送料220円でアマゾンより安く商品が届く…広大な北海道で6軒に1軒が利用する戸別宅配「トドック」のカラクリ

2024年2月19日(月)8時15分 プレジデント社

トドックの車両 - 写真提供=コープさっぽろ

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コープさっぽろの戸別宅配サービス「トドック」が好調だ。物流コンサルタントの角井亮一さんは「生協はアマゾン進出を見越して物流センターやロボットなどへの投資を進めてきた。その結果、どの地域でも1時間圏内かつ低コストで配達できる体制を構築している」という——。

※本稿は、角井亮一『最先端の物流戦略』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。


写真提供=コープさっぽろ
トドックの車両 - 写真提供=コープさっぽろ

■道民の生活に欠かせない「トドック」


コープさっぽろは、人口減少がいち早く進む北海道において、“打倒アマゾン”を掲げて、先行的に物流基盤を築き、利用を大きく伸ばしている生協です。


1965年7月に設立され、現在、従業員数は約1万5000名(2023年3月20日現在、正規職員2464名、契約職員2179名、パート1万16名)。


組合員数は約200万人、仮に組合員数をそのまま世帯数に置き換えたら、北海道内の約80%の世帯がコープさっぽろを利用していることになります(道内の世帯数は約247万世帯)。しかも、現在も組合員数は年間5万人ペースで増えていると言いますから、ますます、北海道民の生活に切っても切れない存在になってきています。


売上高(注)は3140億円(2022年度)。そのうち、店舗事業による店舗供給高が1912億円、宅配システム「トドック」による宅配供給高が1119億円あります。店舗供給高は生協内で最大、宅配はコープみらい、ユーコープ、コープこうべに次ぐ規模になっています。


(注)生協は、厚労省管轄ではないため、会社が持てない。正確には「総事業高」だが、馴染みがない表現のため売上高とする。


■後発事業ながら今では6軒に1軒が利用


売上高の6割以上を占める店舗事業は、20年のコロナ感染拡大で売上高が大きく伸長し、それ以降2年間は横ばい、電気代の大きな値上げ影響もあり、21年からは剰余では後退しました。2023年は103.5%と復調しています。AIによる自動発注やセミセルフレジの導入により生産性アップを図りつつ、今後3〜5年をかけて、年間2〜3店舗のスクラップ&ビルドを進めていく計画です。


その一方で、良品計画の地域コミュニティセンター構想(食品スーパーに隣接して無印良品の店舗を出店していく)に呼応するかたちで、無印良品との隣接店舗を新規出店(やまはな店など4店舗を出店済み)し、トドックでも商品提供を開始するなど、新たな協業にも力を入れ始めました。


コープさっぽろの宅配事業は、店舗運営をスタートさせた1965年から15年以上経過して始まった「後発事業」です。


そして2006年、宅配システム「トドック」に名称変更しました。


「トドック」は導入以来、供給高と登録人数は右肩上がりに推移しており、北海道の総世帯の6軒に1軒に相当する、約46万世帯から利用されています。


■220円でアマゾンより安く商品が玄関に届く


1週あたりの平均利用率は約80%、1件あたりの注文点数は毎回10点程度あり、平均購買単価は約5300円です。


料金はシステム手数料の220円(税込)のみ。しかもサポートサービスにより7割の組合員は無料で商品が届きます。口座引落により宅配時に現金によるやり取りは一切なく、置き配サービスの導入により再配送もゼロになっています。しかも、組合員組織に加入しただけで利用していない、いわゆる“ゾンビ顧客”が、コープさっぽろにはほとんどいません。


そのため、週1回の発注を効率よくまとめることができ、定期配送ルートも組みやすくなっています。


さすがに220円のシステム手数料で物流コストをカバーすることは難しいと思いますが、AIを活用した配送ルートの効率化により、トラック1台で1日平均70軒を無理なく回ることが可能で、採算もとりやすい構造になっていると考えられます。


商品の販売価格はアマゾンよりも安く設定されていますが、民間企業の経常利益率に相当するトドック事業の経常剰余率は8.6%と、高いものになっています。


このトドックの宅配の基盤となっているのが、全道51カ所にある宅配センターです。約1300台の車両が稼働し、センターからほぼ片道1時間圏内で、北海道の隅々まで低コストで配達できる体制を構築しています。


