「どんなにマンションが高騰しても家は買ったほうがいい」大学教授が示す"賃貸か持ち家か"の最終結論

2024年4月9日(火)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

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家は買ったほうがいいのか。リクルート住まい研究所所長や大東建託賃貸未来研究所長として、長年「住みここちランキング」に携わってきた麗澤大学教授の宗健さんは「家は買えるなら買ったほうがいい。首都圏の新築マンションの価格は高いが、中古マンションや中古戸建ても十分選択肢になる時代になっている」という——。
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■買えるのなら買った方がいい


新築マンション価格が史上最高値となったことが話題となっている。不動産経済研究所が2024年2月28日に発表した「全国 新築分譲マンション市場動向 2023年」によれば、2023年の全国の新築マンション平均価格は5911万円と前年より15.4%上昇し、首都圏の1都3県では前年比28.8%上昇の8101万円、東京23区に至っては前年比39.4%上昇の1億1483万円と1億を超えてしまった。


平均価格が1億超えとなれば、もう新築マンションは普通の人にはとても買えない。こんな状況でも、やっぱり家は買うべきなのだろうか。結論を先にいえば、新築マンションが史上最高値でも家は、買えるのなら買った方がいいだろう。


■買った方がいい理由は「みんな買っているから」


「持ち家 vs 賃貸」の記事は、住宅情報サイトだけでなく、さまざまなウェブサイトでPVが稼げる鉄板記事のようだが、その多くは、「持ち家か賃貸かは、その人のライフスタイルによる」という曖昧な結論で締めくくられていることが多い。


しかし、世の中の実態を見ると2018年の住宅・土地統計調査(以下「住調」という)によれば、持ち家率は全年齢対象で61%と持ち家派が過半数を占める。


ただし、持ち家率は年齢によって大きく違い、20歳代では6.4%と低いが、30歳代で35.7%と一気に上がり、40歳代で57.6%と過半数に達し、50歳代で67.6%と2/3を超え、60歳以上では79.8%となっている。


昔に比べれば、未婚率の上昇によって持ち家率は低下しているが、それでも数でいえば持ち家派が賃貸派を圧倒しているのだ。


これは、持ち家か賃貸かは個々人のライフスタイルによるとしても、結局、多くの人が持ち家を支持しているということで、経済学ではこうした個々人の行動の結果を「足による投票」という。


身もふたもない言い方になるが、家を買うべき理由の第一は「みんなが買っているから」なのだ。


■高齢者が家を借りにくい状況は続くだろう


住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者の実態調査【住宅ローン利用予定者調査(2023年10月調査)】」によれば、住宅取得動機は、20歳代・30歳代では「子どもや家族のため、家を持ちたい」「結婚、出産を機に家を持ちたい」が多いが、50歳代・60歳代では「老後の安心のため、家を持ちたい」が最多になる。


実際、高齢者が民間賃貸住宅を借りにくいことが問題となって、国もさまざまな政策に取り組んでいるが、家主からすれば賃借人が死亡した場合には、状況によっては告知義務が発生したり、多額の原状回復コストがかかるおそれがある。


さらに、賃貸借契約は相続の対象となるため、賃借人が死亡した場合には、厳密にはすべての相続手続きが完了するまでは、部屋の残置物にも一切手がつけられない。相続手続きの結果が相続放棄となれば、それまでの未払い家賃は家主の負担となる。また、内部統制とコンプライアンスを求められる企業の場合は相続完了前に残置物の処理を行うことは難しい。


こうした状況を解決するためには、借地借家法の改正や、民間賃貸住宅の借り上げ公営住宅を拡充するといった抜本的な政策が求められるが、そうした大改革は政治的にはすぐに実行できないため、おそらく高齢者が家を借りにくい状況は今後も続くだろう。


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■年金制度では高齢時の家賃は考慮されていない


だからこそ、家の購入理由に「老後の安心のため」という理由が出てくるのだ。


その背景には、年金制度もある。実は国民年金も厚生年金も日本の年金制度は、高齢時の家賃が考慮されていない。厚生労働省の「令和5年版わたしの年金とみんなの年金」という資料では、標準的な65歳夫婦の生活費が月額約24万円とされているうち、住居費はわずか約1.4万円となっている。


生活費の項目には、食費・光熱費・衣類・保険医療・通信交通費・教育教養娯楽・その他という項目があり、これらは平均でも大きな問題はないだろうが、住居費は持ち家と賃貸で大きく違い平均値を用いるのは適切ではない。住居費平均1.4万円というのは8割が持ち家、という前提なのだ。


