無化調で日本一「飯田商店」飯田将太が考える王道ラーメンの条件2つ…「鶏ガラと豚の骨のスープ」と意外な"もう1つ"

2025年4月19日(土)10時15分 プレジデント社

「飯田商店」を代表する「しょうゆらぁ麺」。しかしその味が定まるまでには、いくつもの困難があったという。 - 写真撮影=合田昌弘

創業以来自家製麺にこだわり、化学調味料は使わない。一方で、“無かんすい”では「ロマンがない」と断言する。なぜ「飯田商店」は独自のスタイルを貫くのか。店主の飯田将太さんは「ラーメンの味に不安になったときは、生産者さんを訪ねる。その顔を思い浮かべる。飯田商店のスタイルはラーメンの伝統を守り、麺とスープを調和させることに心血を注いできた結果だ」という——。(第2回/全4回)

※本稿は、飯田将太『本物とは何か』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。


写真撮影=合田昌弘
「飯田商店」を代表する「しょうゆらぁ麺」。しかしその味が定まるまでには、いくつもの困難があったという。 - 写真撮影=合田昌弘

■「醤油の迷い」が原点


飯田商店は2010年3月16日、僕が32歳のときに、比内地鶏の鶏ガラでスープを取った「しょうゆらぁ麺」から始めた。主な材料は鶏ガラと醤油だけ。


醤油は、生揚げ醤油3種から始めた。生揚げ醤油とは、搾(しぼ)りたての醤油で、加熱処理をしていないもの。醤油は火入れという加熱処理で風味が大きく変わる。だからこの火入れをメーカー任せにせず、ラーメンに合うように自分でする。


この醤油だれのつくり方は、僕をラーメンに本気で向かうことを決意させてくれた大恩人の「支那そばや」の故・佐野(さの)実(みのる)さんが始めた方法だと聞いている。すごいことだと思う。


僕は、本格的なラーメン店で修業をしていない。そのため、自分の中で決まった味をもっているわけではなかった。だから簡単に味が定まらない。


醤油だれも、それぞれ1mlずつ量を変えて、舐(な)めながらブレンドしていく。火入れの時間や温度も変えていく。いろいろ試していくと何が何だかわからなくなる。味に行き詰まる。


それなら、もっと醤油を知れば、もっと違う味を出せるのではないか、と思うようになった。


■生産者の元へ足を運ぶ


まず醤油蔵に行って仕込みを見させていただき、話を聞くことから始めた。すると、それぞれに違いがあることがわかるようになった。


そもそも場所が違う、蔵が違う、棲(す)みついている菌が違う。もっと言えば、木桶によって風味も違う。出荷されるタイミングによっても違う。つくっている人の気持ちも違う。当然、常に同じものができるはずはない。


それぞれの違いがわかると、この醤油のどこを大切にして醤油だれをつくればいいのかが少しずつわかるようになる。わかったような気がしただけかもしれないが、生産者さんにお会いすることで気持ちが切り替わって、またやり直すことができた。


鶏も見にいった。比内地鶏の特性が少しずつわかってきたら、ほかの地鶏をブレンドすることもありだなと思えるようになった。鶏の肉も使いたいと思った。


醤油と鶏の組み合わせだけでもどんどん可能性が広がっていく。こうして、いろいろな食材を見にいくことが始まった。


■「産地に行くと、絶対に何かある」


生産者さんに会いに行く。これが僕のラーメンづくりの土台になっている。


産地に行くと、絶対に何かある。なかったことは一度もない。今思えば、あったような気になって帰ってくるときもあったとは思う。でも、生産者さんとお会いすることで、改めてその方々の気持ちが自分の中に入る。それでまたやり直すことができる。新たな気づきが生まれる。


小麦粉も同じだ。


北海道の江別で小麦畑を見たときに、なんて広大なのだろうと感激した。その際に生産者さんから言われたのは、「でも飯田さん、ここからあそこまで集めても1袋25kg分だよ」と。その労力や、生産者さんがされていることの重さは計り知れない。わからない。でも、偉大なことだなと感じて帰ってくる。