51カ所の宅配センターのうち、41カ所は冷蔵設備があり、残りの10カ所が冷蔵設備のない小型デポです。


写真提供=コープさっぽろ
北海道江別市の北海道ロジサービス外観(物流拠点) - 写真提供=コープさっぽろ

■小型の物流拠点で全道1時間圏内の配送を可能に


トドックの商品は、基幹物流施設の江別物流センターで利用者ごとのピッキングを一括で行い、大型トラックで道内各地の宅配センターに配送、そこから配達車両が利用者宅に届ける流れが基本になっています。


しかし、41カ所の宅配センターで全道に対応しようとすると、もっとも遠い利用者宅までの距離が100キロを超え、その場合、片道で2時間を要することになってしまいます。


そこで、1時間圏内での配達を可能にするために2015年、設置を進めたのがデポ(小型の物流拠点)です。1時間以上かかる遠隔地に冷蔵設備のない小型デポを配置し、デポへジャストインタイムで納品し、そこからラストワンマイルの配達を行う体制も取り入れることになりました。


礼文島、利尻島、奥尻島の離島については、例外で、ヤマト運輸と佐川急便に配送を委託しています。


■ピッキングは人の6倍働くロボットで


コープさっぽろでは、店舗への配送およびトドックのセンターまでの配送を「北海道ロジサービス」にすべて任せています。


北海道ロジサービスの売上高は138億円(2022年度)。納品先は350店舗、取引先(仕入先を含む)400社、使用車両は750台となっています。


2018年8月、基幹となる物流拠点の江別物流センターに、ノルウェー製の自動倉庫型ピッキングシステム「オートストア(AutoStore)」、搬送支援ロボット「キャリロ(CarriRo)」を導入しました。


オートストアは、ジャングルジムのように立体的に積み上げられた小さなコンテナ(ビン)の中から、ピッキングすべき商品の入ったビンをロボットが掘り起こし、ピッキングを行う作業者の手元まで移動してくれるというもので、同じ床面積に設置された平置き棚の2〜3倍の量を収納することが可能。


写真提供=コープさっぽろ
オートストア - 写真提供=コープさっぽろ

作業者は商品棚を探して歩き回ることなく、商品のピッキングを完了することができます。江別物流センターでは、宅配ドライセットセンター内の229坪のスペースに、1万3594ビンを積み上げ、70台のロボットが稼働しており、人の6倍の搬送能力を実現しているそうです。


またキャリロは、先頭カートを作業者が手押しすると、3台のカートがその後ろを追従していくというもの(最大7台まで増やすことが可能)で、カルガモロボットと呼ばれています。ロボットを動かすレールや、磁気テープ、2次元コードを床面に設置する必要もなく、稼働までに時間がかからないというメリットもあります。


写真提供=コープさっぽろ
キャリロ - 写真提供=コープさっぽろ

■物流DXでトラック待機時間も半減


このオートストアの導入により、取り扱い品目数を従来の4倍(約2万SKU)に一気に増やすことが可能になりました。それに合わせ、ドラッグストアで扱う商品にも品揃えを広げていきました。


現在では、食品スーパー(SM)+ドラッグストア(DGS)に匹敵する2万5000SKUまで拡大しており、「トドック」の品揃えだけで、日常生活回りはすべてカバーできます。


北海道ロジサービスでは、これらの導入実績を踏まえ、物流ロボットの外部への販売およびメンテナンスも事業として展開。北海道内でドラッグストア約200店舗を展開、共同仕入れ会社も設立しているサツドラホールディングスや良品計画の道内での物流を請け負う3PL事業なども行っています。


また物流DXへの取り組みも積極的に進めています。


ツナグテ(TSUNAGUTE)の伝票運用効率化サービス「テレサデリバリー(telesa-delivery)」を用い、荷物の受け渡し時に、本システムから印刷された納品伝票に記載されたQRコードをスマホアプリで読み込むと、リアルタイムで製・配・販・輸送の関係者全員で情報の共有ができるという取り組みは、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会が主催する2022年度「ロジスティクス大賞」を受賞しました。


