「最新作が最高傑作」BUCK-TICKが35年以上、第一線で活躍し続けられる理由

2023年6月6日(火)6時0分 JBpress

(冬将軍:音楽ライター)

90年代から現在までの、さまざまなヴィジュアル系アーティストにスポットを当て、その魅力やそこに纏わるエピソードを紹介していくコラム。今回は結成から35年以上、解散や活動休止をする事なく今もなお精力的に活動し続ける「BUCK-TICK」について、その理由と稀有な音楽性を紐解いていく。(JBpress)


世界的に見ても稀有な存在

 BUCK-TICKほど“孤高”という言葉が似合うロックバンドはいない。1987年、髪を逆立てた鮮烈なビジュアルとともにメジャーシーンに登場して以来、不動の5人で35年以上活動し続けているという、世界的に見ても稀有な存在だ。

 同時代を駆け抜けたバンドの多くが解散や活動休止をしていったなかで、なぜ彼らは活動し続けてこられたのだろうか。

「最新作が最高傑作」——。ファンのあいだで声高に叫ばれているこの言葉。ありきたりの言葉に思えて、35年間、コンスタントな作品のリリースと精力的なライブ活動にて進化と深化を繰り返し、幾度も最盛期を更新してきた孤高のバンドを賞賛するに相応しい表現である。

 BUCK-TICKの軌跡は日本のロックシーンそのものであると言っていいだろう。バンドブームからヴィジュアル系ブーム、オルタナティヴロックの台頭から音楽フェス文化の定着、そしてヴィジュアル系再評価……といった、激動の音楽シーンで彼らは常に第一線にいたのだ。

 そんなBUCK-TICKの、他の追随を許さない音楽探求を振り返ってみる。


BOØWY流ビートロックの継承からオリジナリティの確立へ

 1986年10月21日、インディーズで1stシングル「TO-SEARCH」をリリースした。ロカビリー調のリズムに乗ったクールなボーカルが映える、ノリの良いロックナンバー。ソリッドなリズムにエッジの効いた2本のギターの絡みはこれまでのツインギターバンドにはないものだった。サイレンのように鳴り響くエフェクティヴなギターが耳から離れない。ロックギターのセオリーが通用しない今井寿の突飛なプレイは、このときすでに確立されていたのだから興味深い。

 その半年後、渋谷から原宿の街中至るところに貼りまくられた「バクチク現象」のステッカー。その革新的なゲリラ広告によって、豊島公会堂での行われたアルバム『HURRY UP MODE』(1987年)の大々的なリリースライブを大成功させる。このときの彼らの音楽はBOØWYが確立したビートロックをベースとしたものだった。

 私はこの連載、および著書『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』(2022年 星海社新書)において、ヴィジュアル系史の始点基準をBOØWYとした。その理由はBOØWYが“カッコつけの美学”を確立したからだ。他者より目立つためにやっていたバンドマンのメイクを、カッコつけるためのメイクにした。

 どこかイロモノとして見られていたロックバンドの存在をカッコいい存在として世間に知らしめたのがBOØWYだ。さらに私はその正統後継者をBUCK-TICKとしている。BOØWYと同じ群馬県の出身の彼らが、BOØWYが確立した“カッコつけの美学”を継承し、ビジュアルと音楽の両側面からアップデートしたからだ。

「重低音がバクチクする。」のキャッチコピーとともに、ビクターAV機器のテレビCMでお茶の間の度肝を抜いた逆毛スタイルのビジュアルインパクト。その風貌は派手ながらもスタイリッシュさを漂わせており、ヘヴィメタルやパンクの奇抜さとは異なるBOØWYの流儀を受け継いだものだ。

 音楽面においても、歌謡曲テイストのキャッチーなメロディとニューウェイヴを融合したBOØWYの刹那的であり哀愁感のあるビートロックを、ゴシックといったダークで退廃的な音楽と大正ロマネスクな耽美的センスでオリジナリティへと昇華した。


ヴィジュアル系の先天的なイメージに

 アルバム『TABOO』(1989年)はバンド初のオリコンチャート1位を獲得。初の日本武道館公演も大成功を収め、名実ともにBOØWY解散後の日本のバンドシーンを牽引する存在になっていく。

 と同時に、『TABOO』は多様性を帯びていく音楽性の変遷を見せ始めた作品でもあった。ドアタマから鳴り響く「ICONOCLASM」のたった2音(弱起を含めると3音)しかないギターリフと繰り返される無機質なハンマービートは、日本にインダストリアルロックが上陸した警告音である。

 東京ドーム公演を経て、リリースされたアルバム『悪の華』(1990年)および、同名シングルはオリコンチャート1位を獲得。マイナー調ながらもキャッチー性を持ったメロディと耽美的な詞を持った同曲はヴィジュアル系楽曲の代名詞的な存在として、シーンに大きな影響を与えていく。

