「とても政治家とは思えない」と指弾された…女性CAに猛烈クレームを浴びせた自民議員の「最も愚かな勘違い」

2024年3月25日(月)17時15分 プレジデント社

画像=参議院議員 長谷川岳 オフィシャルブログ「長谷川岳 強い北海道をつくる!」Powered by Amebaより

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自民党の長谷川岳参院議員が航空機内で客室乗務員に威圧的な言動をとったとして批判を受けている。スピーチ&コミュニケーション戦略研究家の岡本純子さんは「長谷川氏は長文の反論をブログに掲載したが、その内容は『クレームの正当性』に終始していた。問題の本質を理解していないのだろう」という——。

■機内で横柄な態度…自民党・長谷川議員が「最悪」である理由


自民党の長谷川岳参議院議員(53歳、北海道選出、安部派)が、航空機内で客室乗務員に威圧的な言動をとったして批判を受けている。長谷川氏はブログで自らの正当性を事細かに主張しているが、その内容は国会議員のコミュニケーションとして最悪なものだった。


画像=参議院議員 長谷川岳 オフィシャルブログ「長谷川岳 強い北海道をつくる!」Powered by Amebaより

どこが「最悪」なのか。まず、ことの経緯を振り返ってみよう。


昨年5月、演歌歌手の吉幾三さんが、自身のYouTubeで「同じ飛行機に乗り合わせた国会議員の態度が、非常に横柄だった」と、国会議員の名前を出さずに告発したのが発端だった。


吉さんは「同じファーストクラスの、後ろの方に座ってたんだけれども、言葉の使い方が乱暴でよ」「国民を代表して出ている人たちは、横柄な態度というのはやめてもらいたい」とコメントしていた。


すると、この動画を見たという現役の客室乗務員(CA)という人から、吉さんに直筆の手紙が寄せられた。動画の内容で議員の名前がわかったようで、手紙には


・長谷川岳氏が搭乗する際には事前に会社から(枕を2つ用意することなど)何項目も注意点が出る
・自分勝手でわがまま
・言動が非常に高圧的
・鬼の首を取ったような言い方でクレームをされる
・異常なほどの剣幕
・とても政治家とは思えない


などと書かれていた。


吉幾三さんは3月19日に公開した動画で、手紙の内容を紹介しながら、長谷川議員の態度に苦言を呈した。すると、ネット上では長谷川議員を批判するコメントがあふれるようになった。


■長谷川議員のブログでの反論を航空業界関係者が“論破”


騒ぎを受けて、長谷川議員は、自身のブログを更新。吉さんから指摘されていた「非常に横柄な態度」やCAの手紙にあった「わがまま、高圧的な言い方、異常な剣幕」については一切触れない代わりに、2441文字にわたり以下のように反論を展開した。


本日は航空政策および飛行機の遅延についての考え方を述べたいと思います。
私は、航空会社の対応について、機内で発言をする際、三つの原則に従います。


一つ目は「正確な情報を伝えているか」、
二つ目は「不都合な情報をしっかりと開示しているか」、
三つ目は、「正しい見立てを立てた情報発信となっているか」の三点です。


としたうえで、3点について、具体的事例を挙げた。


画像=参議院議員 長谷川岳 オフィシャルブログ「長谷川岳 強い北海道をつくる!」Powered by Amebaより

以下では、それぞれの論点において、長谷川議員の主張を整理している。それに対し、今回、筆者が航空会社関係者に取材した意見を付けている。読者の判断の参考にしてほしい。


①「正確な情報を発信しているか」についての事例

【長谷川議員の主張】搭乗した飛行機の出発が大幅に遅れており、出発時間をとうに過ぎてから「管制の指示によって出発許可を待っているため遅れが生じている」との機内アナウンスがあった。しかし、飛行機の中から外を見ると、機内への貨物の搬入作業中であったことから、「遅延の原因は管制の指示ではなく、航空事業者の準備の遅れ。これを航空当局の責任にすりかえ、それを情報として流すことは許されるものではない」と、その場で発言した。


【▼航空会社関係者の声】日々の運航判断は、限られた情報で短い時間の中で判断を迫られる仕事であり、刻々と状況が変わる難しさがある。管制の指示の遅延幅が、貨物搭載準備遅れ以上にある場合には、お客様には「管制遅延」をご案内する可能性がある。


②「不都合な情報を開示しているかどうか」についての事例

【長谷川議員の主張】大幅な出発遅延があり、機内で出発を待っているときに「出発準備に時間が生じている」とのアナウンスがあった。しかし、実際は、搭乗券と機内の搭乗者数に大幅な差が生まれ、その確認業務に多くの時間を要していた。ゆゆしきミスなのに、機内では「搭乗、出発準備に時間を要している」とのアナウンスだけ。「本来ならば『その確認に時間がかかっている』ことを航空会社として開示するべき」と、その場で発言した。


