いまの中国は「バブル崩壊後の日本」にそっくり…世界中のマネーが「中国売り、日本買い」にシフトしている理由

2024年2月19日(月)9時15分 プレジデント社

中国経済の実態は数字以上に悪い(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/ronniechua

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このところ中国株の下落が続いている。中国経済はこれからどうなるのか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「不動産バブル崩壊、米中対立、少子高齢化と構造問題が噴出し、中国経済の先行きは不安視されている。このため中国から日本に投資をシフトする動きが目立っている」という——。

※原則として数値は執筆時点(1月末)のものです。


■「日本株買い」と「中国株売り」をセットに


海外の投資家はよく日本株と中国株をペアトレードしています。かつては中国株の代わりに日本株を売ったりもしていましたが、直近では「日本株買い」と「中国株売り」をセットにする傾向があります。


中国株はこのところ下落が続いています。


香港ハンセン株価指数は過去1年で約27%下落。年初来でも約5%下落と、今年も下落傾向に歯止めがかかっていません。


上海総合指数は過去1年で約15%下落。年初来で約6%下落と、こちらも大きく下がっています。


中国株とは対照的に、日本株は上昇しています。日経平均は過去1年で約32%も上昇と、好調を維持しています。


かつては香港市場や上海市場が下がると日本株も下がっていましたが、今は逆の相関になっているとみていいでしょう。


■中国経済の実態は数字以上に悪い


なぜ中国株が下がっているかというと、もちろん中国経済が悪化しているからです。


つい先日発表された2023年の中国のGDP伸び率は、市場予想のプラス5.3%よりも若干弱く、プラス5.2%でした。


若干弱い程度ではありましたが、中国の経済統計は水増しされている可能性が高いので、5.2%が事実かどうかわかりません。実態はもっと悪いのではないでしょうか。


写真=iStock.com/ronniechua
中国経済の実態は数字以上に悪い(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/ronniechua

■「不動産バブル崩壊」のほか「米中対立」


中国経済についてはかなり昔からさまざまな構造問題が指摘されてきました。ここに来て、そうした問題が一気に表面化し、中国経済の先行きを暗いものにしています。


「中国の不動産バブル」は、そうした構造問題の代表格でしたが、恒大集団や碧桂園の例を見ればわかる通り、すでに崩壊しています。


「米中対立の影響」も深刻です。


2023年の中国の輸出額は前年比4.6%減の3兆3800億ドル(約490兆円)に終わりました。中国の輸出が減少に転じたのは2016年以来の出来事です。


中国の経済的なパートナーはアメリカであり、日本であり、ドイツです。


しかし中国はこれらの国々との関係が悪化していますので、今後中国の輸出が大きく回復するとは考えにくい状況です。


■中国の出生率はもはや日本並み


さらに中国では「少子高齢化の問題」が深刻化しています。


2022年の中国の人口は前年比約85万人減と、実に61年ぶりに人口減少に転じました。


続く2023年にも前年比約208万人減と、2年連続で人口が減少しており、人口世界一の座をインドに明け渡しました。


中国の人口動態は悪化の一途をたどっています。


中国の2023年の出生率(人口1000人当たりの出生数)は6.39と、統計開始以来最悪の数字となりました。日本(6.3)や韓国(4.9)などの水準に近づいているのです。


ただ日本と韓国は少子高齢化が進んでもある程度対応できます。一人あたりGDPが3万ドル以上あり、医療・福祉のインフラも整備されているからです。


しかし、中国の一人あたりGDPは1万2000ドル程度。医療インフラもまだまだ整備途上で、少子高齢化に対応できない可能性があります。


写真=iStock.com/Eda Hoyman
「少子高齢化の問題」が深刻化(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Eda Hoyman

■中国経済が悪化すると台湾有事の可能性が高まる


台湾問題も見逃せません。1月に行われた台湾総統選では与党・民進党の頼清徳氏が当選しました。いわゆる「対中強硬派」が勝利したため、台湾に親中政権を樹立するという中国の野心は打ち砕かれた格好です。


習近平氏は台湾統一を自分の使命だと考えています。昨年の訪米でも習氏は台湾統一に言及しており、政権3期目に「レガシー」を作ろうと、武力行使に踏み切る可能性はあるでしょう。


もちろん、中国も本音としては台湾への軍事侵攻を避けたいと思っています。勝つか負けるか分からない勝負をするよりも、じわじわと圧力をかけ続け、長期戦で台湾統一をめざすのが中国が得意とするやり方です。


