打撃に集中した大谷翔平はどれくらいの成績を残すのか…米番記者3人が占う24年のドジャース黄金時代

2024年4月13日(土)6時15分 プレジデント社

2024年3月31日、カリフォルニア州ロサンゼルスのドジャースタジアムで行われたセントルイス・カージナルス戦の7回、ピッチャーゴロで一塁へ走るロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平#17。 - 写真=AFP/時事通信

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今やドジャースの“台風の目”となった大谷翔平。本場アメリカではどう見られているのか。大谷の番記者経験もある3人のジャーナリストが語った——。

※本稿は、ディラン・ヘルナンデス、サム・ブラム、志村朋哉『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)の一部を再編集したものです。


写真=AFP/時事通信
2024年3月31日、カリフォルニア州ロサンゼルスのドジャースタジアムで行われたセントルイス・カージナルス戦の7回、ピッチャーゴロで一塁へ走るロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平#17。 - 写真=AFP/時事通信

■ドジャース黄金時代の到来はあるか?


【トモヤ】大谷の入団でドジャースが戦力アップしたのは間違いない。打線の上位にはムーキー・ベッツ、大谷、フレディー・フリーマンというMVP受賞経験のある三人が並ぶと予想される。課題と言われていた先発投手陣については、大谷は来季はピッチングはできないけど、山本とグラスノーの加入でかなり強力になったと思う。僕はブレーブスと並ぶ優勝候補かなと思う。


【サム】確かに揃っている選手だけを見れば、優勝候補筆頭だろうね。僕が昨季リーグ王者のダイヤモンドバックスを推すのは、ワールドシリーズに出た戦力に加えて、オフシーズンに良い補強をしたから。チームの中心を担う若手選手が、まだ成長過程にあるのも大きい。まだメジャーでほとんどプレーしていないジョーダン・ローラーも、主力の一人になると思う。若手を育てることで勝てるチームになった。


ドジャースもずっと若手を育てることで勝ってきた。それに加えて、お金を使って補強するようにもなった。先発投手陣も名前だけ見れば、かなり充実している。特に25年、投手・大谷が復帰してエースとして22年のような活躍ができれば、ドジャースは間違いなく優勝候補だね。


でも野球というのは不思議なスポーツで、思った通りにいくとは限らない。120勝できるかもしれないし、うまくいかなければ85勝しかできないかもしれない。ダイヤモンドバックスをドジャースより上にするのは、不安要素が一番少ないから。昨年と同じような結果を残せる状況が一番整っていると思う。


【ディラン】優勝候補かどうかは、難しい質問だな。打線がすごいのは間違いないけど、先発投手陣には不安が残る。中4日となる登板で山本が日本でしていたような活躍ができるかは分からないし、グラスノーは怪我ばかりで、少ないイニング数しか投げたことがない。ウォーカー・ビューラーは2度目のトミー・ジョン手術からの復帰になる。ボビー・ミラーは、弱いチーム相手に成績は残したけど、プレーオフでは頼れる球種の少なさを露呈した。


レギュラーシーズンでは、問題にならないと思う。打線があまりに強力だし、層も厚いから。でも、10月に強いチームだけを相手に勝ち抜いていくのは全く別の戦いで、そのための戦力が十分かは、まだ分からない。


■FA市場は合理的ではない…


【トモヤ】山本由伸は、大谷に次ぐFA市場の目玉で2億ドル以上の契約になるだろうとは言われていたけど、なんと総額3.25億ドルでドジャースが獲得した。フルタイムの投手(つまり大谷は除く)の契約としては史上最高額。これには驚いた?


写真=iStock.com/wellesenterprises
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wellesenterprises

【サム】彼は3.25億ドルの投手ではないかもしれないけど、それが市場での価値だということ。誰が争奪戦に参加していたかを考えてみて。ドジャースにヤンキースにメッツといった、金に糸目をつけないチームだよ。FA市場について合理的に考えることはできない。「FA選手に、その価値に見合った額を提示したら獲得なんかできない」と言われている。いくらであろうと、払う球団があれば、それが価値になるんだから。


メッツも山本に同額を提示していた。それでもドジャースを選んだってことは、ドジャースに行きたかったんだろうね。大谷と一緒にプレーしたかったとか、ロサンゼルスに行きたかったとか。


【ディラン】僕は驚いたよ。メジャーで投げたことがない選手だからね。メジャーに来た日本人投手はみんな、メジャーで投げる難しさは、レベルが高いということよりも、肉体への負担にあると言う。レギュラーシーズンは162試合で、日本の143試合よりも多い。日本では毎週休養日があるけど、メジャーにはない。先発投手は、日本では1週間に一度しか登板しないけど、こっちでは5日に一度。それに山本は身長178センチとメジャーではかなり体が小さいのも、メジャーの負担量に耐えられるか心配な理由ではある。それなりに活躍するとは思うけど、3.25億ドルに相応しいエースになれるかは分からないな。


■巨額の後払い契約がドジャースを変えた


【トモヤ】ドジャースは、大谷と山本とグラスノーの三人に11億ドルものお金を費やしている。これは何がなんでも勝つという決意の表れだと見ていいのかな?


