中学受験は「いいこと」だと思っていたけれど…小6息子から「受験をやめたい」と言われた父親が返した一言

2024年4月28日(日)10時15分 プレジデント社

画像提供=西村琢さん

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「子育ての息苦しさ」は、どうすれば解消できるのか。『だから声かけ、話し合う』(TOYOKAN BOOKS)を書いたソウ・エクスペリエンス社長の西村琢さんは「『子育て』という言葉に疑問を持ったほうがいい気がする」という。3児の父である西村さんがそう考える理由を聞いた——。(聞き手・構成=ライター・市岡ひかり)
画像提供=西村琢さん

■子育ての息苦しさを感じた2つの出来事


——著作『だから声かけ、話し合う』は、「肩に力が入りすぎて酸欠状態の親」に向けて書かれたそうですね。西村さん自身は、どんな時に子育ての息苦しさを感じますか。


【西村さん】僕が子育ての息苦しさを感じたのは、長男の中学受験対策が本格化する小6の時期ですね。僕自身も中学受験の経験者ですが、それほどつらかった記憶はありません。


だからこそ、自分が親として進めようとしたときとのギャップが想像以上に大きかった。当時より数年前倒しでスケジュールが進みますし「ここまでの学習をいつまでに終える」といったパッケージ感がいよいよ高まっているなと感じました。


それは競争に参加する以上、致し方ないことだと思います。ただ中学受験では、ずばぬけたトップレベルの人たちとも競争することになる。長男がやり切れるのか、という不安もありました。


僕自身は志望していた慶應義塾中等部に合格しましたし、中学受験の良さを理解していますが、長男の多感な時期を犠牲にすることへの葛藤もありました。


また、次男の誕生日が3月31日で、いわゆる早生まれです。それで人から「勉強やスポーツで不利だね」と何度か言われたことがありました。


子どもがいつ生まれるかなんて、コントロールできないもののはずが、それさえも比較の対象となっていいのか……。この出来事も息苦しさを感じた一例ですね。


■中学受験は途中でやめた


——競争意識はかつてより高まっているのかもしれません。


【西村さん】そうですね。ただ、中学受験に関しては、僕は良いものだと思っています。小5〜6年でいろんな考え方をインストールできたら、世の中を見る目が変わるじゃないですか。思考力や計画を立てる力が鍛えられるし、勝つことも覚えるかもしれない。


興味対象の多さは人生の豊かさに直結すると思いますし、文章を読み解けることや算数で補助線を引けることは、思考力を鍛えることにもつながります。


それはそれで良いのですが、別の道もあるのではないか、と。長男の場合は、6年生の夏休み前まで受験の準備を進めていましたが、自分自身でN中(角川ドワンゴ学園が運営するフリースクール)という選択肢を見つけてくれました。


■不登校気味だった息子に思ったこと


——そもそも、なぜ長男の中学受験を考えたのでしょうか?


【西村さん】長男は小学校にフィットしていないようで、実際に休みがちだったんです。なので、環境を変えるために中学受験は致し方ないと思っていました。


ただ、私立中とはいえ結局は同じ“学校”という枠組みで運営されている以上、仮に受かったとしても数カ月したら行かなくなってしまうかもしれない、と思うようになりました。


お金も時間もエネルギーもかけて受験するのに、行かなくなってしまったら、努力が成果に見合わないのでは、と。


——ご夫婦で同じ考えだったのでしょうか。


【西村さん】妻も「小学校が合わない以上同じ環境を続ける選択肢はないので、受験を通じて探っていこう」というスタンスでした。ただ、妻自身は「幼稚園や中学、高校は楽しかったけど、小学校はまったくだった」そうです。


一方、僕は小学校の頃は天才児扱いされていて、実際にいろいろよくできたので、小学校は良い思い出しかないですよね。


子どもとしては「ママの言う通りだ」という感じだったのかなと思います。


——「小学校がつまらない」という考えは、西村さんとしては理解しがたかったんでしょうか。


【西村さん】そうですね。「小学校なんてひたすら遊ぶ場所でしょ」という認識だったので最初は理解できなかった。とはいえ、長男は実際に学校に行きたがらないので、否定のしようがないですよね。なので「じゃあ、プランBはどうしようか」という中で一緒にいろいろ考えました。


撮影=プレジデントオンライン編集部
N中について調べた結果、長男にかけた言葉は「最高じゃん。すぐ見にいこう」。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■フリースクールの何がいけないのか


——学校に行きたがらない長男に対して、叱ることはなかったのでしょうか。


【西村さん】まったくなかったですね。「黙って行け」というのもひとつの親子のあり方かもしれないですが、僕はそれで息子に口を閉ざしてほしくなかった。だから、話し合いをしつつ、小学校は行ったり行かなかったりして過ごしていました。


——結果、長男は小6の時にN中に通うことを決めたそうですね。


【西村さん】N中は学校教育法上の一条校ではないので、地元の中学への在籍が必要になります。でも一条校でないことはまったく気にならなかったですね。


N高は知識としては知っていたのですが、中学版があるとは知らなかったんです。どういう学校なんだろうという興味の方が大きかった気がします。


一条校ではないから進学の選択肢にいれない人が多いと聞いて、僕としては新鮮な驚きでしたね。「そんなことどうでも良くない?」という。


■N中に進学させて良かった


——今春から通い始めているそうですが、様子はいかがですか?


