入社直後の4月中に転職サイトに登録する新人が13年で30倍…上司が知らない"離職予備軍"が生まれる瞬間

2024年2月16日(金)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

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大卒者の入社3年以内の離職率は大企業を含め3割前後。入社直後に転職サイトに登録する新人は13年前の約30倍だという。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「離職の最大の引き金は上司との人間関係。壁にぶつかってもアドバイスやサポートをもらえないと訴える新人が多い」という——。
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■2023年4月に転職サイト登録した新社会人13年前の約30倍


新入社員の4月入社を控え、戦々恐々としている企業人事部も多いのではないだろうか。採用が早期化し、長期に囲い込み、やっと入社したと思ったら、1年も経たずに退職する若者が常態化している。


新規大卒者の入社3年以内の離職率は32.3%。前年より0.8ポイント上回った(厚生労働省「新規学卒者就職者の離職状況」2023年10月発表、2020年3月卒業者)。


企業規模では100〜499人が32.9%、500〜999人が30.7%。1000人以上の大企業でも26.1%とあまり大差はない。


最近は入社直後に転職サイトに登録する新人も少なくないといわれる。転職サービス「doda」に2023年4月に登録した新社会人は、調査を開始した2011年の約30倍に達している。


こうした傾向について都内の大学でキャリア教育を教える講師は「一つの会社にお世話になるというほど企業に対する学生の信頼度が低くなっている。ここに入れば一生安泰だというのは幻想にすぎず、長く勤めたくても、そういう時代ではないでしょ、という感覚が若者の中で大きくなっている」と語る。


早期離職の原因はさまざまだろうが、エン・ジャパンの「就業前後のギャップ調査」(2023年8月30日)によると、就業前後にギャップを感じた経験のある人は79%。


そのうちギャップが原因で仕事を辞めたことがある人は55%もいる。退職の原因となったギャップで多かったのは「職場の雰囲気」(29%)と「仕事の内容」(24%)となっている。とくに社会人未経験の新入社員の場合はギャップに対しては敏感だ。


ラーニングイノベーション総合研究所が今年4月に入社する24年卒の「内定者意識調査(2023年度想定する入社の壁編)2024年1月29日」によると、社会人になることに「不安、心配な気持ち」と答えた学生が78.7%と、約8割もいる。


具体的な不安では「自分の能力で仕事についていけるか」(65.8%)が最も多く、続いて「しっかりと成果を出せるか」(55.1%)、「先輩・同期とうまくやっていけるか」(46.2%)、「上司とうまくやっていけるか」(41.9%)の順となっている。


多くの不安を抱えているが、中でも離職の引き金になりやすいのが上司など職場の人間関係だ。


■「上司からアドバイス、サポート」なしで辞めたくなる


では実際に入社後はどうなのか。同研究所の「若手社員の意識調査(社会人1年目)2023年」では、入社前に感じていた不安などのギャップは、入社後にどう変わったかを聞いている。それによると「上司とのコミュニケーション」は、「フランクで話しやすい」が30.3%、「厳しく話しにくい」が34.3%となっている(想定通りが35.3%)。


また、「上司からの仕事のアドバイス」は、37.7%が「細やかではない」、「上司への悩み相談」は、42.0%が「細やかに相談できない」、「上司からのスキルアップのサポート」は、37.7%が「サポートしてもらえない」と回答。それぞれ4割近くがネガティブな印象を抱いている。


写真=iStock.com/maroke
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こうした思いを抱く新人は離職予備軍といえる。実際に「上司とのコミュニケーション」を想定よりも話しにくいと感じた新人のうち「会社を辞めたくなった」と回答した割合は23.9%もいる。同様に「上司からの仕事のアドバイス」がもらえていない、「上司からのスキルアップのサポート」をしてもらえない新人は、それぞれ26.8%、23.9%が会社を辞めたくなったと答えている。


新人にとっての上司は主任や係長クラスだろう。入社1年目で辞めたくなった人が2割超というのは極めて深刻な事態といえる。本来、入社1年目は先輩社員が指導役になってOJT(職場内教育)を実施している時期であり、管理職を含めて上の人間がサポートしなければいけないはずだ。


