三井不動産レジデンシャル、野村不動産 地方でも加速する「コンパクトシティ構想」で不動産業界が直面する課題とは
2025年3月24日(月)4時0分 JBpress
日本のGDP(国内総生産)の実に22%を占める、建設・不動産・住宅の3業界。日本経済を支えるこれら巨大産業が、今「変革のタイミング」を迎えている。本連載では『「建設業界」×「不動産業界」×「住宅業界」Innovate for Redesign』(篠原健太著/プレジデント社)から、内容の一部を抜粋・再編集。異業種に比べてDXやGXの面で後れを取る3つの業界に求められている、産業構造の「リデザイン」について考える。
今回は、不動産の付加価値を高めるために注目すべき利用者の潜在的なニーズを紹介。また、都心部だけではなく地方都市でも見られるようになった「コンパクトシティ構想」を切り口に、不動産業界が直面する課題を探る。
ソフトとハードの両面で付加価値を高め、新しい出口戦略を探索
当社が実施した「賃貸レジデンスに関するニーズ調査アンケート」があります(下図9)。
これは増加傾向にある、都内のDINKs世帯を対象にした賃貸レジデンスにおけるニーズの深掘りを目的にしたものです。それによると、次のようなことが浮かび上がりました。
- 「ペット対応」は一定ニーズが存在するものの世代間によってギャップが存在する
- 「サウナ付きマンション」については賃料への跳ね返りの期待は低いと思われる
- 一方で、「浴室乾燥機」や「複数層ガラス(防音)」は底堅く人気となっている
- 「20〜35歳未満」層では、IoTへのニーズが高いことがわかる
図9 DINKs「世代別」マンションに求める設備
もちろん傾向でしかありませんが、このように入居者のニーズに目を当てることで、今まで見えなかった気付きを得ることができるはずです。
ここで次に、少しオフィスにも目を向け、当社が2024年に実施した「オフィスに関するニーズ調査アンケート」の結果も少しご紹介しましょう。
これは、テナントの認識を明らかにして、現在のオフィスビルニーズおよび将来想定される変化を把握するため、主要都道府県の従業員50人以上の企業に対してアンケート調査を実施したものです。
このアンケートを集計・分析したところ、次のような傾向が見て取れました。
- 「ZEB」などの環境対応型ビルに対しては、省エネによるランニングコスト(水道光熱費など)の恩恵による「賃料還元効果」までを見越すと、企業規模にかかわらず、どの会社も関心が共通して高まる。
- 環境対応型ビルへの入居希望理由としては、「従業員満足度の向上」と「企業ブランディング」の側面が重視される傾向にある。また、基本的に業種を問わず、賃料坪単価あたり500〜1000円の追加を良しとするケースがボリュームゾーンであるものの、現時点では「賃料追加を検討していない」企業のボリュームが大きい。その中でも、「製造/金融・保険/不動産」については坪単価あたり2000〜3000円以上の追加価格も良しという傾向が見て取れる。
このように事業用不動産も付加価値を高めることで、賃料アップの可能性は十分にあるのです。
不動産業界各社は、レジデンシャルに住まう入居者、そしてオフィスビルに入るテナント企業、それぞれのエンドユーザーに向き合い、何が求められているのかを真剣に考えた上で、出口戦略を見出していくことが大切でしょう。
■ 付加価値を高める上でのクロスエネルギー構想
たとえば、新たな付加価値を模索していく上で、業界の外にある状況を鑑みた場合には、「電力エネルギー」への着目が挙げられます。
エネルギーマネジメントにおいて、電力会社や電機メーカーなどがしのぎを削る中では、建物の電力供給をつかさどるカギの一つとして「分電盤」が挙げられます。分電盤による電力供給にAIなどを絡めることによって、最適な電力供給のマネジメントやビッグデータの収集による新たな事業機会の拡大を模索することができるのです。
ただ、分電盤へのアクセスの権利関係から、その実現には苦戦を強いられています。この状況を俯瞰した場合、実は、分電盤へのアクセスに一番近いのは不動産会社だといえます。設計段階から組み込むことが可能ですし、入居者や組合とのコミュニケーションも容易です。