 それはアルバムも同様である。今井の奇抜ながらもキャッチーなソングライティングセンスと、櫻井敦司の蠱惑的なボーカルが織りなす楽曲群。まるで異国のモノクロ映画を観ているようでもあり、無国籍でダークな作風の世界観はイギリスで生まれたゴシックロックとは一味違うBUCK-TICK独自のものだった。BOØWYの後継者では語ることのできないオリジナリティを確立したのである。そして、それは同時に“黒服系”といった、ヴィジュアル系の先天的なイメージにもなった。派手に逆立てた髪を下ろした黒髪の櫻井の風貌とともに。

 6枚目のアルバム『狂った太陽』(1991年)では、ギターのダビングが増え、重厚なサウンドを聴かせた。これは“ライブと音源は別物”という彼らの作品に対する前衛的で実験的な飽くなき音楽探求の幕開けでもある。続いてのセルフカバーアルバム『殺シノ調べ This is NOT Greatest Hits』(1992年)は、その探求心ゆえ、とてつもない時間を費やして制作されたことが当時大きな話題になった。そして、1993年に問題作『darker than darkness -style 93-』をリリースする。


止まることを知らない飽くなき音楽探求

 私は、日本のロックシーンでの1993年を「黒服系総洋楽化」と呼んでいる。80年代からのバンドブームも終焉を迎え、多くのバンドが解散、活動休止になったのがこの頃だ。そうした中で、X JAPANのhideがソロデビューを果たし、SOFT BALLETやZI:KILLといった黒服系バンドの前衛的な音楽性にシフトした作品が多くリリースされた年でもある。

 それは世界的なオルタナティヴロックの台頭における日本のバンドからの回答ともいうべきもの。その代表作が、ヘヴィでノイジーなサウンドへ傾向した『darker than darkness -style 93-』である。さらに1995年、BUCK-TICK史に、いや、日本のロック史に大きな爪痕を残した歴史的超問題作であり大名盤である『Six/Nine』を完成させる。

『Six/Nine』はダウンチューニングからエレクトロ、アンビエントに至るまで。これまで彼らが培ってきた音楽素養を深化させて多面的に表現した。奇抜で大胆なサウンドの導入に加え、日本語の奥ゆかしさと独特な響きを多用した不可思議な詞選びは、“サビは横文字”というBOØWYから継承したJ-ROCKスタイルに自ら風穴を開けていくものだった。

『Six/Nine』はいうなれば難解な作品になったわけだが、オリコンチャート1位という実績が物語るように、既存ファンが離れるようなことはなかった。むしろ多くのファンが、より深くロックや付随する様々な音楽ジャンルに触れるきっかけになったのである

 好きな日本のバンドのルーツを探ると洋楽に行きつくというのは当時の音楽ファンの辿る道。BUCK-TICKのマニアライクな音楽探求はそうしたリスナーにとっての新たな音楽との出会いに繋がった。BUCK-TICKを通し、海外のインダストリアルやエレクトロニックといった前衛的なロックを知ったファンは多かったのである。

 そののちも彼らの飽くなき音楽探求は止まることはなかった。次作『COSMOS』(1996年)は、『Six/Nine』で見せたオルタナティヴへの反動というべき、ポップなロックへと回帰。ただし、サウンドは過去いちばんのノイジーさを見せた。『SEXY STREAM LINER』(1997年)では打ち込みシーケンスを多用しバンド感の薄い、ドラムンベースやテクノといったデジタル音楽へと大きく傾向している。90年代中頃はテレビから“ヴィジュアル系四天王”が生まれるなど、世間的にはヴィジュアル系ブームが到来。しかしながら、その礎を築いたBUCK-TICKはもうそこにはいなかったのである。

 こうしたリリースごとに変化するBUCK-TICKの音楽性は多くの音楽ファンを唸らせた。「○○はヴィジュアル系か?!」という論争がしばし持ち上がるのだが、BUCK-TICKはその論争の対象にならない存在になっていた。

 ヴィジュアル系はブームになる一方で、“音楽よりもメイク重視”という偏見も多く生んでいた。ゆえにメイクを落としたり、薄くしたり、ラフな格好になったバンドも多くいたが、BUCK-TICKは一度もメイクをやめたことはない。にもかかわらず、「BUCK-TICKはヴィジュアル系ではない」という風潮が多くの音楽ファン、関係者のあいだでの共通認識になっていた。ビジュアル面が気にならないほどの高い音楽評価を受けていたのだ。

 現に、ヴィジュアル系バンドが歓迎されることのなかった音楽フェスなどにも多く出演している。私はこうした論調を含めてBUCK-TICKのことを「ヴィジュアル系治外法権バンド」と勝手に呼んでいる。