【▼航空会社関係者の声】お客様に正しい情報を伝えることは大前提である。ウソの情報を発信することなく、お客様に過度の不安を抱かせることを避けるために、広義の意味で「出発準備」とご案内するケースがある。


③「正しい見立てを立てるかどうか」についての事例

【長谷川議員の主張】出発が大幅に遅れ、「10分ほど遅延をする」とアナウンスがあった。乗客一人が、突如飛行機を降りることとなったことが原因だったが、実際は60分近くの遅延となった。本来、地上業務と客室と貨物室とが十分な連絡をとっていれば、1時間近く遅延が見込まれることを乗客に伝えることができたはず」と、その場で発言した。


【▼航空会社関係者の声】基本的な姿勢として、多めにバッファを持った遅延幅ではなく、スムーズに手続きが済む時間を見積もる。荷物がすぐに取り降ろせれば、10分程度の遅延で出発することも十分にある。荷物の取り降ろしについては、搭載場所や荷物形状などにより時間が変わるため、正確な見積もりは難しい。


■「コンビニ店員へのクレーマーと同じ」最も愚かな勘違い


長谷川議員はその主張を長々と書いているが、要は①飛行機遅延の理由を子細に航空会社が乗客に説明しなかった、②乗客に伝えた遅延見込み時間よりも遅れた、ということにひどくムカついて文句を言ってなにが悪いのだ、という意識が透けて見える。よほど「遅れること、待たされることが耐えられない」タイプらしい。聞けば、この議員は「パワハラ体質」では「札付き」で、その悪名は航空業界のみならず、永田町・霞が関などでも広く知れわたっているという。


どんなに理路整然と自分の主張を展開しようと、ここに挙げた航空会社の見解は理解・許容できる内容であり、一般論として航空会社の対応が間違っていたとは言えないだろう。


こうした交通機関の遅延には、私たち一般国民もしょっちゅう遭遇する。その際、内心では「予定が狂ってしまう」などと思いつつも、基本はじっと黙って待つ。航空会社など運営会社にいちいちいちゃもんや文句をつけたりもしない。


長谷川議員はこのブログでの反論を「今後も原則に基づいて航空行政について発言して参りたいと考えます」と締めくくっている。思えば、コンビニの店員にいちゃもんつけるクレーマーも「お前たちのサービスが悪いから、指摘してあげている、教えてあげているんだ」という「世直し」モード、間違った義憤に駆られている人が多いが、彼の口調とロジックはまさにそういったクレーマーそのもののように映る。


意図しているかどうかは不明だが、自分が上でサービス提供事業者は下、という「選民思想」「上級国民思想」丸出しで、理詰めで、重箱の隅をつつくような指摘を続ける姿勢に、嫌悪感や幼稚さを覚える人も多いかもしれない。



岡本純子『世界最高の伝え方』(東洋経済新報社)

今回の問題における、長谷川議員の最も愚かな勘違いは、彼の主張に正当性があろうとなかろうと、誰に対しても、威圧的な言動をとってはならない、という根本的なコミュニケーションのルールを守っていないというところであろう。「何を言うのか」以上に、「どのように言うのか」は重要であり、「言い方が9割」なのだ。政治家はプロの言論人であり、そんなことは百も承知のはずだ。結局のところ、「リーダーとしての品格がない」。それに尽きる。


そもそも国民から選ばれ、国民の税金で飯を食い、地元選挙区などへの新幹線や飛行機にも一部無料で乗っている人間が、とんでもない特権階級意識をひけらかして謙虚さのかけらもなく、「正義の番人」面をするのはおかしい。吉幾三さんもビデオの中で、「大人ならちゃんと人との接し方しなきゃ」「機嫌の悪いときはしゃべらなきゃいいじゃん」と述べているが、要は大人の、なかんずく、国民の負託を受けた人間のとるべき対応ではなかったのは自明のことだ。


次から次へと明るみに出る自民党議員の不祥事にわれわれ国民の怒りは頂点に達している。今回、長谷川議員が世に開陳した実に見事な三カ条「正確な情報を伝える」「不都合な情報を開示する」「正しい見立てを立てる」はぜひ、身内の自民党議員の皆さんにこそ問うていただきたい。


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岡本 純子(おかもと・じゅんこ)
コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師
「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれる。2022年、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。その飛躍的な効果が話題を呼び、早くも「行列のできる学校」となっている。
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(コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師 岡本 純子)

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