【「相続放棄」の注意すべきポイント】空いた実家を抱える人が忘れてはいけないこと

2024年5月18日(土)6時0分 ダイヤモンドオンライン

【「相続放棄」の注意すべきポイント】空いた実家を抱える人が忘れてはいけないこと

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「相続放棄の件数が増えている」。よくニュースでも話題になるテーマですが、不動産投資家で空き家再生コンサルタントの吉原泰典さんは、抜け落ちているポイントがあると、言います。「誰もすまなくなった実家」をそのまま貸すためのノウハウを書いた話題の書『「空いた実家」は、そのまま貸しなさい』の著者吉原さんは、空いた実家を抱える人たちが「相続」について、忘れてはいけないことがあるといいます。抜け落ちているポイントとは何でしょうか?(構成・古井一匡)

Photo: Adobe Stock

「年々増えている「相続放棄」

 最近のニュースで私が気になったのが「相続放棄の件数が増えている」という話です。 人が亡くなり相続が発生すると、相続人は3ヵ月以内に家庭裁判所に対して「相続放棄」または「限定承認」の申請ができます。

「相続放棄」とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないもので、各相続人がそれぞれ単独で選べます。一方、「限定承認」とは、亡くなった人(被相続人)のプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた分だけを相続するもので、相続人全員で申請しなければなりません

 このうち「相続放棄」が年々増えており、令和4年(2022年)には全国の家庭裁判所で過去最多の26万497件が受理されたというのです。

 その数は平成27年(2015年)の18万9296件から令和2年(2020年)の23万4732件へと5年で24%増え、さらにそこから約2万5000件、平成27年と比べると38%近く増えているのです。

 その背景には、地方にある実家(空いた実家)の維持管理が面倒なので手放したり、遠い親戚との関りを避けて遺産を受け取らないといったケースが多いといいます。

民法改正でさらに増える可能性

 この相続放棄は今後、さらに増える可能性があります。なぜなら、2023年4月から民法の相続放棄の条文が改正され、これまでより相続放棄がしやすくなった面があるからです。

 どういうことかというと、以前はある相続人が相続放棄をしても、その放棄によって残った相続人、あるいは次順位から繰り上がって相続人となった者が、相続財産の管理を始めることができるまでは、相続放棄をした者が自己の財産におけるのと同一の注意をもって管理を継続しなければならないとされていたのです。地方にある空いた実家など不動産については特に、相続放棄しても固定資産税の負担や万が一の際の責任が一定程度、残ったのです。また、他の相続人が不在の場合、その義務から免れるには「相続財産管理人」の選任という手続きが必要で、相続放棄に対する一定の歯止めになっていました。

 それが2023年4月から、民法改正によって相続放棄後の管理義務の条件が明確化されました。具体的には、相続放棄の時に相続財産を「現に占有している」ときに限って、相続放棄後の管理義務(保存義務)を負うとされたのです。

 都会に出て暮らしている人であれば、地方の空いた実家などの不動産については「現に占有している」には通常、当たらないので管理義務を負いません。そのため相続放棄がしやすくなると考えられます。

相続から3ヵ月以内の判断が必要

 今回のニュースを巡ってネット上では、次のようなさまざまな意見が見られます。①相続放棄に似た方法として国庫帰属制度(相続土地を国に帰属させたい)があるが実際にはまず使えない。②相続放棄した後で建物を取り壊すと単純承認とみなされる恐れがあるし、固定資産税の特例から外れて税金が上がってしまう。③いまの相続制度自体が空き家問題に対応できず制度疲弊を起こしている。

 特徴的なのは、書き込んでいるのは男性が多いと思われることです。空き家となった実家は“捨ててきた過去”であり、相続放棄などで処理してしまいたい問題意識を持っている人たちが多いことを改めて実感しました。

 それと同時に、意外に当事者意識が薄く「国が」「行政が」といったふうに制度面や法制面の問題を指摘するだけで、自らどう動くのかといった姿勢が弱い傾向があることも感じます。

 そもそも相続放棄は自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申し出なければなりません。それ以降は原則として、相続放棄ができなくなります。また、「相続放棄」は一度手続きをしてしまうと基本的に撤回できません。あとからプラスの財産がかなり多くあることが分かったりしても、それらは他の相続人にいくか、相続人がいなければ国庫に入ることになります。

 相続放棄した後、「特定空き家」に認定されて行政代執行(取り壊し)になった場合の費用負担ですが、行政からの請求があったとの話は聞いたことがないため、実質的に“逃げ得”であったかもしれません。これも納税者の立場からすれば、いかがなものかと思います。

 そういった観点からも、相続を前提とした実家対策、空き家対策は「そのまま貸す」という選択を含め、親の生前から早め早めに自分ごととして準備することが大切なのです。

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