アサヒ、キリン、サッポロ、ビール各社の戦略はどこが大きく違うのか?

2024年1月5日(金)4時0分 JBpress

  なぜあの会社は儲かるのか?答えは決算書の中に隠されている——。本連載は、注目企業の「稼ぎ方」「儲けのしくみ」を決算書から読み解く話題書『決算書×ビジネスモデル大全』(矢部謙介著/東洋経済新報社)から、内容の一部を抜粋・再編集。100円ショップ、飲料メーカーなど、同業でも企業によって大きく異なるビジネスモデルの特徴を、わかりやすく図解する。

 第3回目は、アサヒホールディングス、キリンホールディングス、サッポロホールディングスのビール業界3社の決算書から、各社の戦略を読み解く。

<連載ラインアップ>
■第1回 100円ショップのセリアの収益性は、なぜワッツよりも高いのか?
■第2回 100円ショップのセリアVS.ワッツ、原価率や販管費率が低いのはどちら?
■第3回 アサヒ、キリン、サッポロ、ビール各社の戦略はどこが大きく違うのか?(本稿)
■第4回 恵比寿ガーデンプレイスに見る、サッポロホールディングスの事業の特徴とは?
■第5回 富士フイルムHDの利益率は、なぜニコンよりも高いのか?(1月19日公開)
■第6回 富士フイルムHDの古森元CEOが断行した「事業構造改革」と「第二の創業」とは(1月26日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから

アサヒ・キリン・サッポロ、ビール会社の戦略の違いとは?
無形固定資産に見るグローバル化との「付き合い方」

 ここでは、アサヒグループホールディングス(以下、アサヒGHD)、キリンホールディングス(以下、キリンHD)、サッポロホールディングス(以下、サッポロHD)のビール業界3社の決算書と戦略を照らし合わせてみましょう。

 新型コロナウイルス感染症の拡大により、居酒屋など外食におけるビール消費量が大きく減少し、苦戦を強いられたビール業界ですが、じつはこれら3社の戦略は大きく異なります。

 そうした戦略の違いが最もよく表れているのが、下の図にまとめた無形固定資産の金額の推移です。

 2015年12月期を境に大きく無形固定資産を増やし、2020年12月期には2兆7020億円にも達しているアサヒGHDに対し、キリンHDでは2000年代半ばごろから無形固定資産を一度は増やしたものの、その後減少に転じています。

 また、サッポロHDでは一貫して無形固定資産は低い水準にとどまっています。ここからは、戦略の違いが決算書にどのように反映されているのかに着目しながら、詳しく比較していくことにしましょう。

■アサヒGHDのB/Sが大きく膨らんでいる理由とは?

 まずは、アサヒGHDの決算書から見ていきましょう。

 アサヒGHDのB/Sの左側(資産サイド)において最も特徴的なのは、2兆7020億円もの無形固定資産が計上されている点です。この無形固定資産は、総資産のおよそ6割に相当します。

 B/SとP/Lの相対的な規模を比較してみると、後ほど取り上げるキリンHDやサッポロHDではB/SがP/Lの1.3〜1.4倍程度に収まっているのに対し、アサヒGHDではB/SがP/Lの2倍を上回っています。これも、アサヒGHDの資産に多額の無形固定資産が計上されているためです。

 なぜアサヒGHDでは無形固定資産の額が大きくなっているのでしょうか。その背景には、アサヒGHDが推し進めてきた海外M&Aの影響があります。

 アサヒGHDは、2016年にイギリスのビールメーカー大手SABミラーのイタリア、オランダ、イギリス事業を、2017年には同じくSABミラーの中東欧事業を買収しました。

 さらに2020年にはアンハイザー・ブッシュ・インベブから豪ビールメーカーのカールトン&ユナイテッド・ブリュワリーズを買収するなど、M&Aにより海外事業を強化してきました。これらの買収の結果として、アサヒGHDのB/Sには多額の無形固定資産(のれん及び無形資産)が計上されているというわけです。

 また、アサヒGHDはこれらの海外M&Aに必要な資金の多くを、有利子負債によって調達してきました。その結果、アサヒGHDの流動負債と非流動負債に含まれる有利子負債はあわせて1兆8240億円にまで膨らんでいます。これに伴い、自己資本比率は34%にまで低下しました。

 今後アサヒGHDは、M&Aによって獲得した海外事業からのキャッシュ・フローも含めて、有利子負債の返済にキャッシュを回していくことが必要です。

 なお、アサヒGHDの2020年12月期の売上収益等は2兆430億円、営業利益は1350億円であり、売上高営業利益率は7%となっています。コロナ前の2019年12月期の売上高営業利益率は10%であったことから、やはりコロナ禍で収益性を落としてはいますが、一定水準の利益率は確保しています

■海外買収事業を整理し 医薬品への多角化を進めるキリンHD

 続いて、キリンHDの決算書を見てみましょう。

 キリンHDのB/S上の特徴は、投資その他の資産が6160億円計上されている点にあります。この大半を占めるのは、3870億円が計上されている 「持分法で会計処理されている投資」 です。

 これは、キリンHDの関連会社(持分法適用会社)に対する投資です。有価証券報告書を見てみると、健康食品のファンケルやフィリピンのビールメーカー、サンミゲルなどがキリンHDの関連会社になっていることがわかります。

 また、キリンHDの連結子会社には医薬品事業を手がける協和キリンなどもあり、キリンHDが医薬品事業を含めて経営の多角化を行ってきた状況が見て取れます。

 なお、キリンHDも2007年12月期から2012年12月期にかけて、オーストラリアのナショナルフーズやライオンネイサン、ブラジルのスキンカリオールといった海外飲料・食品メーカーへの積極的なM&Aを進めていました。

 しかしながら、これらの買収事業が業績不振に陥ったことから、スキンカリオール(のちに社名を変更してブラジルキリン)を2017年6月にオランダのハイネケングループに売却、ナショナルフーズの事業も2021年1月までに売却を完了しています。

 こうした買収事業の整理に伴い、2014年12月期には8490億円計上されていたキリンHDの無形固定資産は、2020年12月期には4550億円へと、46%減少したのです。

 P/Lに目を転じると、キリンHDの売上収益等は1兆8560億円、営業利益は1030億円で、売上高営業利益率は6%となっています。2019年12月期の営業利益が880億円、売上高営業利益率が5%でしたから、コロナ禍にあってもキリンHDは増益で、収益性もやや上昇していることがわかります。その要因については、第4回目で確認してみることにしましょう。

<連載ラインアップ>
■第1回 100円ショップのセリアの収益性は、なぜワッツよりも高いのか?
■第2回 100円ショップのセリアVS.ワッツ、原価率や販管費率が低いのはどちら?
■第3回 アサヒ、キリン、サッポロ、ビール各社の戦略はどこが大きく違うのか?(本稿)
■第4回 恵比寿ガーデンプレイスに見る、サッポロホールディングスの事業の特徴とは?
■第5回 富士フイルムHDの利益率は、なぜニコンよりも高いのか?(1月19日公開)
■第6回 富士フイルムHDの古森元CEOが断行した「事業構造改革」と「第二の創業」とは(1月26日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから

筆者:矢部 謙介

JBpress

「アサヒ」をもっと詳しく

タグ

「アサヒ」のニュース

「アサヒ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