妻に先立たれ「自由だ!」「天国だ!」と全くならず…「なんでもない日常ばかり思い出されて仕方ない。あれが幸せだと今になって気づいた」
2024年5月27日(月)12時30分 婦人公論.jp
(写真:『妻より長生きしてしまいまして。金はないが暇はある、老人ひとり愉快に暮らす』より)
多くの夫婦は、最後にはどちらか片方が先立ち、どちらか片方が残されることに。そして夫を亡くした妻の余命にはさほど変化が無いとされる一方、妻を亡くした夫の余命は、平均に比べて約3割も短くなると言われます。そんななか、奥さんに先立たれたのちに作成した動画「ようやく妻が死んでくれた」が853万回再生を超え、大きな反響を生んだのがぺこりーのさんです。今回そのぺこりーのさんの著書『妻より長生きしてしまいまして。金はないが暇はある、老人ひとり愉快に暮らす』より一部を紹介します。
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ついに自由を手に入れた
ようやく私に自由な時間がきた。
30年以上、どこに行くのもいつも妻と一緒だった。
妻は出かける前の化粧や洋服選びに時間がかかるし、買い物の時間は長いし、荷物は持たされるしで、本当に一緒に出かけるのが億劫(おっくう)だった。
でも、これからはひとりでどこへでも行けるのだ。
まず何をしたいか?
そうだ、妻が生前に溜め込んだ服や食器を捨てよう! まとめてゴミ袋に入れて、業者にでも引き取ってもらえばいいか。
気に入らなかったアジアン風の籐(とう)のベッドも、食器棚も本棚も全部捨てる!
50枚近くある犬の服も、こんなにはいらない。元々うちの犬は、服を着るのが嫌いなのだ。
これまで妻がうるさいから行けなかった友だちとの飲み会も、「毎晩でも付き合うよ」と友人たちにLINEしとこう!
そうそう。
歌舞伎町のキャバクラのあみちゃんにも、もう堂々とLINEできるのだ。LINEの通知音も消さなくていいし、男の名前で登録しておく必要もなし!
天国とはこの世にあったのか
ハァ〜、気が楽だわ〜。家でパーティーを開いてもいいな。
『妻より長生きしてしまいまして。金はないが暇はある、老人ひとり愉快に暮らす』(著:ぺこりーの/大和書房)
友人も知り合いのお姉ちゃんたちも呼んで、どんちゃん騒ぎをしよう! 散らかしても妻に怒られることはもうない。
う〜む。遊ぶにも体力が必要だな。そうだ! ジムにでも行くか!
また体を絞って筋肉をつけて、ジムの若いヨガの先生と仲良くなるのもいい。ふたりでセブ島あたりに行って、ビーチヨガを楽しむ!
夕日が海に沈む頃になると、ビーチのテラス席でカラフルなカクテルにストローを2本さして、ふたりで見つめ合って一緒に飲むのだ。
「私、ちょっと酔ったみたい……」と彼女。
私は鍛え上げた腕で彼女を難なくお姫様抱っこ。そのままホテルの部屋へと連れて帰る。天国とはこの世にあったのか!!
私が先に逝くはずだったのに
私よりも先に妻は死んでしまった。
私が先に逝くはずだったのに、現実は逆だった。
そして、妻が先に死んだからといって、冒頭に書いたようにはならなかった。
なぜならなかったのだ?
自由を手に入れ、ひとり暮らしを満喫し、新しい彼女でもつくって、優雅に海外にでも遊びにいけばいい。なぜそうしない。
現実は、未だ喪失(そうしつ)感に苛(さいな)まれ、ただ無為(むい)に4年の時を過ごしただけ。
LINEに友人からメールが来ても、既読スルー。キャバクラのお姉ちゃんはブロックした。五十肩でお姫様抱っこなんか到底無理! ひとりでは焼肉屋にすら入れない。
パーティーどころか、今日もせっせと自炊して、ひとりで侘びしく「金麦」を飲むだけ。それが現実だ。
情けないのは男
『婦人公論』(中央公論新社)という雑誌に「読者体験手記」というコーナーがある。
そのコーナーで、76歳の女性の手記が掲載されていた。
その手記のタイトルは、
「夫が先に逝ったなら、やっと私の人生がきたと叫びたい」。
その手記がたいへん面白かった。
夫が先に死んだ場合と妻が先に死んだ場合とでは、こうも違うものなのかと正直驚いた。
あまりにも自分の場合とは違う。それで冒頭のようなことを書いてみたのだ。
妻は夫の死後、自分の人生を楽しむべくいきいきと暮らしていくけど、しかし妻に先立たれた夫はそうはいかない。そのいいサンプルが私だ。
つくづく男はダメな生き物だと、あらためて思う。
夫婦だって人間だ。
たまには「死んでしまえ」と思うこともあるだろう。しかし、死んでしまってはもう喧嘩もできない。
たとえどんな夫婦だろうが、長年一緒に人生を歩いてきたパートナーが死ぬということは、言葉にできないほどの喪失感であり、耐え難いものだ。
この記事を読んでいるあなたに、今気づいてほしい。
あなたの夫が、あるいは妻が、恋人が、もしも元気で生きてくれているなら、あなたはそれだけで幸せ者だということを。
しかし、そのことになかなか気づけないのも人間ではあるが……。
今日も夫婦で一緒に飯が食える。
ひとり残されると、そんななんでもない日常のことばかりが思い出されて仕方がない。あれが幸せだったんだと、死なれてから気づく。
いつかあなたもそう思う日がきっとくる。だから今は、お互いを大切にしてほしい。
そして、ふたりで「退屈だね」と言いながら、長い老後を過ごしてほしい。
※本稿は、『妻より長生きしてしまいまして。金はないが暇はある、老人ひとり愉快に暮らす』(大和書房)の一部を再編集したものです。
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