やさしさと忍耐強さが必要な認知症の人の介護。93歳の介護職員「大切なのはその人の変化でなく<病気がそうさせている>と理解すること」

2024年5月27日(月)6時30分 婦人公論.jp


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

内閣府が公表する「令和5年版高齢社会白書」によると、令和2年度の65歳以上の要介護者数は平成22年度から約178万人増加し、特に75歳以上で割合が高くなっているそう。誰もが要介護者になり得る「超高齢化社会」の昨今ですが、特別養護老人ホーム「山城ぬくもりの里」顧問の細井恵美子さんは、93歳で現役の介護職員として働いています。そこで今回は、施設利用者に日々寄り添う細井さんが書き下ろした自著『93歳、支えあって生きていく。』から、毎日を明るく楽しく生きていくための心得を一部お届けします。

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「認知症」はさまざまな病名がある


認知症の人の介護は、ひと口にはいい尽くせません。

専門的なサポートを受けながら、細かい網にかかった無数の塵(ちり)を取り除くように、ていねいなやさしさと忍耐強さが必要です。

今まで、認知症という病気が疎(うと)まれてきたのは、病気そのものよりも、病気によって現れる多くの症状でした。

「認知症」とひと括りに呼んでいますが、「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」など、医学的に確定されたさまざまな病名があります。

それぞれに特徴がありますが、わかりやすい症状もあれば、複雑に絡みあって判断の難しい場合もあります。

認知症は、その人を責めない。指導や説得ではなく、ともに歩む。


介護は、まず健康なころのその人を良く知ることです。

加えて、それぞれの病気による特徴を頼りに、発病からの経過や病気の進行度を考え、その人に残されている身体能力や知的能力、精神状態を考察し、今までの暮らしに役立つ力を探り、再び実用できるように本人と一緒に努力をします。


『93歳、支えあって生きていく。』(著:細井恵美子/Gakken)

病気の発見が早ければ、時に症状の回復も見られるようです。

適切なサポートを受けずに経過した場合、神経細胞や伝達機能の障害部位によって、あるいはその範囲によっては回復が難しく、症状を進行させてしまいます。

なにより大切なことは、症状はその人の変化でなく、“病気がそうさせている”ということを理解し、その人を責めないことです。

今まで通りに寄り添い、リズミカルなやさしい刺激を、持続的に送り続けること。

体操、散歩、手慣れた軽作業などで体を動かし、その人が日ごろ大切にしている思い出話などで場を盛り上げ、脳の活性化を図ります。

絵や習字、手芸、計算、スポーツなどを得意とする人もいます。

その人の文化的な生活体験を介護に生かし、やりたいこと、やれそうなことを見つけて実践してみましょう。

完成できると達成感が共有でき、信頼関係も深まります。

気をつけることは…


気をつけることは、その人の状態を見ながら、無理のない課題を選ぶことです。

理解できない場面では目の前の光景が悲しみ、怒り、妬(ねた)み、嫉(そね)み、恨みなどの負の感情を呼び覚まし、いきなり激昂(げっこう)して投げ出すことがあります。

認知症の人は、孤独になると不安でまわりの状況がわからなくなります。

慣れない環境に置き去りにしないこと。

よく知る人が近くで根気よく声をかけると安心して表情が明るくなったり、生活力の向上が見られることがあります。

命の限り、ともに悩み歩んでいきたい


今までにない物忘れや失敗が気になったら、できるだけ早く物忘れ外来や地域包括支援センターに相談し、適切な指導を受けるとよいでしょう。

長い間、治らないといわれてきた認知症も、障害部位の周辺にある健康な脳細胞を活性化することで、失った機能を代替(だいたい)し、元気なころの記憶をとり戻すという報告を聞いたこともあります。

医学的治療が完成されるその日まで、命の限り、ともに悩み歩んでいきたいと思っています。

※本稿は、『93歳、支えあって生きていく。』(Gakken)の一部を再編集したものです。

婦人公論.jp

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