中堅サービス業の人事担当者はこう語る。


「大手企業ではOJT担当者が育成プランに基づいて仕事の進め方や悩み相談にのっているところもあるが、多くの中堅・中小企業では管理職が若手社員に『お前が面倒をみろ』と指示するだけで、指導方法も教わらないでやっているのが実態だ」


それでも昔は新人も自然に周囲に溶け込み、育つこともあったが、今はコミュニケーションの接点がなくなっていると嘆く。


「職場の飲み会は極端に減ったし、プライベートな話をすることも減った。マネージャーの責任も大きい。自分の仕事に忙しく、部下が何をやっているのかわからないマネージャーがものすごく増えている。それをさびしいと感じるか、あるいは自由度が高まったと感じる部下もいるだろう。さびしいと感じる新人の中には、身近に先輩ですら相談相手もおらず、間違いなく早期離職につながる。自由度が高まったと感じる部下にしても仕事を見てくれる人がいないと、仕事の壁にぶつかったとき、自分で乗り越えられる壁ならいいが、乗り越えられないと辞めていくだろう」


新人など部下の育成はマネージャーの仕事であるが、日本のマネージャーの9割がプレイングマネージャーだという調査もある。部下の全員の仕事を見るのは無理だと語るのは建設関連業の人事担当者だ。


「課長はどこの会社でもプレイングマネージャーだ。たとえば部下の残業管理をしっかりやれと人事は言うが、10人の部下がいたら、一人ひとりの仕事の進捗(しんちょく)状況を把握し、これはやらなくてもいい、これを先にやってくれと、優先順位をつけてやらせることになるが、そんなことが本当にできるのか疑問だ。今の課長は部長より忙しく、昔とは違う。それこそ課長の仕事をジョブ型にして、マネジメントに集中させない限り、難しい」


■「部下へのフィードバックに躊躇」管理職の57.0%


仕事の忙しさに加えて部下の育成に悩んでいる管理職も多い。同研究所の「管理職意識調査(部下へのフィードバック実態編)2023年10月6日」によると、部下の育成に悩んでいる管理職が54.3%と半数以上に達している。また、フィードバックする際に7割以上の管理職が「部下に成長してもらいたい」と願っているが、フィードバックすることに躊躇したことがあると答えた管理職が57.0%もいる。


その理由で多かったのは「部下の反応に対して不安があるから」(39.9%)、「適切な伝え方がわからなかったから」(37.0%)、「自分が本当に正しいかに自信がなかったから」(29.0%)——の3つである。


管理職自身も部下とのコミュニケーションを不安に感じている。とくに最近は指導のために叱ってもパワハラだと言われかねず、部下の対応には敏感になっている。そうした管理職に同情するのは前出の建設関連業の人事担当者だ。


写真=iStock.com/itakayuki
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「10年前は当社でも『お前、仕事やる気があるのか』と叱りつける根性論の管理職がはびこっていたが、今は部下に気を遣う管理職が増えている。今の新人は大体叱られたことがない人たちが多い。たとえば、取引先から電話の応対が悪いというクレームを受けて、数人の新人を叱りつけた上司がいた。ところがそのうちの新人の1人が『僕は悪くないのにどうして一緒に叱られなければいけないんですか、人格の否定です』と文句を言ってきたことがある。上司には『今の若い人は個人意識が強いので関係のない人と一緒に叱るのはまずいよ』と注意したものの、管理職も昔と違って叱り方も考えないといけないのは大変だと思う」


管理職も人間だから、ときには感情的になるのは致し方ないのかもしれない。人事担当者は「何度言っても失敗を繰り返す新人に思わず『お前はバカなのか』と言ってしまった上司もいる。パワハラなどハラスメント研修はやっているが、つい感情的になってしまう管理職もいる」と語る。それがきっかけで離職されると管理職が責任を問われることになる。


感情的になってしまうのは、そもそも自分の仕事とマネジメントの両方をこなさなくてはいけない日本の管理職の構造的な問題に原因があるかもしれない。


新人の指導が不完全のために早期離職を促し、パワハラまがいの言動でさらに離職を誘発するという構造的矛盾の解決ができなければ若者の離職問題は今後も続くことになる。


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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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