バフムトでウクライナ軍前進、ワグネル殲滅作戦を遂行か

2023年5月17日(水)6時0分 JBpress

 今、要衝バフムトでのウクライナ軍の戦いが変わっている。

 戦いの目的には、要域を占拠する、あるいは敵軍を殲滅するというものがある。

 バフムトでの戦いでは、ロシア軍はこれまでこの地を占拠するという狙いで戦っていた。

 一方、ウクライナ軍はロシア軍に攻撃を強いて、犠牲を払ってでも攻勢を続けさせる戦法を採っていた。

JBpress『ロシア軍バフムト攻勢は大敗北の予兆、クリミア奪還許す可能性大』(2023.3.8)参照

 ロシア軍は、戦果を強調するために、バフムトという要衝を占拠しようと、多くの犠牲を払ってでも攻撃を続行した。

 結局、5月9日の対独戦勝記念日までに、その目標は達成できなかった。

 一方、ウクライナ軍は要衝バフムトを守り切り、この地で後退してはロシア軍を引き込み、無謀に攻撃を繰り返すロシア軍の兵を多く殺傷した。

 ウクライナ軍の2つの目標は、十分に達成できた。

 その後、5月10日を前後して、これまでとは戦闘様相が変わってきた。

 ウクライナ軍の戦い方を見ていると、バフムトの奪還だけではなくバフムトで攻撃を続けるプリコジン氏が率いるワグネル部隊を、この地で包囲殲滅しようとしているようなのだ。


1.バフムトに引き付けられるワグネル部隊

 ロシアのワグネル部隊は、あともう少し攻撃を続ければ、バフムトを完全に占拠できるまでに至っている。

 それは、ワグネル部隊が何が何でも目標を奪取しようとする意気込みで、攻撃を継続しているからだ。

 ワグネル部隊はこれまで両翼包囲作戦を用いて戦っていた。

 圧倒的な戦力なら両翼包囲も可能なのだが、圧倒的な戦力はなく、これまで集めた兵力は攻撃し続けるうちに消耗してきた。

 このため、ワグネル部隊の戦いは、『バフムトの肉ひき機』とも揶揄されている。

 それでも攻撃を継続して、4月11日には約80%を支配下に置き、残るは20%となった。

 もう少しでバフムトを完全に占拠できるところまできているので、ワグネル部隊としては、是が非でもその20%を占拠して「要衝バフムト占拠」という実績を作りたい。

 ワグネルの現地指揮官が部下に対して、「あともう少しだ、死力を尽くして頑張れ」と言うのは当然のことだ。

 ここにきて後方に下がるという行動方針はあり得ない。ここまで犠牲を払って戦ってきたわけだから、後退などできるわけがないのだ。

 しかし、この状況を客観的に見ると、ロシアはここに引き付けられてしまっているようにも思える。


2.両隣がいなくなったワグネル部隊

 ワグネル部隊は、自軍の目の前だけの戦いを見て一途に戦い続けてきた。今、周りを見ても両隣はいない状態だ。

 ロシア軍はこれまで、バフムトの市街地のほかにバフムトの北西のヴァシリフカやボフダニフカで、南部ではクデュミウカやクリシチウカでも攻撃を行っていた。

 ところが、ウクライナ軍の攻撃を受けて、南部では5月9日頃から、北西部では5月12日頃から、後退し始めた。

 ロシア軍のこの後退は、防御部隊が完全に瓦解(部隊がバラバラに分解し、戦闘機能を完全に消失すること)したのではなく、ウクライナ軍の攻撃に押されて後方の陣地に入ったということのようだ。

