子育てが大変な時期だけではない…多くの先進国で「子どもがいる人のほうが幸福度が低い」納得の理由

2024年3月1日(金)6時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TATSUSHI TAKADA

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「子どもがいない人のほうが幸せ」なのはなぜなのか。アメリカに住む、作家で歴史学者のペギー・オドネル・ヘフィントンさんは「数々の調査によって、子どものいない人のほうが親になった人よりも幸せであることが、アメリカや多くの先進国で示されてきた。しかし問題は子どもたちではない。親が子育てをしなければならない社会が問題なのだ」という——。(第1回/全3回)

※本稿は、ペギー・オドネル・ヘフィントン『それでも母親になるべきですか』(新潮社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/TATSUSHI TAKADA
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■「子どものいない人のほうが幸せ」


ノルウェーの社会学者トーマス・ハンセンは、子どものいない人についての主な3つのステレオタイプ(彼はこれを「フォーク・セオリー(民俗理論)」と呼んでいる)には、論理的欠陥があると指摘している。


①子どもは人を幸せにする、つまり子どものいない人は親になった人より幸せではない。
②子どものいない人は孤独で虚しい人生を送る、つまり親になった人より幸せではない。
③子どものいない人は、子育てよりも、楽しみや自由や友人との時間、恋愛、おいしい食べ物、いい家、旅行などを優先させた。

3つ目のステレオタイプは、「かなり幸せなグループであることを示唆しているようだ」と、彼は辛辣(しんらつ)にコメントしている。


少なくとも30年以上前から、数々の調査によって、子どものいない人のほうが親になった人よりも幸せであることが、アメリカや多くの先進国で示されてきた。


最近の研究では、親の幸福度が低いのは、子どもが幼く、時間と労力とお金の要求が最も高いときだけ(であれば理にかなっているのだが)ではないことがわかっている。また、アメリカの子どもが巣立った世代は、子どもがいないシニア世代よりも幸福度が低いと報告されている。アメリカの成人を調査した結果、どのタイプの親であっても——親権を持つか持たないか、実子か養子か継子か、子どもが幼いか成人したかにかかわらず——親でない人よりも幸福度が低いことがわかった。


アメリカでは、親は子どものいない人に比べて12%幸福度が低いと報告されている。


これは先進国の中で、親とそうではない人の間の幸福度の差が最も大きいという数字である。


■子ども自身のせいではない


はっきりさせておきたいが、これは子ども自身のせいではない。疲れるかもしれないが、子どもは、喜びと好奇心にあふれ、愛らしくエネルギッシュで、私たちの未来の象徴であり、今を活気づけてくれる存在だ。親は子育てをすることで、目的や満足感、アイデンティティ、有意義な社会的関係が得られると信じている。


親は、そうでない人に比べて幸福度が低いかもしれないが、別の複数の研究から、子どもを持つ人のほうが、目的や意義の感覚が強く、人生に満足していることが示唆されている。


問題は子どもたちではない。親が子育てをしなければならない社会が問題なのだ。


■国の政策で説明できる


最近、ある研究者グループはこう説明している。「子どもを持つことの感情的な報酬は、現代の子育てに関連するストレスによって影を潜めている」。感情的な報酬が、親を支援する政策がない国での子育てのストレスによって、曇ってしまっているのだ。


例えば、働く親のための保育料補助や、親が子どもと過ごす時間を確保するための寛大な有給休暇である。この2つの政策(手頃な保育料と有給の病気休暇と長期休暇)だけで、産休や健康保険といった他の支援政策がなくても、親と親でない人の間の幸福度の格差を完全に埋める力がある。フランス、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンには、これらの政策やそれ以外の政策があり、親のほうが親ではない人よりも8%も幸福度が高いのだ。


研究者らは、幸福度における「親であることの不利な点は、国家の政策背景によって最大100%説明できる」と結論づけた。


■子育てを「不幸な仕事」にする政策


アメリカの出生率が低下していることに政治的な懸念が広がっているにもかかわらず、子育てを不幸な仕事にしている政策の修正は、ほとんどされてこなかった。1993年に制定され、12週間の無給の出産休暇を保証する法律である「家族・医療休暇法」を、アメリカ人女性の約半数が使えていないのだ。


