「茶道をおやりになりますか」では「おや?」と思われる…相手の趣味を聞く"上品な質問フレーズ"

2024年2月12日(月)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aramyan

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上品なイメージを与える言葉遣いは何か。中国文献学者の山口謠司さんは「趣味や嗜み、稽古事の聞き方ひとつで、教養があるかないかを相手に曝してしまうことになる。伝統文化を嗜む人たちと話をするときは、『茶道をおやりになりますか?』ではなく、『茶道を嗜まれますか?』と尋ねるようにしたほうがいい。『嗜む』という言葉は、『趣味として楽しむ』という意味で、単に『楽しむ』『趣味にする』というより、奥深くまで心得ているようなニュアンスがある」という——。

※本稿は、山口謠司『もう恥をかきたくない人のための正しい日本語』(三笠書房)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/Aramyan
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■明るく嬉しいトーンで正しい言葉を


上司から食事に誘ってもらったとき
× ご一緒します

○ お供させていただきます

上司から、ランチに誘われたとき、みなさんはどう答えますか? もちろん、一緒に行かないというのであれば「今日は、先約がございますので、また機会を改めてお願い申し上げます」と断ることもあるでしょう。


でも、せっかく誘っていただいたので一緒に行くという場合はどうでしょうか?


「ご一緒します」と言う人がいます。これは、非常に親しい関係の上司の場合では正しい使い方です。「ちょっと2、3分待っててください」と言えるくらいの親しい関係です。


これに対して、自分の仕事をすぐに止めて、席を立ち上がって上司の後を追わなければならないほどの緊張感がある関係であれば、「お供させていただきます」「ご一緒いたします」「ご一緒させてください」と言うのが丁寧な言い方です。


「いたします」「させてください」と「します」の違いは、自分を中心に考えるか、相手に合わせるかということです。その場に応じて使い分けるといいと思いますが、自分がエスコートする場合には「ご一緒いたします」というのが適当です。


ところで、ここでは言い方や言い回しを解説していますが、ランチに誘われたときには、明るくうれしいという気持ちを声のトーンなどで表すと、誘った相手も喜ぶに違いありません。


■さらっと言えると上品なイメージを与える言葉


相手の趣味を聞くときは気を付けたい
× 茶道をおやりになりますか?

○ 茶道をなさいますか?

相手に、趣味や嗜(たしな)み、稽古事を聞くのは難しいことです。聞き方ひとつで、教養があるかないかを相手に曝(さら)してしまうことになるからです。


とくに茶道、華道、書道、弓道など、「道」の字がつく、いわゆる日本の伝統文化を稽古事にしている人は、日本語の言葉遣いも、お稽古の中で学んでいます。そのため、伝統文化を嗜む人たちと話をするときは、背筋が伸びるような思いになるのではないでしょうか。


さて、こうした人たちに「茶道をおやりになりますか?」「お習字をおやりになりますか?」と聞くと、「おや?」と思われるかもしれませんので、正しい尋ね方を覚えておきましょう。「おやりになる」は、間違った日本語なのです。


「茶道(華道、書道)をなさいますか?」あるいは「茶道を嗜まれますか?」と尋ねるようにしましょう。


「嗜む」という言葉は、「趣味として楽しむ」という意味です。単に、「楽しむ」「趣味にする」というより、奥深くまで心得ているようなニュアンスがあります。


もちろん、「競馬を嗜む」「読書を嗜む」「音楽を嗜む」などとも使えます。「趣味はなんですか?」と尋ねるのではなく「何か嗜んでいらっしゃいますか?」という言い方で尋ねてみてはいかがでしょう。


相手の趣味を尊重することにもつながり、さらっと言えると上品なイメージを与えることができます。


■「感動」を「感心」に言い換えてはいけない


意外と知らない「感心した」のもう一つの意味
× 感心しました

○ 感服いたしました・勉強になりました

優れた絵画、音楽などを鑑賞した際、「心を動かされた」とか「感動した」と言うことがあると思います。


写真=iStock.com/Asia-Pacific Images Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Asia-Pacific Images Studio

もし、「感動した」を「感心した」で言い換えたとしましょう。「感心」には褒める意味ももちろんありますが、「ある意味感心してしまう」などのように、「驚き、あきれる」という意味もあります。


