「痴漢しそうな人に男性が声かけ防ぐ」「ホームに発情BOX」何度も被害に遭った女性が考案した"平和な解決策"

2024年2月19日(月)8時15分 プレジデント社

イラスト=田房永子

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痴漢はなぜなくならないのか。漫画家の田房永子さんは「現実的ではないと分かってはいるが、以前から私は、痴漢をしそうな男性がいたらほかの男性が『おまえ大丈夫か』と声をかけて落ち着かせ、加害を防げるといいのにと思っていた。今年1月に、テレビ東京の『ゴッドタン』で、ロバートの秋山竜次氏が披露していた歌を見て、『男性が、男性へ“自分の性欲との付き合い方”を訴えかけている』と感激し、新しい時代を感じた」という——。
イラスト=田房永子

■ロバート秋山氏の「名曲」


今年の1月3日深夜にテレビ東京で放送された「ゴッドタンSP 第21回 芸人マジ歌選手権」。その中で披露されたロバートの秋山竜次氏の歌が「名曲だ」と話題になっていました。


マジ歌選手権は、お笑い芸人の人たちが本格的なメロディと演奏と歌唱に、独自の世界観の歌詞をつけて真剣に歌う、毎年正月の恒例企画です。


Tシャツ姿にニット帽をかぶったロバート秋山氏がPOPなメロディに乗せて歌ったのは「Are you KENZEN?〜僕らの魔法〜」。


2月16日時点ではTVerで見られるほか、テレビ東京の公式サイトでも3月2日まで配信しているので、ぜひ観てほしいのですが、1番の歌詞だけ書き起こさせていただきます。


Are you KENZEN?〜僕らの魔法〜 作 秋山竜次

【セリフ】事前にヌイトケ! 抜きゃいいじゃん FU!


おイタしたり不倫しちゃったり


ハメ外しそうな夜 その前に
自分でタンク空! にすりゃいい
歓楽街 行く前に マジで1回(簡単な作業さ)
挟むだけで すぅ〜っと変な気なくなる(不思議だね)
お遊び 美女の誘惑 ハニートラップ
一瞬で全てを手放すリスク
その前に10分のURAWAZA

【コーラス】タマノナカヲ カラニスル ギシキ


カゾクノ タメニヤル ギシキ FU!

邪念が出る前に抜きゃイイジャン


1度抜いときゃ4〜5時間無欲さ
つべこべ言わずに抜くべきじゃん
どいつもこいつも 危機感がない

【明るいサビ】抜きゃいいじゃん! 抜きゃいいじゃん!(チェックインして)


なぜ抜かない? 抜くべきじゃん(出かける前に)
また邪念が出たら 部屋もどり抜きゃいいじゃん!
抜くって大事だね

昔のSMAPのテイストを思わせる親しみやすく元気なサウンドで爽やかに歌われる「Are you KENZEN?〜僕らの魔法〜」。


ちなみに「抜く」とは射精の意味です。つまりこの歌の場合は自慰を指します。


サビの後も、秋山氏は審査員に向かって叫びます。


「みなさん抜いていきましょう! 抜かなくて溜まるから 変なこと起こす! 抜けば絶対にそんなことなくなるから! みんないなくなるの嫌だよ!」


審査員たちも「名曲だ」と感心しています。


私も電撃が走ったように感激しました。


■「男性同士呼びかけ時代の到来」を感じた


男性が、男性へ「自分の性欲との付き合い方」を訴えかける。


男性自身が、自分たちが引き起こす失言/失態/失敗による社会的失墜と、性欲との関係を認めている。


これは新しい時代の到来と言っていいのではないか。


単に不倫とか性的なトラブルが明るみに出るとテレビに出られなくなるから、気を付けようよってだけの歌かもしれない。


おイタすると、世間から猛烈に怒られ、キャリアを全捨てさせられるというシステムへの対策、かもしれない。


それでも、とりあえずはそういった形であっても、いよいよ男性のセルフケア重視の概念、そして男性同士呼びかけ時代の到来を感じ、感動したのです。


■「男は痴漢をするもの」という誤った認識


私は33年前、親の意向で私立中学を受験させられ中高一貫の女子校にブチ込まれました。それまで身近にいた男子が生活から消滅したのです。


私は小学校の頃、女子たちと遊ぶ楽しさとは別で、男子たちの会話の面白さに魅了されていたので、彼氏が欲しいとか恋愛したいとかではなく、教室に男子がいない環境にMAXで不足感を感じていました。とにかく女子校というのは、男子との“普通の”接点が一切ない場所なのです。


