小学生に教えるために編集者歴17年の父親が本気で考えた…「きちんと伝わる文章」を書く10のコツ

2024年4月16日(火)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

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「伝わる文章」を書くには、どうすればいいのか。編集者・ライターの石川大樹さんは「長年新人ライターを育成してきた経験をもとに、中学受験を控えた息子に10項目のコツを教えたことがある。試験3カ月前だったが、指導の結果、無事志望校に合格できた。この内容は、どんな人にも役立つと思う」という——。
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■「伝わる文章」とはどのようなものか


私はWEB媒体の編集者/ライターをかれこれ17年ほどやっている。日本語で情報を伝えるのが仕事だ。


ジャンルとしては長文の体験レポートを中心に扱ってきた。ライトな読み物で、書くのも簡単そうだと思われるかもしれない。いやいや、そうでもないのだ。それぞれのバックグラウンドを持ち観察力に優れた書き手が、五感をフルに使い数時間かけて体験取材をすると、情報量がとんでもないことになる。それを限られた字数で読者にわかりやすく伝えるのは、実は技術のいる作業なのだ。


また、私は特に編集部の中でも新人ライターを多く担当しており、書き慣れない人が書いた文章を一緒に直し、読み手に伝わる書き方をアドバイスする経験をずっと積んできた。


そんな私が、小学生の子供の中学受験によってあらためて「伝わる文章の書き方」を見つめ直すことになった。本稿ではその経験について少し語らせてほしい。


■試験の3カ月前にわかった「惨憺たる文章力」


リビングの机で大きな問題集を広げ、まいにち練習問題を解いていた息子。私は解いた問題の採点をして、間違ったところの解説をする役目だ。しかし小学生向けの試験とはいえどその内容は高度化しており、受験も教育も専門家ではない父としては、わかるところはわかるしわからんところはわからん、といった門外漢の立場だった。


ところが試験も迫る11月、受験勉強が突然、私の専門性に乗り込んできたのである。


子供の第一志望は都立の中高一貫校だった。これらの学校は少し試験が特殊だ。入学試験ではなく適性検査と呼ばれ、国語のみならず理科社会算数まで、すべて記述式で説明するような問題が出る。


通っていた塾の方針もあって直前まで特別な記述問題対策はしていなかったのだが、試験の3カ月前になって初めて過去問を解かせたところ、恐ろしいことが明らかになった。答案を見た塾の先生に「必ず手堅い私立を併願するように」と念押しされるほどの、惨憺たる文章力、説明力だったのである……。


写真=iStock.com/takasuu
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繰り返すが、試験の3カ月前のことである。万事休す。


しかし、ここで自分のキャリアに救われることになった。長年の新人ライター育成経験から、他人が書いた読みにくい文章を読めば、何が原因でこうなってしまったのかなんとなくわかる。そこで子供が過去に受けた問題の答案をもとに、伝わる文章を書くためのポイントをチェックリスト化した。すると、なんと3カ月後には見違えるような文章を書くようになったのである。


この経験は自分にとっても非常に新鮮で、今までなんとなくやってきた指導を改めて棚卸しする経験となった。


もとは子供用に考えたものではあるが、文章でものごとを説明する上で大事なことが詰まっていると思うのでご紹介したい。「問題」を「質問」に置き換えていただくと大人のみなさんにもしっくりくると思う。


■基本的なことも意識しなければ抜けてしまう


「伝わる」文章のためのチェックリスト(説明編)

①きかれたことに答える


もっとも基本のルール。「理由を答えよ」という問題なら答えじゃなくて理由を書くべき。そんなこと知ってるよ! と言われそうだが、実際は説明が入り組んでくると書いているうちにそのことを忘れて説明不十分なまま答えを書いて完了! なんてのもありがち。もっと細かいレベルでいうと、「資料A、B、Cを元に説明せよ」という問題に対してAとCにしか触れていない回答を書くとか。書きながら意識するのはもちろんだが、読み返しの時に最初にチェックしたい。


■「読みにくい文章」にはどんな特徴があるか


②1つの文に2つのことを書かない


子供は特に論理構成に不慣れなので、一文にいろいろ詰め込むと文章がめちゃくちゃになりがち。一文に書いていいのは1つの事項、次の説明はいったん「。」で区切って別の文にする、と決めるとだいぶすっきりする。私も文章を書いていて、こんがらがってきたな、と思ったらいったん文を分けるようにしている。文が簡潔になるだけでなく、別の文と順番を入れ替えて整理することがしやすくなる。


③説明していない数や概念をいきなり出さない


説明不足を防ぐ技。説明に使っていい数は、問題文にある数と、自分が書いたそこまでの説明文中に出てきた数だけ。それ以外の数が出てきたら途中の説明が抜けている。数に限らず、問題文に出てこない概念を使うときも同じ。一つ一つ順に説明していくこと。


④前の文の説明内容と次の文がちゃんとつながっているか考える。


途中のロジックをひとつ飛ばしていないか確認する。実は③はその一手法だ。


文ごとに頭に「だから」「しかし」「つまり」「また」など接続詞を入れていくとこの構造がかなりしっかりする。入れてみてつながりがおかしいと感じる場合はだいたい説明のステップがひとつ抜けている。(ほんとうに全部の文に接続詞を入れるとくどいので、確認が終わったらほどよく削除するとよい)


写真=iStock.com/MicroStockHub
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■比較を意識することで、説得力を高められる


