部下のやる気を削ぎ、離職させてしまう…デキる上司ほどやらかす"最適なアドバイス"で部下を潰すセリフ

2024年5月14日(火)7時15分 プレジデント社

■LESSON1 部下が頼りない……「任せる不安」を解消しよう


部下の失敗を恐れなくていい

かつての私は典型的な「任せられないリーダー」でした。前職のリクルートで駆け出しの営業マネジャーだった頃は、仕事を任せるどころか、先頭を切って一人で猛烈に働き、メンバーにも同じことを求めていました。その結果、部下から「周りを見てください。誰も楽しそうに仕事をしていませんよ」と苦言を呈されてしまったのです。


その後の反省から、数多くの優れたリーダーを観察し、共通するセオリーを見出しました。実は、能力が高い人やキャリアが長い人ほど、部下に仕事を任せられない傾向があるのです。


リーダーが仕事を任せられないと感じる理由は大きく3つあります。


第1の理由は、失敗を回避したいからです。「部下に任せると上手くいかないかもしれない」という不安を感じたことはありませんか。責任感が強い人ほど、部下が失敗して誰かに迷惑をかけたり、チームや自分の足を引っ張ったりすることを心配してしまうのです。


「失敗への不安」を解消することが、任せるための第一歩です。部下にとっては失敗も貴重な経験の一つ。いくら言葉で教えても、実際にやってみることで得られる学びには敵いません。むしろ、失敗もさせたほうがよいのです。


ただし、やみくもに丸投げして失敗させろというわけではありません。まずは「ミス」と「失敗」を分けて考えましょう。そして、致命的な失敗を回避するためにリスクマネジメントをするのです。


具体的には、想定されるリスクを洗い出し、それぞれの発生確率と影響の大きさ(挽回可能なミスなのか、取り返しのつかない失敗なのか)を評価します。そして、予防策と、発生した場合の事後対処法を考えておきます。


たとえば、あなたが担当している大口顧客を部下に引き継ぐ場合、「短期的に売り上げが落ちる」というリスクがあります。発生確率は5段階で4、影響の大きさは2とします。この数字はあくまであなたの主観で構いません。発生確率が高いのなら、予防策を立てます。詳しい引き継ぎ資料、補助ツールを作るなどの方法が考えられます。


「担当を変えてほしいとお客様に言われる」というリスクもあります。発生確率としては1だとしても、影響の大きさは4。事後対処法として、先輩とのペア制にするなどということをあらかじめ考えておくとよいでしょう。


このように、任せる前にリスクの大きさと対処法を整理しておくと、漠然とした不安がなくなり、「任せてみよう」と決断することができるのです。


「事足りる」ならOKを出そう

任せられない第2の理由は、ついつい完璧を求めてしまうからです。


「部下に何かをお願いしても、いつも出来がイマイチで、結局は自分で手直ししないといけない。面倒なので最初から自分でやることにした……」。このパターンに陥っている人が多いのです。


まずは、「部下の仕事が100点ということはありえない。70点で上出来」と肝に銘じてみましょう。


資料作成を任せたら、内容は良いけれども、読みづらいフォントや色が使われていたとします。この「足りない30点」が気になっても、自分で直したり、いちいち指摘したりしてはいけません。部下は、「細かい人だな。自分なりに工夫してもムダだ」と思い、やる気を失います。「これで事足りるかどうか」という1点だけを重視し、事足りるならOKを出しましょう。


細かいところに気がつく人は、特に「体裁を整える」ことに重きを置きがちです。しかし、体裁への過度なこだわりはムダなコストになりえます。


もし重要な部分が足りていないなら、すぐに指摘せず、対話を通して本人に気づいてもらうのがベストです。「こんな小さい字じゃ読めないよ」ではなく、「50代以上のお客様向けに作ってくれたんだね。どうしたらもう少し見やすくできるかな」という具合です。


部下に仕事を任せられない第3の理由は、自分でやったほうが早いから。確かにその通りです。しかし、マネジャーには物事を中長期で考える視点が求められます。たとえ話をしましょう。


あなたがリンゴを剥くスピードは、部下の3倍だとします。目の前に3つのリンゴがあったら、あなたが剥いたほうが早いのは間違いありません。でも、リンゴはこれから300個に増えるかもしれません。いまから部下にリンゴを剥く経験をたくさん積ませて、部下の作業スピードを上げたほうが賢明でしょう。職場でも同じで、「自分でやったほうが早い」という考えで乗り切れるのはいまだけです。今後、業務が増えれば、確実に回らなくなります。