労働統計局によると、アメリカの労働者のうち、期間を問わず有給の育児休暇を取得できる資格を持っているのは、わずか23%である。2021年後半、民主党が下院、上院、ホワイトハウスの多数を占めていたとき、議員らは、全員ではないものの、多くの働く女性にわずか4週間の有給出産休暇を与える法案を可決できなかった。


比較のためにカリフォルニア大学ロサンゼルス校の世界政策分析センターのデータを紹介すると、政府が定めた有給産休の世界平均は29週間だ。


子犬を飼ったことがある人ならご存じのように、1年で成犬になる哺乳類の犬は、一般的に生後8週間まで母親から引き離されることはない。


また、産休だけではない。親と子のためのヘルスケアは、雇用と連動しており、その質と費用はすべて雇用主の寛大さにかかっている。高齢者介護は、その費用を支払うことができる場合にのみ存在する。つまり、私たちの多くは、子どもを産むことを考える前に、経済的にもその他の面でも、老いた両親のケアをすることになるのである。


22年、連邦最高裁がロー対ウェイド判決を覆す判決を下したことで、半数以上の州が、女性や子どもに何か恐ろしいことが起こった場合に妊娠を終了させる女性の能力を大幅に制限することになった。妊産婦死亡率ですでにほとんどの先進国に大きく後れを取っているこの国で、妊娠と出産のリスクがさらに高まっている。


■労働、治安、環境の悪化


私たちは仕事をポケットに入れた電話を介して家に連れて帰り、夜も週末も時間と関心を費やすことが要求される。賃金は何十年も低迷していて、育児や住宅にかかる費用の増加、学生ローンの支払いはますます厳しくなっている。


学校で銃乱射事件が頻発し、全米の学区で定期的にアクティブシューターに対応する訓練が行なわれているが、ジョージア工科大学の研究者によると、この訓練自体がトラウマになっている。これを実施した子どもたちに、不安、抑うつ、その他の精神状態の悪化による症状が、よく見られるという。


さらに、気象状況も心配だ。ほとんど大きく報道されないが、21年夏には、アメリカやカナダの西部で発生した大規模な山火事がシカゴからニューヨーク、ニューハンプシャー州のホワイトマウンテンまで空を黒くしたし、22年夏には、アラスカのツンドラ火災の煙がフェアバンクスからノームまで広がり、大雨がケンタッキー州やミズーリ州の町を一掃した。


現代生活のプレッシャーや不安や危険に対する考慮が不十分なことを考えると、親にならないという決断は、完全に合理的であると言えなくもない。むしろ、子どもを持つ決断のほうが、もっと説明が必要なのではないだろうか。


■「なぜ産まないの?」「なぜ産んだの?」


「自分の選択を正当化することを期待されている。人から『なぜそうしないの?』ときかれるので」と話すのは、カナダ生まれのタトゥーアーティスト、グエン・ダグラスだ。ベルリンにスタジオを持ち、パートナーと茶色い斑点のあるダックスフンド、ルートヴィヒと暮らしていて、副業で児童書の挿絵を描いている。ダグラスは、イギリスの写真家ゾーイ・ノーブルが編纂した、子どものいない女性のポートレートとライフストーリーのシリーズ『私たちはチャイルドフリーです』で紹介された40人の女性のひとりだ。


「なぜ、もうひとつの質問をしないのでしょう?」とダグラスは話を続けた。「『なぜ、子どもを産むことを選んだのですか?』と。それこそ大きな疑問です。あなたには、それに見合うだけのリソースと感情的な能力がありますか? それとも、そうするべきだと思ったから、ただ闇雲に産むのですか? 友人を見ていると、『次にやるべきこと』のリストに入っているから、という理由で、多くの女性が子どもを産んでいます。世界は人口過剰です。気候の危機もあります。『私は子どもがいりません』と言う人がいれば、『あ、そう』と受け流すべきではないでしょうか」


