2匹のチワワが急死し、「私もそちらへ行きます」…ペットを失った人を襲う「喪失感」を甘くみてはいけない

2024年2月11日(日)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Angela Emanuelsson

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人間より寿命が短いペットは、飼い主より先に亡くなることが多い。また、病気、事故、災害などで飼い主の前から突然いなくなってしまうことも。ある調査によると、飼い主の6割が「ペットロス」を経験している。ペットジャーナリストの阪根美果さんは「長い時間を共に過ごし、愛情を注ぎあったペットだからこそ、喪失感は大きい。人間の終活と同じように『ペットの終活』を済ませておいたほうがいい」という——。
写真=iStock.com/Angela Emanuelsson
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■犬や猫ははるか昔から人間と共存していた


2024年1月は能登半島地震に羽田空港の航空機衝突事故と大きな災害と事故が立て続けに起こりました。羽田空港の事故では、JAL(日本航空)の乗客が貨物室に預けていたペット2匹が犠牲となり、ペットを荷物扱いにすることの是非が大きな議論となっています。


また能登半島地震は、災害時にペットの安全をどう守るか、ペットの避難をどうするか、という飼い主たちにとって非常に重要な問題を突き付けています。


そもそも、人とペットが共に暮らすようになったのはいつからなのでしょうか。諸説ありますが、少なくとも犬は1万2000年ほど前から、猫は9500年ほど前から家畜化され、人と暮らしていたと推測されています。


当初は、使役動物として人の生活を補助する役割を担っていた犬や猫ですが、社会の文明化が進むにつれ、その役割は愛玩動物(ペット)へと変わっていきました。現代社会においては、1980年代から核家族化が進み、単身もしくは夫婦のみの世帯(1〜2人で構成される世帯)が増え続けています。


身近にあった家族(ヒト)という「心のより所」が遠のき、その欠けたピースを埋めるかのように、ぺットはかけがえのないパートナー、大切な家族として、その存在意義をますます高めているのです。


■ペットは人間の家族と並ぶ大切な存在


一般社団法人ペットフード協会の「令和3年全国犬猫飼育実態調査」によると、「生活に最も喜びを与えてくれること(存在)」として、犬飼育者が最も多く挙げたのは「家族」で、次いで「ペット」、猫飼育者は「ペット」、「家族」の順でした(図表1)。こうした傾向は、特に40〜50代の飼育者、単身者、未婚親同居者で顕著でした(図表2)。


出典=一般社団法人ペットフード協会「令和3年全国犬猫飼育実態調査結果 2021年トピックス:ペットと飼い主の関係性
出典=一般社団法人ペットフード協会「令和3年全国犬猫飼育実態調査結果 2021年トピックス:ペットと飼い主の関係性

■ペットのかかりつけ医を決め、老後に備え貯蓄


ペットの葬儀事業を行う「サンセルモ」が2023年1月に行った「ペットの家族化に関する意識調査」(ペットを飼育しているもしくは飼育経験がある20〜69歳の男女391名を対象)では、「あなたにとってペットとはどのような存在ですか?」という質問に対し、家族(ヒト)と全く同等が32.2%、家族(ヒト)が優先ではあるが、ほぼ同等が40.7%という回答でした。72.9%がペットの存在を家族(ヒト)と同等と意識していることがわかりました。


また、その回答をした285人に「ペットを飼育する上で意識していることはなんですか?」と質問をしたところ、人と同じように扱うが52.6%、かかりつけ医を決めるが35.1%、留守番を短くするが33.0%という結果でした。また、ペットの老後に関する質問に対しても、41.0%がペットの老後に備え貯蓄していると回答しています。


出典=株式会社サンセルモ「ペットの家族化に関する意識調査

こうした傾向から、筆者は今後もペットの家族化が進むだろうと予測しています。しかしながら、その家族意識の高まりは、ペットを失ったときの喪失感を増大させ、なかには重度の「ペットロス」に陥ってしまうケースが起きてしまうのです。


■愛猫のトイレの砂をかき混ぜ続けていた男性


熊本県で一人暮らしをしていたAさん(当時72歳)は、2016年に起きた熊本地震で愛猫のミミちゃんと共に被災しました。自宅が全壊してしまったため、倒壊を免れた離れのコンテナハウスで、共に避難生活を送ることになりました。


「この子がいるから頑張れるよ」と前向きに語っていたAさん。しかし、その1カ月後に愛猫が急死してしまったのです。その数日後、近所の人が心配になり様子を見に行くと、Aさんは猫のトイレを掃除するスコップを右手に持ち、ブツブツと何かを言いながら砂をかき混ぜ続けていたのです。名前を呼んでも返事はなく、その行動をやめることはありませんでした。


近所の人がAさんを病院に連れて行き診てもらったところ、「猫を失った喪失感から精神を病む重度のペットロスに陥っている」と医師に言われたそうです。辛く苦しい避難生活のなか、共に支えあって生きてきたミミちゃんを失くした喪失感が、Aさんの生きる気力を奪ってしまったのでした。その後、施設で暮らしていたAさんでしたが、その状態は改善されないまま78歳でミミちゃんのもとへ旅立ちました。