一方、登下校中には痴漢被害に遭います。痴漢をしてくるのは100%男性。


小学6年生まで男子達と同じ立場で生活していたのに、中1からは、大人や年上のワケの分からない男たちから、触られたり股間を押しつけられたり、嫌がらせを受けるというのだけが唯一の接点になったわけです。


学校の先生などの大人に「なんで痴漢がいるのか」と尋ねても「そんなの俺が分かるわけないだろう」「春だから変態が出てくる」「変なやつがいるんだから気をつけろ」「自分たちがスカートを短くするのが悪い」「男はいつでもやりたい生き物」と答えにならない回答しか得られませんでした。


そういった環境で育った私や周りのクラスメートが、男性に対して「女に生理がくるように、男も全員、年頃になったら痴漢をするものなんだ」という間違った認識を持ったのはある程度仕方ないことだったと思います。


女子校にいる私のような、意欲的に「異性がいる環境」を求める者は高校生になると、男子校の文化祭などに出向いてボーイハントに繰り出します(たまに「異性との関係にうつつを抜かさないように異性がいない学校に通わせる」という保護者がいますが、うつつを抜かす子はうつつを抜ける環境をつくるために時間と労力を惜しまず努力します)。


そこで出会う男子は「女子の前での俺」を意識した緊張とカッコつけを併せ持った男子なので、私の求める「単なるクラスメートというナチュラルな状態の男子との生活」は結局体験できずに中高が終了しました。


その後、男性を同じ人間として見る、接するという基本的なことができるようになるまでに長い時間を要しました。


■痴漢に遭わなくなり「痴漢」が視界から消えた


30歳を過ぎてから、渋谷駅の壁に「痴漢は犯罪」というポスターを見た時、ハッとしました。


自分が中高生の頃、電車に3度乗れば1度は痴漢に遭っていてそれをハッキリ覚えているのに、「今も痴漢犯罪の被害に遭っている子どもがいる」という意識が全然なくなっていたことに気付いたのです。


街でも道でも電車でも本屋でも制服を着ていない時でも、至る所で遭っていた痴漢被害が、高校を卒業すると23歳頃からほぼなくなりました。遭わなくなったというだけで世の中から痴漢がいなくなったような気がしていた自分に驚きました。


写真=iStock.com/TheNewGuy03
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TheNewGuy03

■痴漢被害の実態を知らない男性たち


当時、2011年の日本の世の中では、痴漢犯罪の話題はほとんど取り上げられていませんでした。たまに有名企業の社員が痴漢犯罪を起こしたりするとニュースになるくらい。それよりも2006年公開の映画『それでもボクはやってない』の影響がかなり強く、テレビでも痴漢冤罪(えんざい)の恐怖が日々取り上げられ、書籍も痴漢冤罪体験談ばかり発売されていました。


ネットで痴漢被害について話そうとしても、「痴漢冤罪のほうが問題だ」という男性の声が非常に大きく、リアルの場で話しても、特に男性たちはそういった性被害が実際にあることを知らない人が多く「AVの中の話でしょ? 本当にあるの?」「都市伝説でしょ?」と返されるのも日常茶飯事でした。


中には、思い出したように「そういえば俺も痴漢に遭ったことがある」という男性も結構いました。映画館や電車内などで男性から体を触られて怖かったという体験を話してくれることがありました。


しかし、「どうして痴漢をしてしまう男性がいるのか?」という問いに答えられる男性はゼロで、「満員電車で女性と密着した時に、ドキドキする気持ちはわかるけど、普通はやらないよ。俺には分からない」という回答が限界でした。


