サプリ摂取で「人工透析が必要なレベル」まで腎機能が低下…60歳女性が直前で「シャント手術」を避けられたワケ

2024年5月2日(木)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/saengsuriya13

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■ほかの検査結果はすべて正常値で、原因がわからない


「むくみがあるんです」


神保町代謝クリニックに初診で訪れた60歳女性は、益子茂医師にそう言った。女性に生活習慣病などの基礎疾患はないものの、益子医師はいつも通り、基本的な検査を行った。すると数日後、検査所から「血清クレアチニンが異常値を示しています」と連絡があったのだ。腎機能を調べる指標の血清クレアチニンは、男性では1.09mg/dL、女性では0.82mg/dL未満が基準値であるが、その女性は基準値を大きく上回る5mg/dLだった。透析導入を検討しなければならないほどの値である。益子医師はすぐに女性患者に連絡をとり、クリニックに来てもらった。


「腎臓の機能が落ちているので、その原因を特定しなければなりません」


と説明し、膠原病、溶連菌感染症、IgA腎症など、可能性のある疾患の検査をひととおり行った。しかし、どれも引っかからない。


「それで薬の副作用を疑いました」と益子医師は振り返る。


「持病がないと言っていましたから、『一時的にでも整形外科などの医療機関で処方薬をもらっていないのか』と尋ねても、『特に他の病院にはかかっていない』と言うのです。カルシウムの値だけが多少正常域をオーバーしていたものの、ほかの検査結果はすべて正常値。けれどもこの血清クレアチニンの値は放っておけないので、透析導入を前提とし、連携している総合病院に紹介をしました」


写真=iStock.com/saengsuriya13
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/saengsuriya13

■骨粗しょう症改善のため「カルシウム」と「ビタミンD」を摂取


女性はそれまで大きな病気を経験していなかったためか、「透析」と聞いてもピンとこないようだったという。「はあ、とにかく行けばいいんですね。わかりました」と言ってクリニックを後にした。


それからしばらくして女性患者が病院での報告をしに来院した。紹介先の病院のほうからも「透析を導入する。それに伴って来週シャント手術(透析に必要な血液量を得るため、動脈と静脈をつなぎあわせる)を行います」とのこと。しかしやはり原因疾患がわからない。益子医師は気になったので、女性患者に電話をして「市販薬など自分で判断して飲んでいるものはないのか?」と尋ねると、今度は思い当たったように、「ビタミンDとカルシウムのサプリメント(以下、サプリ)を飲んでいます」と答えたのだった。



日本医師会/日本歯科医師会/日本薬剤師会(監修)『健康食品・サプリ「成分」のすべて ナチュラル・メディシンデータベース』(同文書院)

日本医師会らが監修する『健康食品・サプリ「成分」のすべて ナチュラル・メディシンデータベース』(同文書院)によると、血液中のカルシウムが正常範囲を逸脱すれば高カルシウム血症を起こし、最悪死に至る場合もある。そしてビタミンDの摂取により高カルシウム血症が悪化したり、腎疾患を引き起こしたりするリスクが記されている。女性は骨粗しょう症改善の目的で「カルシウム」と「ビタミンD」のサプリを摂取していたようだが、過量になれば改善どころか相互に悪影響を及ぼすということだ。


益子医師は、来週シャント手術を控えているような状況で、今からサプリ摂取をやめたところで何も変わらないかもしれないと思った。それでも、「とにかく今日からサプリ摂取をやめてください」と女性患者に話したという。彼女は納得し、サプリを止めることを承諾した。


■1週間ですべてが正常値に回復し、手術は中止に


そして1週間後、その女性患者がシャント手術を受けるため、病院を受診して採血を行うと、なんとすべてが正常値に回復していたという。もう治療や手術、まして透析をする必要はないと担当医が判断した。


実はこれは20年前の話。益子医師は当時、自身もサプリを摂取していた。そしてサプリは「食品の扱い」だから多少目安量をオーバーして飲んでも大丈夫だろうという軽い気持ちもあったそうだ。ところがこの一件以降、ほかにも数人の患者がビタミンDとカルシウム摂取で腎機能が悪化したのを目の当たりにし、サプリは薬と同様の構えで対処しなければならないと考えを改めたという。


筆者撮影
糖尿病専門病院神保町代謝クリニック院長の益子茂医師 - 筆者撮影

東邦大学名誉教授で平成横浜病院総合健診センター長の東丸貴信医師も、「ある種のサプリを十分な量摂取すれば効果はあるでしょう。一方で薬の副作用のように有害なことも起こり得ます」と指摘する。ある男性患者の事例を紹介してくれた。


「日常的にジムで筋力トレーニングをするような健康的な40代男性が、筋肉量維持のためプロテインを飲み始めたのです。ところが飲み始めて2週間くらいで倦怠感を自覚し、1カ月後に当院を受診しました。検査の結果、肝機能障害と軽度の腎機能障害が認められたのです。プロテインの摂取と筋力トレーニングを中止してもらうと、1カ月後の検査データでほぼ正常化しました」