■チワワが相次いで急死し、自死を考えるように


愛知県に住む30代のSさん(女性)は、結婚を機にチワワの姉妹であるグリちゃんとグラちゃんを飼い始めました。子供がいないこともあり、可愛い洋服を着せたり、手作りのご飯を食べさせたり、わが子同然に愛情をかけて育てていました。


しかし、姉妹が5歳になった頃、グリちゃんが心臓病で急死。その1カ月後にグラちゃんも突然死してしまったのです。愛犬2匹を相次いで失くしたSさんは、あまりの喪失感から塞ぎ込むようになります。そして、何もしてあげられなかったと後悔の念に苛まれるようになりました。Sさんは毎日を泣いて過ごし、次第に「死にたい」「消えたい」と口にするようになりました。ご主人は心配になりSさんを病院へ連れて行きましたが、なかなか改善されませんでした。


ある日、出張から戻ったご主人は、寝室で多量の睡眠薬を飲んでぐったりしているSさんを発見しました。「グリちゃんとグラちゃんのもとへ行きます」と書かれた手紙が傍にありました。幸い発見が早くSさんは助かりましたが、その後も自死を考え続けました。約7年間メンタルケアを受け、精神的に不安定な日もありますが、少しずつ快方に向かっています。


■「ペットロスになった人」は6割に上る


では、実際にペットロスになった人はどの程度いるのでしょうか。2023年9月、アイペット損害保険は、犬や猫を亡くした経験があり、現在はペットと一緒に暮らしていない1000人を対象に「ペットロスに関する調査」を実施しました。


この調査では「愛するペットを失ったことによる悲しみや喪失感と、それに伴う心身の不調」をペットロスと定義していますが、実際にペットロスになった人は約6割。また、「自覚があった」という人は7割を超え、前回の調査(2017年)よりも大幅に増加した結果となりました。


出典=アイペット株式会社「ペットロスに関する調査
出典=アイペット株式会社「ペットロスに関する調査

また、「亡くなったペットに対して、後悔したこと/後悔していることはなんですか?」の質問に対しては、「もっと何かできたのではないか」「一緒の時間の過ごし方」「最期の時間の過ごし方」と回答する人がそれぞれ4割を超えるという結果でした。


■ペットが元気なうちに「終活」をしてほしい


ペットの死が家族(ヒト)の死と同じくらい辛く悲しいと感じる人も増えています。筆者も愛犬や愛猫を失くした経験があるので、その気持ちはとてもよくわかります。長い時間を共に過ごし、愛情を注ぎあったペットだからこそ湧き上がる特別な感情といえるでしょう。


写真=iStock.com/Solovyova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Solovyova

前述した2つのケースにあるように、ペットを心のより所と強く依存している人ほど、ペットロスの症状が重度化しやすい傾向にあります。また、後悔の念が強い人も同様です。しかしながら、愛する存在を失っても自分の人生や現実の生活は続いていきます。できるだけペットロスを軽減し、ペットとの思い出を胸に生きていくことが大切だと考えます。


筆者は人間の葬儀社や霊園に勤めた経験があり、かなり以前からペット情報サイト「ペトハピ」で「ペットの終活」を勧めています。人間の終活と同じように「ぺットが元気なうちにさまざまな準備を整え、いまをより楽しく幸せに過ごすことで、ペットを失ったときの後悔を減らすことができる。その分だけ心穏やかに『ありがとう』という感謝の気持ちを添えて、愛するペットを見送ることができたら」と考えているからです。


■真の「ペットとの共生」が喪失感を軽減する


一般社団法人日本国際動物救命救急協会では、「トライアングル講習会」を定期的に開催しています。この講習は、家族である動物の命が虹の橋を渡るまでのプロセスで飼い主が体験する以下の3つのケアを遭遇前に具体的にイメージし、可能な限り、ペットの痛みや苦しみの軽減、飼い主の悲観による生活の質の低下を予防することを目的としています。


・終末ケア(命の終末に向かうペットと家族への段階的な様々なケア)
・祝別ケア(命の終末を迎えたペットと家族の準備と心のケア)
・命のケア(魂となった命や新しい命に対する向き合い方やケア)

認定資格を取得する講習会ではありますが、一般の飼い主にも学んでほしいと呼びかけています。「避けることができないプロセスを先読みしておくことで、段階的な心構えと準備することの大切さ、祝別後もペットが去ったことによる感情の変化などを自分のペースで取り戻し、日常を継続的に迎えることができるかもしれない」としています。


「ぺットの終活」や「ペットロス」について学ぶことは、「愛するペットとのかけがえのない時間をどう生きるのか」ということを考える機会にもなります。できるだけ後悔をしないためにいま何をすればよいのか冷静に考え、1つ1つ実践していくことが大切です。


ペットに依存するのではなく、家族として支え合い、共に充実した幸せな時間を過ごすことが、真のペットとの共生だと筆者は考えます。それがきっとペットロスを軽減する役割を担ってくれることでしょう。


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阪根 美果(さかね・みか)
ペットジャーナリスト
世界最大の猫種である「メインクーン」のトップブリーダーでもあり、犬・猫などに関する幅広い知識を持つ。家庭動物管理士・ペット災害危機管理士・動物介護士・動物介護ホーム施設責任者。犬・猫の保護活動にも携わる。ペット専門サイト「ペトハピ」で「ペットの終活」をいち早く紹介。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍している。
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(ペットジャーナリスト 阪根 美果)

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