37歳記者もダマされかけた「偽警察からの電話」その手口をリポート 各地で被害、2億円超詐取も

2024年5月25日(土)10時0分 J-CASTニュース

「あなた名義の銀行口座が、マネーロンダリングに使われていた」——警察などをかたる電話で、多額の現金をだまし取られる被害が相次いでいる。「このままでは逮捕、勾留される」などと不安をあおられ、2億円以上を振り込んでしまったケースも。

実はこれを書く記者(37歳男性)も、こうした電話に遭遇し、危うく話を信じかけてしまった経験がある。犯人の手口はどのようなものか。実体験をもとにリポートする。

「警視庁捜査二課」から「香川県警本部に出頭して」

「○○さん(=記者)のお電話ですか。警視庁捜査二課のオオタニマコトと申します。香川県警からの協力要請を受けて、お電話しました。今はご自宅ですか? 念のため、周りに話を聞かれないような場所に移動してほしいのですが......」

その電話は、突然舞い込んだ。2024年のゴールデンウィーク谷間の平日、17時過ぎ。記者は在宅勤務中。番号は非通知。怪訝に思っていると、中年男性風の「警察官」は単刀直入、こう告げてきた。

「突然ですが、○○さんに、香川県警本部まで、身分証を持って出頭していただきたい」

予想もしない展開に、「は?」と頭が真っ白になった。それを見透かすように、「警察官」は穏やかな口調で続ける。

「実は、香川県警がある事件を捜査する過程で、あなた名義のA銀行のキャッシュカードが発見されました。こちらの口座が、マネーロンダリングに利用された疑いがあります」

鼓動が早くなる。

出頭? マネーロンダリング? 香川まで? 仕事は? どうすれば——?

2億円以上をだまし取られるケースも

あなたは、もうわかっているだろう。これは、典型的な詐欺電話だ。

「警察官などをかたって電話し、逮捕・勾留などをほのめかして、現金を振り込ませる手口の特殊詐欺事件の発生については認知しています」——J-CASTニュース編集部の取材に、警察庁広報室もこう答える。

その手口はこうだ。

(1)警察官など公的機関の職員を名乗って電話し、「あなたの銀行口座(携帯電話、保険証などのケースも)が、詐欺・マネーロンダリングに使われていた」などと告げる。
(2)電話やLINE上での「事情聴取」に誘導する。
(3)逮捕・勾留を示唆し、不安をあおる。
(4)「保釈金」「捜査への協力」などの名目で、指定した口座に現金を振り込ませる。

警察官や検察官など、複数人が役割を演じる「劇場型」の犯行が目立つ。件数の統計などはないというが(警察庁広報室)、この1年ほどは各地で、被害がたびたび報じられている。

23年11月、千葉県松戸市で起きた事件では、70代女性がなんと約2億5000万円を失ってしまった(NHK)。24年2月には、長野県の70代女性が1億円あまりを(NHK)、この5月にも茨城県の30代男性がやはり1億円弱をだまし取られるなど(テレビ朝日)、被害額が大きいケースも。

日本将棋連盟会長・羽生善治九段の妻・羽生理恵さんも5月9日、Xで、やはり「神奈川県警捜査2課の青木」を称する男から電話があったというエピソードを明かした。

それにしても、被害者はどうして、こんな電話にだまされるのだろうか。実際にだまされかけた、記者の体験談に戻ろう。

思わずだまされかけた...その理由

記者の場合、相手を信じかけた大きな理由は、「住所」だ。「警察官」が、記者が過去に住んでいた住所を読み上げてきたのである。

「○○さんの住所で間違いないですか」
「は、はい。すでに引っ越していますが......」

しかも、マネーロンダリングに使われたというA銀行の口座も、確かに持っていた。さらに、この何年もまったく手をつけておらず、どうなっているのか把握していない。

(......ありうるかもしれない)

名前。電話番号。住所。銀行口座。それをすべて知られていたことで、一瞬信じかけてしまったのだ。恥ずかしながら。

だが、今思えばこれこそが犯人の思惑だ。住所や電話番号などの個人情報さえ手に入れてしまえば、あとはA銀行も大手のネットバンクだから、口座を持っている人は多いし、サブ口座的に使っていて、放置状態という人も少なくないだろう。記者はまんまとハマりかけてしまった。