メーカー400社、卸8社、運送事業社約20社を連携したもので、それにより、トラックの待機時間をそれまでの60分から30分まで半減させることになりました。


■2023年から物流に100億円以上を投資


コープさっぽろは、2019年2月に、当面の目標として売上高4000億円超の計画を公表しています。


店舗事業を2019年度比で約130%(1833億8500万円から2412億6050万円へ)、宅配のトドックについては、2019年度比で135%以上(890.9億円から1200億円へ)に成長させるというもので、そのため北海道ロジサービスを中心に昨年から100億円以上の投資を行っています。


詳細は明らかにされてはいませんが、2022〜2024年度には3年間で100億円強を投資し、江別物流センターのD棟(宅配低温&店舗生鮮センター)に、2024年初旬完成予定で、宅配用ピッキングセンターを併設した5000パレットに対応する大型冷凍冷蔵庫を建設しています(総工費47億円)。


この開設により、冷凍食品を1500SKUまで増やすことができ、入荷から店舗配送、宅配がほぼ完全に自前で運用可能になると言われています。


写真提供=コープさっぽろ
北海道ロジサービスの内観 - 写真提供=コープさっぽろ

■スマホアプリの機能改善で若い世代を獲得


北海道は日本国内の他の地域に比べて、少子高齢化がいち早く進展しています。2021年の時点で、コープさっぽろの組合員の年齢構成は、「30代以下」が10%強、「40代」が15%、「50代が17%、「60代以上」が60%以上。計画通りトドックの売上を2倍に増やすとすれば、10分で調理が完了するミールキットや、より安心・安全な商品の提供により、20・30代の共働き(就学前の)子育て世代をしっかり取り込む必要があるでしょう。


そのための施策としてスマホアプリの機能改善を図っています。


2023年8月から、宅配の商品カタログ、注文書、請求書などのすべてを電子化し、宅配利用をアプリ上で完結できる体制を整備。店舗、宅配の双方で利用でき、組合員証にもなり、各サービスの注文履歴や総ポイント数の確認、独自の電子マネー「ちょこっと」での支払いも可能になりました。


「アプリ比率を30%以上にしたい」と、同組合では考えています。


■移動販売の売れ残りは実店舗の見切り品販売へ


コープさっぽろでは、店舗販売、宅配事業のトドック以外の事業も展開しています。移動販売の「おまかせ便カケル」は、96台(1店舗1〜2台)の移動販売車両を使って、各店舗を拠点に週5日、週1〜2回で運行しています。



角井亮一『最先端の物流戦略』(PHPビジネス新書)

約1000商品を移動販売車に積み込み、1コースあたりの停留カ所数は15〜30カ所(それぞれ10分程度の滞在)、各コース週1〜2回、同じコースを同じ時間に回ります。遅くとも午前11時までには出発し午後5時頃を目途に帰店。


1台当たり平均供給9万円強(客単価2500円×40名前後)ですが、売れ残りの商品があっても午後5時に帰店すれば、店舗での見切り品販売にも間にあいますから、移動販売での売れ残り=商品廃棄とはならない、というのも、よく考えられた仕組みだと思います。


この移動販売は、札幌市内でもテスト運行を実施。都市部でも買い物困難な地域があり、思った以上にニーズがあることもわかり、7台、21コースで本格運行もスタートしています。


■「打倒」だったアマゾンと連携しネットスーパーを開始


さらに地域との関わりある事業としては、「栄養士がつくる献立を用意できる民間業者に学校給食を委託することが可能」というスクールランチ制度に基づき、2021年9月から、道内6カ所の自社工場でつくった料理を週1〜6回届けるという夕食宅配サービス(年間188万食の利用)での実績を生かしたスクールランチ事業を受託しています。


2023年10月、北海道内で複数の食品スーパー企業を運営するアークスグループとアマゾンが連携し、最短2時間での配送を可能にするネットスーパーを運営していくことを発表しました。


アマゾン進出による危機感を感じ取ってこの10年近くの間、物流を磨きあげてきたコープさっぽろ。このアークスとアマゾンの連携をどういう立ち位置から見ていくことになるのでしょうか。


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角井 亮一(かくい・りょういち)
イー・ロジット取締役会長
1968年生まれ。上智大学経済学部経済学科を3年で単位修了し、渡米。ゴールデンゲート大学でMBA取得。船井総合研究所、光輝物流などを経て、2000年、通販専門物流代行会社のイー・ロジットを設立。日本語だけでなく、英語、中国語、韓国語でも書籍を累計20冊以上出版する。
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(イー・ロジット取締役会長 角井 亮一)

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