なぜ、あなたの会社の1on1はうまくいかず、若者が去っていくのか?

2024年5月15日(水)4時0分 JBpress

 社員の主体性・自律性の向上を促し、定着率を高めるなどの狙いから、多くの企業で「1on1ミーティング」(1on1)が導入されている。しかし、効果的に実施できている企業は一握りで、1on1を実施しているにもかかわらず、何も語らぬまま会社を辞めていく若者が後を絶たない。なぜ、1on1はうまくいかないのか? 今の若者は何を考えているのか・・・? 本連載は、1on1を核とした世代間コミュニケーションの問題を切り口に、職場の若者を多面的に分析した『静かに退職する若者たち』(金間大介著/PHP研究所)から、内容の一部を抜粋・再編集。若者世代の部下・後輩との1on1の前に知っておくべきことについて解説する。

第2回は、1on1の典型的な課題と成功に導くためのヒントを整理して紹介する。

<連載ラインアップ>
■第1回 あなたが感じた手応えは「本物」か? 見落としがちな1on1の「勘違い」とは
■第2回 なぜ、あなたの会社の1on1はうまくいかず、若者が去っていくのか?(本稿)
■第3回 混同すると逆効果の恐れも? 知っておくべき「1on1」と「コーチング」の違いとは
■第4回 1on1に好意的で仕事に前向きな若者でも、あっさり退職してしまう理由とは?(5月29日公開)
■第5回 「演技」をするのは当たり前? 「今日は素で話し合います」のワナ(6月5日公開)
■第6回 上司が喜ぶように「予習」をしてくる若者たちに、どう対応すべきか?(6月12日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから

■1on1の課題を整理する「10の視点」

 ここからは1on1の課題を整理していく。現在における1on1の課題を最大公約数的に整理した上で、僕の見解を加味する形でまとめた。

 以降、3つの枠組み、10の視点で構成した。

【制度に関する課題】

[1]不明確な目的

 1on1の目的が定まっていない。僕が調査してきた限り、当人たちがそれを自覚しているかどうかにかかわらず、課題の中ではこれが最も多い。

「とりあえずやってみよう」という意識自体は否定しない。ただし、「とりあえず」というその号令が、「とりあえず、深く考えるのはやめよう」に変換されているケースがあまりにも多い。そもそもの目的が明確でない場合、ミーティングの焦点がぼやけ、やらされ感のみが残ってしまう可能性がある。

[2]ミーティング時間の確保の難しさ

 ミーティングのスケジュール調整が難しく、どんどん先延ばしになってしまう例が見られる。これは1on1を推奨する立場の部署(人事部等)としても、悩ましい課題だ。無理やり押し付けることはしたくない。

 ただし、身体のどこかに不調を抱える人が、多忙を理由に健康診断を先延ばしするのと同じで、何かが見つかるのが怖かったり、単に面倒でやりたくないから「忙しい」と言っている可能性はあるので、注意してほしい。

【実行に関する課題】

[3]不十分な準備

 いくら飾らない気楽な面談とはいえ、最低限の準備はした方がいい。「今日は最低でもこの点だけは確認しよう」、「明日、この課題をぶつけてみよう」といった具合だ。「今日は何を話そうか」などといった言葉から始めるのは論外だ。

 ただし、若者たちの中には、過度に準備するケースも見られる。その最たる方法は「同期に訊く」で、内容をあらかじめ把握することで当日に備えようという作戦だ。

[4]所要時間の超過

 図表2-2で一般的な1on1の所要時間を示したが、僕がヒアリングしてきた限り、これをオーバーする人が続出している。しかも、それをいいことと捉える向きも多い。深い議論ができている証拠というわけだ。

 僕から言わせれば、それは本末転倒というものだ。しっかりと案件の議論をしたいなら、それは会議で設定されるべきだ。1on1は居酒屋談義ではない。会議で議論できない人が、心理的安全性の担保をいいことに、1on1でぶちまけるのは間違っている。もし議論が白熱しそうなら、「よし、それは今度の会議の議題にあげよう」とまとめること。