そうすると、食材をもっと大事に扱おうとする。香りが抜けない保存法を考える。


醤油屋さんのご苦労や、鶏屋さんのもっとおいしい鶏をつくりたいという気持ちを聞くだけで、絶対に雑には扱えない。すごく大事に使うようになる。これらだって調理の1つだ。このような積み重ねが、ラーメンを少しずつおいしくしていく。


■「責任感」と「感謝」


一杯のラーメンは、生産者さん一人ひとりの想いの集合体だ。皆さんの想いが集まって僕の中に入ってきて、それが一杯のラーメンに結実する。集合体といっても、勝手にこっちが借りているだけだが。


しかし、何かに行き詰まる、ラーメンの味に不安になる、そんなときには、生産者さんを訪ねる。いろいろな方の顔を思い浮かべる。


僕は、この方々と一緒にやっているのだ、という安心感が僕を包んでくれる。がんばろうという責任感も出てくる。そして、皆さんへの感謝の気持ちが湧く。


この想いは、お客さまに絶対に通じると信じている。これが飯田商店のラーメンだ。


■「ラーメンの原点」を忘れない


雑誌などの取材を受けることがある。麺やスープの話をすると、「ここまでこだわった材料を使っているなら、麺とスープだけの素(す)ラーメンもおいしそう。なぜやらないのですか?」と、聞かれることがある。


それもありだとは思う。しかし、僕にとってチャーシューや海苔はラーメンの中でのご馳走だ。いつ食べようか、といつもワクワクしながら一杯のラーメンを楽しむ。これがラーメンだ。


僕のしょうゆラーメンには2種類のチャーシューが入る。1つは、豚のバラ肉を凧糸(たこ)で巻いて、スープをとる際に寸胴に沈め、とろとろになるまで煮て、さらに醤油で味つけをする。いわゆる伝統的な煮豚のチャーシューだ。


こういう昔ながらのラーメン屋の仕事も、きちんと残していきたいと思っている。ここにラーメンの原点があるからだ。


もう1つが、豚のロースを、コンベクションオーブンを使って低温で10時間かけて調理したもの。


写真撮影=合田昌弘
「スープに骨の感じがあるからラーメンだ」と飯田将太さんは語る。 - 写真撮影=合田昌弘

最初に、「ぬちまーす」という沖縄県の海塩を肉にふる。この塩はマグネシウムの成分が多いので水をふくむと少し発熱するから、肉がぽかぽかと温まって開く感じになる。そこにメインの味つけのクリスマス島の塩をふる。粒が細かいのでよくすりこんで、1日置いておく。


味つけは、この2つの塩だけ。


■“脇役”も大切


肉は、霧島高原純粋黒豚、TOKYO X、天城黒豚。これらを生産者さんから1頭単位で仕入れている。


骨とモモ肉はスープに使う。ロースとバラ肉はチャーシューにする。その肉は、2週間程度は真空状態でねかせて、旨みが最高潮に達したときに使う。


メンマとネギは名脇役だ。一杯のラーメンをおいしく食べすすんでいくときに、なくてはならないもの。食感の違いの楽しみだったり、口の中をリセットしたり。


だから、メンマは3本だけを盛り付ける。どさっとは入れない。


キリッとした醤油の味つけで、コリコリッという食感に仕上げてある。水煮や調理済みのものではなく、乾燥メンマを台湾から仕入れて、程よい硬さに戻して調理したものだ。


■スープに「骨の感じ」があるからラーメンだ


お客さまから煮卵はないの? と聞かれることがある。僕は、卵の黄身にスープを汚されるのが嫌で使わない。半熟の黄身がスープに流れ出すことを想像したくない。


煮卵自体が嫌いというわけではない。ほかの店に行けば食べる。しかし僕のラーメンには格好がよくないと思っている。


スープについては、比内地鶏や霧島高原純粋黒豚などの肉も使っていると話すと、「今後は、鶏ガラや豚の骨を使わない、さらに澄んだ旨みのある高級なスープの方向性が考えられますね?」という質問をいただく。