写真=iStock.com/kumikomini
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■「核家族」が唯一のモデルになっている


しかし、私たちが受け流すのに苦労するのは、核家族というものが、唯一の可能なモデルとして、私たちに提供されているからだ。結婚した母親と父親、外部の支援がほとんどなく両親に育てられる血のつながった子ども、である。


■核家族の背後にあるもの


よく使われる「崩壊した家族」「混合家族」(私が育ったような家族)や「拡大家族(extended family)」といった言葉は、家族の定義が「崩壊していないもの」「混合ではないもの」「限定されたもの」である場合にのみ意味を持つ。そういった家族を私たちが目にするのは、テレビ、映画、それからインスタグラムのようなSNSのプラットフォームである。そこは、「母性ビジネス」という絵に描いたような完璧な家族を最大の商品とする営利事業の最高のプレゼンテーションの場になっている。



ペギー・オドネル・ヘフィントン『それでも母親になるべきですか』(新潮社)

キャスリン・ジェザー=モートンは、「インスタグラムは、核家族の純粋な広報だ」と述べている。「そこでは、育児がコミュニティの中で共有されてきたことや、家族間で協力し合って子育てをしてきたことが、まったく無視されている」


ジェザー=モートンは、モントリオールのコンコルディア大学で社会学の博士課程に在籍しており、博士論文で、「ママ領域(mamasphere)」と名付けた現象について解説している。ママ領域とは、SNSで家庭や結婚生活、子どもたちを紹介することで(時には大きな利益を生む)ビジネスを展開する女性たちの、拡大し続ける世界のことだ。


ジェザー=モートンは、このビジネスの文脈上、「核家族だけを取り上げる方が、イメージのコントロールがしやすい」と説明する。「例えば、週に2回子どもの世話をしてくれる近所のジャニーンに、娘の髪を写真映えのする縦ロールに巻いてほしいとは頼まないでしょう?」


その結果が「ママ領域の大半における、完全に歴史から切り離された家族生活の表現」だ。それが視聴者が憧れるものであることを、私の方から付け加えておこう。


■家族単位の孤立、核家族への「後退」


しかし、家族単位の孤立は、オフラインのごちゃごちゃしたインスタ映えしない現実の生活にも存在する。


アメリカが過去2世紀にわたり、核家族へと後退してきた流れが、今の時代に強化されたのは、ひとつには、現代生活の需要が変化し、すべての人の行動範囲が狭くなっているのが理由だ。最近のある調査では、ミレニアル世代の5人に1人以上が、パートナーや近親者以外の友人がひとりもいないと答えており、この割合は、ブーマー世代やX世代よりもはるかに高い。また、アメリカ人の3人に1人が、新しい友人を作るのが難しいと答えている。よくある理由は? 「私は忙しすぎて、友人関係を築くことができない」というものだ。


とりわけ親世代にとって、友情は、家族の存続のために犠牲になってきた。家族全員に日々の食事を与え、子どもに服を着せ、物質的・感情的な欲求の少なくとも一部を満たす必要があるからだ。


ジュリー・ベックはアトランティック誌に「あなたは家族から離れられず、配偶者を優先する」と書いている。私たちのキャパシティに余裕がなくなったときに「打撃を受ける」のは友人関係、つまり、法律や血縁関係ではなく、時間をかけ、関心を持ち、いたわり、そばにいる、といった「贈り物」を、継続して交換し合うことで維持されている関係なのだ。


心のドアを開ける関係性を築くには時間と感情面のエネルギーが必要だが、その両方を持ち合わせていない人があまりにも多い。


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ペギー・オドネル・ヘフィントン
作家
カリフォルニア大学バークレー校で歴史学博士号を取得。米陸軍士官学校に博士研究員として勤務後、シカゴ大学へ。ジェンダーや母性、人権等の歴史を教えるほか、エッセイや論文を多数発表。グミキャンディについても多くの意見を持ち、夫のボブ、2匹のパグ、エリーとジェイクとともにシカゴに在住。
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(作家 ペギー・オドネル・ヘフィントン)

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