また、老後の安心感というのは、経済合理性を追求した論理的な考え方によるものというよりも、もっと曖昧な心理的な側面が強い。そして、心理的な側面という観点では、「自分の家」という満足感や、壁にくぎを打ったり棚を作ったりできるといった気兼ねなく暮らせる感覚的な満足感も大きい。


■持ち家とは自分を顧客とした最も確実性の高い賃貸事業


持ち家の住宅ローン金利は低いし、固定資産税も相続税も優遇されていて、住宅ローン減税まである。普通の賃貸住宅事業にはこうした優遇はないから基礎的な条件で持ち家のほうが有利で、しかも持ち家は入居者の入れ替わりがないから募集のためのコストや入居者入れ替わりのたびに発生するリフォーム等のコストも管理コストもなければ、家賃滞納のリスクも孤独死のリスクもない。


賃貸は固定資産税も払わなくて良いし、エアコンが壊れてもそれは家主の負担だという言う人もいるが、それはそういった名目で請求されないだけで、家賃にはそうしたコストがちゃんとはいっている。


こうしたことを考えれば、原理的に賃貸のほうが持ち家よりも経済的に有利になるということはあり得ない。唯一の例外は公営住宅だが、公営住宅は家賃を安くするために税金が投入されている。簡単に言えば、公営住宅は行政が赤字で貸しているということで、これは所得の再配分という目的があり、だからこそ所得制限があるわけだ。


つまり、持ち家とは自分自身に家を貸しているという非常に安全性の高い賃貸事業なのだ。


写真=iStock.com/ridvan_celik
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■住宅ローン「返済期間は長く、返済額は低く」


持ち家は多くの場合住宅ローンを借りるが、お金を借りるということも個々人の立派な能力の一つだ。語学が堪能、プログラミングができる、営業力がある、スポーツが得意、といった個人の能力と同列にあるものであり、だとしたらその能力を生かさない手はない。


お金を借りる能力を最大限に発揮するのは、住宅ローンを借りられるだけ借りて、できるだけ返済期間を長くする場合になる。返済期間を長くすることは住宅ローンの毎月返済額を低くすることにつながり、失業したり収入が減少したりした時に返済できなくなるリスクを小さくする。


よく、返済総額を抑えるために、借入期間をできるだけ短くしよう、繰り上げ返済時には返済期間を短縮しようという話を聞くが、それは返済総額を抑えるために、返済できなくなるリスクを高めている、という側面が考慮されていない。


そもそも返済総額は、当初契約の借入期間で決まるのではなく、最終的な返済期間で決まる。そして、繰り上げ返済したとしても、返済期間を変えなければ当然毎月返済額は減り、それだけリスクも減り、繰り上げ返済の余力も高まっていく。


ただし、国の借金が1000兆円を超え、消費者物価指数よりも金利を常に低くすることで借金を実質的に減らしていく金融抑圧策が続くことを前提に考えれば、繰り上げ返済はせず、余裕資金は株や現物資産のようなインフレヘッジする資産に振り向けておくことも検討するべきだろう。


■住宅ローンは強制積み立ての個人年金のようなもの


住宅ローンの滞納率は公表されているデータがほとんど無いが、地方銀行の住宅ローンの保証を担っている全国保証の2023年度統合報告書によれば、保証債務残高15兆9449億円に対して、延滞金額は225億となっており、保証債務残高に対する比率は0.14%となっている。またデフォルト率は0.23%と記載されていることからも、住宅ローンの滞納率は相当低いことがわかる。


住宅ローンの滞納率が低いのは、貸し手である銀行が審査の結果、この人なら貸しても滞納しないだろうと判断していることに加え、せっかくの持ち家を失わないために生活費を削ってでも住宅ローンを払おうと多くの人が考えていることが背景にあるだろう。


そして、例えば夫35歳、妻30歳の時に35年ローンを組んだとして、ローン完済時の年齢は夫70歳、妻65歳となる。


厚生労働省の令和4年簡易生命表によれば、男性70歳の平均余命は約16年、女性65歳の平均余命は約24年となっている。


一生懸命返済した住宅ローンはいわば強制積み立ての個人年金のようなもので、住宅ローン完済後に夫は約16年、妻や約24年の間、配当として家賃なしの家に住めることになる。


写真=iStock.com/kokouu
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■平均所得は下がっているが、個々人の給料は上がっている


そうはいっても、平均給与はどんどん下がっているというし、住宅ローンを借りるなんて返せるかどうか不安だという人も多いと思う。


国税庁の民間給与実態統計調査の総括表を見ると令和4年(2022年)の平均給与は458万円で、ピークだった平成9年(1997年)の467万円よりも下がっているが、約9万円、約2%下落したにすぎない。これは主に給与が下がる定年後の再雇用や非正規雇用が増えたことが要因だろう(正社員の絶対数は多少増減しているがほぼ一定で推移している)。