⑤資料からの考察を書く前に、読み取ったことをまず書く。資料の番号も書く。


降水量の推移の資料があったとして、「○○(地名)は冬に乾燥するので」ではなく、「資料①より、○○は冬の降水量が少ないので、冬場は乾燥すると考えられる」といった感じ。④で文どうしのつながりについて確認したが、これは資料と回答文をつなげる作業。


⑥事実と意見は区別する


記述問題の参考書にも必ず出てくる項目。勉強で習った知識や、問題資料から読み取れることは「〜である」、自分で考察/推測したものは「〜と思われる」で書き分けるとよい。


⑦比較を意識する


なぜ電子書籍が台頭してきたか? という問題に対して「持ち歩きやすいから」という回答は確かにあっているけれども、「従来の紙の本はかさばるため持ち歩きに限界があるが、電子書籍であれば何冊でも持ち歩くことができる」と書いた方が両者の違いも台頭の理由もはっきりする。


問題が「電子書籍と紙の本を比較せよ」であれば自然とこのように書くと思うが、紙の本というキーワードが含まれない「なぜ電子書籍が台頭したか」という問題でも比較を意識した方がいいというのがポイント。個人的に「隠れ比較問題」と呼んでいる。


よくあるのは、「増加」「減少」などの単語が出てきたら過去が比較対象になる。


■「映像が想像できるような文章」を目指すべき


「伝わる」文章のためのチェックリスト(作文編)

以降は、国語の小論文について。


⑧意見は1つに絞る


たとえば中学校生活で頑張りたいことというテーマの作文で、「友達をたくさん作り、勉強もがんばる」とするのは×。ピンボケした文章になるし、あとで理由や実践方法など追加の情報を書くときに、どっちの話をしているのかごちゃごちゃになる。


⑨同じことを繰り返し書かない


学校の作文で原稿用紙○枚以上という指定をされるせいか、子供は文字数を稼ぐため文章を水増しする癖がついている。「夜更かしすると早起きできず、翌日も眠いです。夜更かしをして早起きできず、翌日も眠くなるのを防ぐため、ちゃんと早寝したいです」みたいな冗長な文を書きがちだ。繰り返し部分は「それ」に置き換えれば「それを防ぐため」と簡潔にできる。


⑩具体的な(絵や映像が想像できるような)文を書く


具体性がないと「コミュニケーションを大切にしていきたいです。コミュニケーションは必要だからです」みたいなボヤっとした内容のない文章になる。自身がコミュニケーションをおろそかにして失敗した体験を書いてもいいし、「コミュニケーションを通して情報交換することで文明が発展してきた」みたいな公知の事実を書くこともできるだろう。では具体的とはどういうことかと考えると、それを読んで絵や映像が思い描けるか、というのが一つの目安になると思う。


こんなチェックリストで毎回回答を見直すようにしたところ、子供の文章力が短時間でメキメキ伸びていき、結果的に受験では納得のいく結果を収めることができた。


写真=iStock.com/DNY59
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■チェックリストは“受験のテクニック集”ではない


さて、先に「ものごとを説明する上で大事なことが詰まっている」と書いた。というのもこのリスト、受験対策がきっかけで作ったものではあるが、純粋な受験テクニック集というわけでもないのだ。私が自分の子供に対して、生きる力を身につけて欲しくて作ったチェックリストなのである。


実は田舎育ちでずっと公立校で育った私自身は子供の中学受験に乗り切れず、「こんな小さい子にそんなに勉強させなくても……」と思って最初は反対だったのだ。しかし勉強をすすめるうちに、受験勉強はただ志望校に合格するだけでなく、教養や生きる力を身に付けるのに役立つかもしれない、と考えるようになった。


正直なところ、純粋な記述問題対策としてとらえれば、私のような受験素人より受験塾の先生の方がよほどノウハウを持っているはずだ。ただ今後生きていくうえで必要な文章力を身に付けるという観点であれば、私のプロとしての経験の生きた、使えるリストになったのではと思っている。


■思わず涙した「息子のひと言」


最後に余談をひとつ。第一志望の合格発表の前日、子供がポツンと言ったことがずっと忘れられないでいる。


「明日の午後は友達と遊びに行く。『全員、どんな結果になっても明日は笑って遊ぼうな』って約束したから。」


いつの間にこんな人間関係を築くようになっていたのだろうか。俺はこれを聞いて瞬時に涙腺に来てしまって、あわてて子供に背を向け、仕事があるふりをしてPCに向かった。ただ一緒にふざけながら塾に行く関係かと思っていた彼らは、同じ困難に立ち向かった仲間だったのだ。どうやら受験を通して、学力以外にも様々なものを得たようなのだ。


最初は乗り気がしなかった中学受験だったが、こうして終わってみれば、子供にとっても親にとっても濃密な人生経験となった。


今回のチェックリストが彼の将来に、そして読者のみなさんの何らかの参考に、役立つものであれば幸いだ。


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石川 大樹(いしかわ・だいじゅ)
編集者/ライター
1980年生まれ。岐阜県出身。大阪大学人間科学部卒。フリーランスの編集者・ライター、電子工作作家。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。第18回文化庁メディア芸術祭 エンタテインメント部門 審査委員会推薦作品 入選。趣味はワールドミュージックの収集。共著に『雑に作る 電子工作で好きなものを作る近道集』(オライリー・ジャパン)がある。
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(編集者/ライター 石川 大樹)

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