■眼科や整形外科の処方薬でも油断はできない


2つの事例は、腎臓や肝臓の機能が元に戻ったからまだいいが、過度な負担で機能低下を起こせば、場合によっては元には戻らなくなる。


益子医師が再びこう話す。


「サプリや薬の代謝には腎臓や肝臓がかかわりますが、なかなか機能低下がわかりにくいのです。ある患者さんに降圧剤を投与し、1〜2カ月おきに血液検査を行って経過を観察していました。服薬してしばらくは変化が見られず、もう副作用は考えなくてもよいと安心していたのです。しかし1年後くらいにそれまでの全経過をみたところ、降圧剤による腎臓の機能低下が明らかになったことがあります」


サプリの場合も、長期的に摂取をするなら、3カ月、6カ月、1年後というスパンで注意して経過をみたほうがいいという。


「サプリは食品の扱いというように有効性は低く、安全性が高いものが多いです。薬のように有効性が高ければ、当然副作用のリスクもあがりますからね。けれども中にはビタミンDのように有効性レベルが高いサプリもありますから油断できません。また、薬などとの相互作用も考える必要があります。患者さんは眼科や整形外科で処方される薬を軽く考えがちな上、それらの科ではあまり採血検査を行いません。ですがサプリと処方薬の併用は、どの科の薬でも慎重に考えなくてはならないのです」(益子医師)


■「サプリと薬」の副作用は、医師も見落とす恐れがある


私も以前、別件の取材で、骨粗しょう症を疑われた人が整形外科でカルシウムの吸収率を上げるビタミンDを、別の内科医院から骨粗しょう症治療薬を処方され、さらに自分でもカルシウムのサプリを飲んだために、高カルシウム血症に陥って意識障害になった例を聞いたことがある。


サプリと薬の相互作用は膨大にあり、たとえ医師であっても副作用を見落とす恐れがある。多くの医師は『今日の治療薬』などの簡易なテキストで薬の作用について確認しているためだ。ハンドブックタイプなため、どうしても情報量が少なくなってしまう。先に紹介した『健康食品・サプリ「成分」のすべて ナチュラル・メディシンデータベース』(同文書院)は、私も益子医師に勧められて購入したのだが、片手では持てないほどの重さで膨大な情報量がある。


しかも、ここでは約1200の素材・成分(サプリ)についての安全性、有効性(6段階レベルで表記)、相互作用などまでエビデンスに基づき記されているのだ。もちろん医師も患者も、ひとつひとつの成分や製品を丹念に調べる手間はとれないかもしれない。けれども自分の体の状態には常に気を配り、少しでも異変を感じたら医師や薬剤師に相談してほしいと思う。


「『サプリメント+副作用』『サプリメント+薬物相互作用』などのキーワードを入れてアプリを活用して積極的に調べることも必要です」と益子医師。


■「廃棄物を商品化したサプリ」も存在する


また商品を選ぶ際、成分と同様にサプリの「品質」についても気をつけたい。


なかには廃棄物を商品化したものがある、とある医師が教えてくれた。


「コラーゲンは鮭の鱗からも作られます。鮭缶を製造する時に捨てられる部分ですね。牡蠣の殻などは焼けばカルシウムになるし、ホタテやカニ、エビの殻、廃鶏から作られるサプリもある。だからといって品質が悪いわけではありませんが、含まれる成分や量だけでなく、オーガニックかどうかなどを含め産地や材料も大切です」


50年以上の薬剤師経験をもつ西澤啓子氏も、「薬のような厳しい基準がないため不純物が含まれていないかも気がかり」と話す。


筆者撮影
薬剤師の西澤啓子氏 - 筆者撮影

「かつて輸入されたダイエット食品に食欲を抑える向精神薬が含まれていて旧薬事法違反で摘発された事件がありました。よくみかける『しじみエキス凝縮のサプリ』には人に有害な重金属が取り除いてあるでしょうか。一方で有効成分はどれほど含まれているでしょうか。サプリは薬のような厳しい記載義務はありませんが、良心的な製造会社は第三者機関で商品を審査し、有害でないと認められた数値や、有効成分のデータなどを公開しているはずです」


■効果や安全性が保証されているわけではない


良くも悪くも、サプリの効果は科学的に全てが明らかになっているわけではない。国が科学的な根拠と効果を認めた「薬(医薬品)」とは違い、効果や安全性が保証されているわけではないのだ。『健康食品・サプリ「成分」のすべて ナチュラル・メディシンデータベース』をめくっていると、「有効性レベル」の表記に、「確実に効きます」に分類される最高ランクの成分が少ないことに気づく。


大切なことは何かを治そうとサプリに頼るのではなく、今の自分に足りないものを補い、少しだけ良い状態にしていくという視点だろう。そのためにはサプリの有効性・副作用、他薬との相互作用とともに、たとえ今は健康な体であっても、長期的に摂取するならば定期的な血液検査などの自己管理が求められるのかもしれない。


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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)など。新著に、『野良猫たちの命をつなぐ 獣医モコ先生の決意』(金の星社)と『老けない最強食』(文春新書)がある。ニッポン放送「ドクターズボイス 根拠ある健康医療情報に迫る」でパーソナリティを務める。
過去放送分は、番組HPより聴取可能。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)

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