【西村さん】長男は今いろんなことに熱中していて「これをしたい、あれをしたい」というネタには事欠かないようです。


N中は通学するコースもネットのコースもどちらもありますが、彼はN中のカルチャーがどっぷり好きになったので、週に5日、1時間かけて自宅のある逗子から横浜まで通っています。歩いて10分の小学校には行かなかったのに!


——すごい変化ですね。


【西村さん】そうなんです。そういう生徒がたくさん通っていて、出席率も非常に高いようです。だからみんな集団生活が嫌というわけじゃないんですよね。


一般の学校とは違って、決まった教科を教え込むのではなく、自由に過ごせるようです。いろいろなやり方があるのだと感じました。


■「子育て」では息苦しくなる


——西村さんは子育てに対してどっしり構えているように見えます。


【西村さん】葛藤は常にありましたよ。長男が学校に行かなくなったときはさすがに心配しましたし。だから「休んでも良いけど、昼から行ってみようか」とか「今日は休んでいいけど明日は行ってみる?」とか、落としどころを見つけて行ってもらうように仕向けたり、試行錯誤はしていました。


ただ、何をするにしても、まず子どもが納得することが大事だと思っていました。


もちろん、子ども相手のことなので、その場では親の言うことに納得しても、数日後ぐらいにひっくり返されちゃうこともあります。それでも、押し付けではなくお互いに納得する形にしたかった。そういう意味では、エネルギーは使っていたように思いますね。


書籍内でもあえて「子育て」という言葉を使わなかったように、子どもは育てるものであると同時に育つものだと思っています。もともと、そのふたつを一括りに「子育て」と断定してしまうことに抵抗がありました。


“子育て”という意識が強いと「どうにかしなくちゃ」と、ついつい思ってしまいませんか。


幼児期は別としても、成長するに従って親の介入余地は極端に下がるはず。であれば、“子育て”という意識でなく、一貫して“子どもと暮らす”という認識でいた方がニュートラルだし、その時の子どもと親の状況に応じた対応や関係性が築けると思います。


長男がN中に行きたいと言ったとき、彼の成長と意思を感じました。だから僕はそんなに迷うことなく彼の背中を押すことができたのだと思います。


■「子ども」ではなく「人生の相棒」として


——『だから声かけ、話し合う』では中学受験をめぐるやりとりのほかにも、3人のお子さんと対話の中で心地いい関係性を探る試みについて書かれています。なぜ本を書こうと考えたのですか。


【西村さん】去年の2月ごろに少子化対策の議論が盛んになったとき、経済的なサポートをいかにするかが話題の中心でした。それを聞いて、ふと「それだけでいいのかな」と違和感を持っていました。


僕は単純に子どもと過ごす時間がおもしろいなと思っています。気づかされることも多いですし、僕にとって子どもは暮らしの中で刺激や発見を教えあう相棒のような存在です。


「こういう視点で見るともっと子育てはおもしろい」と伝えられれば「じゃあ2人目、3人目も考えよう」と思ってもらえることもあるのかな、と思いました。僕の感覚としては、子どもが増えるとどんどん追加コストが減って楽になる。だから「意外と子育てはおもしろいよ」と伝えたかった。


画像提供=ソウ・エクスペリエンス
ソウ・エクスペリエンスでは、誕生日プレゼントや結婚祝いなど、幅広い用途でご利用できるギフトをラインナップしている。 - 画像提供=ソウ・エクスペリエンス

■「こうでなければならない」を疑う


——ソウ・エクスペリエンスは、2012年ごろから子連れ出社を認めるなど先進な働き方をしていますね。


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日本で唯一の“体験の総合商社”として“体験ギフト”を展開する - 画像提供=ソウ・エクスペリエンス

【西村さん】もともと子育てよりも仕事を優先する働き方に対して違和感はありましたね。特に僕らの親世代は「子どものことは妻任せ」といった考え方を持っている人が多いですよね。そういう時代だったから今批判してもしょうがないのですが、なんか嫌だな、と。


せっかく子どもがいるのだから一緒に時間を過ごしたいし、任せきりというのも違う気がする。だからある程度のエネルギーは注ぎたいと思っていました。


一方で起業はしたし、責任もあるし、単純に結果も出したい。子育ても仕事も、両方がんばりたい。欲張りなのかもしれません。


そういう中で、デジタル機器を活用するなどして利便性を享受することは、決して悪いことじゃない、という思いはありました。



西村琢『だから声かけ、話し合う 親と子の気持ちいい関係をつくる 「やってみた」と「話してみた」』(TOYOKAN BOOKS)

僕は経営者で裁量があったので、子どもがいる社員は会社に一緒に来てもいいという手段を取りました。


——著作の冒頭でも、子育てに対して「気楽に過ごそう」とメッセージしていますね。


【西村さん】「子育てはこうでなければならない」という固定観念に縛られてしまっている親が多いように思います。


僕が常々いろんなことに対して「それって本当に大事?」とは思うタイプということもありますが、もう一歩二歩進んで、角度を変えて考えてみることも大切じゃないかな、と思います。こうした思いを本にまとめたことで、ちょっとでも重たい空気が変わればと願っています。


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西村 琢(にしむら・たく)
ソウ・エクスペリエンス社長
1981年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。2005年に「体験ギフト」の企画販売を行うソウ・エクスペリエンス株式会社を設立する。妻と3人の男児(中学1年生、小学4年生、3歳)と暮らす。
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(ソウ・エクスペリエンス社長 西村 琢 聞き手・構成=ライター・市岡ひかり)

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