デベロッパーが付加価値を創造する場合に、これまでの延長線上でしかない、ハードやソフトでの付加価値創造合戦に臨むのではなく、「エネルギー」という観点で視野を広げていけば、その物件に住まう人々が最適な電力供給による恩恵を受けることで、支払う電気代を下げることができるかもしれません。
そうなれば多少家賃が高くても自分らしい暮らしをするための賃料を捻出することができるでしょう。
たとえば、オーナーの余剰資金を集めて電力発電所を運営する、といったことも考えられます。こうすれば、大手の電力会社から電気を買う必要がなくなり、電気代が上がり続ける中でも、電力競争からいち早く抜け出した上で、災害に対するレジリエンスが高い物件を提供することができるでしょう。
入居者やテナントにしてもランニングコストが下がることになり、オーナーにしても自身が余剰資金を活用してグリーンに投資することで、長期にわたり物件の価値が維持され続け、結果、デベロッパーも競争優位を保つことができるようになります。
このように所有と利用の分離を、物件だけではなく、エネルギーまで広げていくことにより、なめらかな社会への構築につながる、三方良しのエコシステムが実現していくのです。
■ 実需不動産は「コンパクトシティ構想」が加速
ここまで収益・事業用不動産の話をしてきましたが、「実需不動産」についても少し触れておきたいと思います。
実需不動産とは、実際に買って住むということですが、この市場も人口減少を受けて厳しい状況にあります。
そうした中で、郊外から都心への回帰が起きて、マンションにさまざまなサービス、付加価値をつけて、マンションだけで生活が完結するようなコンパクト化が進んでいるのです。
このコンパクト化とは、たとえば、三井不動産レジデンシャルが「ミクストユース型街づくり」を、野村不動産が「都市型コンパクトタウン」をといった具合に、安全で快適な住宅はもちろん、商業施設やスポーツ施設、シニア向け施設、公園、病院、学校、研究施設など、さまざまな施設が自宅から歩いて行ける範囲内に凝縮された街づくりのことになります。
これが、「コンパクトシティ構想」といえます。
このコンパクト化の流れは、都会だけではなくて、地方都市でも同様の動きが見られています。
国土交通省は、都市計画上の用途地域だけでなく「立地適正化計画制度」を創設し、都市と住まい機能のコンパクト化を進めているのです。これは災害面を考えると、住民が分散して住んでいては、人命救助にもコストがかかるといった発想から生まれています。
ただ、高度経済成長期における郊外の山を切り開いて住宅地を開発するという街づくりとは異なり、商業施設や住宅を都市の中心部に集約させる「コンパクトシティ構想」の流れに即したものといえるでしょう。
コンパクト化はデベロッパーや利用者にとって短期的には合理的である側面、画一化が進むにつれて、それぞれの街が代わり映えしなくなり、立地以上の価値を生み出しづらくなっていくでしょう。
Well-beingの流れを踏まえると、「そこでしか実現できない暮らし」が重要になり、それはコミュニティやコンセプトのデザインの中で生み出されるはずです。
「部分的に見たら合理的ではないものの、全体で見たら整合性がとれて付加価値創造につながる」。そんな空間づくりへのチャレンジが必要であり、デベロッパーの枠を超えた自由な発想の中で生まれていかなければならないと考えています。
<連載ラインアップ>
■第1回清水建設は「麻布台ヒルズ森JPタワー」施工で500人を省人化 人間の代替にとどまらない「建設RX」の重要な目的とは?
■第2回 ビルの省エネ施策「ZEB」の付加価値をどう伝えるか? 東急コミュニティーの事例などを通じて見えた具体的な課題とは
■第3回三井不動産レジデンシャル、野村不動産…地方でも加速する「コンパクトシティ構想」で不動産業界が直面する課題とは?(本稿)
■第4回イオン、アパ、星野リゾート、NTTデータ…続々参入する異業種企業が手掛ける不動産活用を通じた新しい価値創造とは
■第5回 大和ハウス工業を筆頭に進む大手ハウスメーカーの多角化経営、住宅市場の先細りに直面する工務店の生き残り戦略とは(4月7日公開)
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筆者:篠原 健太