人生の主役は私自身であり、人生のストーリーは私が決められる…「幸せな人生」のために本当に必要なこと

2024年3月1日(金)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/praetorianphoto

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幸せに生きるためには何が必要なのか。ハーバード大学准教授の内田舞さんは「何を選び、どう行動するかを自分で決める意識を持つことが大切だ。自分の人生は自分のものだと思えれば、心が安定する」という——。

※本稿は、内田舞『まいにちメンタル危機の処方箋』(大和書房)の一部を再編集したものです。


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■何を選び、どう行動するか自分で決める“オーナーシップ”


オーナーシップ(ownership)は、心理学や精神医学の分野でもよく使われる言葉です。


直訳すると「所有権」という意味になります。


簡単にいうと「自分が何を選択するか、どう行動するかは自分が決める」と考える姿勢のことです。


自分に関わる選択や行動、そして結果を“自分自身のものとして所有する”イメージでしょうか。


オーナーシップについて考えるとき、私は、友人でもあるフィギュアスケート選手の長洲未来さんを思い浮かべます。


長洲さんは、14歳という若さで全米チャンピオンになり、二度の五輪出場を果たしました。一度の五輪代表落ちを経て出場した平昌オリンピックでは、アメリカ人女性として五輪初のトリプルアクセルを成功させ、団体銅メダルにも輝いたキャリアの持ち主です。


そんな彼女にも、10代の頃に、フィギュアスケートへの情熱を見失った時期がありました。14歳で全米選手権で優勝してスポンサーもつき、お金の管理や、どのコーチにつくかという人間関係のジャッジメントも自分でマネジメントしなければならない状況に、まだティーンエイジャーのときに置かれてしまうのですから、その中で自分を保つというのはそもそも無理な話ともいえます。


■「やりたい」と思ってスケートをしていたわけではなかった


それまで長洲さんは、自分で「やりたい!」と思ってやってきたというよりも、やってみたら上手にできてしまって、まるでベルトコンベアに乗っているように「やりたいというより、やるものだから」という感覚で進んできたといいます。そんななかで、やがて両親に反発する態度をとってしまいました。


長洲さんのご両親は「スケートを続けるかどうか、もう自分の好きにしなさい。私たちは練習の送り迎えもしない。続けたいなら勝手にやりなさい」と彼女をあえて突き放したそうです。きっと親としても子どもに自分の人生を託すことは勇気が必要なことだったと思いますし、長洲さんにとってもつらい言葉だったのではないかと思います。


長洲さんはスケートを続けるかどうか逡巡しました。両親の協力なしに続けるとなれば、毎日バスに2時間乗って、コーチのもとに通わなければなりません。彼女は最終的に「2時間かけてコーチのもとに通い、スケートを続ける」という決断を自分で下しました。


そのとき初めて、「私は、スケートがやりたいんだ」という自分の意思に気づいたといいます。自分の選択で、自分の判断で、自分の責任で、というオーナーシップが生まれた瞬間に、これまでとは違ったモチベーションがわいてきたそうです。


写真=iStock.com/proBAKSTER
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■「自分で決めたことだからやり遂げよう」と思える


「私は、私の意思でスケートをしている」


そう思えたことで、若くして引退していくスケーターが多いなか、彼女は24歳でトリプルアクセルという大技に挑戦し、オリンピックの大舞台で成功させました。彼女がスケートに対してオーナーシップを持てたことと、長い間、大きなエネルギーと情熱をスケートに注ぎつづけられたことは決して無関係ではないだろうと私は見ています。


自分の意見や選択は、自分自身のもの。


私は、YESと言ってもNOと言ってもいい。


人生の主役は私自身であり、人生のストーリーは私が決められる。


そして、その決断を尊重し、受け入れてくれる人はきっといる。


そう思えることで、目の前に広がる景色は変わってきます。


オーナーシップを持つことで、「自分で決めたことだからやり遂げよう」と力がわいてきますし、その結果がすばらしいものであれば、喜びはさらに大きくなります。反対に、期待した結果が伴わなくても、自分で下した決断であれば納得できるはずです。


