超話題の児童書作者が「この本のおかげで調べものがいっきにはかどった」と大絶賛する一冊とは?

2025年5月10日(土)6時0分 ダイヤモンドオンライン

超話題の児童書作者が「この本のおかげで調べものがいっきにはかどった」と大絶賛する一冊とは?

制作期間5年、300ページ超の大ボリュームで「やばい本ができてしまった……」と関係者一同がうなった書籍『大人も知らない みのまわりの謎大全』。「このボリュームで1500円は安すぎる」との口コミが広がり、SNSで話題だ。「ハトはなぜ首をふって歩くのか?」「屋上のクレーンはどうやって運んだ?」「ビルの入口の定礎ってなに?」など、身近なのに知らない51の謎を解説している。今回、その著者であるネルノダイスキ氏が、本作りの中で大きな影響を受けたという『独学大全』の著者、読書猿氏との特別対談が実現した。この本を読んだ読書猿氏の感想と、本の背景とは。(構成:小川晶子)

第1回 「1500円は安すぎる!」読めば世界が違って見える!驚きの本はいかにして出来たのか第2回 「こんな本、見たことない!」300ページ密度ぎっしりの「奇書」が売れる理由第3回 「子どもに買ったのに自分が先に読んでしまった…」大人もハマる、やばい児童書のひみつ

大量の調べものがはかどった理由

読書猿氏(以下、読書猿) 『みのまわりの謎大全』は300ページくらいの本ですが、情報の密度がものすごく高くて、大量に本を読んだんじゃないかという感覚になります。それはネルノダイスキさんが何百冊もの情報を処理して一冊に落とし込んでくれているからだと思うんです。見開き2ページを見るだけでさまざまな情報が伝わってきますが、この見開きを作るのにどれだけの資料が必要だったんだろう。とんでもない作業量じゃないですか?

ネルノダイスキ氏(以下、ネルノ) そうですね。制作に5年もかけていますし、振り返ると本当に手間暇かかったなという感じはあります。とにかく調べものが多いんです。

読書猿 巻末に「参考資料」が大量に載っていますね。どうやってこれらの情報にたどり着いたんですか?

ネルノ 実は、読書猿さんの『独学大全』のおかげで調べものがはかどるようになったんです。たとえば、「シネクドキ探索」という技法がありますね。それまでも漠然とやってはいたのですが、名前が付いてツールとして提示されたことで、自信を持って使えるようになりました。

読書猿 探したいものの上位概念を使って探索する方法に、「シネクドキ探索」と名づけました。知りたい項目について、「○○は何の一種か?」「○○は何に属するのか?」と自問自答することを繰り返すことで上位概念の系列を得て、それに対応する資料を調べれば簡単な概要をつかむことができる、という技です。

ネルノ 百科事典やコトバンクをすごく使うようになりました。それまでは、正直なところ百科事典を軽く見ているところがあったんですよね。でも、事典というのは専門家が調べに調べて、わかりやすく短い言葉にまとめてくれているものです。『独学大全』を読んでそれがよくわかったので、必ず最初に百科事典やコトバンクで調べるプロセスを入れるようにしました。その結果、調べものがはかどるようになったんです。

「刻読」で考え方を内面化する

ネルノ それから、「刻読」という技法も役に立ちました。

読書猿 読みながら気になるところに線を引き、線を引いた箇所について考え、コメントを残す読み方ですね。すべての思考術の基礎となるものとして紹介しました。

ネルノ 『みのまわりの謎大全』のロールモデルとなっているのは、絵本作家のかこさとしさんと、編集者の大伴昌司さんなんです。とくにかこさとしさんは、児童向けの本を作るにあたっての考え方をたくさん文章に残しています。子どもへのアプローチの仕方や、科学に対する態度といったことを含め、僕は自分の本に反映したいと思ったところを抜き書きしました。これがとても役立ったんです。

ネルノダイスキさんの抜き書きノート

読書猿 これはすごいですね。

名前を付けると自在に呼び出せるようになる

ネルノ あらためて言葉にするって大事だなぁと思います。今回の本を作りながら身に染みました。最初に言った通り、何となくやっていたこともちゃんと名前が付いて、道具として使えるようになるのはありがたかったです。

読書猿 『独学大全』は、さまざまな技法に名前を付けて使えるようにしたというのが大きいのです。魔法をつくる要素の半分くらいは、現象や技に名前を付けることなんです。名前を付けると、自在に呼び出せるようになる。『独学大全』はそういう本なんです。先ほどのシネクドキ探索なんかは、図書館員は自然にやっていることで、プロにとっては当たり前の技です。でも、素人が同じようにやるには、名前を付けておいて、必要なときに思い出して使えるようにする必要があるんです。あと、サッカー選手の方が言っていたのですが、自分の技術を言葉で説明できるようになると、その技が安定して再現できるようになるのだそうです。同じように蹴っているつもりだけだとボールはなかなか同じように跳ばないけれど、どこに軸足を置いて、ボールのどこに足を当てるか、足のどこに触れるか、自分がやってることを細かく描写できると、同じように跳ぶキックができるんです。

ネルノ 面白いですね。美大生に向けて話をする機会があると、最近は「言語化能力を身に付けなさい」と言っています。僕自身が学生の頃は言語化をさぼっていて、いま後悔しているので。作品にタイトルをつけるには言葉の力が必要ですし、プレゼンするにしても、編集者さんとやりとりするにしても、言語化能力がないと立ち行きません。作品がすごいというだけでは、ずっとやっていくのは不可能なのではと思っています。

読書猿 実はいま『文章大全』を書いていて、「言語化」の技法を考えています。そもそもですが、「文章を磨く」前にモヤモヤを言葉にする技術が必要だと思っているんですよね。

ネルノ それは楽しみです。

ネルノダイスキ
漫画家・イラストレーター
アーティストとして絵画や立体作品の展示を行うかたわら、2013年よりネルノダイスキ名義で漫画を描きはじめる。2015年、同人誌『エソラゴト』が第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で新人賞を受賞。
2017年、同人誌『であいがしら』が第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で審査委員会推薦作品に選出された。著書に『いえめぐり』(KADOKAWA)、『ひょうひょう』『ひょんなこと』(ともにアタシ社)がある。散歩をしていて「あれはなんなんだろう?」と思ったものを調べるのが好きで、みのまわりの謎に興味をもった。
読書猿(どくしょざる)
『独学大全』著者。ブログ「読書猿 Classic: between/beyond readers」主宰
「読書猿」を名乗っているが、幼い頃から読書が大の苦手で、本を読んでも集中が切れるまでに20分かからず、1冊を読み終えるのに5年くらいかかっていた。
自分自身の苦手克服と学びの共有を兼ねて、1997年からインターネットでの発信(メルマガ)を開始。2008年にブログ「読書猿Classic」を開設。ギリシア時代の古典から最新の論文、個人のTwitterの投稿まで、先人たちが残してきたありとあらゆる知を「独学者の道具箱」「語学の道具箱」「探しものの道具箱」などカテゴリごとにまとめ、独自の視点で紹介し、人気を博す。現在も昼間はいち組織人として働きながら、朝夕の通勤時間と土日を利用して独学に励んでいる。

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