取引先に「A部長はお休みをいただいております」は絶対NG…言うと恥をかく間違った日本語の使い方

2024年2月11日(日)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

写真を拡大

取引先と同じ組織の人間に対する言葉はどう使い分けるべきか。中国文献学者の山口謠司さんは「自分と同じ組織に属している者に対しては、敬語を使ってはいけない。取引先など、社外からの上司への問い合わせに対して『○○さんは、お休みをいただいております』と答える人がいるが、それは間違いである。『お休み』の『お』は丁寧語だから外し、『いただいております』も『もらう』の謙譲語なので外すべきだ」という——。

※本稿は、山口謠司『もう恥をかきたくない人のための正しい日本語』(三笠書房)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/DragonImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

■相手がたくさんの商品の中から選んだものに対する声かけ


店員さんが誤用しがちな日本語
× こちらで結構でしょうか?

○ こちらでよろしいでしょうか?

子どもと洋服を選んだりするときに、私たちは「これでいい? これがいい?」などという聞き方をします。


一方で、明治時代初期の小説を読んでいると、女性は「これでよろしいかしら」、男性は「これでよかろうか」などという言い方をしているのが分かります。100年ちょっとで、言葉はこんなに変わってしまうものなのです。


さて、最近、店員さんが「こちらで結構でしょうか」と客に尋ねることが多くなったと耳にしました。


これは、日本語としては、失礼な言い方にあたります。


「結構」というのは、「申し分のないもの」「素晴らしいもの」という意味です。そうであれば「こちらで結構でしょうか」は、「この品物は、あなたにとって申し分がない素晴らしいものか?」と聞いていることになるのです。


こんなときには「こちらでよろしいでしょうか?」と言うのが適切な丁寧な言い方です。


客がたくさんの商品の中から選んだものについては、「こちらで間違いございませんか?」と尋ねるようにしましょう。


■「ご質問ください」が丁寧で親切


「伺う」の敬意の対象に気を付ける
× 担当部署で伺ってください

○ 担当部署でお尋ねください

「わからないことがあるから、ちょっと課長に聞いて来るね」と、仲の良い同僚との間では、このような会話が聞かれます。みなさんは上司に質問をするとき、まずどのような言葉をかけますか?


「課長、少々、不明な点があるので、伺ってもよろしいでしょうか」と言う人が多いのではないでしょうか。「聞いてもいいでしょうか」では、課長に対して失礼な言い方になります。


「伺う」という言葉は、「聞く」「尋ねる」の謙譲語です。つまり、自分からへりくだって、相手を立てるときに使います。


さて、このことから、顧客や取引先の人からある質問を受けたとき、「その件については、担当部署で伺ってください」と返答するのは、身内の担当部署を敬った言い方になってしまうので、日本語としては間違っていることがお分かりかと思います。


まるで「へりくだれ!」と命令されているような印象を相手に与えてしまうかもしれません。


こんなときは、「担当部署におつなぎしますから、そこでお尋ねください」あるいは「担当を呼びますので、直接お尋ねください」「ご質問ください」と言えば、丁寧で親切な言い回しになります。


■尊敬の意が周囲にも伝わり、上司を立てることにもつながる


上司や先輩の意見を聞き出したいとき
× どうしますか?

○ どういたしますか?

昔のマンガで、社員が「どうします?」を丁寧語で「どうしますでございますか?」と言って、社長に「敬語の使い方がなっていない」と叱られるシーンが描かれていました。


友だち同士であれば「どうする?」で済みますが、いざ、丁寧語で言おうとすると、咄嗟(とっさ)に正しい言葉が出てこないという人も少なくないのではないでしょうか。


「する」の丁寧語は「します」、謙譲語は「いたす」、尊敬語は「なさる、される」です。


つまり、「どうしますか?」は、丁寧語の表現にあたるので、親しい上司で二人きりの場合など、他にたくさんの上司や部下がいないときには使ってかまいません。


ただ、たくさんの人がいる場合、上司に、どうするか、という意向を聞きたいときには、「どうなさいますか?」あるいは「いかがなさいますか?」と聞くと、尊敬の意が周囲にも伝わり、上司を立てることにもつながります。


写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

さらに、「この状況で、自分がどういう行動をすればいいのか」を上司に尋ねたい場合には、「どういたしますか?」「どういたしましょうか?」と言うといいと思います。繰り返しにはなりますが、これも、自分をへりくだって言う、謙譲の表現です。


■丁寧、謙譲、尊敬の使い分けで相手との親密度、距離感も表現


「してくれますか」は下品な日本語
× 部長に伝えてくれますか?

○ 部長に伝えてもらえますか?