■子どものオーナーシップを培う育て方


私は、子どもに接するときも、なるべく彼らがオーナーシップを持てるように、と考えています。子どもが提案したことは、なるべく採用したい。たとえば「ここに行ってみたい」「これを食べてみたい」といった彼らの日常のささやかな要望については、たとえ「きっとおもしろくないだろうな」「苦手だと思うけどな」と内心では思っていても、またその意見を伝えることがあっても(もちろん危険なことにはNOと言いますが)、できる限り彼らの希望を叶えます。


結果、それが子どもにとって小さな失敗を経験することになったとしても、それも含めてオーナーシップを培ってほしいからです。


自分の提案が受け入れられる体験を通して、「自分の意見は聞いてもらえる価値がある」と感じられます。そして「失敗しても、たいしたことじゃない。たいていのことは、どうにかなる」と身をもって知ることができます。


また、子どもに何かを言って聞かせるときにも、子ども自身がオーナーシップを持って決めたと自覚できるように伝えたいと意識しています。


子どもたちに遊ぶのをやめて部屋を片付けてほしいときに、大きな声でどなったら、言うことは聞くかもしれませんが、それはただ親が怒っているからやっているだけです。自分で納得して決めたことではなく、オーナーシップが発揮されたとは言えません。


■他者の采配によって行動を決めざるを得ない社会


現代の社会が自尊心を後押ししてくれるような構造になっていないように、オーナーシップについても、残念ながらそれを持ちやすい社会であるとは言えないのが現状だと思います。


他者の采配によってそうせざるを得ない環境が多すぎて、仕方がないから他者の評価軸の中で評価されることをやるようになったり、上から言われたことをただこなすようになったり。


私の知り合いの女性は、子どもを出産し、育休が明けてしばらくたってから、会社から「子どももできたし、こっちの部署のほうが働きやすいでしょ」と、まったくオーナーシップを与えられない状態で異動を命じられました。彼女は、元の部署で誰よりも結果を出していたのに、です。


この部署異動が、彼女自身が「新しい部署の仕事にも興味があった」とか「働き方を変えたい」と自分で判断して提案したものであれば、それはオーナーシップを感じられる事例であったと思います。


■自分が下した判断の結果ならば向き合い方は変わる


今の社会は、人生は自分のものと思わせてくれない機会があまりにも多くて、本当は自分でコントロールできる場所でさえもオーナーシップを持てなくなってしまっているように感じます。


自分が大切にしているものを守るために、自分がした判断であれば、その先に待つ結果への向き合い方は変わってくるはずです。


日々の暮らしの中で、「自分はこんなにやったのに」とか、見返りが返ってこないことに対して憤りを感じることはよくあると思いますが、そうしたことのほとんどは、そもそもその状況において自分がオーナーシップを感じられていないことが原因にあるのかもしれません。「自分の意思で決めたこと」というオーナーシップの意識が、このような苦しみから解放してくれるカギとなるはずです。


■「自分で変えられる」と「すべて自分の責任」は別物


オーナーシップは「YESやNOをはっきりと伝える」「新しくチャレンジすることを決める」といった積極的な選択や行動を指すようなイメージを持つかもしれませんが、「何も言わない」「何もしない」という選択も、自分が決断していることになんら変わりありません。



内田舞『まいにちメンタル危機の処方箋』(大和書房)

その感覚を持っていれば、「また何も言えなかった」「決断できなかった」と自分を責めることなく、自らそう決めたのだと、すこやかに考えられるでしょう。


また、一つ言い添えておきたいのが、どんな場面でも「自分で状況を変えられる」という感覚を持つのはよいことですが、「すべて自分に責任がある」と抱えこんでしまうと、心に負担をかけてしまいます。オーナーシップを持ちつつ、自分で背負いこみすぎないようにする、バランスを大切に考えてください。


そのうえで、大切な局面での一つ一つの選択や判断を自分が行っていることに意識を向けられると、自分の人生を自分で歩んでいる感覚が生まれて、人生の充実や心の安定につながっていくのではないかと思います。


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内田 舞(うちだ・まい)
小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授
マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長。北海道大学医学部卒。イェール大学精神科研修修了、ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。
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(小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授 内田 舞)

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