「あの大学とあの高校が?」連携を発表した中学受験校の倍率を跳ね上げる"高大連携"の不都合な真実

2024年5月15日(水)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

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中学受験校選びは難しい。高校と大学が協定を結んで相互の交流を深める「高大連携」をしている学校はお得なのか。プロ家庭教師集団・名門指導会の西村則康さんは「高大連携には、早い段階で大学について知ることができるというメリットがある。ただし、推薦枠をアテにして中学受験校を選ぶのは勧められない」という——。
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■高大連携の本来の目的は「共に学び合う」こと


近年、高校と大学が協定を結ぶ「高大連携」に注目が集まっている。「高大連携」とは、もともとは大学とその付属校間を中心に行われてきた。これらの高校に通う生徒たちの多くは、そのまま内部進学するため、高校生のうちから大学の講義を聴けたり、その大学に通う大学生と交流を深められたりと、一足先に大学生気分を味わうことができた。また、学校側も学部選択のミスマッチを防ぐことができた。このように、高大連携の目的は、大学と高校が共に協力を図りながら出会いの場を作り、「学び合う」ことだった。


しかし、昨今注目されている「高大連携」は、それとは少し中身が異なる。まず、付属高校との連携とは別に、いろいろな大学がいろいろな高校と手を組み始めた。例えば立教大学は付属校に立教池袋と立教新座があるが、それとは別に香蘭女学校と高大連携を協定している。それによって香蘭女学校の偏差値が急激に上がった。また、最近では同じく付属校を持つ法政大学が三輪田学園と高大連携を結び話題を呼んだ。両校がどのような経緯で連携を結んだかは分からないが、校舎が道を挟んだ向かいにあるという立地も関係しているのではないだろうか。


「高大連携」は1校のみとは限らない。青山学院大学や上智大学などは、同じキリスト教に基づく学校として複数の中高一貫校と高大連携を進めている。


ではなぜ今、「高大連携」が急速に進んでいるのか?


その理由は、本来の目的であった「共に学び合う」とは、実は違うところにある。


■大学側のメリット「早い段階で質のいい生徒を確保できる」


一番の目的は、生徒確保だ。今の時代、ほとんどの子供が大学へ進学しているが、少子化の影響で高校生・大学生の数は減少の一途をたどっている。大学にとっては、多くの学生を集めることが、経営にそのままつながってくるので、どの大学も生徒確保に必死だ。そして、できれば早い段階で、質の高い生徒を手に入れておきたいと始まったのが、昨今の「高大連携」なのである。


高大連携は高校生のうちから大学の専門的な講義を聴けたり、大学側も各学部の内容の理解を促す場を提供できたりと「お互いを知れる」というメリットはもちろんあるが、それ以上に魅力なのは必然的に指定校推薦の枠が得られることだ。


ただ、大学付属校と大きく違うのは、その枠が少ないこと。例えば上智大学では複数の学校と高大連携を組んでいるが、学校にとっては推薦枠が3人しかないところもある。こうした推薦枠が取れる子というのは、校内でも優秀な生徒であることが鉄則。平均評定の高い順からその権利を得られるため、どれか1つの教科が抜きんでているよりも、すべての教科において優秀な成績を収めているバランスのいい子、授業態度の素晴らしい子が選ばれる形になる。つまり、大学側からすれば、早い段階で質のいい生徒を確保できるというメリットがあるわけだ。


■高校側のメリット「進学実績を上げやすくなる」


一方、高校側にもメリットがある。近年、私立大学の定員厳格化が行われたことで、有名私立大学の受験が難化し、非常に厳しい戦いになっている。そんな中、有名私立大学の推薦枠があるということは、進学実績を上げたい高校にとっては頼もしい武器となる。


写真=iStock.com/show999
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昨今、首都圏では中学受験熱が高まっているが、中学受験を選択する家庭の多くが、まず何を見て学校を決めるかといえば、その学校から何人の生徒が有名な大学へ進学しているかという進学実績だ。中学受験をする理由は、中高6年間伸び伸び過ごさせたい、面倒見のいい学校に入れたい、海外留学体験をさせたいなどいろいろあると思うが、進学実績をまったく無視して選ぶという家庭はほとんどいないだろう。少子化は私立中高一貫校の経営にも大きな影響を与えている。つまり、進学実績を上げていくことが、存続の危機を救うことになる。


このように、大学側にとっても、高校側にとっても生徒確保は切実な問題なのだ。


■推薦枠を手に入れるためのハードルは高い


こうしたことから、近年は「あの大学とあの高校が?」という話題が注目されている。そして、中学受験においても「高大連携」はその年の大きなトピックスになり、連携した直後の受験倍率は跳ね上がる。


でも、ここで忘れてはいけないことがある。確かにその中高一貫校へ進学すれば、連携しているその大学の推薦枠を手にするチャンスはある。しかし、その人数はとても少ないということを頭に入れておいてほしい。あなたのお子さんがその特権を得られるとは限らないということだ。いや、むしろ入ってから相当頑張らなければ、難しいだろう。仮に推薦枠が取れる学力レベルだとしたら、かなり学力に自信を持っていい。


それなら推薦枠を頼るのではなく、一般入試で難関大学をチャレンジしても十分戦えるはずだ。平均評定が高いということは、すべての教科がまんべんなくできるという証でもあり、難関国立大学を狙うことだってできる。選択肢はいくつもあるということを知っておいてほしい。


■高大連携だけをアテにして中学を選ばない方がいい


それともう一つ注意点がある。昨今、急速に増えている高大連携だが、この関係は付属校のように永遠に続く保証はない。双方にメリットはあるとはいえ、どちらの力が強いかといえば、やはり受け入れる側の大学の方が強くなる。


ある高校に推薦枠を設けたものの、その制度を使って進学した生徒が、大学に入ってから成績不振になって留年をしたり、退学をしたりといったことが続くと、その高校の推薦枠が減ったり、もしくは消滅してしまったりすることもあり得る。だからこそ、高校側もちゃんとした生徒を送り出すことに必死なのだ。でも、卒業後、どんな大学生活を送るかは分からない。ただ、母校の後輩のために頑張るという人は、まずいないだろう。つまり、いつ状況が変わるか分からない危うさも持ち合わせているのだ。だから、これだけをアテにして中学受験校を選択しない方がいいだろう。


■指定校推薦との違いは「学び合いの場」


ここまで読んで「?」と思った人はいないだろうか。そう、「だったら、高大連携と指定校推薦の違いは何?」という疑問が浮かんだはずだ。提携を結んでいる大学の「推薦枠」を持っているという点は同じだからだ。だが、指定校推薦の場合は、推薦枠が設けられているだけで、大学と高校の双方の間で、学び合いの場は設けられていない。


私は「高大連携」の良さは、本来の目的である「学び合い」ができる点にあると思っている。高校生にとって大学進学は大きな目標ではあるけれど、実はそこがどんなところなのか、自分は何を学び、何になりたいのかイメージが湧かないまま、受験勉強をしている人は少なくない。そんな高校生に「大学ではこういうことを学ぶんだよ」「入試は理系と文系とに分かれるけれど、文系でも理系の知識は必要になるんだよ」「ひとくちに工学部といっても、こんなにたくさんの分野があるんだよ」といったことを知ってもらう。そこに大きな意味があるのだ。


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連携している大学を目指すかどうかは別として、高校生の早い段階で「大学について知ることができる」ということが大きく、自分の将来進む道を考えるきっかけになることが最大のメリットなのだ。「お得感」がばかりが話題になりがちな高大連携だが、本来の目的を正しく知ることが、実はとても大事なことだと感じている。


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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。
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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康)

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