ライオンズ・山川穂高が認識できていない罪の重さ、そして悲しき能天気ぶり

2023年5月15日(月)6時0分 JBpress

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 今年3月のWBCで優勝した侍ジャパンのメンバーで、プロ野球・西武ライオンズの山川穂高内野手(31)が、知人女性に対して性的な暴行に及んだ強制わいせつ致傷の容疑で被害届が受理され、捜査が進んでいるという。「文春オンライン」が伝えている。


女性が下半身から出血しているのに「無理やりではない」?

 記事によると、昨年11月に20代の女性と都内で食事をした後、港区のホテルで女性を無理やり押し倒し、衣類を脱がし、膣やその他の下半身などから出血するほどのけがを負わせたとされる。山川本人は取材に、ホテルに行ったこと、女性にけがを負わせたことは認めているが、「無理矢理」であったことは否定している。

 この件が11日に報じられると、翌日には出場選手登録を抹消され、山川は試合には出ていない。

 だが、この件に関する報道を見る限り、これがどれだけ深刻で重大な事態なのか、本人はおろか、球団もプロ野球関係者も理解できていないようだ。

「文春オンライン」の記事では記者の直あたりに、警察から聴取を受けていることも認め、「無理矢理」は否定しているが、詳しい経緯については双方の弁護士が話し合っていることを理由に言及を避け、こう語っている。

「僕としてはもちろん不起訴になる事案であろうと思っている。ただ、相手が納得していない部分もあり、相手が弁護士をたてているので僕もちゃんと弁護士をたてて。球団にもそれは説明していますし」

「弁護士と話がついたときに、僕の口から説明する場を持つつもりですし」


示談できたとしても罪の重さは変わらず

 どうも山川は勘違いしているようだ。

 強制わいせつ罪は、2017年に刑法が改正され、親告罪ではなくなっている。

 親告罪とは、被害者による告訴がなければ起訴することができないと定められた犯罪のことだ。だから、被害者と示談が成立するなどして、被害者が告訴を取り消せば、起訴されることはなかった。それが親告罪ではないとなると、捜査当局の判断で罪に問われることになる。カネを積んだり、謝ったりすれば済む話ではない。検察の統計によれば、2020年に強制わいせつで逮捕された被疑者のうち約92%が勾留されているというデータもある。

 さらには、強制わいせつを含む性犯罪はここ数年急増していて、日本の治安を悪化させる要因ともなっている。

 ゴールデンウィーク明けの先週は、東京・銀座の高級腕時計店に、人目も憚らず白い仮面で顔を隠した強盗が押し入ったり、中学校教師が殺人容疑で逮捕されたり、物騒な事件が相次いだ。これを受けて、私は日本の治安の悪化について事情をまとめている(「ルフィ」が逮捕されても相次ぐ強盗、教師の殺人、日本の治安は崩壊したのか)。

 そこでも言及していることだが、警察庁では治安情勢の観察の指標として「重要犯罪」を定めてその数値を毎年まとめて公表している。この数によって、治安情勢の良し悪しの目安になる。「重要犯罪」の中には、殺人、強盗、放火、略取誘拐・人身売買といっしょに強制性交等、強制わいせつが含まれる。

 昨年の「重要犯罪」の認知件数は9535件で、一昨年の8821件から8%増加している。その内訳では、殺人が874件から853件に減り、強盗が1138件から1148件に微増と、ほぼ横ばいだったが、強制性交等が1388件から1655件に、強制わいせつが4283件から4708件へと、性犯罪がその前年から2年続けて増加している。

 しかも、警察庁が先月公表した今年1月から3月までの集計では、昨年同期と比べて強制性交等は323件から415件へ、強制わいせつは898件から1085件へと、さらに急増しているのだ。とりわけ強制性交等は2017年に刑法の親告罪が改正されてから最多となった昨年を上回るペースで増えている。


「強制わいせつの被疑者には厳罰化」の流れ

 山川に容疑がかけられて捜査が進む強制わいせつ、性犯罪は、いま日本がもっとも懸念すべき犯罪と言っても過言ではない。山川が逮捕、起訴されれば、日本の実態を如実に反映するばかりでなく、日本の安全で安心した生活を脅かす元凶を、プロ野球選手が、しかも侍ジャパンメンバーが率先してしでかしたようなものだ。

 そしてさらには、強制わいせつ致傷罪は、裁判員裁判の対象事件にもなる。

 司法の民主化を目的に、刑事裁判に一般市民感覚を取り入れた裁判員裁判がはじまったのは2009年。その直後から厳罰化の傾向が顕著に現れたのが、実は強制わいせつなどの性犯罪の事件だった。

 理由は単純だった。動機がひとつしかないからだ。

 例えば殺人であれば、介護疲れの果てに長年連れ添った伴侶を殺してしまうような介護殺人ともなれば、一般市民からなる裁判員にも同情の余地がある。現実に執行猶予が付いた判決すらある。これが無差別殺人などとなればそうもいかず、厳罰に処せられるのだろうが、それぞれの事件にそれぞれの事情や動機がある。

 ところが、強制わいせつともなれば、動機は自分の性欲を満たしたいという一点に尽きる。それで相手のことを振り返らない。尊厳を踏み躙り、心にも大きな傷を負わせる。それが激しい市民の怒りとなって、厳罰化に現れている結果だ。

 被害者が膣やその他の下半身から出血するほどのけがを負っているのに、「合意だった」というのであれば、よほどの性的嗜好の持ち主が相手でなければ、そうはならないだろう。

 しかも、山川は見ての通りの巨漢だ。身長は176センチでプロ野球選手としては小柄ながら、体重は100キロを超える。まして、過去にホームラン王を3度も獲得しているパワーヒッターだ。そんな男に無理矢理押し倒されて乱暴されたのだとしたら、女性が覚えた恐怖と、心に残った傷は想像するに余りある。男の私が山川にそんなことをされると考えただけでもぞっとする。


山川が起訴されればWBC優勝の侍ジャパンにも傷

 事件は昨年11月のこと。数日後には被害者が警察に駆け込んでいる。WBCの直後には警視庁が山川を呼び出して事情聴取しているとされる。

 球団がいつの時点でどこまで事態を把握したのか定かではないが、報じられて試合への出場を見合わせたのだとしたら、認識が甘すぎる。いまの社会的状況を鑑みても、もっと早い対応が必要だったはずだ。まだ、嫌疑の段階だが、強制わいせつは親告罪でもなければ、報じられている内容からすれば、示談で済むようなものでもない。

 これで山川が起訴されることになれば、WBC優勝の侍ジャパンにも傷がつく。その後になって球団やNPB(日本野球機構)がとってつけたように「コンプライアンス」の徹底や重視を叫びはじめたとしても、後の祭りだ。

筆者:青沼 陽一郎

JBpress

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