「どう生き死ねばいいのか」人間の根源的な悩みにAIが瞬時に回答…世界的に進む"無宗教化"が招くこと

2024年2月28日(水)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Darwin Brandis

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■AI台頭の影響も…アメリカの無宗教約3割が大統領選に及ぼすこと


日本人は62%、米国人は28%、中国は90%以上、北朝鮮は100%——。特定の宗教に所属しない「無宗教者」の割合は国ごとに大きく異なっている。世界のリサーチ会社の結果をこのほど取りまとめた。すると、日本の無宗教率はこの10年でほぼ横ばいで推移していることがわかった。米国人の場合は高止まり傾向にある。日米両国ともに「イエの宗教」が弱体化してきていることに加え、AI時代の到来が無宗教化に拍車をかけていると考えられる。宗教依存度の低下は、国際秩序へも影響するだけに軽視できない問題だ。


写真=iStock.com/Darwin Brandis
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世界の宗教行動などを調査している米ピューリサーチセンターによれば現在、米国の成人のおよそ28%が「何の宗教にも所属していない(無宗教者)」であるとしている。この割合は2007年の16%から右肩上がりに増加しており、2022年には30%を超えた。2023年の今回の調査では2ポイントほど戻したが、無宗教化は高止まるか、さらに増加していくと思われる。


無宗教層は、何らかの宗教に所属している者よりも年齢層が若い特徴がある。米国人といえば敬虔(けいけん)なクリスチャンが多い印象だが、じわじわと無宗教化が広がっていることがわかる。


無宗教を標榜する理由について、全体の3分の2が「宗教の教えに疑問をもっているから」としている。これは、近年のAIの広がりが背景にありそうだ。AIは時と場所を選ばず、「どう生きて死んでいくか」という、人間の根源的な悩み(宗教的な悩み)にも瞬時に回答できる。まさにAIが宗教にとってかわる時代に入ったといえる。


米国での無宗教者の増加は、将来の大統領選挙にも少なからず影響を与えていくだろう。同研究所は「無宗教者は宗教に関心がある人々に比べて、選挙の投票に足を運ぶ頻度が低い。また地域社会でのボランティア活動にも参加しない傾向にある」と分析している。これは、日本でも同じ傾向にある。


宗教コミュニティに参加しないことが、市民参加の機会を希薄にしているといえそうだ。さらに無宗教層は政治的には「リベラル」を自認する傾向にあり、逆に「保守的」とする割合は低い。


宗教と政治との関係性のなかで、特に大統領選挙において大きな影響力をもつのが、プロテスタント非主流派のキリスト教福音派である。彼らは、聖書の教えに忠実で、極めて保守的なのが特徴だ。人工妊娠中絶や同性婚など世俗化の流れには抵抗の姿勢を示す。コロナ禍では福音派の一部が科学的なエビデンスに耳を傾けず、「血を汚すから」という宗教上の理由でワクチン接種拒否を貫いていたことでも知られる。福音派は全米の人口の4分の1を占めている。


福音派は、共和党トランプ前大統領の支持基盤としても知られ、今年秋の大統領選の行方を左右する存在だ。米国の無宗教層の広がりは、相対的に宗教保守派の減少を招くかもしれない。だが、いますぐにはトランプ大統領再選への足かせにはならないだろう。


しかし、中長期的には米国の投票行動は、よりリベラルな民主党候補有利に流れていく可能性はあるかもしれない。


翻って、日本の無宗教の割合はどうか。


■日本人「仏教徒31%」と「仏壇保有率72%」不一致の謎


2018年にNHK放送文化研究所が実施した「ふだん信仰している宗教」との設問で、「信仰している宗教はない(無宗教)」は62%だった。前回調査の2008年では61%だったので、ほぼ横ばいである。米国と比べると、はるかに無宗教率が高い。


ほかの項目では、「仏教」が31%(前回33%)、「神道」3%(前回同じ)、「キリスト教」1%(前回同じ)、「その他の宗教」1%(前回同じ)となっている。



鵜飼秀徳『絶滅する「墓」 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)

本調査で興味深い項目が「仏壇の保有率」だ。仏壇を保有しているということは、そのイエ(先祖代々)が仏教徒であることを証明している。戦後間もない1951年調査では、80%の家庭で仏壇を保有していた。それが、1998年で71%、2018年では72%と以前よりも仏壇保有率が減少してきている。背景には、仏間をもたないマンション住まいの核家族の増加がありそうだ。


矛盾するのが、先のデータで「日本人の31%が仏教徒」と示したことと、「仏壇保有率72%」が合致しない点だ。前者の数字はあくまでも「仏教徒と自認している」割合である。日本人の場合、「うちのイエは先祖代々からどこかのお寺の檀家(仏教徒)であるが、『私という個人』では仏教徒を自認はしていない」ということだろう。


さらにいえば、親の死をきっかけに、墓や仏壇を受け継いで初めて、「仏教徒を自認する」のが日本人なのである。表面的な信仰は薄いようにみえるものの、実際は多数が仏教徒、という不思議な民族なのだ。


習近平政権に都合の良く変える「宗教の中国化」政策


参考までに日本のように無宗教者が多くを占める国は、アジアに多い。


たとえば、伝統的には儒教や道教、あるいは日本仏教の祖ともいえる宗教大国であった中国は、現在ではどうか。表面的には「中国公民は、宗教信仰の自由を有する」(中華人民共和国憲法第36条)と定めながら、他方で中国共産党の権威を維持するために、厳しく信教の自由を制限してきた実情がある。


写真=iStock.com/Rawpixel
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習近平政権になってからは、中国共産党にとって都合の良い宗教へと変えていく「宗教の中国化」政策を敷いている。そのため、現代中国人の宗教への帰属意識は極めて低く、無宗教を標榜する割合は9割を超えるとされている。香港も無宗教が多数を占める。


人口およそ14億人を有する中国人のおおかたが無宗教層なのだ。よって、世界での宗教勢力の第2位もしくは第3位(第1位:キリスト教22億人、第2位:イスラム教16億人)を、無宗教層が占めていることになる。


北朝鮮は、朝鮮戦争以前までは仏教などが広がっていたが、独裁政権になってからは国民のほぼ全てが無宗教である。韓国では信仰を持つ人口と、無宗教人口が半々といわれる。


欧米で無宗教者が多いのがチェコとエストニアだ。日本外務省の海外安全情報には、「人口の約58%が無宗教。約26%がローマ・カトリックを信仰している」と書かれている。バルト三国のひとつエストニアも「国民の半数以上が無宗教」としている。


パレスチナ問題をはじめ、宗教動向は、時に国家の枠組みをも変える。ジョン・レノンは、名曲「イマジン」のなかで《想像してごらん 宗教のない世界を》(一部編集)と歌った。無宗教の世界的な広がりは、人類を幸福にするのか、それとも——。


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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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