しかも習近平氏はウクライナ戦争から学んでおり、戦争になれば経済に大きなダメージがあること、そして下手をすると第3次世界大戦になることも理解しています。


ただ、中国経済が大きく悪化すると、国内に共産党政権への不満が高まってきます。不満を外に向けようと、武力行使に踏み切る可能性も出てくると思います。


写真=iStock.com/FrankvandenBergh
中国経済が悪化すると台湾有事の可能性が高まる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/FrankvandenBergh

■まさに「バブル崩壊後の日本」


中国の今の状況はバブル崩壊後の日本と似ています。


人口が減少に転じていわゆる「人口ボーナス」がなくなり、経済の活力が失われていきます。


その上、不動産バブルが崩壊した「ツケ」を、長期にわたって払い続けなければならない。


なのに現状では設備投資もインフラ投資もまだまだ過剰で、投資されたお金の多くが不良債権と化し、その処理にも資金と時間が必要になります。


中国株が下落を続けているのはそのためです。中国政府に対して大規模な景気対策を期待する声も大きくなっています。


しかし、今のところ中国政府は小手先の対策を小出しにするばかりで、大規模な財政出動や大胆な金融緩和には踏み切っていません。地方政府の債務問題もあって、大規模な財政出動を行う余裕がないのかもしれません。


■「マネーの国外流出」に敏感になっている


そもそも中国に経済発展をもたらしたのは「改革開放路線」です。しかし、習近平政権は改革開放路線を巻き戻し、共産党支配の強化を目指しています。


それを考えると、中国経済が今後これまでのように成長するのは難しいと言わざるを得ません。


1月17日、中国の上海証券取引所で日経平均株価に連動するETF(上場投資信託)の売買が一時中止されたと報じられました。


「価格変動で投資家が大きな損失を被る」というのが表向きの理由です。


今中国では、中国株への投資より、日本株への投資が過熱しています。


上記の日本株ETFの売買中止は、日本株人気によって中国国内のマネーが国外流出するのを避けたい中国当局が、日本株投資を制限しようとした結果とも考えられます。


写真=iStock.com/travellinglight
「マネーの国外流出」に敏感になっている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/travellinglight

規制されているのは日本株だけではありません。中国の大手資産運用会社ChinaAMCは、ナスダックとS&P500のETF(上場投資信託)買いを1月24日(水)に停止すると発表しました。


こちらも表向きの理由は、「ファンドの株主を保護し、オペレーションをスムーズにすること」ですが、実際のところは、中国政府から「米株を買うな」と言われた可能性が高いでしょう。


■ハマスのイスラエル攻撃は中国に追い風


一方、昨年秋以降の中東情勢は中国にとって追い風かもしれません。


昨年10月、ハマスによるイスラエルへの攻撃が発生。これを受けて、イスラエルは大規模な報復攻撃を実施しました。


これはアメリカにとってもサプライズでした。アメリカとしては対中国に集中したいのですが、これで中東にも力を割くことになってしまいました。


■「ウイグル弾圧」を批判しても説得力がない


また、これによってアメリカの目が中東に向き、ウクライナへの支援が弱くなっていることで、ロシアにも追い風が吹いています。


イスラエルの報復作戦は、規模や方法に問題があるとはいえ、根本的には正しい対応だと思います。ハマスの奇襲攻撃がそもそもの原因なのは間違いありません。


しかし、アメリカがイスラエルを全面的に支援するとなると問題が発生します。


アメリカは中国政府のウイグル弾圧を非難しています。ウイグルはイスラム教徒が多い地域。つまりアメリカは間接的に「イスラム教徒への弾圧」に反対しているのです。


しかし、イスラエルによるパレスチナ攻撃は、イスラム教徒にとっては許し難い行為です。


アメリカは人口1000万人程度のイスラエルを支持し、人口19億とも言われるイスラム教徒を敵に回すことになりました。


今さらアメリカが「ウイグルにおけるイスラム教徒弾圧に反対」と言っても説得力がありません。


■中国経済の悪化が世界経済に波及するリスク


中国経済の見通しは非常に厳しいですが、中国が巨大な経済圏であることに変わりはありません。その動向は世界経済にも大きな影響を与えます。


中国経済が苦戦しているのに、世界の景気が絶好調とはならないのです。



エミン・ユルマズ『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)

中国経済の不振は、アメリカ経済にとってもマイナス材料です。


アメリカは現在AIバブルに沸いていますが、その代表的な銘柄であるエヌビディアやクアルコムの顧客は中国企業です。


中国経済が冷え込むと、こうした企業の業績にマイナスの影響があるでしょう。


また、米中対立がさらに悪化すれば、中国企業との取引がより厳しく規制されることになります。


その意味で、やはりアメリカの株価は割高であり、今後調整局面を迎える可能性もあるとみておくほうがいいと思います。


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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。著書に『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)などがある。
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(エコノミスト エミン・ユルマズ)

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