三種の神器のひとつを収める熱田神宮、一之御前神社ほかパワースポットの宝庫

2023年12月15日(金)12時0分 JBpress

取材・文=吉田さらさ


草薙神剣を1900年守り続ける大社

 名古屋の真ん中に位置する熱田神宮は、三種の神器のひとつである草薙神剣を祀る由緒正しい古社だ。主祭神は熱田大神、相殿神として天照大神、素戔嗚尊、日本武尊、宮簀媛命、建稲種尊の五柱を祀る。熱田大神とは、草薙神剣を依り代として降りる天照大神のことである。相殿神は「五神さま」と呼ばれ、いずれも草薙神剣がこの神社に祀られた経緯に関係がある神々だ。

 古事記の昔、天照大神の怒りに触れて地上に追放された素戔嗚尊が、出雲の人々を苦しめていた八岐大蛇を退治した。するとその尾から剣が出てきた。素戔嗚尊はその剣を天照大神に献上した。これが天叢雲剣(草薙神剣)である。その剣は、天照大神の孫にあたる瓊瓊杵尊が地上に下る際(天孫降臨)、八咫鏡、八尺瓊勾玉とともに三種の神器として託された。その後草薙神剣には形代が作られ、そちらは宮中に留め置かれた。そして本来の草薙神剣は伊勢神宮に移された。

 時は流れて景行天皇の御代。日本武尊が東征に向かうことになり、その前に、おばに当たる倭姫命に会うため伊勢に立ち寄った。倭姫命は日本武尊に草薙神剣を授けた。東征の途中、日本武尊は尾張国造の祖先である宮簀媛命と出会って恋に落ち、無事戻ったら結婚すると誓った。

 そして宮簀媛命の兄である建稲種尊を副将軍として東征に向かい、草薙神剣の力を使って戦いに勝って帰還。めでたく宮簀媛命と結婚した。短い結婚生活の後、日本武尊は草薙神剣を宮簀媛命に預け、伊吹山の荒ぶる神を退治しに行った。日本武尊は伊吹山が神の降らせた雨のため病気になり、三重県の能褒野で亡くなる。宮簀媛命は草薙剣を大切に守り、やがてこの神社に祀ったという。

 以上のような物語を見ても、この神社が古事記に描かれる国の歴史にどれほど深くかかわってきたがわかる。敷地は広大で、利用する交通機関によって最寄りの門が違うのだが、はじめての参拝なら、やはり正門(南門)の鳥居から入っていきたい。この神社では、あちこちで神の使いである神鶏にも会えるとのことなので、心して歩こう。見かけると幸運が舞い降りると言われ、遭遇確率はかなり高いと聞く。


神宮内でもっとも強力なパワースポット

 正門の鳥居をくぐると、左右は大都会の真ん中とは思えぬ深い森。参道はまっすぐ伸びている。両脇には由緒深い摂社が数々あるが、そちらへのお参りはのちほどとして、まずは本宮に向かって歩こう。

 二つ目の鳥居をくぐると手水舎があり、その先にご神木の大楠がある。この神社には大きなクスノキが七本あり、「七本楠」と呼ばれている。しかし一般参拝客が立ち入れる場所にあるのはそのうち三本で、手水舎そばのこの大楠がもっとも見つけやすい。複雑に絡み合う幹のどこかに、神様の使いとされる白蛇が棲んでいると言われる。

 さらに進むと、本殿など重要な建物を取り囲むような形の土塀がある。これは「信長塀」と呼ばれ、織田信長が桶狭間の戦いで勝利したお礼として奉納したものだ。右側の塀の内側に二番目の大楠もあるのでお見逃しなく。

