大ヒットのコカ・コーラ「檸檬堂」、新規参入の成功が競合から歓迎された理由

2024年4月3日(水)5時50分 JBpress

 クリエーティブな発想はいきなり思いつくわけではない。何かと何かを結びつけることでさまざまなアイデアになる──。イノベーションのヒントをこう語るのは、P&Gや元日本コカ・コーラで「ジョイ」「綾鷹」「檸檬堂」などをヒットさせたJukebox Dreams代表取締役CEOの和佐高志氏だ。なぜ、次々とヒット商品を生み出すことができたのか。前編に続き、初の著書『メガヒットが連発する 殻を破る思考法 伝説のマーケターが語るヒット商品の作り方』(ダイヤモンド社)を上梓した和佐氏に、新たなマーケットを開拓する上でのポイントや、イノベーションの起こし方について聞いた。(後編/全2回)

■【前編】社内の反対を押し切ったブランド再生戦略、コカ・コーラ「綾鷹」大躍進の秘密
■【後編】大ヒットのコカ・コーラ「檸檬堂」、新規参入の成功が競合から歓迎された理由(今回)
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必要なのは、消費者にとって「意味のある差別化」

──前編では、P&Gで取り組まれたマーケティングの実例や、コカ・コーラにおけるお茶カテゴリーの再生について聞きました。2007年には3つあったお茶飲料ブランドを、シェア2%だった「綾鷹」一本に集約し、2010年にはシェアを約7倍の15%にまで伸ばしました。この間、どのようなことに注力したのでしょうか。

和佐高志氏(以下敬称略) 購入意向調査を通じて、「綾鷹」はおいしいお茶と認識されていることがわかったので、「それをいかにして消費者に伝えるか」ということに力を注ぎました。そこで実施したのが「綾鷹チャレンジ」シリーズというテレビCMです。


 このCMは、製品名を隠した4つのお茶から「急須に入れた緑茶に最も近いもの」を選んでもらう、というものです。「消費者編」や「料理人編」、舞妓さん100人に選んでもらう「舞妓編」を展開しました。このCMで使われた「選ばれたのは綾鷹でした」というフレーズを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

 綾鷹がおいしいお茶だからこそ、「どれがおいしいですか?」というデモ(実演)ができれば選ばれる、という確信がありました。しかし、おいしいかどうかは個人の嗜好(しこう)なので、直接的な表現で問うことはできません。

 そこで、「急須の味に近いかどうか」だけを聞きました。急須で入れたお茶はおいしいですよね。そこに一番近いのが綾鷹。つまり、急須のお茶に近い綾鷹はおいしい、という三段論法です。

 元々、綾鷹には「おいしい」「濁っている」という明確なPOD(Point of Difference:差別化ポイント)があったものの、それを高級路線というニッチ市場で展開したことが問題でした。私はこれを「お茶市場のど真ん中」で勝負しました。他製品と値段が同じなのに「おいしい」「濁っている」「100人に聞くと、急須で入れたお茶に最も近いと言われる」、だからこそ「買わない理由はない」というストーリーです。

 競合と差別化することは重要ですが、それが「消費者にとって意味があるかどうか」という点は大切です。せっかくのPODがあっても、わかりづらく、意味のないものでは選ばれません。

 必要なことは、難しく考えることではなく、「消費者目線で見てみる」ということ。それを徹底することが次のヒットにつながります。


イノベーションを起こしつつ、新市場を開拓した「檸檬堂」

──和佐さんは、世界のコカ・コーラ社で初となるアルコール飲料「檸檬堂」の開発プロジェクトも手掛けました。このプロジェクトでは、どこに勝ち筋を見出していたのでしょうか。

和佐 世界のコカ・コーラ社の中でも、日本コカ・コーラは特にポートフォリオが充実しています。だからこそ、日本のポートフォリオを伸ばすためには、新しいマーケットを開拓する必要がありました。

 アルコール飲料を開発したきっかけは、アトランタのグローバル本社から社長(CEO)が来日した際、日本の缶酎ハイを見て興味を持ち「日本だけならテストをするのもありだ」とほのめかしたことです。そこから日本コカ・コーラの社長が私にアルコポップ(低アルコール)飲料の開発を命じました。