部下に仕事を任せると、最初は教える手間がかかります。でも、それは「最初だけ」と割り切ってください。


「経験曲線効果」という理論があります。ほとんどの業種では、新しい作業に従事するときでも、経験を数回積むだけで習熟度が当初の2倍になり、教育投資をすれば生産性はさらにアップするというのです。任せるのが不安でも、リスクマネジメントさえできていればなんとかなるものです。


部下は必ずミスをします。あなたもたまにはミスをします。「致命的なミスでなければ、挽回すればいい」「必ず挽回できる」と考え、「適当力」を高めましょう。


鉄則1
70点でOK。適度なゆるさがカギ

■LESSON2 自分でやったほうが早くても任せるべきワケとは


プレイング3割、マネジメント7割

なぜ、わざわざ「任せる力」を磨くのか、改めて考えてみましょう。自分がラクになるから、任された人が成長できるから——実は、それだけではありません。


上級管理職の多くがマネジメント専任のマネジャーである一方で、部下と同様の仕事を担いながらマネジメントも兼務する課長級の管理職を「プレイングマネジャー」といいます。部下を1人以上持つ人のうち、実に9割近くがプレイングマネジャーなのです。


部下のマネジメントをしながら、自分のプレイング業務もこなさなくてはならない。もっと人に仕事を任せたいが、まだ任せられない。メンバーと対話もしなければならないが、時間がない……そんな“忙しすぎるリーダー”が圧倒的に多いのです。


興味深いデータをひとつ紹介します。プレイングマネジャーが自分のプレイング業務に割く時間を30%程度に抑え、自分の業務時間の70%をマネジメントに充てていると、チーム全体の生産性が最も高いというのです。反対に、プレイング業務が5割を超えると、チームパフォーマンスが急落することも判明しています。


もしあなたが業務時間の半分以上をプレイングに費やしているなら、そのプレイング業務はどんどん部下に任せましょう。そのかわりに、もっとマネジメント業務に時間を使うのです。そうすれば、チーム全体のパフォーマンス向上につながります。


ただしこの調査では、専任マネジャーが率いるチームは相対的にパフォーマンスが低い傾向が見られました。つまり、部下と同じフィールドに立っているプレイングマネジャーこそ、大きな成果を上げる可能性を秘めているのです。


優れたマネジャーは、部下に任せるべき業務と、自分がやるべき業務をしっかりと見分けています。やり方や進め方が完全に決まっているもの、他部署や社外との連携が必要ないもの、ある程度の職務経験があれば一人で遂行できるもの……これらの“基本業務”はマネジャーが行う必要はありません。具体的には、会議の進行、会議資料の作成、既存顧客のサポートなどは積極的に部下に任せていきましょう。


やる気がない人にも仕事を任せるコツ

「頼れる部下がいれば任せたいのだけれど、人材がいない」と悩んでいる人もいるでしょう。自ら提案をすることもなく、言われたことだけをやる……そんな部下にこそ、ルーティン業務以外の新しい仕事を任せてみましょう。主体性や積極性に欠ける人を変えるためには、任せてみるしかありません。


まずは小さな仕事を任せて、小さな成功体験を積ませてください。たとえ出来が好ましくなくても、「できたこと」「得られたこと」に注目してポジティブなフィードバックを与え、「できなかったこと」は「伸びしろ」であると伝えましょう。期待通りの成長が見られなくても、少なくとも半年は時間をかけて粘り強くコミュニケーションしてください。幼い頃から、「○○できないと褒めてもらえない」「××できなかったら叱られる」という「減点主義」の発想で過ごしてきた人には、挑戦を恐れるマインドが染みついています。失敗しても、何か恐ろしいことが起こるわけではなく、むしろ勉強になる——部下がこれを実感すると、徐々に自己効力感が上がって、積極性と主体性が高まります。


近年、年上部下への接し方に悩んでいるマネジャーも増えてきました。業務には精通しているけれど、意欲が低く、重要な局面でもどこか人ごと。そんなベテランへの任せ方にも、コツがあります。


マネジャーであるあなたが、「どうせ本気でやってくれない」「定年までやり過ごそうとしているだけだ」とあきらめればあきらめるほど、ベテランはその低い期待通りにパフォーマンスを下げていきます。逆に、やる気がなさそうな人にあえて重要な仕事を任せて、「あなたは、これくらいできるはずだ」と高い期待を示し続けると、徐々にモチベーションが上がってきます。