「伝えてくれ」「渡してくれ」「電話してくれ」など、何かをしてほしいのは分かりますが、「してくれ」という言い方はとても下品な言い方です。


それに比べて、「伝えてもらえる?」「渡してもらえる?」「電話してもらえる?」という言い方は、優しい感じになります。


ただ、これだと少し女性的な言葉となるため、もしかすると男性だと会社内では使いづらいかもしれませんし、相手との関係も非常に親密な印象を受けてしまいます。


こんなときには、


「伝えてもらえますか」「伝えていただけますか」「お伝えいただけますか」
「渡してもらえますか」「渡していただけますか」「お渡し願えますか」
「お電話してもらえますか」「お電話いただけますか」「お電話お願いできますか」


という言い方をするのが丁寧ですし、相手にも感じよく受け取ってもらえます。


日本語は、丁寧、謙譲、尊敬を使い分けることによって、相手との親密度、距離感も表現することが可能です。


相手との関係によって三種類程度の言い方が自然と言えるようにしておくと便利です。


写真=iStock.com/RRice1981
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RRice1981

■尊大な気持ちを表す言い方になる


相手が席を外していないか確認したいとき
× Aさんおりますか?

○ Aさんはいらっしゃいますか?

時代劇などを観ていると「○右衛門はおるか?」「殿はおられますか?」など、相手の居場所を尋ねるとき、こんな言い方をしていることに気がつきます。


「おる」も「いる」も、漢字では「居る」と書きます。また旧仮名遣いでは、「為」の草書体を書いた「ゐ」を使って「ゐる」と書いていました。


さて、「おる」とは「ゐる」と「ある」が結合してできたものです。「ゐる」は「ある場所に座ること」、「ある」は継続的に「そこに存在すること」を表しますが、この二つが一緒になって「その場所にある程度の期間滞在している」ということを表すようになったのです。


ただ、「おる」は幕末〜明治時代になってから、「お、そこにおったか」「知っておる」「そこにおれ」など話者の尊大な気持ちを表すような言い方として使われるようになってしまいます。


こういうことから「○○さん、おりますか?」と尋ねるのは、尊大な話し振りだという印象を与えたり、ちょっと古くさい表現だなあと思われたりする可能性があるのです。


「おる」という言い方はやめて「いる」の尊敬語である「いらっしゃる」という言葉を使うようにしましょう。


■過去形はなぜか後悔を促すような言い方になる


レジの店員さんがついつい使ってしまう
× よろしかったでしょうか

○ よろしいでしょうか?

デパートでネクタイ、ハンカチ、ブレザーを買いました。それぞれ、たくさんの種類の中から選んで、会計をしようとしたときです。


「こちらでよろしかったでしょうか?」とレジの店員さんに言われました。


こう言われると、自分が選んだものが本当にこれでよかったのかどうか、なんだか心配になってしまいます。


これに対して「よろしいでしょうか?」と言われると、もう一度、きちんと確かめて、「はい!」と言いたくなります。


この二つの言葉の違いは「よろしかった」と「よろしい」です。過去形で話されると、日本語は、なぜか後悔を促すような言い方になるものなのです。


それは、過去形で許可や同意を求めた結果、聞かれたほうは、何か問題や不都合があったのではないか、という懸念が生じるからでしょう。


たとえば、デートで外食するとき「おいしかった?」と聞かれると、このレストランでよかったのか、他にも選択があったのではないかと思ってしまいます。


相手を不安にさせないためには、「よろしいでしょうか?」「おいしいでしょうか?」など、現在形での会話をするように気を付けましょう。


■同じ組織に属している者には敬語を使わない


休みは「いただく」ものではなく「もらう」もの
× A部長はお休みをいただいております

○ Aは休みを取っております

取引先など、社外からの上司への問い合わせに対して、「○○さんは、今日は、お休みをいただいております」と答える人がいます。


韓国語では、目上の人に対してはどのような場合でも、尊敬語を使うという決まりがあるので、「部長は、お休みをいただいております」というのが正しい言い方ですが、日本語の場合は間違いです。



山口謠司『もう恥をかきたくない人のための正しい日本語』(三笠書房)

自分と同じ組織に属している者に対しては、敬語を使わないというルールがあります。


まず「お休み」の「お」は丁寧語ですから外しましょう。


「いただいております」も「もらう」の謙譲語ですので外してください。自分の会社に届け出て休むのですから「いただく」という言い方は、相手に対して失礼にあたります。


電話などで、このような問い合わせが来たときには、「本日は不在にしています」とか「今日は休みを取っております」と言ってください。


----------
山口 謠司(やまぐち・ようじ)
中国文献学者
1963年、長崎県生まれ。大東文化大学文学部教授。博士(中国学)。大東文化大学大学院、フランス国立社会科学高等研究院大学院に学ぶ。英国ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て現職。専門は書誌学、音韻学、文献学。『日本語を作った男 上田万年とその時代』(集英社インターナショナル)で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書に『世界一役に立つ 図解 論語の本』『品がいい人は、言葉の選び方がうまい』『読めば心が熱くなる! 中国古典100話』『日本人が忘れてしまった日本語の謎』(以上、三笠書房《知的生きかた文庫》)、『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』(ワニブックス)、『心とカラダを整える おとなのための1分音読』(自由国民社)、『文豪の凄い語彙力』(新潮文庫)、『語感力事典』(笠間書院)、『文豪の悪態』(朝日新聞出版)、『頭のいい子に育つ0歳からの親子で音読』(さくら舎)、『明治の説得王・末松謙澄』(集英社インターナショナル)など多数。
----------


(中国文献学者 山口 謠司)

プレジデント社

「取引」をもっと詳しく

「取引」のニュース

「取引」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