クマ被害相次ぐ岩手県、わなを遠隔で確認できる新システム…AI使い「捕獲」判断  

2024年6月15日(土)14時54分 読売新聞

 岩手県内でツキノワグマなど野生動物による人や農作物への被害が相次ぐ中、ICT(情報通信技術)を活用し、わなの状況を遠隔で確認できる新システムが誕生した。開発したのは今春まで岩泉町の地域おこし協力隊として活動した沢里寛行さん(47)。わなの見回り軽減や捕獲効率の向上も期待され、「猟友会や地元住民の安全確保に寄与したい」と力を込める。(坂本俊太郎)

 沢里さんが独自開発し、特許を取得した「害獣わな捕獲検知システム」は、わなから5〜10メートルの位置にカメラを設置し、遠隔で監視する。1時間ごとなど定期的に撮影した画像が、パソコンやスマートフォンに送られる。人工知能(AI)を使った画像解析で捕獲したかどうかを判断し、わなを設置した猟友会員らに通知される仕組みだ。

 沢里さんによると、センサーや映像などを使った検知システムは徐々に浸透しているが、今回のシステムは比較的単純な構造となっていることなどから、誤作動や壊れるリスクが低い。「データ容量も少ないため、省電力で長時間稼働できるメリットがある」という。

 岩泉町出身の沢里さんは、都内の企業でソフトウェア開発などを行うプログラマーとして働いていたが、2016年に同町を襲った台風10号のボランティア活動を契機にUターンを決意。21年度から地域おこし協力隊となり、狩猟免許を取得したことで、獣害に関心を持つようになった。

 地元猟友会に入り、気づいたのは、野生動物による深刻な被害だった。「育てていた畑わさびがシカに一晩で全部食べられてしまった」「獣害がひどいから作付けを諦めた」——。地元農家らの切実な訴えを前に「何とかしたい」と思い立ち、ソフトウェアの知見を生かした検知システムの実証実験を同年夏から始めた。

 通常のわなは毎日見回りを行う必要があり、捕獲しても付近にいる別の個体と遭遇する危険を伴う。昨年11月には、八幡平市でイノシシのわなを確認しに行った男性が成獣のクマに襲われ、けがを負った。3月に完成した検知システムでは、遠隔監視することで見回りの負担を減らし、安全確保も実現。4月には「沢里技研」を創業し、今後は検知システムを自治体や猟友会などに貸し出すリース事業を展開する予定だ。

 県内では昨年度、クマによる人身被害が過去最多となる46件(49人)発生。今年もクマの目撃情報が県内各地で相次いでいる。沢里さんは「猟友会員らが命がけで活動している姿を間近で見てきた。検知システムを活用することで安全を確保し、捕獲効率を上げていきたい」と意気込んでいる。

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