もっと仕事を任せたいけれど、部下たちもすでに多くの業務を抱えていて忙しいという場合もあるでしょう。そんなときは、ムダな仕事を削減することもあわせて意識しましょう。任せる前に部下の業務を見直して、不要なものがあればやめてもらうようにします。大事なことを任せる場合は、「いまやってもらっていることはいったん後回しでもいいと思うけれど、どうかな」「それは○○さんがやらなくてもいいから、別の人にお願いしようか」といった声かけが必須です。こうすれば、任せられる側の業務負荷が下がり、残業のコストや過労のリスクも抑えられます。


ムダな業務かどうかを判断するときは、前例にとらわれず、明確な基準に照らして判断するべきです。私が推奨している基準は次の3つです。「その業務をやめたら、①顧客満足に悪影響が出るか、②従業員満足に悪影響が出るか、③コンプライアンス上の問題が発生するか」。このうちひとつも当てはまらないものは、たとえ長年続いている慣例でもムダと考えます。日報の作成や、情報共有のためだけのミーティングなどもムダかもしれません。不要な業務を見直し、チーム全体の仕事量を削減することができれば、マネジャーであるあなたはもっとメンバーに任せやすくなるはずです。


マネジャーがやるべき3つの業務とは

任せられないリーダーのなかには、「部下に任せすぎると、自分の仕事がなくなってしまう」と思っている人もいます。彼らの本音は、「任せたくない」。プレーヤーとして自分の見せ場を失いたくない、自分でやった場合のベターな成果を手放したくないのです。かつての私がそうでしたので、その気持ちはとてもよくわかります。


しかし、マネジャーの本当の見せ場はマネジメント業務。なかでも重要なのが“改善・変革業務”です。


改善・変革業務は、3つのレベルに分けられます。レベル1は、いま起こっているネガティブな状況を改善する仕事です。メンバーが忙しくて残業が多すぎる、売り上げが足りない、クレームが頻発している……。現時点で表面化している問題は、いますぐマネジャー自身が手を打たなければいけません。


レベル2は、将来起こりそうな問題を予防する仕事です。たとえば、今後新しいプロジェクトが始動して忙しくなることが予想されるなら、追加の人員を確保する。ベテラン社員Aさんにしか動かせないシステムがあるなら、Aさんの休職や退職といった事態に備えて、他のメンバーに操作方法を引き継いでもらう。このように、半年、1年先を見据えて、潜在的な問題に先手で対処するのもマネジャーの仕事です。


優秀なマネジャーは、レベル3にも着手します。たとえば、いま人の手で行っている業務をAIに任せられないか、他社と連携して業務の一部を効率化できないか……こういったことを検討するのです。レベル3は、緊急度は低くても、将来的に大きな変革につながる仕事です。社内の上級管理職はもちろん、社外とも意見交換、協業することが求められる、マネジャーならではの見せ場と言えるでしょう。


忙しすぎるプレイングマネジャーの多くは、日々の時間配分に頭を悩ませています。まずは“基本業務”を部下に任せることで、“改善・変革業務”に取り組む時間を捻出しましょう。あなたがプレーヤーとして個人の成果を上げることよりも、改善と変革を進めることを優先すれば、将来的にチームメンバー全員がラクになるのです。


鉄則2
マネジャーが任せれば組織全体がラクになる

■LESSON3 部下が自分から動いてくれる「任せ方」とは


4つのポイントをセットで伝える

「任せる」と「丸投げ」は違います。


「来月の説明会、よろしく。とりあえず思った通りにやってみて。何かあったら相談してね」。


任せたつもりでも、これは丸投げです。部下が混乱するだけではなく、投げたほうも状況が把握できなくて困ることになります。仕事を丸投げした場合、上長や他部署から「あのプロジェクトはいまどういう状況?」「○○さん大変そうに見えるけど、大丈夫なの」と聞かれても、すぐに応答できません。一方、仕事を正しく任せた場合、上司は部下がやっている作業を具体的に把握することができるはずです。


仕事を任せるときには、まず、期限・優先事項・目的・ベストな成果を明確に伝えてください。たとえばあなたが採用担当者だとして、会社説明会を部下に仕切ってほしいときは、次のように4つのポイントを揃えて伝えます。


「来月の説明会を任せたいんだけど、まずはスライドを○日までに作ってもらえるかな(期限)。今回は特に業界未経験者に向けて仕事内容を詳しく紹介してもらいたいんだよね(優先事項)。採用人数の目標を達成するために、他業界の人にも広く興味を持ってもらわないといけないから(目的)。この説明会をきっかけに、10人以上に応募意思を表明してもらいたい(ベストな成果)」。


