「セクシー田中さん」改変の日テレが今度は「地元住民を分断」旧本社跡地の超高層ビル建築計画に"不透明"疑惑

2024年2月7日(水)17時15分 プレジデント社

日本テレビ(東京都港区)=2020年5月29日 - 写真=時事通信フォト

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日本テレビが旧本社跡地(千代田区二番町)に超高層ビルを建築しようとしている。ジャーナリストの浅井秀樹さんは「日テレ側は千代田区や区議らと共に、ビル高を60m→80mへ上げようと必死ですが、住民からは『説明が不十分だ』との声があがっている。日テレは60mでは広場づくりなどの地域貢献を十分にできないと強調しているが、都市計画の専門家は可能との見解を示している。また、計画推進派とみられる区議らが別件で逮捕されたにもかかわらず、区はこの計画の調査をしようとしないことも問題だ」という——。
写真=時事通信フォト
日本テレビ(東京都港区)=2020年5月29日 - 写真=時事通信フォト

■地元民「日テレは住民を分断している。迷惑だ」


都心で皇居に近い千代田区の番町地区は、江戸時代は武家地だった。現在は文教・住宅地として落ち着いたたたずまいを残すが、今、ある騒ぎが起きている。


日本テレビ放送網(以下、日テレ)などを抱える日本テレビホールディングス(本社:港区)が超高層ビルを建てようとして、地元住民の賛否が割れる事態となっているのだ。地元では「住民を分断して迷惑」などといった声も出ている。


舞台は千代田区二番町、日テレが汐留に移る前の旧本社跡地。高さ制限は60mだが、日テレは規制緩和で高さ80mの商業ビルを建てる計画で、区側がそのまま引き継ぎ地区再開発計画として推進する。


この計画をめぐり、区が今年1月に住民や通勤者などに意見書を募った結果、賛成が反対を大きく上回った。しかし、計画推進派が賛成へ勧誘した手法を問題視する指摘が相次いでいる。


番町地区のある住民は昨年末、居住するマンションで開催された当該商業ビル計画についての日テレの説明会に参加した。説明者は日テレの不動産事業部幹部など3人。この住民は日テレの説明について「開発の正しい情報をお伝えしたいということでしたが、高さ60mでは地域貢献ができないと断言していました。みなさんのためなのですとも強調していました」と話す。


つまり、高さ制限が60mのままだと、計画されている広場をつくることや、東京メトロ(有楽町線麹町駅)からのバリアフリー化などの地域貢献が十分にできないと、日テレ側が強調していたという。詳しくは後で紹介するが、実は高さ60mでも計画された広さの広場の確保など、地域貢献ができることを都市計画の専門家は代案として提起している。問題は、説明会で高さ80mの計画に賛成するよう住民を誘導しているのではないかという疑いがあることだ。


この住民の証言によれば、日テレ側は「低層にしたほうが建築コストは安くなり、テナントも入りやすくなりますが、地域貢献をしたいため、あえて選択しました」という趣旨の説明もしたという。


さらに、議会質疑でこんな事例も明らかになった。小枝寿美子区議は、「計画の広場でバーベキューやキャンプもできるので賛成してくださいと住民にお願いする区議もいた」と、住民から聞いていると指摘。ところが、区側担当者はその議会で「広場をどう使うかは今後考えることになっている」と答弁し、小枝区議は正しい情報で住民に説明されていないと指摘。2月1日開催の区議会・環境まちづくり委員会(環まち)での質疑だ。


■日テレ旧本社跡地再開発に逮捕された元区議や元区職員が関わっていた


この計画がこじれているのは、日テレや日テレの計画を引き継いだ区が、計画の説明や住民理解を求める対応が不十分で、不適切との指摘があるにもかかわらず、拙速に計画への賛否を住民らに問うたこともある。さらにそこにとんでもない事件が起きた。


この計画を、審議する区・都市計画審議会(都計審)委員だった嶋崎秀彦区議(当時)は1月24日、官製談合容疑で同区の元担当部長とともに逮捕された(※)。これを受け、区議を辞職した嶋崎容疑者が関係した再開発事業・計画をすべて調査するべきだとの声があがったものの、区執行部はなぜかそれを半ば無視し、立ち止まることなく計画を進める姿勢を明確にしたのだ。


※2人は、2020年5月の区立お茶の水小学校・幼稚園の空調設備と給排水衛生設備の工事の一般競争入札において、別の区職員と共謀。業者側からの依頼を受けて最低制限価格に近い数字や参加業者数を浜松市と千代田区の計2業者側に伝え、入札の公正を害した疑い。


区では、来年度予算案などを審議する区議会が1月30日に全員協議会を開催。一部の区議は、逮捕者が関係した案件の調査の必要性など対応をただしたが、樋口高顕区長は捜査が進んでおり、「いま事実認識を申し上げることは控えさえていただきたい」などと話すのみ。小林孝也区議が「区として家宅捜索を受けたのは初めて」と指摘して区長に発言を促すが、区長は答弁を拒み、副区長などが代弁した。不可解なのは、逮捕者問題で区長に対応や認識をただした区議はたった4人だけということ。残る区議は静観するだけの姿勢で、異様な雰囲気の協議会となった。