 当初、コカ・コーラブランドの製品を使ったデザートドリンクの開発を考えていました。しかし、リサーチを行う中で、日本ではビールや酎ハイといった「食事と一緒に飲むお酒」の消費量が圧倒的に多いと分かりました。「思い切ってど真ん中で勝負しよう」と考え、当時の市場で最も売れていた缶酎ハイに注目しました。

──なぜ、レモンサワーを選んだのでしょうか。

和佐 缶酎ハイを飲んだり、居酒屋などに足を運んで飲み比べたりしたところ、本格的なレモンサワーを提供する専門店で飲んだレモンサワーはレモンの果汁感があり、圧倒的においしいと感じたからです。

「このおいしさを缶に詰めれば、絶対に売れる」と確信したことが、「檸檬堂」を開発するきっかけになりました。市場や競合を見るのではなく、世の中や消費者をきちんと見つめて生まれたのが檸檬堂です。

 そして、専門店の共通点として見いだした「クラフトマンシップ」「レトロ&クール」「さまざまなレモン製法」「まるごとレモン」「前割り」の5つをヒントに、エッジの立ったコンセプトを模索し、磨き込みました。

 本物に近いものであれば絶対に売れる、という着眼点でたくさんのネーミングやパッケージを検討しました。そして、検討しては作り替える中で出てきたのが「酒屋さんのエプロン」をモチーフにしたパッケージと、「檸檬堂」というネーミングです。

 檸檬堂なんてコカ・コーラらしくない、と言われることもありますが、新ブランドですから「新しいものが出たぞ」と注目してもらうことが大事です。それがレッドオーシャンで必要な戦い方です。

 こうして、九州でのテストマーケティングを行い、発売1カ月でいきなり缶酎ハイレモンフレーバー部門のトップシェアを取りました。ここで出てきた課題が、酎ハイ市場の8割を構成する「1週間に何度も飲む人」、つまり「ヘビーユーザー」を獲得できていないことです。しかし、逆をいえば「これまでほとんど酎ハイを飲まなかった人が檸檬堂を買った」という私たちの成功理由にもなっています。

 檸檬堂の登場によって、元々3000億円規模だった酎ハイマーケットは、3年で約4000億円に伸長しました。しかも、檸檬堂がつくったのは従来よりも値段の高いプレミアム市場です。

 競合の立場から見ると、檸檬堂の登場は一見大きな打撃のように思えますが、実はそうではありません。市場全体が1000億円増え、プレミアム市場でも利益が取れるようになったので、むしろ感謝されているくらいです。「いいブランドですね」「おいしいですね」といった評価の声を業界内からも頂けたことは、マーケットを大きくすることのできた結果だと思います。


「コネクティングドット」を常に意識せよ

──さまざまなイノベーションを打ち出されてきましたが、新たなヒットを生む上でのポイントは何でしょうか。

和佐 どのカテゴリーで競争していても、たとえレッドオーシャンでの戦いでも、その中で「常にブルーオーシャンを意識する」ことではないでしょうか。ブルーオーシャンでは先駆者利益を得ることができ、マーケットに対するインパクトやお客さま、社会に与える影響も大きいものです。そして何よりも、新しいイノベーションを成功させたときの喜びがあります。

 例えば、視力が悪くなったときの対処法は「メガネ」が王道でした。しかし、「コンタクトレンズ」という選択肢が増え、コンタクトの種類もハードからソフトに広がり、さらにはレーシック手術が登場しました。

 最近では、寝ている間に特殊なコンタクトレンズを装用して角膜を矯正する「オルソケラトロジー」といった方法も出てきています。「視力を改善する」という課題に対して、「これ以上、もう新たな打ち手はないだろう」と思っていても、次々に新たなイノベーションが生まれているわけです。

 ただし、ブルーオーシャンにたどり着くためには、常に「コネクティングドット」のかけらを頭の中に入れておかなければなりません。「ドット」とは、自分が持っている情報のことです。ドット同士をつなげることで、新しい発想や打ち手が生まれます。

 では、多くのドットを集めるにはどうすればよいでしょうか。その一つが、「好奇心を持つこと」です。デジタルテクノロジーの世界で何が起きているのか、どんなイノベーションが起きているのか、雑誌やネットの最新の情報を得たり、専門家に話を聞いたりして、頭の中に新しいドットを増やすのです。

 頭の中のドットとイノベーションの便益をつないで発案するためにも、日ごろからそのトレーニングをしておくことが大切です。本書では「イノベーションの便益」を42個紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

筆者:三上 佳大

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