トランプタワー地下1階の土産物店に行ってみた。オーナー曰く「最も売れている」トランプTシャツにプリントされていたのはまさかの<屈辱的写真>で…

2024年12月11日(水)12時30分 婦人公論.jp


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

「今日、歴史と文化がますます情報戦の武器となり、政治的な動員のための旗幟となっている」——。そう語るのは、評論家・近現代史研究者として各国の博物館や史跡を調査する辻田真佐憲さんです。今回は、辻田さんが約2年半におよび国内外の「国威発揚」をめぐった成果をまとめた『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』から、米国・トランプタワーについてお届けします。

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トランプの本拠地に潜入する


米国/トランプタワー(2024年5月訪問)

「アメリカを取り戻す!」(TAKE AMERICA BACK!)

大きな赤い旗に記された勇ましいスローガンに、わたしはまず安倍元首相の「日本を、取り戻す」を思い浮かべた。

ここはニューヨークにあるトランプタワーの地下1階、トイレの脇にたたずむ小さな土産物店「ロジャーズ・ニューズ」。

ガラス越しに店内をうかがうと、ひとがすれ違えないほど狭い通路の両脇に、トランプ前大統領(取材時。以下敬称略)のグッズがびっしりと並べられていた。先客は3名ほど。思い切って踏み入ると、そこは思っていた以上にトランプ一色の空間だった。

トランプがニッコリ笑うマグカップ、14.95ドル。「まだ俺が恋しい?」と書かれた靴下、14.99ドル。トランプがボクサーに扮した人形、40ドル。1ドル150円の時代には、どれもびっくりするぐらい値が張る。

それでも売れるのか、種類はたいへん豊富だった。マグネット、メガネケース、栓抜き、シャツ、パーカー。一般的なニューヨーク土産も売っていたが、やはりトランプの存在感のまえには霞んでしまっていた。

トランプの頭がついた「ドナルド・トーキング・ペン」は、頭を押すと8種類の音声が再生される。試すと「見ろ、俺はマジで金持ちだ」「俺はヅラをつけていない。これは地毛だ。本当だ」などという声が店内に響いた。周りは熱烈なトランプ支持者かもしれないのに、思わず噴き出してしまった。

もちろん、トランプ自身よく被る赤い帽子も大量に陳列されていた。正面には「アメリカをふたたび偉大にしよう」(MAKE AMERICA GREAT AGAIN)の文字。「MAGA」と省略されたバージョンもある。そして向かって左側には「45-47」の数字。第45代に続き、第47代の大統領にも就任するぞという意気込みなのだろう。

いちばん売れているグッズ


あれこれ物色していると、カウンター内にいた男性オーナーが「あれがいちばん売れているよ」と白いシャツを指さした。

「けっして降伏しない!」。そんな文字とともに、トランプのマグショットが大きくプリントされていた。


『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』(著:辻田真佐憲/中央公論新社)

この写真は、前回の大統領選でジョージア州の票集計に介入しようとしたとして、2023年8月にトランプが起訴されて出頭したときに撮影された、いわゆる“被告人としての顔写真”である。

大統領経験者としてはじめての屈辱的なマグショット撮影だったが、トランプはこの状況を逆手に取った。

ひさしぶりにXを更新し、マグショットとともに「選挙妨害 けっして降伏しない!」と投稿。これが瞬く間に話題を呼び、インターネット・ミーム(ネットで拡散されやすいネタ)として広まり、最終的には人気商品まで生み出すにいたったのだ。

ロジャーズ・ニューズのオーナー


そんな商品を売り出すオーナーは、マッチョで筋金入りのトランプ主義者かと思いきや、ずいぶんと低姿勢で友好的な男性だった。

名はロジャー・セワニ。メガネをかけた小柄な高齢のインド系移民で、もともと同じ場所で長らく新聞販売店を営んでいたが、前々回の大統領選挙でトランプが有力候補となったのを機にグッズを売り出したところこれが大当たり。いまでは、すぐ隣にあるトランプの公式ストア(高価なゴルフウェアなどを売る)よりも、繁盛する店になっている。

もっとも、ニューヨークは民主党の金城湯池(きんじょうとうち)なので、トランプ支持者の来訪は少なく、ほとんどが物見遊山(ものみゆさん)の観光客だという。たしかに、5分か10分ほど店内を見て回るだけで去っていく客が多かった。

そのぶん、対応は慣れたものだった。わたしが店内で写真を撮ってほしいと頼むと、「これを被れ」と棚から「アメリカをふたたび偉大にしよう」の帽子を差し出してきた。これまでも同じように撮影してきたのだろう。政治的な主張は感じられなかった。

根強いトランプ人気の証拠


こうしたトランプグッズの多くは中国製だった。なかには、バングラデシュ製やドミニカ製に加えて、メキシコ製まであった。2017年の大統領就任演説で「米国製を買い、米国人を雇う」と掲げたトランプの主張に反しているようだが、そのことを指摘してもオーナーは意に介さなかった。

むしろかれは商人に徹していた。いくつかグッズをレジに持っていくと、「これはどうだ」とカードのトランプを取り出してきた。トランプのトランプだった(英語の綴りは同じTrump)。

キングはトランプ、クイーンはメラニア夫人。そしてジョーカーのカードを少しみせて「誰だと思う」。わたしが「バイデン?」と応えると「イエス!」と満面の笑み。憎らしい顔をしたバイデン大統領(取材時)のカードをここぞとばかりに見せつけてきた。売り方がじつにうまい。追加で20ドルを支払わざるをえなかった。

筋金入りの支持者でないからダメなのではない。指導者への支持は、プロパガンダなどの「上からの統制」だけでは成り立たない。かならず便乗商売などの「下からの参加」をともなう。利に聡い商人さえ引き寄せているところこそ、根強いトランプ人気の証拠だった。

※本稿は、『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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