しかし、個々人の給与と平均は大きく食い違う。それは日本企業の給与体系がまだまだ年功序列であることが背景にある。


実際、賃金構造基本統計調査の長期時系列データでは、25〜29歳の平均年収は1999年に390万円だったものが、2019年には419万円と増加しており、45〜49歳の年収も1999年の603万円が2019年には616万円に増加している。


約25年前の1999年に25歳だった人は、2019年には45歳になっているわけで、年収でみると390万円が616万円と約1.6倍になっていることになる。もちろん、企業規模や雇用形態、職種や業種等によって水準は異なるが、一人一人の個人でみれば、年齢が上がったことで給料は大きく増えていることが多いのだ。


さらに、内閣府の「男女共同参画白書令和4年版」によれば、共働き世帯は2001年から2021年までで約1.5倍になっており、夫婦のいる世帯全体の約7割に達している。その結果、2017年の就業構造基本調査の結果では、東京都の共働き世帯年収の最頻値は1000万以上1200万円未満となっておりその比率は16%となっている。


個人でみても世帯でみても、高齢者以外の所得は下がっているどころか上がっているのだ。


■住宅の品質が上がり、中古で十分な時代が来た


とはいえ、首都圏で平均価格が1億円を超えた新築マンションは、普通の人には買えない。


しかし、心配することはない。中古マンションや中古戸建ても十分に選択肢になる時代になっている。


最近ではリノベーションマンションなども多く販売されており、日本人の新築信仰がやっと薄れ、価値観が変化してきた主張する人もいるようだが、実際は違う。


戦後の日本はずっと住宅不足で、質より量を優先せざるを得なかった。建物の品質に大きく影響する耐震基準を見ると1950年に建築基準法が制定され最新基準は1971年、1981年、2000年に大きな改正が行われている。


これは逆に言えば、耐震基準が改正されるたびに、それ以前の住宅の価値が大きく下がることを意味している。そのため、2000年までは20年で戸建て住宅は無価値になるといわれてきた。


実際1990年ころの築20年とは1970年築の住宅で、新築と築20年の差は非常に大きかった。それが2024年で考えると築20年は2004年築で最新の耐震基準を満たしており、間取りや外観、設備等もそこまで見劣りするものではない。


つまり、日本の住宅の品質は戦後70年以上を経て、やっと新築でなくても十分な時代が来た、ということなのだ。


写真=iStock.com/inomasa
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■戸建てなら1000万円くらい予算を上乗せできる


ただし、マンションの場合はドアやサッシは共用部であるため簡単には交換できないことには注意が必要だ。特にサッシの性能向上は著しく築20年ともなればできれば交換したいところだが、これは政策的な対応が必要な問題であり、今後の進展を望みたい。


ちなみに、マンションと戸建てを維持費を含めて比較すると、マンションには駐車場と管理費が別に必要で、それらが必要無い戸建ては、大まかにいって1000万円くらい予算を上乗せしても、結局毎月の負担額はあまり変わらないこともあることは付記しておきたい。


■東京都の人口は2040年まで増え続け、空き家問題は起きない


そうはいっても、全国で800万戸にも上る空き家があって大きな社会問題になっているのだから、いずれ家賃が暴落する可能性もあるのでは、という意見もあるだろう。


詳細は、筆者の2017年の論文「住宅・土地統計調査空き家率の検証」を参照してほしいが、800万戸の空き家の根拠は住調であり、住調の空き家判断は調査員の目視に頼っているため誤差が非常に大きい可能性が高い。


実際、国土交通省や自治体の空き家実態調査では住調の半分以下の空き家率が報告されており、REITやサブリース会社の賃貸住宅入居率も90%以上の数値となっている。例えば世田谷区は住調では50万戸の住宅のうち5万戸以上の空き家があることになっているが、世田谷区の実態調査では空き家等と推定した建物はわずか966棟となっている。世田谷区を歩けばすぐにわかるが世田谷区の空き家率が10%以上であるわけがない。


さらに、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年(2023)推計)」によれば、日本全国の人口は2020年の1億2615万人が2050年には1億0469万人に減少するが、東京都の人口は2020年の1405万人が2050年には1440万人に増加する。1都3県の合計では人口は減少するが減少率は4.5%程度と比較的低い。


こうした結果を見れば、少なくとも首都圏で家賃が大きく下落する可能性は低いだろう。しかも、世界的なインフレにある現状を考えれば、家を買っておいたほうが、老後の安心感は高まるだろう。


やはり、持ち家が正解なのだ。


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宗 健(そう・たけし)
麗澤大学工学部教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。
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(麗澤大学工学部教授 宗 健)

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