2月1日の環まちでは、住民などの意見書で計画に賛成が1804、反対807だったと公表。環まちでも、逮捕者が関係した案件調査の必要性などを一部区議が指摘。しかし、計画推進派とみられる区議が「審議は十分」との認識を示し、区側担当幹部も「早く結論をつけていただきたい」などと話し、逮捕者問題で立ち止まらず、計画通りに手続きを進めていく意向を示した。この推進派とみられる区議は「賛成があれば、反対があってもいい。双方の意見があったのだというのが大切なこと」と話した。


樋口区長は事件を受けて、再発防止策をとると表明。しかし、これまでの案件の調査も必要との声には答えていない。こうした姿勢を問題視する指摘が相次いでいる。


「逮捕者問題があったのに、そのまま計画を続ける区は腐っている」と話すのは、一級建築士で「番町の町並みを守る会」の大橋智子共同代表だ。


グロービス経営大学院(二番町)の堀義人学長もこの計画について「嶋崎容疑者と日テレとの関係性が問題になり、審議を止めて(両者に)関係があるのか、真っ先に解明されることを住民が望んでいる」などと話した。


撮影=筆者
千代田区役所が入るビル - 撮影=筆者

■建築の専門家「高さ80mにしなくても“地域貢献”はできる」


日テレと区が進める再開発計画そのものを問題視する都市計画の専門家もいる。東京大学名誉教授で明治大学特任教授の大方潤一郎さんは次のように指摘する。


「(もともと)住民が地区計画で高さ60m以下の街並み形成を進めてきたが、日テレは自社用地のみに突出した容積割増を受けるため、再開発等促進区地区計画をその地権者の3分の2の同意を得ることなく、変更する提案を提出した。日テレと区行政が計画のメリットとする広場緑地や地下鉄からのバリアフリーなど公共貢献に対し、高さ80mの超高層ビルが建つことで空の広く見える街並みが破壊されるデメリットのほうがはるかに大きい」


さらに、こうも付け加える。


「街区公園相当の広場を確保し、割増された容積率700%を実現しても、広場の一部をピロティ型(建物の1階部分を柱だけの空間にして、広場を確保するもの)にして、エリアマネジメント施設をビル内に取り込むなどの工夫をすれば、高さを60m以下に抑える計画も可能です」


この計画に対しては、影響を受ける建設予定地周辺の複数の学校法人などから陳情書が提出されている。2月1日開催の環まちで陳情書について議論も可能だったが、なぜか議会手続きが止められていて、議論できなかった。ある区議は「かなり恥ずべき行為」と吐露した。


■「セクシー田中さん」改変の日テレ…今度は強引な手法はやめるべき


2月1日開催の環まちで、早尾恭一区議はこの計画と、そもそも超高層ビルを想定していない区の都市計画マスタープランとの整合性を問題視する質疑を展開。計画の賛否が割れている争点だ。同区議は、区側担当部署に対して「地域を分断しているのは、あなた方だ」との認識を示した。


一方、この計画に賛成する住民の理由はどんなものか。1月に募集した住民などからの意見書を区側がまとめた「意見書の要旨」から、賛成者の主な意見を抜粋すると次の通り。


「(80mになっても)デメリットはほとんどなく、景観も環境も大差ない。メリットのほうがはるかに大きい」
「現行の高さ制限の範囲内では十分な広さの公園が確保できていない」
「広場をつくってもらうので高さが高くなるのは仕方がないと思う」
「地域住民の利便性が高まる」
「地域住民にとってマイナス面よりもプラス面が大きいと思う」

日テレ社長室広報部の担当者は、冒頭に紹介した地元マンション住民への個別の説明会について、担当者と期限内に連絡をとることが難しいと回答した。一方、計画の一般的な内容などについては、同社サイトの「よくあるご質問と回答」を参照してほしいとした。


それによると、地元でいくつかの機会を例に挙げて、意見を聞いてきており、具体案の説明をしてきたとし、「今後も引き続き具体案を説明し、ご意見をうかがってまいります」としている。そのなかには、冒頭に紹介したような、「近隣マンション理事会などでいくどとなく個別に説明」をしてきたとも。一方、大方教授の提案については「広場のうち半分以上が柱に囲まれたピロティ空間となる」とし、地域へのアンケート結果を重視して「可能な限り広場は緑豊かな青空広場」にしたいとしている。


この計画は2月8日の都計審で審議される。計画は推進派から逮捕者が出たことで新たな局面を迎えている。計画への賛否の問題以前に、計画の透明性に疑義が生じている。


区とタッグを組む形の日テレは、昨年10月期に同局でドラマ化された漫画「セクシー田中さん」の作者である漫画家・芦原妃名子が1月下旬に死亡したことをめぐり、「内容を改変した」ことに対して多くの非難の声があがっている。旧本社跡地の超高層ビル建築に関して、住民からのさまざまな要望や疑義、またトラブルが発生しており、区と同様にさらなる誠実な対応が求められている。


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浅井 秀樹(あさい・ひでき)
ジャーナリスト
米国証券会社調査部を経て東洋経済新報社、米通信社ブルームバーグなど国内外の報道機関で30年以上にわたり取材・執筆。森林文化協会の月刊「グリーン・パワー」で森林ライターも続ける。
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(ジャーナリスト 浅井 秀樹)

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