被害に遭っていた側からすると、加害者は全員が男性だったのに、男性たちが痴漢被害の実態についてほぼ全く知らないということが不可解でした。


■ネガティブな「性の話」に無関心


これだけ毎日たくさんの被害があるのに、なぜ知らないでいられるのか。


だけど、女性も暮らしていた地域などによって、痴漢被害に遭ったことがない人はたくさんいて、そういった方は同じように実態を知らないのでした。


「同じ性別だからって、個人がヒッソリやっている犯罪を知っているわけない」というのは分かる。


だけど、分厚いコートを来ていたりジーパンを履いていても、満員ではない電車の中でも痴漢被害には遭うのに、私たちの時代の女子たちは「短いスカート履いているからだろう」とか「隙を見せるから悪いんだ」とか「相手も魔が差したんだ」と、相手をそういう気にさせることが原因だと決めつけられ、とにかく自衛しろと言われまくっていました。


それと同じくらい、「痴漢をするんじゃないぞ」と男子たちは言われなかったんだな、ということを大人になってから知って、当たり前のことなのかもしれないけど、なんだか納得できない気持ちがありました。


痴漢の話をしても、男性特有の問題かもしれないと受け取る人はほとんどおらず、「俺は違う」で終わり。すぐに痴漢冤罪についての話になり、「女性から痴漢に間違われること」におびえるばかり。


「男性は他の男性が何をしているのかに対して無関心である」という印象が強く残りました。女性とのセックスの話や、自慰について、エロについての話は男同士元気よくしているのに、そういったネガティブな男性の性についての話では、男性同士がまったくつながっていないんだ、と感じました。


■男性にも知ってほしかった


だからある意味仕方なく、痴漢犯罪をひそかにやる男性がいる実態を伝えるために声を上げなければならないのだけど、男性は、性のコントロールについて女性に口を出されることをものすごく嫌悪する傾向があります。


「放っておいてくれよ(笑)」というのはネットでもリアルでも個人的に男性たちから言われ続けてきました。まあ、確かに私も男性から女の性欲についてやかましく言われたら嫌なので気持ちはわかるんですけども。


それでも私は、男性たちに、「一部の男性が性の何かをこじらせて、中高生という子どもや女性、男性に対してとんでもない加害をひっそりしていること」を知っていてほしかった。


それは、被害に遭っている現場で助けてもらえる可能性が高まるからです。


■加害者のむちゃくちゃな「脳内ストーリー」


例えば電車の中で痴漢する時の男性というのは、普通に電車に乗ろうとしている人たちと明らかに動きや見ている先が違うので、ハタから見ていると「この人やりそうだな」と分かることがあります。


必要以上に女性にくっつこうとしたり、ジーッと女性の体を見ていたり、不自然なのです。


痴漢犯罪をする人たちの間では「痴漢OK娘」という用語があり、「この世の中には痴漢されるのを待っている女子がいるからそれを俺は探してあげている」というむちゃくちゃな脳内ストーリーで自分の行為を正当化していることがあるようです。


つまり、全く見ず知らずの人を、自分が一方的に触ったりくっついたりしているだけなのに、頭の中では「この女性も同意している」「むしろ待っている」「喜んでいる」と脳内変換しているのです。


確かに、そういう脳内ストーリーが発動していないと、いきなり知らない人の体に触ったりすることはできないですよね。普段はちゃんとした職場できっちりした役職に就いている人が突然逮捕されたりするのは、電車内だけとか限定でむちゃくちゃな脳内ストーリーが発動してしまうから、と考えるとしっくりきます。


私が中高生の頃、痴漢加害者の手をつかんで怒った勇敢な友達もいました。しかし、知らないおっさんの手をつかむなんて私にはできませんでした。


逆ギレされて殴られるかも、勘違いされて行為がエスカレートするかも、迷っているうちに次の駅に着いて、別の車両に移動するしかできることはありませんでした。そしてなかったことになってしまう。


ハァハァして当然のように自分の体を触ってくる大人の男を1人で駅員につまみ出すなんて、まず考えられませんでした。学校に行かなきゃいけないし。だから痴漢に遭っても結局は「やめてください」と震えながら言うか、黙って避けるくらいしか策がなかったです(現在はさまざまな痴漢対策があります)。


その男の社会的失墜を求めているわけでもなく、ただ痴漢加害をしないでほしいだけでした。


■私が考えた理想の「痴漢対策」(夢物語かもしれないけど)


だから、私が痴漢対策で一番いいんじゃないかと思っていたのは、女性に吸い寄せられるように近づいたりするなどの“脳内ストーリー発動状態”になっている男性を、男性がいち早く見つけることが当たり前になる、ということでした。


