就学時健診より早く発達障害を見つけられる…新たに公費実施が決まった「5歳児健診」が重要な理由

2024年5月21日(火)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

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新しい「健康診査支援事業」として、1カ月児健診と5歳児健診が公費で行われるようになるという。小児科医の森戸やすみさんは「5歳児健診は、発達障害の早期発見のためにも非常に重要だ」という——。
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■新しい健康診査支援事業


今年1月、こども家庭庁と文部科学省と厚生労働省が、新しい「健康診査支援事業」をスタートさせました。いまだに日本のほとんどの地域において自費で行われている乳幼児健診である「1カ月児健診」「5歳児健診」に対して国が助成金を出し、全国的に3年以内に公費で実施されるようにするというものです。


そもそも、乳幼児健診とはどういうものでしょうか。乳幼児健診は、正確には「乳幼児健康診査」といって、子どもの心身の健康状態を把握して健康増進に役立てたり、病気を早期に発見して治療したりすることを目的とした健診です。現在は「母子保健法」に基づき、市区町村に実施義務のある「1歳6カ月児健診」「3歳児健診」が行われています。そのほかに「3〜6カ月児健診」「9〜11カ月児健診」が行われている自治体も多いですね。


なお、鳥取県のすべての市町村、神奈川県川崎市や群馬県藤岡市のように、すでに5歳児健診を行っている地域もあります。医療機関を個別に訪れるのではなく、保健所などで一斉に行う集団健診が多いようです。事前にアンケートを配り、心配な場合に来てもらうという形式もあります。今後、次々に市町村で5歳児健診が始まるでしょうから、お知らせが来たらぜひ受けましょう。


■古くからある乳幼児健診


こうした健診事業は、国民全員が保険に入る「国民皆保険制度」ができる以前から市町村主体で行われてきました。1937年に保健所法ができ、保健所による乳幼児保健指導が始まり、1939年には乳幼児健診がスタート。当初は戦前・戦後の子どもの発育や栄養の改善を目指し、次いで股関節脱臼など疾病の早期発見と治療、脳性まひや視覚・聴覚異常の発見と療育へと目的が増えていきました。


その後は、肥満や虫歯の予防、社会性の発達の支援、親子関係や親のメンタルヘルスを良好に保つための援助、虐待の未然防止なども行われています。


現在では国が委員会を作って、日本中どこでも同じように受けられるように「乳幼児健康診査身体診察マニュアル」や「乳幼児健康診査事業 実践ガイド」というものを出しています。そして、以前から続く健康課題のスクリーニングだけでなく、育児支援の視点が必要となっていて、医師・歯科医師、保健師、看護師、助産師、歯科衛生士、管理栄養士・栄養士、心理職、保育士などの多くの職種が関わっています。健診で問題が見つかれば、そうした専門家につないで、問題解決へとつなげるのです。


■5歳児健診が必要な理由


さて、1カ月児健診は、これまでもほとんどの人が自費で受けているはずです。主に小児科医(医療機関によっては産婦人科医や内科医)が健診を行います。呼吸循環機能や神経発達のどこかに問題があると、充分に哺乳できず成長が阻害されるため、まずは体重を確認します。それ以外にも筋肉の緊張程度、姿勢などから健康状態を把握するなどします。


一方、今現在、5歳児健診は多くの人が受けていません。5歳児健診では、病気の早期発見のためのスクリーニングが目的の一つなのはもちろん、さまざまな点を診ます。①身体発育状況、②栄養状態、③精神発達の状況、④言語障害の有無、⑤育児上問題となる事項(生活習慣の自立、社会性の発達、しつけ、食事、事故等)、⑥その他の疾病及び異常の有無、といった項目です。


幼児期において5歳は、言語の理解能力や社会性が高まり、発達障害を見つけやすい時期でもあります。こども家庭庁は、「保健、医療、福祉による対応の有無が、その後の成長・発達に影響を及ぼす時期である5歳時に対して健康診査を行い、こどもの特性を早期に発見し、特性に合わせた適切な支援を行うとともに、生活習慣、その他育児に関する指導を行い、もって幼児の健康の保持及び増進を図ることを目的とする」としています。


■就学前に発達障害の発見を


これまで日本では、1歳6カ月児健診において発達上の問題を早期発見しようとしてきました。実際、知的障害を伴う発達障害、典型的な自閉症の多くが見つかっています。1990年前後に生まれた子どもたちに対する1歳6カ月児健診で、自閉症は感度81%、発達障害の特異度100%という精度が報告されています(本田秀夫「発達障害の子どもを早期発見・早期支援することの意義」精神科治療学24巻8号)。感度とは病気を見つけ出すことのできる割合、特異度とは病気でない人を病気でないと判別できる割合です。


しかし、発達障害が軽度だったり、知的障害がなかったりすると、幼い子の特性はわかりづらいものです。5歳頃になって次第に特性が明らかになってくることもあります。急に周囲の子との違いがはっきりしてきて本人が違和感を持ったり、問題行動をとってしまったりすることもあるかもしれません。それによって孤立したり、登園・登校をしたがらなくなったり、いじめにあったりといった二次的な問題が起こることもありますから、早めの対策が大切です。


写真=iStock.com/mapo
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従来のやり方では、3歳児健診の後は、小学校入学の直前に行う「就学前健診」しか機会がありません。それより前の5歳児健診で発達の問題が見つかれば、就学前に支援や指導ができ、子ども本人や保護者、周囲が困ることを減らせるでしょう。今後は市区町村が主体となって、この時期の身体発育状況、栄養状態などに加えて、発達や育児の相談等を受けられるようになります。地域全体で、子どもと保護者をフォローアップする体制ができるのです。


■今、健康や発達が心配なら…


しかし、現時点では5歳児健診のない自治体がほとんどです。今、健康や発達が心配な場合はどうしたらいいでしょうか。まず、健康状態や身体的な発達が心配な場合は、かかりつけの小児科で相談しましょう。必要に応じて検査を行ったり、必要な場合は専門の診療科を紹介してくれると思います。


一方、発達障害が心配な場合は、WEBサイト「発達障害情報・支援センター」を見てください。発達障害のチェックポイント、相談窓口などの情報が提供されています。そのほか各地域に「児童発達支援センター」があります。その地域に住む発達障害のある子が通い、日常生活における基本的動作の指導、自活に必要な知識や技能を教わったり、集団生活への適応のための訓練を行ったりする施設です。具体的にどういうことをやっているのか、利用するためにはどうしたらいいのかなどは、市区町村に問い合わせてください。


子どもの健康上の問題や特性は早くに見つけることができれば、早くから治療や療育、支援などが受けられて、とても効果的です。お子さん本人はもちろん、ご家族が苦しんだり、困ったり、周囲との間に軋轢が生まれたりする前に、適切な専門家につながれるよう願っています。


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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。
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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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