そのため、「感動」を「感心」と言い換えてしまうことは、「その人らしからぬ驚くようなところがあったが、ワクワクするようなものではなかった」という意味で、相手に間違った意味で伝わってしまうかもしれません。


たとえば「部長の英語力に感心した」などと言うと、「部長が英語をあんなに話せるなんて驚いたし、びっくりしたよ!」と、ちょっと馬鹿にした感じになってしまいます。


このような場合には「感服しました」と言ったほうが適当です。「服」は「屈服」という熟語で使ったりしますが、「感服」は、「恐れ入りました」「私の認識不足でした」という意味です。


そして、「勉強になりました。今後ともどうぞご指導、よろしくお願い申し上げます!」と添えて伝えるのが、適切な言い方です。


■「お疲れ様です」の正しい使い分け


仕事終わり、上司への挨拶は
× ご苦労様です

○ お疲れ様です

「ご苦労様です」「ご苦労でございます」という言葉の歴史について触れたいと思います。


江戸時代まで、「ご苦労様でございます」は、藩主に対して臣下が使う言葉でした。


つまり、下の立場の者が目上の人に、「ご苦労をお察し申し上げます」という意味で使われていたのです。


ところが大正時代、今から100年ほど前になると、会社などで上司が部下に対して、「ご苦労様」と使うようになるのです。


以来、現代でも、上司や上長など立場の高い人が、部下や立場が下の人に対して、労(ねぎら)いや親切、同情の気持ちを込めて話すのに、「ご苦労様」はよく使われています。


「苦労」には「労」という漢字が入っています。「労」は「相手の努力や骨折りに感謝し、労(いたわ)るという意味です。


なので、「ご苦労様」という言葉は使わないようにして、「お疲れ様です」と言いましょう。


ちなみに、社外の人に対しては、「お疲れ様です」ではなく、「お世話になっております」あるいは「本日はありがとうございました」を使うようにしましょう。


■相手をくつろいだ気持ちにする一言


商談や面接で、相手に席を勧めるとき
× お座りください

○ おかけください

「お座り」という言葉から、何を連想しますか?


もちろん、犬のしつけですね。


したがって、会社を訪ねてきた人に対して「お座りください」と言うのは、なんだか、犬に対して「お座り!」と命令しているのと同じような印象を相手に与えてしまいます。


日本語には、「座る」の意味の「腰をかける」という麗(うるわ)しい言葉があります。


人に席を勧めるときは、「こちらにおかけください」と言うのが適切です。



山口謠司『もう恥をかきたくない人のための正しい日本語』(三笠書房)

そのときに、「大変お待たせしております。ただいま、担当者を呼んでおりますので」など、相手がくつろいだ気持ちになれるように、一言添えてみてはいかがでしょうか。


ちなみに、「腰をかける」に似た言い方で、「腰を入れる」「腰を据える」という言葉があります。


これはどちらも、あることに本腰を入れて取り組むという、強い意志を表す言葉です。


ビジネスシーンでは、仕事に真剣に取り組む際によく使われる言葉ですので、よく覚えておきましょう。


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山口 謠司(やまぐち・ようじ)
中国文献学者
1963年、長崎県生まれ。大東文化大学文学部教授。博士(中国学)。大東文化大学大学院、フランス国立社会科学高等研究院大学院に学ぶ。英国ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て現職。専門は書誌学、音韻学、文献学。『日本語を作った男 上田万年とその時代』(集英社インターナショナル)で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書に『世界一役に立つ 図解 論語の本』『品がいい人は、言葉の選び方がうまい』『読めば心が熱くなる! 中国古典100話』『日本人が忘れてしまった日本語の謎』(以上、三笠書房《知的生きかた文庫》)、『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』(ワニブックス)、『心とカラダを整える おとなのための1分音読』(自由国民社)、『文豪の凄い語彙力』(新潮文庫)、『語感力事典』(笠間書院)、『文豪の悪態』(朝日新聞出版)、『頭のいい子に育つ0歳からの親子で音読』(さくら舎)、『明治の説得王・末松謙澄』(集英社インターナショナル)など多数。
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(中国文献学者 山口 謠司)

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