意気投合した井深大と本田宗一郎、ソニー・ホンダ「アフィーラ」誕生の必然

2024年4月5日(金)5時50分 JBpress

 数々の画期的ヒット商品によって、世の中に新しいライフスタイルを次々と生み出してきたソニー。その原動力は、創業者・井深大(いぶか・まさる)氏の製品開発論にあった。井深氏の製品開発思想の根底にあったものは何か。また、盟友・本田宗一郎氏との間に見られた共通点とは。前編に続き、『ソニ−AI技術 井深大とホンダジェット 本田宗一郎の遺訓』(ごま書房新社)を出版した豊島文雄氏に、両者の生き方・遺訓から、現代のリーダーが受け継ぐべきことを聞いた。

■【前編】創業者・井深大が語っていた驚きの予言 ソニーの「未来を描く力」の源泉とは
■【後編】意気投合した井深大と本田宗一郎、ソニー・ホンダ「アフィーラ」誕生の必然(今回)
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日本初・世界初を連発した「新製品開発の極意」

——前編では、著書『ソニーAI技術 井深大とホンダジェット 本田宗一郎の遺訓』で紹介されている井深氏の予言や、同氏の経営哲学に関するエピソードについて聞きました。井深氏が創業したソニーは、トランジスタラジオ、トリニトロンカラーテレビなど「日本初・世界初」の製品を次々に開発し、世の中に新しいライフスタイルをつくり出しました。日本の電子立国化をもたらした井深氏の製品開発の根底にある考え方は、どのようなものだったのでしょうか。


豊島文雄氏(以下敬称略) 井深氏の製品開発に対する考え方をまとめたものとして、「F-CAPS」(Flexible Control and Programing System)があります。これは、1970年10月に東京・大手町の経団連会館で開催された「第1回イノベーション国際会議」の講演で、井深氏が「新製品の開発に際して私の採った手法」と題して語ったものです。F-CAPSは6つの考え方から成り立っています。

 一つ目は「最終製品のイメージ・目的を明確化する」です。新製品の開発に当たっては、トップが「北極星(魅力的なゴール)」の姿を明確に描き、それをメンバーと共有することが重要、ということです。井深氏の場合、それは常に「新しいライフスタイル」を世の中に生み出すことでした。例えば、世界初のトランジスタラジオにおける北極星は、「ポケットに入れて聞けるラジオ」となります。

 二つ目は、「プロジェクトの成否は、誰をリーダーに選ぶかで決まる」です。井深氏は自身の経験や他社の成功事例を調べる中で、「成功要因はメンバーの技量よりも、リーダーの力量にある」と考えていました。

 プロジェクトには浮き沈みがあります。組織の創造性を高めるためには、どんな時でもリーダーがメンバーの不安を払拭(ふっしょく)し、仕事に専念できる環境を整えることが重要だ、と話していました。

 三つ目は「3つの制約を1点に絞り、開発の不確実性をカバーする」です。ここでは優等生的なリーダーが犯しがちな失敗について触れられています。


プロジェクトに「教科書的な完璧さ」を求めてはならない

——優等生的なリーダーはどのような失敗を起こしてしまうのでしょうか。

豊島 開発プロジェクトには、常に「スケジュール」「マンパワー(人員)」「コスト(予算)」という3つの制約がつきものです。井深氏は、これらの制約を「スケジュールの最短化」だけに絞り込み、他の2つは上限をなくしました。

 人員や予算が不足した時は、トップが責任をもって調達します。「予算を使い込んでしまったので、今期はこれでおしまい」といった優等生的な考え方では、いつまでも完成できないのです。

 四つ目は「トップによる技術の良しあしを見抜く目利き」です。井深氏は、常々「感性を磨くことが、トップに課せられた宿命」と話していました。開発プロジェクトでは、予期せぬ出来事が多々起こります。その時、リーダーは状況を見抜いてフレキシブルに判断し、担当者の交代や仕様変更などの対応を迅速に行う必要があります。

 五つ目は「一気呵成に事を運ぶため、携わる多くの人に参加してもらう」です。当時の開発プロジェクトというと、研究開発部門から設計部門、製造部門、販売部門へと順送りで進行することが一般的でした。ある部門で成功したものが次の部門へと送られる、という形です。しかし、井深氏はこの手法を採りませんでした。

 井深氏は、最初から各部門の全メンバーを集め、一人のリーダーの下で研究開発から販売まで一気に進める方法に改めたのです。そして、新製品が市場で販売開始されれば、そのチームは解散します。その結果、多くの次世代リーダーが育ちました。この取り組みを通じて、井深氏は「新製品が人を育てる」と語っています。

 六つ目は「人手不足は燃える集団化で精鋭となり補える」です。新規の開発プロジェクトでは人手不足がつきものです。そして、必ずしも各部門の精鋭が集まるわけではありません。