 三番目の鳥居をくぐると、真正面に堂々たる本宮が姿を現わす。明治26年までは尾張造だったが、草薙神剣をご神体として天照大神を祀る神社にふさわしい格式をということで、伊勢神宮と同じ神明造に改められた。その宮は名古屋大空襲で焼け落ちたが、昭和30年に再建された。尾張造とは、本殿、祭文殿、拝殿の三つの建物を回廊で繋いだ左右対称の建築様式で、愛知県内の神社で今もよく見られる。神明造は切妻屋根、平入、屋根の上に並ぶ鰹木、天高く伸びる千木などを特徴とする。

 お参りを終えたら、本宮の裏側をぐるりと一周する「こころの小径」に行ってみよう。本殿左側の祈祷殿の脇からも入れるが、今回は、右側の神楽殿の脇から入る。このエリアは神域で、2012年まで一般の立ち入りが禁じられていた。今も写真撮影や飲食は禁止。大声も出さぬよう、心を静めて歩こう。

 まずは左手に土用殿。明治26年の本殿改造まではこちらに草薙神剣が奉安されていた。続いて罔象女神という水の女神が祀られている清水社。三番目の大楠もこの近くにある。この社の奥には湧き水があり、その中に三角の石がある。柄杓を使ってこの石に3回水をかけると願い事が叶うと言われ、参拝者が絶えない。

 実はこの石は、楊貴妃の墓と言われている。いつのころからか、熱田神宮には「蓬莱伝説」というものが伝わってきた。蓬莱とは中国の仙人たちが棲む楽園のことで、ここ熱田の地がその蓬莱と信じられたのだ。そして楊貴妃は熱田大神の化身なのだという。

 さらに進むと、右手奥に驚愕のスポットが出現する。第二次世界大戦の際の防空壕だ。名古屋は何度も激しい空襲に見舞われ、ご神体の草薙神剣も、一時この防空壕に避難していたのだ。本当にご無事でよかった。引き続き本宮の裏側にさしかかる。ここがご神体に一番近い場所なので、再度お参りしておこう。

 次は熱田神宮の中でももっとも強力なパワースポットと言われる一之御前神社。熱田大神、すなわち天照大神の荒魂を祀る社だ。荒魂とは神の荒ぶる側面を表す魂のことなので、失礼のないようにきっちりお参りしよう。

 こころの小径散歩を終えたら、くさなぎ広場で一休みはいかがだろうか。こちらは2021年にオープンしたくつろぎスペースで、名古屋飯の代表である宮きしめんも食べられるし、売店では名古屋一の和菓子「きよめ餅」も買える。数々の武将たちが奉納した名刀を鑑賞できる「剣の宝庫 草薙館」というミュージアムもおすすめだ。くさなぎ広場の向かい側には文化殿(宝物館)もあり、こちらでも刀剣をはじめとする宝物を見ることができる。

 正門への帰り道沿いにもお参りしたい摂社が点在しているが、ここでは代表的な三社を紹介しておこう。まずは徹社。こちらは先ほどの一之御前神社に対して天照大神の優しく穏やかな一面である和魂を祀る社なので、併せてお参りしておきたい。

 正門手前には本宮に準じる格式の別宮八剣宮がある。祭神も本宮と同じ熱田大神と五柱の相殿神で、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康など尾張にゆかりの深い武将たちの厚い崇敬を受けた。その隣には上知我麻神社。日本武尊の妃、宮簀媛命の父親である乎止與命を祀っている。両脇に大国主社と事代主社(恵比寿さん)を併祀するため、初えびすが盛大に行われ、商売繁盛の神として人気だ。また「知恵の文殊さま」とも呼ばれ、赤ちゃんの命名や学業成就のご利益もある。

 最後のおすすめはあつた蓬莱軒である。正門を出てすぐのところにあるひつまぶし発祥の店で、先に書いた蓬莱伝説が店名の由来である。確実にひつまぶしを食べたい人は、お参りより前に店に並んで整理券をもらい、待ち時間にお参りに行く。それが正しい熱田さん詣での手順である。

筆者:吉田 さらさ

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