、飛躍的な成長を遂げてきた。

スマートなのはプレーだけでなく、端正な顔立ちでコミュニケーション能力も抜群。日本やイタリアのみならず、フィリピンやタイなど広くアジア圏で圧倒的な人気を誇る。

「たくさんの人たちに応援してもらえることが自分の力になる」と感謝を述べる笑顔は、まさにアイドルそのもの。だが人気に踊らされることなく、「今までにいないタイプの選手になって、世界で活躍したい」と貪欲さを見せる。急成長を遂げてきた高橋のプレーと笑顔は必見だ。


<関田誠大>
セッター、175cm、71kg。1993年東京都生まれ。小中高すべてで全国制覇を成し遂げ、在籍した中央大学でも2学年下の石川とともに日本一に輝いた。2021年の東京五輪後は世界最高峰のポーランドリーグでプレー。トスだけでなくサーブにも定評がある(写真提供◎アフロスポーツ)

セッターとリベロ——日本の生命線


そしてバレーボールには石川、高橋のような《エース》と呼ばれる存在に対し、目立たずとも重要なポジションがある。セッターとリベロだ。

自らのスパイクで華麗に得点を叩き出すアタッカー陣と異なり、セッターはトスでボールを託し、リベロはレシーブでつなぐ。バレーボールにおける《縁の下の力持ち》。間違いなく、日本の生命線だ。

高さが物言うバレーボールで、セッター関田誠大(せきた・まさひろ)の身長は175センチ。日本の中でも高さは劣る。事実、高さのあるセッターでなければ世界とは勝負できないと、聞き飽きるほど負の評価がつきまとってきた。だが関田は圧倒的な技術で周囲を黙らせる。

さまざまな場所から攻撃のための助走に入るアタッカーに、より打ちやすい高さ、タイミングのトスを供給。「関田のトスは間違いなくここに来る」というアタッカーからの全幅の信頼があるからこそ、複数人で前衛、後衛から同時にスタートできる。そうなれば相手ブロッカーは、「どこから攻めてくるのか」と、的を絞ることができない。

そこで、してやったり、とばかりに、相手ブロッカーが待ち構えていない場所へトスを上げる。バレーボールは身長ではない、と証明するような鮮やかさだ。世界一とも言うべき精度を誇る関田のトスワークに注目してほしい。


<フィリップ・ブラン監督>(左奥)
1960年、フランス・モンペリエ生まれ。2017年に日本代表コーチへ招聘され、21年に監督就任。英語、イタリア語で直接コミュニケーションを取り、選手、スタッフからの信頼も厚い
<山本智大>(中央手前)
リベロ、171cm、69kg。1994年北海道生まれ。高校、大学時代は目立つ選手ではなかったが、2019年に日本代表に初選出され、ワールドカップ、東京五輪に出場するなど、一気に飛躍を遂げた(写真提供◎Newspix.pl/アフロ)

そしてバレーボールのコート上で唯一、周りとは異なる色のユニフォームを着て、サーブを打つことも、ブロックに跳ぶこともない選手。それがリベロだ。守備を専門とするポジションで、交代は自由。中でもリベロの実力を最高の形で発揮するのが、相手の放った強打をレシーブする瞬間だろう。

相手からすれば「決まった!」と思うボールを拾われる。直接得点にはつながらずとも、その1本のレシーブが流れを引き寄せることは多くあり、だからこそリベロは「守護神」と呼ばれる。

そのポジションを日本代表で担うのが山本智大(ともひろ)だ。「リラックスして力を入れずにボールへ向かって腕を出す」ように、どんな強打も柔らかく、身体全体で上げる。山本のディグはまさに世界屈指の実力を誇り、味方であればこれほど心強い存在はいないが、敵になればこれほど嫌な相手はいない。

銅メダルを獲得したネーションズリーグでも、出場全選手の中で最も得点を叩き出したのは石川だが、ディグで最も素晴らしい数字を叩き出したのは山本だ。ただレシーブするだけでなく、アタッカーに向け「行けー!」と叫ぶ声でチームを盛り上げるムードメーカーでもある。え? 今のボール、どうやって上がったの? と思う先にはきっと、山本の姿があるはずだ。

ここまで紹介した選手だけでなく、2メートルを超えるミドルブロッカー陣(山内晶大(あきひろ)、小野寺太志(たいし)、高橋健太郎(※「高」ははしごだか))や、世界の高さにも打ち負けないオポジットの西田有志(ゆうじ)など、まさに魅力あふれる選手たちが揃う。


守備面でブロックとレシーブは切っても切れない関係にある。あえてブロックの隙間を抜かせるコースにレシーバーを配置し、着実にボールをつなぐ。高さで劣る日本代表はブロックを弱点としてきたが、ブロックとレシーブの連携を磨いたことによって、世界でメダル争いができるまでに成長した(写真提供◎Newspix.pl/アフロ)

世界の戦術や考え方を日本に浸透させた


とはいえ、優れた選手たちが集まるのは今の代表に限らない。「個」の力に加えて必要なのは、守るべき人が守って、つなぐ人は着実につなぎ、点を獲る人が点を獲ること。なぜ、現在のチームはこれ以上ない形で機能しているのか。そのカギを握るのが知将フィリップ・ブラン監督の存在だ。

ブラン監督はフランス出身。現役引退後は母国やポーランド代表の指揮を執り、世界の頂点に立った経験も持つ。東京五輪に向けて、中垣内祐一(なかがいち・ゆういち)を監督に据えて発足した日本代表の下、ブラン氏はコーチに就任。

ブロックとレシーバーが連動した、日本チームに適したディフェンスシステムを作りあげてきた。その手腕は中垣内前監督が「(ブラン氏は)ディフェンスのシステムを教えるのが非常に優れている」と称賛するほど。

かつては1996年のアトランタからアテネまでの3大会、さらにその後もロンドン、リオデジャネイロと五輪出場を逃してきた日本代表。その間もスピードを追求するなど、独自のバレーを極めてきたが、世界の進化には及ばず、長きにわたり後塵を拝してきた歴史がある。

ブラン監督は21年の東京五輪後に監督へ就任すると、「日本はこう戦うべき」という常識を覆した。サーブで的確に相手のウィークポイントを攻める。崩したらブロックとレシーブを連携させた守備から、関田の正確なトスへつなぎ、石川、高橋といった攻撃陣が勝負する。いわば世界では当たり前の考え方を日本にも浸透させた。一つ一つの攻撃・守備への狙いが明確で、選手たちも納得してプレーができているという。

日本人とは異なる発想で、基本の戦術は徹底しながらも、積極的なチャレンジを推奨する。その結果、選手たちは挑戦を恐れなくなった。強いサーブを打ったかと思えば、次は前にポトリと落とすショートサーブ。時に足でボールをつないだり、後衛から攻撃すると見せかけ、ジャンプしながらほかの選手にトスを上げる《フェイクセット》をするなど、遊び心もある。

「見ていて楽しい」日本の男子バレーは世界を魅了するようになった。ブラン監督の指導が個性豊かな日本代表チームにもピタリとハマったのだ。

日本の男子は勝てない、という常識を今や覆し、目標は「五輪出場」ではなく「五輪でのメダル獲得」という、より高みへ向いている。

9月30日から始まるワールドカップでは、ぜひ《推し》選手を見つけて、男子バレーのゲームを楽しんでほしい。

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