[5]課題解決の追求

[4]と類似するが、頻繁に見られる課題なので強調したい。1on1は課題解決の場ではない。1on1であれプライベートであれ、人から悩みを相談されると、なぜか解決しようと白熱し、詳細を詰めだす人がいる。

 1on1はあくまでも共有がメインであり、課題解決のスイッチは別の場で発揮していただこう。念を押すが、くれぐれも批判的に課題を詰めたりしないこと。

 どうしても言いたくて我慢できない、あるいは相手が解決策を求めている、という場合は、㋐自分ならどうするかを話す(あくまで自分を主語にして)、㋑過去の類似例を紹介する(あくまで参考として)、のどちらかから入ることをおすすめしておく。

[6]フィードバックの欠如

 上司側が具体的なフィードバックを提供せず、部下の成長を支援しない場合、1on1の価値は著しく低下する。

 具体的なフィードバックの代わりに、評価や感想を述べる人も多い。あえて言おう。若手はそういったことは求めていない。では、どういったフィードバックが効果的なのか。この点はとても重要なので、後の章でしっかり論じたい。

[7]マンネリ化

 これも比較的よく聞かれる課題だ。毎回、同じトピックやアジェンダでミーティングが進行するので、話すことがなくなるということらしい。

 基本的な対策は[3]と同じだ。本当に他の議題がないか、事前に考えること。もし、それでも特にトピックがなければ、その回はスキップすればいい。

【心理的な課題】

[8]オープンな対話の不足

 一連の課題をヒアリングしてきた中では、これもとても多い印象だ。形式的なことしか言わない上司、言質(げんち)を取られることが怖くて曖昧な助言しかしない先輩、自分の意見を遠慮して言わない後輩、とにかく上司の望む回答探しばかりする部下など、これまでの調査研究で聴取したエピソードを振り返るだけで、若干熱が出そうだ。

 いずれの場合も、対話が表面的になり、ミーティングが形骸化する。この課題は本当に手強く、よって本書の最大の焦点と言ってもいい。

[9]フィードバックの受け入れの難しさ

 フィードバックに関する課題は、主に与える側に起因する。が、少なからず受け取る側にも課題はある。特に、極端に自己肯定感が低い人の場合は、素直にフィードバックを受け取ることができず、どうしても「そんなことを言うなんてひどい」、「きっと何か裏があるに違いない」などと思ってしまう。

 この感覚がわからない人にとっては、性格が曲がっためんどくさいやつ、としか思えないわけだが、当の本人としては、それなりに深刻な問題だ。

[10]その他1対1の空間だからこそ発生する課題

 信頼関係の構築は1on1の大目的の1つなわけだが、そこに至るプロセスにおいて、些細(ささい)だが避けて通れない課題は思ったよりも多い。

 例えば、年上の部下がどうも上司である自分を見下しているように感じる、上司が自分を異性として見ている気がして落ち着かない、タバコ臭いの勘弁してほしい等々、1対1の空間だからこそ発生する課題は多い。これらは1on1の直接の課題ではなく、よって僕の研究対象ではないので論じることはできないが、これらの課題は本人が気づかない限り解消されない場合が多い。

(僕も含めて)日々のセルフチェックを意識したい。

<連載ラインアップ>
■第1回 あなたが感じた手応えは「本物」か? 見落としがちな1on1の「勘違い」とは
■第2回 なぜ、あなたの会社の1on1はうまくいかず、若者が去っていくのか?(本稿)
■第3回 混同すると逆効果の恐れも? 知っておくべき「1on1」と「コーチング」の違いとは
■第4回 1on1に好意的で仕事に前向きな若者でも、あっさり退職してしまう理由とは?(5月29日公開)
■第5回 「演技」をするのは当たり前? 「今日は素で話し合います」のワナ(6月5日公開)
■第6回 上司が喜ぶように「予習」をしてくる若者たちに、どう対応すべきか?(6月12日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから

筆者:金間 大介

JBpress

「若者」をもっと詳しく

「若者」のニュース

「若者」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