どうすれば「元住友商事」の経歴は輝くのか? 住友商事がアルムナイとつくる「ポジティブな循環」とは
2025年2月18日(火)4時0分 JBpress
少子高齢化や人材不足を背景に、またサステナビリティーや企業変革の観点から、退職者を「アルムナイ」(卒業生)と呼び、有力なパートナーとして関係構築に動く企業が増えている。アルムナイとの連携は企業にどんなメリットをもたらすのか、ネットワークづくりのポイントは何か。本連載では『アルムナイ 雇用を超えたつながりが生み出す新たな価値』(鈴木仁志、濱田麻里著/日本能率協会マネジメントセンター)から内容の一部を抜粋・再編集。先進事例として、住友商事の取り組みを取り上げる。
今回は、人的資本経営の観点から、同社のアルムナイ・ネットワークの活用法を紹介する。
事例 住友商事
アルムナイと共に価値を創造する
人的資本として存在感を増すアルムナイ・ネットワーク
■ アルムナイという社外人的資本と手を携えて 「キャリア自律」を実現する
──今までお話しいただいたこと以外にも、人的資本経営とアルムナイに関連するお取り組みがあればお聞かせいただけますか。
柴田 はい、社員の「キャリア自律」という観点で、アルムナイとの関係性を意図的につくっていくことに取り組んでいます。
弊社では「キャリア自律」の考え方を主軸に、全ての従業員が年齢に囚われることなく生き生きと働くことができる環境を整備しています。
例えば多様な経験と豊富な知見を有するシニア社員に対しては、自律的なキャリア形成を後押しして、持続的な学び直しの機会提供も含め、各人の「強み」を生かしたキャリア形成に役立つ各種支援策を拡充しています。その支援策のひとつとして、ミドル・シニア世代とアルムナイとの関係性構築に着目して、彼らのキャリア自律を後押しする取り組みを始めました。
急に「キャリア自律」といわれてもなかなかイメージが湧きづらい、学び直しや越境学習という言葉を聞いても実際に何をやればいいのかよくわからない、という声が少なくありません。
そういった時に、自身のキャリアを自律的に開拓されているアルムナイの話を聞いたり、相談に乗ってもらえたりすると、その一歩を踏み出す勇気になるのではないかと考えています。もちろん、社内で活躍されている方の話もとても有益ですが、外で活躍されているアルムナイからも話が聞けるのであれば、それは最大限に活用していくべきです。
──キャリアを自律的に考えるという際に、本当にフラットに社内外の環境を見直して考えるには、圧倒的に社外の情報が足りないことが多いですよね。
柴田 おっしゃる通りです。例えばシニア社員には再入社社員がいないので、社外にいるアルムナイの力を借りることができればありがたいです。皆さんが外の人間と交流することで改めて本当に自分がやりたいことを見つけて、これまで培ってきた経験を生かして再び輝けるのであれば、その場所が社内であっても社外であっても心の底から応援したいです。
昭和平成の時代には、社員のキャリアは極端な話、会社のものでした。会社の戦略に沿って出された辞令のままに働いてもらう代わりに、定年まで面倒見るようなかたちでした。「キャリア自律」が叫ばれて久しい今では、社員に求められる姿勢も180度変わっています。その中で、支援できることは最大限やっていきたいと思って取り組みを進めています。
また、世代によってキャリア観は全く異なり、今の若手社員は学校でキャリア教育を受けてきたこともあり、びっくりするくらいに自身のキャリアプランを明確に描いているケースが多いです。一方で、キャリアは思い描いた通りにはならないですから、例え夢破れたケースであってもキャリアの先輩であるアルムナイの経験談というのは貴重な話になると思います。
これまでも個人ベースでそういったコミュニケーションはあったと思いますが、アルムナイ・ネットワークを通じてオープンなかたちでやりとりができるのは非常に良いことではないでしょうか。
■ アルムナイと社員、垣根のない関係が続く喜び
──これまでに様々な取り組みや、アルムナイと社員の交流イベントをされていると思いますが、何か印象に残っていることはありますか。
柴田 年に1回開催している「総会」はやはり印象に残っています。100人以上が集まって盛り上がる、そんなところが弊社らしくて良いなと思っています。
弊社は比較的社員の仲が良い組織ではないかと思いますが、社員同士にとどまらずアルムナイも一緒に垣根なく社員食堂で盛り上がる風景は、昔は考えられなかったものだと思います。DE&Iで目指すところでもありますが「垣根がなくなっている」光景を見ると感慨深いです。
──そうですね、DE&Iの取り組みを実践している住友商事の風土こそが、ネットワークがうまくいっている秘訣かもしれません。在職時に外と内との壁をガチガチに感じていたら、いざアルムナイになって「オープンにいきましょう」といわれても、その壁を打ち破るのはなかなか難しいでしょう。
柴田 はい、退職される方にアルムナイ・ネットワークのご案内をすると、皆さん引き続きつながることができることを非常にポジティブに受け止めてくれます。
会社が嫌で辞めるのではなく、それぞれのキャリアの目的達成のために旅立たれるので、住友商事のことを引き続き好きだと言ってくださることは素直に嬉しいです。ご案内の度に、「ネットワークを続けていて良かったな」と思います。
弊社を退職しても「元住友商事」というキャリアが消えることはありません。だからこそ、私たちが住友商事をさらに良い会社にしていけば、その方の「元住友商事」という経歴も輝く。
逆にアルムナイとなった方が活躍してくれれば「住友商事は良い人材を輩出している」という評判にもつながり、「ポジティブな循環」になってきます。面談で必ずこの話をするのですが、皆さん本当に同意してくださり、その後も良い関係が続けられるのは、心の底から嬉しいです。
住友商事アルムナイ・ネットワークは、文字通り企業アルムナイではありますが、個人的には同級生や部活の同窓生と同じような感覚を持っています。垣根のない関係性の中で、そこには確実に信頼関係が存在しています。そんな信頼関係の中で、双方が互いの期待に答えられるよう今いるフィールドで精一杯頑張って行けたら、この上なく幸せです。
<連載ラインアップ>
■第1回 住友商事は、なぜ“卒業生”と交流するのか? 変わり始めた「退職者は裏切り者」「出戻りはあり得ない」の風潮
■第2回サービス開発、ファンド組成を“卒業生”と実現 住友商事とアルムナイの「成果を求めすぎない」協業術とは?
■第3回 どうすれば「元住友商事」の経歴は輝くのか? 住友商事がアルムナイとつくる「ポジティブな循環」とは(本稿)
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筆者:鈴木 仁志,濱田 麻里