【医師が教える】「心臓が止まる」とはどのような状態か?…知っておくと役立つ医学の常識

2024年3月30日(土)6時0分 ダイヤモンドオンライン

【医師が教える】「心臓が止まる」とはどのような状態か?…知っておくと役立つ医学の常識

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人はなぜ病気になるのか?、ヒポクラテスとがん、奇跡の薬は化学兵器から生まれた、医療ドラマでは描かれない手術のリアル、医学は弱くて儚い人体を支える…。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、X(twitter)で約10万人のフォロワーを持つ著者(@keiyou30)が、医学の歴史、人が病気になるしくみ、人体の驚異のメカニズム、薬やワクチンの発見をめぐるエピソード、人類を脅かす病との戦い、古代から凄まじい進歩を遂げた手術の歴史などを紹介する『すばらしい医学』が発刊された。池谷裕二氏(東京大学薬学部教授、脳研究者)「気づけば読みふけってしまった。“よく知っていたはずの自分の体について実は何も知らなかった”という番狂わせに快感神経が刺激されまくるから」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

Photo: Adobe Stock

医療ドラマの気になる場面

 医療ドラマを見て、医学的に不自然な表現が気にかかるのは、医師の持つ「職業病」のようなものだ。大人げないと思いながら、リアリティに欠けるシーンをチクリと指摘してしまう。

 中でも医療ドラマの定番シーンといえば、心臓マッサージである。心停止が起こった患者に、ドラマの主役は決まって「戻ってこい!」などと声掛けをしながら必死に心臓マッサージを行う。

 そして、たいてい次に行うのが電気ショックである。胸に二つの電極を当ててスイッチを押すと、大きな衝撃とともに患者の体が浮き上がる。

 さて、こういった場面でよくある「間違ったシーン」が、心電図モニターには脈が全くなくなったフラットな一本線が表示されている、というものだ。

 全く拍動がなくなり、心臓が完全に停止した状態を「心静止」という。心臓を構成する筋肉がピクリとも動かず、心臓内を走る電気信号を心電図で検知することもできない。

 文字通り、心臓が「静かに止まった」状態だ。実は、この「心静止」に対して電気ショックは効果がないため、実際の医療現場で行うことはない。

 心電図モニターがフラットなときに電気ショックを行うのは、ドラマの世界だけなのだ。

 では一体、どのようなときに電気ショックを行うのだろうか?

心停止は複数の状態を含む概念

 実は「心停止」は、「心臓が止まった状態」だけを指すのではない。

 前述の通り、心臓が完全に動きを止め、電気的な活動も生じていない状態は「心静止」であり、心停止は心静止を含む広い概念である。

 心停止に含まれる状態は、以下の四つである。

・心室細動・無脈性心室頻拍・無脈性電気活動・心静止

 難しい医学用語が並んでいるが、共通するのは、心臓が効果的に働かず全身に血液を送ることが全くできない点だ。

 この中には、必ずしも心臓の動きが「止まって」いないものもある。つまり、たとえ心臓が動いていてもポンプとしての機能を失っているなら、人体にとっては「止まっているのと同じ」であり、それゆえ「心停止」と呼ばれるのである。

 いずれの場合も脳に血流が送られなくなるため、即座に意識を失う。体内の臓器も次々に動きを止める。まさに死の一歩手前の状態である。

 それぞれの用語について簡単に説明しよう。無脈性電気活動は、心電図上、波形は確認できるものの、心臓そのものは動いていない状態である。心臓を動かそうとする電気信号は走っているが、心臓を構成する筋肉は反応していない。

 一方、心室細動と無脈性心室頻拍は不整脈の一種で、心臓が細かく震えたり、細かく収縮したりするなど、心臓そのものは動いているが血液は全く送り出せない状態である。

 さて、ここで重要なのは、電気ショックの効果が見込めるのは心室細動と無脈性心室頻拍だけ、ということである。

 電気ショックとは、強制的に電気刺激を加えて「乱れた心臓の動きを正常な拍動に戻す」ためのものだからだ。たとえるなら、運動場で走り回る小学生たちに号令を出して、整列させるようなものである。

 では、街中にあるAEDを一般市民が使う際、「電気ショックが有効かどうか」をどう判断すればいいのだろうか?

 実はその答えは「知らないまま使ってもよい」である。

 AEDは「Automated External Defibrillator」の略で、日本語では「自動体外式除細動器」という。「細動」とは、心臓が細かく痙攣するように動くことで、その動きを止めるのが「除細動」だ。

 これを「自動」で行ってくれるのがAEDである。AEDは、自動的に心電図波形を読み取り、電気ショックが必要なケースのみ、そのことをユーザーに音声で伝えてくれる。

 専門知識なしに使えるからこそ、これだけ普及しているのだ。

(本原稿は、山本健人著『すばらしい医学』を抜粋、編集したものです)

山本健人(やまもと・たけひと)

2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は1000万超のページビューを記録。時事メディカル、ダイヤモンド・オンラインなどのウェブメディアで連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー約10万人。著書に19万部のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)、『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎)、『もったいない患者対応』(じほう)、新刊に『すばらしい医学』(ダイヤモンド社)ほか多数。Twitterアカウント https://twitter.com/keiyou30公式サイト https://keiyouwhite.com

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