「漏洩した個人情報などを元に、勝手に作られた可能性はありますが、法的にはあなたの口座ですから、捜査対象ということになります」

捜査対象、という部分を、「警察官」は少し強調する。それだけでこちらは、ついドキッとしてしまう。

「住所はすでに変わっているとのことですが、現在のお住まいは?」

思わず現住所を口にしかける——が、さすがにブレーキがかかった。

「......失礼ですが、こちらの電話は本当に警察からなんですか?」
「はい、私は警視庁捜査二課のオオタニマコトです」

うーん、答えになっていないような......。だが、こちらに深く考える時間を与えず、「警察官」は畳みかける。

「いずれにせよ、そういう事情ですので......。○○さん、香川県警本部のほうに出頭いただくことは可能でしょうか」

なぜ「香川県警」だったのか...犯人の狙い

「いや、何しろ遠いですから、今から、というわけには......」
「そうかと思います。また出頭された場合、携帯電話を押収されたり、勾留されたりということもあります。なので、よろしければ、このまま香川県警につなぎますので、電話で捜査にご協力をお願いできますでしょうか」

確かに香川は遠い。しかも、出頭した場合「勾留」の可能性もあるという。それなら、このまま電話で話せれば......。そう思ってしまう人もいるだろう。だが、これも犯人の思うつぼだ。

神戸新聞によると、24年3月、兵庫県の50代女性が約1500万円をだまし取られたケースでは、犯人は「高知県警の刑事」を名乗ったという。あえて遠隔地の警察を名乗ることで、直接出頭するのではなく、「電話での取り調べ」に誘導する狙いがあったのではないか。

幸い、記者は冷静さを取り戻しつつあった。

「申し訳ないですが、一度こちらから電話をかけ直させてほしい」

「警察官」の声がぐっと低くなった。

「そんなことをしたら、証拠隠滅の疑いがかかりますよ」

実在しない「逮捕前保釈金」要求、LINEで「逮捕状」届くケースも

「そうは言いますが、本当に警察からのお電話か、今の時点ではわかりません。そのような状況では、このまま話せませ......」

言い終わるかどうかのタイミングで、「警察官」からの電話は切れた。全身の力がどっと抜ける。やっぱりか——。そう思うと、一瞬でも信じかけた自分にうんざりする。

念のため、地元の警察署に電話したところ、担当者からは「ほぼほぼ詐欺」と断言された。また、過去に一度だけ利用したECサイトで最近、情報漏洩があったことも知った。住所、電話番号なども含まれており、ここが情報の出元だった可能性がある。

このまま電話を続けたら、どうなっていたか。

被害事例を見ると、多くは電話、またはLINEでの取り調べに誘導され、また別の「警察官」や「検察官」を名乗る人物から、「このままでは逮捕される」と脅されている。中には、LINEで「逮捕状」の画像を送りつけられたケースも。

そうしてだまされた場合、実在しない「逮捕前保釈金」、あるいは「マネーロンダリング捜査への協力」などの名目で、指定された口座に現金を振り込まされてしまう。また、口座のパスワードなどを聞き出され、勝手に預金を引き落とされたり、暗号通貨を購入させられてそれを詐取されたり、などして、さらに被害が大きくなった例もある。

詐欺見抜くには?警察庁に聞いた

詐欺を見抜くには。J-CASTニュースの取材に、警察庁広報室はこう断言する。

「警察官が電話等で逮捕・勾留などをほのめかして、現金を振り込ませることはありません。また、警察官がSNS等の通信アプリを利用して、被害者等に連絡することはありません。警察官などをかたって金銭を要求されたら詐欺です。すぐに家族又は警察へ相談してください」

では、被害を防ぐにはどうすれば?

「お尋ねの手口も含め、特殊詐欺の犯人が被害者をだます手段として用いるツールの多くは電話(※)です。
※令和5(23)年中、被害者をだます手段として最初に用いられたツールの実に約80%(77.4%(暫定値))が電話。
被害を防止するためには、犯人からの電話を直接受けないようにすることが重要であり、非通知からの着信をブロックするナンバー・リクエストへの申込みや国際電話の着信を無料でブロックできる国際電話不取扱受付センターへの申込みのほか、相手方の番号を表示するナンバー・ディスプレイへの申込み、ご自宅の電話を常時留守番電話設定にしていただくといった、犯人からの電話を直接受けないための対策が有効です。
お尋ねの手口においてもこれらの対策が効果を発揮するものと考えています。
なお、ナンバー・リクエストやナンバー・ディスプレイについては、NTT東日本及びNTT西日本において、70歳以上の高齢者及びその同居の家族の名義の電話について無償化する取組が行われていますので、申込みをするだけで利用することができます。
また、国際電話不取扱受付センター(0120-210-364)に申し込めば国際電話番号からの発着信を無償で休止できます。」

J-CASTニュース

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