【サム】もうプレーオフで辛酸をなめるのはこりごりだっていうことだろうね。21年はブレーブスに負けて、22年はパドレスに負けて、23年はダイヤモンドバックスに3連敗。レギュラーシーズンの成績を考えれば、ワールドシリーズで優勝すべきチームなのに。


多くの人がプレーオフは運任せだと思っているようだけど、僕は「最強同士の争い」だというふうに見ている。どのチームも戦力を温存などせずフル稼働させる。そういう中での最強を決める戦いなんだ。ドジャースは、そうした中で勝てる投手陣や野手陣が整っていなかった。あまりに早くプレーオフ進出を決めすぎて、意味のある試合をしていない期間が長くなって、力を発揮できなくなっていたのもあるかもしれない。大金を費やして補強しているのは、そうした状況から抜け出すんだという決意の表れだと思う。地区優勝はもはや当然のこと。ワールドシリーズ優勝以外は、もはや失敗と見なされる。


【ディラン】これはドジャースというより大谷の決意を表していると思う。大谷が後払い契約によってドジャースに金を渡して、それを球団が山本やグラスノーに投資しているだけ。ドジャースは大谷を獲得していなければ、山本もグラスノーも獲得していないと僕は思っている。すごく残念なオフシーズンになっていたと思う。ここ最近のドジャースは、補強にそこまでお金を使っていなかった。何がそれを変えたのか? 大谷の獲得と、巨額の後払い契約だよ。


■新しいファンの前で「いいところを見せたい」


【トモヤ】大谷は肘のリハビリで、24年は打者に専念する。野球選手の最盛期と言われる29、30歳のシーズンということもあって、今年は打撃で自身最高の成績を残せると思う?


【ディラン】分からないな。移籍したことで、これまで対戦したことのない投手を相手にする場面も増えるから。でも、大谷は毎年のように、何らかの成長を見せてきた。投手として大きく飛躍した年もあれば、打者として大きく飛躍した年もある。


今年は打者に専念するということで、自己最高の成績を残すこともあり得ると思う。シーズン中盤くらいに調子が上がって大活躍する期間があるんじゃないかな。でも開幕後はスロースタートでも驚かない。怪我から復帰して、しかも新しいリーグに慣れるまでの時間があるから。これまで以上の成績になるかは分からないけど、これまでと変わらない活躍はすると思う。


【サム】25年に投手として復帰しようとリハビリをしているわけだから、打撃以外にもやらなきゃいけないことや考えることは多い。


それに、昨年の打撃が素晴らしすぎたから、それ以上の数字を叩き出すというのは、かなり難しいと思う。OPS+が184(メジャー1位)って、平均的な打者の2倍近くの打撃力ってことだよ。シーズンを通して健康な状態でいられれば、50本塁打に到達できるのか楽しみだね。23年も脇腹を怪我するまでは、そのペースだったし。無理してでも試合に出場し続けようとしていた理由の一つだったと思う。


【トモヤ】ロサンゼルス・タイムズによるオンラインのアンケートでは、85パーセントが大谷の大型契約を好意的に見ている。(現地記者に成績予想をさせる)日本の記者っぽい質問になるけど、これだけ高い期待に応えるには、最悪でもどれくらいの成績を残す必要があると思う?


【サム】ロサンゼルス・タイムズは信頼できないからな(笑)。冗談、冗談。確かに日本の記者がする質問だね。ホームラン40本は打ちたいところ。ドジャースはMVP級やオールスター級の打者が揃っているから打点は増えると思う。メジャーリーグとトリプルA(二軍)の間くらいのエンゼルス打線とは違う。


写真=iStock.com/Laser1987
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Laser1987

ディラン・ヘルナンデス、サム・ブラム、志村朋哉『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(朝日新書)

ドジャースでは、大谷の前に誰かが出塁する可能性は高くなる。それに投手は大谷との勝負を避けづらくなる。後ろに強打者のフレディー・フリーマンやウィル・スミスが続くだろうからね。だから、もし怪我をせずに終えたら、40本塁打、120打点は期待できる。OPSは1.000くらいかな。かなり高い基準だけど、大谷はそれくらいすごい打者ってことだよ。新しいファンの前で、いいところを見せたいっていうモチベーションもあるだろうし。


気になるのは盗塁数がどうなるのか。特に23年は、エンゼルスは大谷に盗塁をしてほしくなさそうだった。怪我につながるから。ドジャースがどういう方針かは分からないけど、25〜30くらいに盗塁数を増やせるかには注目している。


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ディラン・ヘルナンデス
スポーツコラムニスト
1980年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校卒。ドジャースとエンゼルスの地元紙ロサンゼルス・タイムズでスポーツコラムニストを務める。それ以前はサンノゼ・マーキュリー・ニュースに勤務。日本人の母を持ち、スペイン語と日本語も流暢に話す。
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サム・ブラム
ジャーナリスト
1993年生まれ。シラキュース大学卒。2021年からスポーツ専門メディア『ジ・アスレチック』のエンゼルス担当記者を務める。それ以前は、ダラス・モーニング・ニュース、デイリープログレス、トロイ・レコードでスポーツ記者として勤務。AP通信スポーツ編集者賞やナショナルヘッドライナー賞を受賞。
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志村 朋哉(しむら・ともや)
ジャーナリスト
1982年生まれ。国際基督教大学卒。テネシー大学スポーツ学修士課程修了。英語と日本語の両方で記事を書く数少ないジャーナリスト。米地方紙オレンジ・カウンティ・レジスターとデイリープレスで10年間働き、現地の調査報道賞も受賞した。大谷翔平のメジャーリーグ移籍後は、米メディアで唯一の大谷担当記者を務めていた。著書に『ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実』『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(共に朝日新書)がある。
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(スポーツコラムニスト ディラン・ヘルナンデス、ジャーナリスト サム・ブラム、ジャーナリスト 志村 朋哉)

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