 その中には、指揮所が破壊されて瓦解している部隊も一部ある。

 ロシア軍は、ウクライナ軍の局地的な攻勢に押されて、さらに後方へ後退する可能性もある。


3.ウクライナ軍の戦い方

 バフムト市街地では、ウクライナ軍は攻撃を続けるワグネル傭兵軍を待ち受けて撃退し、また後退しては待ち受けて撃退し、ワグネル軍を減殺してきた。

 それでもワグネル軍は引き続き攻撃している。

 北西部では、ロシア軍がウクライナ軍陣地を何度も攻撃しては、何度も撃退されてきた。戦線はほとんど固定されている。

 南部でも同様に、ロシア軍は攻撃し撃退されてきた。

 ところが、5月に入り、逆にロシア軍がウクライナ軍から攻撃を受けて、一部後退したのだ。

 引き続き後退するのかどうかは、不明である。

 この地で現在、反撃部隊が多く増強されたのか、一部増強されたのか、あるいは現在戦闘している部隊が新たな部隊と交代して攻撃を実行したのかは分からない。

 この状況で、ワグネル部隊を包囲殲滅することは可能なのか。


4.バフムトでのロシア軍包囲殲滅作戦

 ウクライナ軍が、この地で大反攻作戦ではなく、予備部隊の一部を投入してロシア軍の後退に乗じて、包囲作戦を追求する可能性が出てきた。

 ウクライナ軍の包囲作戦はこうだ。

バフムトでのワグネル部隊を包囲殲滅する作戦イメージ

①②市街地では、ワグネル部隊との戦闘を継続する、できるかぎり引き付けておく。

④⑤北西部では、市街地を攻撃するワグネル部隊に対して側背から攻撃する。

 ワグネル部隊を簡単に後退させないためには、ウクライナ軍はワグネル部隊への攻撃を継続し、現在の接触線から離脱させず、引き付けておくことが必要である。

 市街地と北西部で戦うワグネル部隊を逃がさないことだ。

③南部では、クリシチウカの旅団司令部が破壊され、指揮官などが負傷したという情報がある。

 クリシチウカやクデュミウカのロシア軍部隊は後退した。後退後、次の陣地で防御するのか、引き続き後退するのかは、現在まだ不明である。

④⑤この状況でウクライナ軍は、バフムトの南部の地域に一部の増援を投入して、戦闘を継続しているワグネル部隊を南から退路を遮断するように包囲する。

 ワグネル部隊は、退路を遮断され兵站連絡線を切断されたならば、犠牲を払って戦いつつ後退行動を行うか、戦いを諦めて降伏するかであろう。

 このようにして、バフムトを攻撃する部隊がウクライナ軍に包囲殲滅された場合、ロシアにとっては、極めて不名誉なことである。

 また、そのことがロシア全域に知らされることになるだろう。

 そして、このワグネル部隊の殲滅は、ウクライナ領域内でのロシア軍の敗北となり、ウクライナ軍大反攻の序章となる。


5.ウクライナ軍反攻の狼煙

 ザポリージャ州やへルソン州でのウクライナ軍の動きに関しては、この1か月以上、情報統制されているために情報は全く入って来ない。

 おそらく、クリミア半島奪還およびアゾフ海へ進出するという当初の目的と情報統制の状況からみても、この地で大反攻が始まる可能性が高い。

 ウクライナは、やっと英国から空対地長射程ミサイル「ストーム・シャドウ(射程250キロ以上)」を受領し、戦闘機への搭載のための改修を終了している。

 実際にルハンシク市の工場施設の破壊に使用したようだ。

 クリミア半島、へルソン州やザポリージャ州のロシア軍守備部隊を混乱させ、不安な心理状態にするためには、クリミア半島からロシアに後退するルートを破壊することが最も効果が大きい。

 後退経路は、メリトポリからマリウポリそしてロシア領土へつながる陸路、そして最終的に命綱となるのはクリミア大橋だ。

 ウクライナ軍が狙うのは、クリミア大橋だ。

 ウクライナ空軍は、クリミア大橋に向けて「ストーム・シャドウ」を数発同時に発射して破壊するするだろう。

 これは、反攻の狼煙でもあり、最大のターニングポイントとなる。

筆者:西村 金一

JBpress

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