確かに肉の旨みは強い。肉だけで成立はする。しかし、肉だけだとリッチにはなるけどラーメンらしくない。僕の中ではあまり格好がよくない。


スープに骨の感じがあるからラーメンだ。味の構成として骨がもつコク、骨だからこそ出せる味、これを生かすのがラーメンだと思う。


■「かんすい」なしでは面白くない


あとは、かんすいだ。弾力のある中華麺をつくるために使う、中国で生まれた食材だ。


現在市販されている一般的なものは、添加物として嫌うお客さまがいるのは事実。しかし、昔から食べてきたラーメンは、かんすいくささがラーメンらしさだった。かんすいがあったからこそ、スープの味が乏しかった時代もおいしく食べることができた。


鶏ガラなどを使ったスープはどうつくっても酸性になる。ここに炭酸ナトリウムや炭酸カリウムの強アルカリのかんすいのアルカリが、麺をゆでても抜けきれない状態でスープに入ると、スープに厚みが出る。


これこそがラーメン感だと僕は思っている。ラーメンスープにうどんを入れたところでラーメンにはならない。やっぱり、かんすいなのだ。無かんすいでラーメンもありだとは思うが、それはもったいない。ロマンがない。


■内蒙古の塩湖でつくられる「かんすい」


ただし、かんすいにもいろいろな種類があって、風味の違いはある。



飯田将太『本物とは何か』(プレジデント社)

僕が使っているのは、内蒙古の塩湖の塩を原料にした「内モンゴルかんすい じゅん」というもの。「支那そばや」の佐野実さんが輸入して使い始めたかんすいだ。


産地にも行ってきた。現地の空港から車で揺られること8時間。塩の上に工場があるようなところだった。


しょっぱい地面を舐めまくってきた。この塩湖の塩からつくるかんすいだから、リン酸塩などは含まれない。だから安心だ。アンモニアくささがなく、スープにえぐみを出さない。


僕の麺は、このかんすいと、ぬちまーすというミネラルがとくに豊富な沖縄県産の海塩を使っている。この二つを小麦粉に加えることで、コシのある麺になる。


■ラーメンの楽しみとは?


飯田商店で使っている「はるゆたか」などの国産小麦は、よくゆでると小麦のでんぷんの甘みが引き立つ。だから、かんすいは重要だ。僕のしなやかで、小麦の風味の豊かな麺は、このかんすいなしでは成り立たない。


僕の考える王道のラーメンとは、スープに鶏ガラと豚の骨を使うこと。麺にかんすいを使うこと。この2つを外してはラーメンの王道とは言えない。これがラーメンの伝統だからだ。


その条件のもと、いかに麺とスープをおいしくしていくか、麺とスープを調和させるか、に心血を注いできた。


一方で、ラーメンの楽しみは麺とスープだけにあるわけではない。チャーシューもあれば、メンマも海苔もある。さらに言えば、ワンタンだってある。この楽しさもラーメンなのだ。


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飯田 将太(いいだ・しょうた)
「飯田商店」店主
1977年10月、神奈川県真鶴町に生まれる。明海大学経済学部卒業後、日本料理の道へ進む。25歳のときに、家業に1億円の借金があることを母親から告げられ、返済のために2002年11月「ガキ大将ラーメン湯河原店」を始める。2008年7月、「支那そばや」のラーメンに衝撃を受け、この道を究めることを決意。2010年3月16日「らぁ麺屋 飯田商店」開店。1日の客数ゼロからスタートし、客数300人にまで大躍進する。2017年から、東京ラーメン・オブ・ザ・イヤーTRY大賞総合1位を4連覇。殿堂入りを果たす。2019年には一時休業をしてラーメンを一新。2021年から、食べログ「全国ラーメン・つけ麺TOP20」1位を継続中。2025年3月16日、開店15周年を迎え、店名を「飯田商店」に変える。著書に『本物とは何か』(プレジデント社)がある。
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(「飯田商店」店主 飯田 将太)

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