妖しく美しき“魔王”

 ブームの終焉、2000年代初頭のヴィジュアル系氷河期を挟んでの“ネオ・ヴィジュアル系ブーム”、さらにはアニメの海外人気とともに“ジャパンカルチャー”としてのヴィジュアル系の再評価が高まっていった。しかし、その定義は多様化し、音楽性と自己表現の追求のためにしていたメイクが、メイクをしてからバンドを始めるという、次世代スタイルに変わっていた。煌びやかでアイドル性を加味したバンドも多くいたのである。そんな中でリリースされたアルバムが『十三階は月光』(2005年)だった。

 同作は彼らの根底にあるゴシックをコンセプトとし、かつて黒服系と呼ばれたヴィジュアル系の原点を彷彿とさせる作風であった。そのダークな作風はもちろん、デジタル録音が当たり前となり、音数と音圧が多く求められていたシーンで、各楽器の間合いを活かしたシンプルなバンドアンサンブルに重きを置いたものだった。若いバンドでは表現できない熟練味と貫禄、妖艶なオーラに誰もがひれ伏した。櫻井を指し、“魔王”という異名が広く浸透したのもこの頃だ。同作のシングル曲「ROMANCE」MVを筆頭とした圧倒的に妖しく美しい姿からである。

 この『十三階は月光』を機に「ヴィジュアル系の始祖はBUCK-TICK」という論調が広まっていく。その後、D’ERLANGER、LUNA SEA、X JAPAN……と次々とヴィジュアル系黎明期のレジェンドバンドが復活していったのは偶然なのか必然か。少なくとも90年代初頭のあの頃、40代になってメイクをしているバンドが第一線で活動しているなんて誰も考えていなかったはずだ。

 誤解なきように言っておくが、BUCK-TICKメンバーが自分たちのことをヴィジュアル系だとか、そうではないとか、言及したこともなければ、ヴィジュアル系を題したようなイベントにも出ていない。当人たちにとってみれば、直接音楽に何ら関係のないその“括り”は興味のないことなのだろう。


誰にも真似できぬ境地へ

 今年4月にリリースした22枚目の最新オリジナルアルバム『異空 -IZORA-』はダークな雰囲気の中にあるあたたかみと深みを感じさせる音像が耳を襲う。各楽曲の持つ崇高な世界観の解像度の高さが凄まじく、まさに「最新作が最高傑作」という、強烈な作品を生み出し続けるBUCK-TICKの恐ろしさをあらためて思い知らされたのである。

 BUCK-TICKはこれほどまでの音楽性の変遷を遂げながらも常に“歌モノ”をやってきている。どんなにサウンドがマニアックになろうとも、ジャンルが多岐にわたろうとも、常に櫻井の歌う歌がある。音楽探求を続けるあまり、一般層とは遠いところに行ってしまうアーティストも少なくはない中で、彼らは土着的であり普遍的な日本人の歌謡性を常に守り続けているのだ。そのバランス感覚も長く第一線で活動し続けてこられた大きな要因でもあるだろう。

 BUCK-TICKの音楽探求は今なお続いている。アーティストが長年活動していれば、ファンは自然と古い曲を求めるものである。しかし、BUCK-TICKはその関係が成り立っていない。特に、毎回ライブで演奏されるようなライブ定番曲というものが存在していないのである。

 そのことを象徴するのが昨年リリースされた“Debut 35th Anniversary Concept Best Album『CATALOGUE THE BEST 35th anniv.』”である。35年間リリースされた膨大でさまざまな楽曲をまとめた5枚組コンセプトベストアルバムだ。多岐にわたるジャンルの楽曲が収められた110曲。しかしながらコンセプトアルバムであるとはいえ、代表曲が収録されていない。

 バンド唯一のオリコン1位曲であり、最多売上を誇る「悪の華」とシングル売上第3位の「スピード」が収録されていないのだ。通常のアーティストなら考えられないことだろう。それだけBUCK-TICKが過去の栄光にすがることなく、常に前を向いていることでもあり、そのことをファンも重々承知しているということである。

 アーティストが過去に縛られることなく、新曲に没頭する。ファンもそれを求めている。バンドとして、作品を生み出す表現者として、それは理想の関係でもあるだろう。飽くなき音楽探求をし続けたのはバンドだけではないのである。どんな新曲が出てくるのかまったく予想がつかない。BUCK-TICKというバンドは35年以上、それを続けてきたのだ。

「最新作が最高傑作」——。BUCK-TICKはもう誰も追いつくことのできない境地へ達している。孤高のバンドと言われる所以はそこにあるのだ。

筆者:冬将軍

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