次に、「毎週月曜日の10時から10分くらい、口頭でちょっと進捗を聞かせてもらっていい?」というように、定期報告をいつどのように行うかを部下と話し合って決めます。このとき、手助けすべき部分があるかどうかもすり合わせてください。部下が自ら報連相に来ることは期待せず、最初から定期報告を業務に組み込みましょう。


さらに、「不明な点」と「不安な点」を別々に尋ねることをおすすめします。両者は一緒にされがちですが、あえて切り分けて質問することで、部下の本音を引き出しやすくなり、適切なサポートができます。


部下のためを思う「アドバイスぐせ」に注意

仕事を任せたあと、定期報告の場では、「対話」を意識してください。部下の主体性を高めるためです。このとき、コーチングのGROWモデルというコミュニケーションの型が便利です。


GROWの一つ一つのステップを覚える必要はありません。要は、“一緒に状況と原因を確認し、複数の方法の中から、自分の意思で選んでもらう”ことがコツです。


「こうしてみたらいいんじゃない」と提案したり、「昔はこうしていたよ」と自分の経験を話したりと、よかれと思ってアドバイスしている人は多いはずです。私はさまざまな企業でマネジャー向けの研修を提供していますが、こうした「アドバイスぐせ」のある上司は、いま主流になっている1on1(ワンオンワン)面談でことごとく失敗し、部下を伸ばすどころか、やる気を削いでいるのが現実です。上司にとってはアドバイスのつもりでも、部下は指示だととらえてしまうからです。


人間が主体性を持つのは、「自己決定感」を感じているときです。任せた部下に自分で考え、自分で決めてもらう必要があります。


逐一、細かいアドバイスを繰り返すと、それはマイクロマネジメントになります。マイクロマネジメントをされると、「言われた通りにやっておこう」という発想になり、部下の主体性は著しく損なわれます。さらに最も深刻な問題は、優秀なメンバーの離職です。自分で考える能力を持つ人ほど、主体性を発揮できない職場を嫌って辞めていくのです。


もちろん情報提供は必要です。「ほかの事業部ではこうしているらしい」「一般的にはこういう考え方もある」というように、考える材料になる情報はどんどん与えてください。ただし、情報提供はアドバイスと紙一重。部下が、「じゃあ私もそうします」と言ったら、「それはあくまでも向こうの事業部の話であって」「大事なのはわれわれがどうすべきかだから」といったん突き放したり、「どうしてそう思った?」「他部署のやり方のどこがいいと思った?」というように、思考を深める質問をしたりしましょう。「こうしたいと思う」という力強い意志が感じられる言葉が部下の口から出てくるまで対話を重ねることが重要です。


■ベテランには「結果」を求めよう


部下によっては、GROWモデルによる「コーチ型」とは別のコミュニケーション方法をとったほうがいい場合もあります。


右も左もわからない新人には、一から十まで細かく教える「指示型」の指導が必要です。「なぜ(Why)、何を(What)、誰に対して(Who)、どこで(Where)、いつ(When)、どのように(How)するのか」という「5W1H」をできるだけ丁寧に具体的に伝えます。


不明な点・不安な点がないかを確認したら、最後に「復唱」してもらいましょう。「いろいろとお願いしちゃったけど、言い間違いとか伝え忘れがあるかもしれないから、念のために復唱してもらっていい?」という言い方をするのがコツです。


経験豊富な年上部下には、「委任型」コミュニケーションが適切です。最近では、自分自身よりもプレーヤーとして能力が高く、キャリアも長い部下をもつマネジャーも珍しくありません。熟練のベテラン部下には、方法は任せ、結果を求めてください。「あなたには、このレベルまでやってほしいと思っています。大丈夫ですか?」依頼時はこれだけで十分。必要があればサポートをすることを伝え、定期的に報告をしてもらいます。


ただし、「指示型」「委任型」を使うべき対象はほんの一握りと考えてください。ほとんどの部下に対しては、対話を通じて気づきを与えることがマネジャーの役割です。仕事を任せるときにも、任せたあとでも、部下に考えさせるコミュニケーションを意識しましょう。


鉄則3
すぐにアドバイスはしない。「自己決定感」を持たせよう

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伊庭 正康(いば・まさやす)
らしさラボ代表
1991年、リクルートグループ入社。営業部長、フロムエーキャリア代表取締役を歴任後、2011年に研修会社らしさラボを設立。YouTubeチャンネルでも営業のノウハウを配信中。近著に『超効率的に結果を出す テレアポ&リモート営業の基本』(日本実業出版社)がある。
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(らしさラボ代表 伊庭 正康 構成=奥地維也)

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