 その時にトップやリーダー自らが「この製品が発売されれば、世の中にこんなインパクトを出せる」と社会的意義を語り、本気になって仕事をしてもらうことが必要だ、と井深氏は言います。「社員の心に火を点けることこそ、リーダーの最も大事な役割」だと言うのです。そして、「燃える集団と化すと、立ちはだかっていた研究の壁が突破できた」とも語っています。

 これらの考え方は、日本が電子立国を目指した当時に用いられていたものです。しかし、その奥底には、現代のリーダーにとって示唆になる点もあるのではないでしょうか。


時が経っても変えてはいけない「経営のタテ糸」

——著書では、生涯の親友同士であった井深氏と本田宗一郎氏との交流や、お互いの経営論・リーダーシップ論が語られています。二人の経営論やリーダーシップ論の特徴は、どういったところにあったのでしょうか。

豊島 二人の出会いは、本田氏が井深氏に「トランジスタで自動車エンジンの点火を制御できないか」と相談したことがきっかけでした。それ以降、二人は意気投合し、井深氏は「あの出会いで私の人生は何倍も豊かになった」と話しています。

 私は、井深氏と本田氏の共通点は「自身の経営哲学を大事にし、それを自らの経営の中で実践していること」にあると考えています。さらに、それらの経営哲学を「経営のタテ糸」として後世に継承している点に注目しています。

「経営のタテ糸」は、その企業に脈々と流れている遺伝子のようなものです。そもそも、経営の「経」という字は、布を織る時の「タテ糸」の意味があり、時が経っても変えてはいけない「創業理念」や「価値観」を指します。

 ソニーの創業者である井深氏の経営の「タテ糸」(経営哲学)は、「望むところを確信して、未だ見ぬものを真実とする」という言葉にあります。この理念が継承されているからこそ、世界初のトランジスタラジオやトリニトロンカラーテレビ、ウォークマンが誕生し、2025年の発売が予定されている自動運転EV「アフィーラ」の開発につながっているのだと思います。

 一方、本田氏が残した「タテ糸」は、「新たなことに絶えず挑戦していくことが自分を進歩させることであり、会社も成長させていく」というものでした。前例のないことへの挑戦が自分自身を成長させ、それが会社の発展にもつながるということです。

 この哲学に沿って、ホンダは二輪車や四輪車だけでなく、小型航空機の分野にも進出します。また、本田氏の「タテ糸」には、「進むべき道を照らす“たいまつ”は、自分の手で掲げる」というものもあります。これは、何をするにも人任せにするのではなく自分でやる、ということです。自分の手を動かすことで初めて身に付くものがある、ということを意味します。

 航空機製造業界では、当時「エンジン」と「機体」は別々の会社による開発・製造が常識でした。しかし、ホンダはその常識を破り、エンジン製造と機体製造の両方を自前で行ったのです。そして21世紀の今、「ホンダジェット機」は小型ビジネスジェット機市場で首位となっています。本田氏の「タテ糸」が継承されたからこそ、こうした成果を見いだせたのではないでしょうか。

 このように、1958年の二人の出会いから相互の「経営のタテ糸」が生まれ、それが時代を超えて継承されてきました。これらのことは、二人にとっての経営哲学であると同時に、人生哲学(生き方)でもあると思います。


リーダーの役割は「タテ糸」を次代につなぐこと

——戦後の技術立国日本のレジェンドである井深氏と本田氏の遺訓から、現代の経営者やリーダーは何を学ぶべきでしょうか。

豊島 井深氏と本田氏が紡いできた「経営のタテ糸」から経営哲学、生き方の思想を学ぶことが大切だと思います。

 井深氏は「望むところを確信して、未だ見ぬものを真実にする」「時代の変化の兆しは、現場の末端にある」という言葉を残しました。本田氏は、「進むべき道を照らす“たいまつ”は、自分の手で掲げる」「新たなことに絶えず挑戦していくことが自分を進歩させることであり、会社も成長させる」と語りました。

 これらの言葉は、二人の経営哲学・リーダーシップ論であると同時に、人生哲学でもあります。

 私も人間としての最高の生き方は「自らの文化を後世に残すこと」、そして「人類の進化に少しでも貢献すること」だと思っています。そして、どのような文化であっても、それはある個人の一つの努力から始まります。

 例えば、いま畑に植えられているサツマイモは、ある個人が努力をして海の向こうから日本に持ってきて田畑に植えたからこそ、日本に広まっているのです。つまり、個人の一つの努力が、次の世代の文化を創る礎になるのです。

 現代のリーダーにも、自分自身や組織の「望ましい姿」を描き、そこに一歩でも近づく努力をすることが求められていると思います。そして、それが遺伝子となり、次の世代を生きる子孫の力につながります。そういった一人一人が紡ぐ「タテ糸」をいかにして継承するか。こうした考え方が、次代を創るリーダーに問われているのではないでしょうか。

筆者:三上 佳大

JBpress

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