フィリピンに巣食う不良邦人組織 【水谷竹秀✕リアルワールド】

2024年4月7日(日)10時0分 OVO[オーヴォ]



 フィリピンを拠点に「ルフィ」などと名乗り、日本の各地で強盗事件を繰り返していた特殊詐欺グループに関する報道が再び過熱している。きっかけは、首都マニラ周辺で活動する邦人組織「JPドラゴン」の幹部小山智広(こやまともひろ)容疑者(49)が1月下旬、現地当局に詐欺容疑で拘束されたことだ。この組織は、ルフィを名乗ったとされる今村磨人(いまむら・きよと)被告(39)=強盗致死罪などで起訴=らとつながりがあるとされ、フィリピンの入国管理局が追跡している。

 同時期に取材でフィリピンを訪れていた私は、拘束に関する情報を入手していた。勾留先はフィリピン国家警察本部。同国では拘束された容疑者に面会できるので、実際、面会に行くべきかどうか少し迷った。というのも、JPドラゴンのリーダーとされる徳島県出身の男性(53)は、私が「日刊まにら新聞」で記者として働いていた20年以上前から、邦人社会の間では悪名高い“闇の存在”だったからだ。

 当時の苦い記憶もよみがえってきた。事件取材で、関係者の日本人から脅された経験は一度や二度ではなく、マニラにたむろする不良邦人たちのおっかなさは身にしみて感じていた。故に小山容疑者にむやみに近づけば、後々面倒なことに巻き込まれるかもしれない。そんな不安がよぎったが、同時に怖いもの見たさもあった。担当捜査員を通じて面会を申し込むと、あっさり断られた。その後、小山容疑者が入国管理局の外国人収容施設へ移送されたと知り、私は駄目もとで足を運んだ。

 その一角は有刺鉄線が張り巡らされた、高さ15メートルほどの白い塀で囲われている。施設には現在、入管法に違反した日本人や中国人など外国人約200人が収容されている。特殊詐欺グループの幹部たちはここからスマホで闇バイトを募り、日本国内での強盗を指示したとされる。そのグループを裏で手助けした疑いを持たれているのが、JPドラゴンという組織だ。小山容疑者に接触すれば、その実態を解明できるかもしれない。

 施設の職員に来意を告げ、面会申請書類に必要事項を書き込んだ。間もなく、小山容疑者が姿を見せた。南国らしく、Tシャツに短パンといったラフないでたちだが、目が笑っていない。私を見据えるような威圧的な表情で、重い口を開いた。

 「いいよ、話すよ」

 小山容疑者によると、組織に属している日本人は約10人。容疑者自身、特殊詐欺に関与したとして日本の警察が逮捕状を取っているが、「知らない」と言い切った。「特殊詐欺なんてやるわけない」と不敵な笑みを浮かべつつも、今もフィリピン国内には逮捕を免れた詐欺グループの仲間が潜伏しており、「彼らは(特殊詐欺を)やっている。場所も知っているけど言えない」という。面会時間はごくわずかだったため、引き出せた話は限定的だったが、マニラの闇の深さを改めて突きつけられる緊迫した瞬間だった。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 14からの転載】



水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、「日本を捨てた男たち」で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。

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