今にもやりそうな発動状態男に、男性たちが率先して「よっ!」とか声をかけて、「どうしたどうした? ちょっとヤバい感じ? 話、聞くぜ?」みたいにして、女性から引き離す。そして落ち着かせる、そういう車内になるのが、一番いいなと思っていました。


まあ、そんなのほぼ無理、不可能、夢物語なのは分かっているのですけど。


■痴漢加害者の「私人逮捕動画」


去年、YouTuberによる私人逮捕動画が話題になっていました。


私はそれを見たとき、すごい時代になった……と思いました。あんなに痴漢に無関心だった“男性”たちが、自ら痴漢加害者や盗撮犯を見つけるために街に繰り出し、捕まえている。


昔はなかった「SNS動画」という文化によって動き出す男たちがいるんだ……と非常に驚きました。


私から見て、それは「被害に遭っている人々を守るため」に始まったというよりは、SNS動画のジャンルの一つとして、見応えがある動画を追求していった結果そうなったように見えました。見ている側の正義感をあおり、しかも比較的簡単にできる(東京で電車に乗り継いでいれば痴漢犯罪は見つけることができるくらい多い)から発展した、という感じがしました。


過激さが必要という性質もあって、エスカレートして警察によってYouTuberたちが逮捕されたことで、このジャンルは今は一掃された気配があります。


■「発情BOX」という夢


やっぱり改めて、男性が男性にねぎらいの声をかけて落ち着かせる、というのが理想だなと思ってしまいました。攻撃的で正義感で、というより、「おまえ大丈夫か」と心配する姿勢。


痴漢犯罪の研究では「痴漢加害者は加害している最中、勃起していない(性欲は関係ない)」という結果もあります。


しかし私が見た女性の臀部(でんぶ)に手を伸ばして触ろうとしていた痴漢は、前向きに棒を入れてるみたいにズボンが突き出していて勃起しているのがしっかりと目視できました。電車の座席に座って、立ち上がった陰茎をズボンの上から手でこすりながら向かいの女子高生を見ていた男子高生も見たことがあります。私が見た痴漢はだいたい勃起していました。


それなら、駅のホームに簡易トイレみたいな「発情BOX」みたいなものを設置しちゃってもいいくらいだと思っていました。「女子を触らないで済むのなら、その中でどうぞ一発射精してきてください」という意思表示を鉄道会社がしてくれてもいいんじゃないか、と。


そんなものが駅にあったらおかしいし、現実的な話ではないことは分かっています。


だけど、電車の中で子どもや女性が、ワケのわからない見知らぬ男の発情を一人で受け止めている、そんな環境のほうが、よっぽどおかしくないでしょうか。


だから「発情BOX」という「痴漢しそうな人は中で射精しましょう」というBOXを設置する。そんなBOXがあれば、脳内ストーリー発動状態になっている男性に男性たちも「ちょっと、BOX行ってきたら?」と声をかけやすいのではないか、とにかく加害をさせなければいいんだから、それが1番平和なのではないか、と私はこの13年、夢想していました。


イラスト=田房永子

■男性たちが手と手を取り合う世界


だからロバート秋山氏の「Are you KENZEN?〜僕らの魔法〜」を聴いて、本当に衝撃を受けたのです。


男性が男性の身を案じて、声をかけている。


女性に失礼なことをしてはいけないというよりは社会的失墜をしないために、という目的が強めの歌ではあるものの、その理由での訴えであることも正直でいいじゃないか、と思いました。


とにかく時代はここまで来たんだ、と打ち震えたのです。


秋山氏はひざまずき「一度抜くだけで食や街に集中できる FU〜WU〜 こんなに不思議な魔法 他にないでしょう!」と熱唱しています。


確かに、未成年の男子たちって「デートの前に一発抜いとけ」と言われてませんでした? 雑誌とかテレビとかで見た記憶があります。「デートに集中できるから」「焦ってガツガツしないで済むから」みたいな。


成人した男性、中高年の男性も同じなんじゃん!


男性たちがつながって、手と手を取り合って、自分たちの身を守るためでもいいから、気をつけ合う社会が広がったらいいなと思います。


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田房 永子(たぶさ・えいこ)
漫画家
1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。
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(漫画家 田房 永子)

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