なぜ付属校では「早慶よりMARCH」の人気が高いのか…現在の合格者最低点は「20年前の平均点」という現実

2024年5月23日(木)17時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milatas

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首都圏の高校受験市場で私大付属校の人気が高まっている。Xのアカウント「東京高校受験主義」で受験情報を発信する東田高志さんは「私立大学の定員厳格化の影響で、MARCH附属高校の人気と難易度が高まっている。『早慶附属は無理でもMARCH附属なら』という淡い夢を抱いてはいけない」という——。

※本稿は、東京高校受験主義『「中学受験」をするか迷ったら、最初に知ってほしいこと』(Gakken)の一部を再編集したものです。


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■MARCH附属高校の難易度は…


早慶大に次ぐ有名私立大が、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学のMARCHです。MARCH附属校の入試難度は、学校によって大きな差があります。


特に、明治大学付属明治高校と立教新座高校は、早慶附属校に近い高難度です。立教新座は、早慶附属校を第一志望とする男子生徒にとっての前哨戦となることが多く、入試問題もハイレベルです。このため、早慶附属校を目指すものの届かなかった生徒が多く入学する傾向にあります。女子は青山学院高等部が別格の難度で、早慶附属に匹敵するレベルの高さです。


他方、明治大学付属中野、明治大学付属中野八王子、中央大学附属、中央大学高校、中央大学杉並、中央大学附属横浜、法政大学高校、法政大学第二高校(以下、法政第二)、法政大学国際(以下、法政国際)などのMARCH附属校は、それぞれ独自の特色を持ちつつも、おおむね大きな難度差はありません。


■生徒の個性に合わせてルートを選べる


MARCH附属の入試は、早慶附属校以上に多様性に富んでいます。


たとえば、法政大学の附属校には、それぞれ異なる特色と入試方法があり、受験生は自分の強みを生かした戦術を選ぶことが重要です。


法政大学高校では、内申点と偏差値のバランスが良い生徒が推薦入試と一般入試の両方に挑戦できます。推薦入試は内申点(評定)38/45以上が要件で、適性検査と面接で合否が決定します。推薦入試で不合格でも、一般入試では推薦入試受験者に加点があります。


法政第二高校や法政国際高校の書類選考入試は、中学校の成績が優秀でも模試の偏差値が低い生徒に適しています。内申点(評定)が42/45程度あれば、英検などの加点を含めて合格が狙えます。学力検査がないため、中学校の成績に特化して勉強した生徒に合った入試です。


学力に自信がある生徒は、法政第二高校や法政国際高校の一般入試が適しています。この入試は学力検査の点数のみで合否が決まるため、テストでの高得点が合格のカギです。


受験生は自分の強みや学習ルートに合わせて最適な入試方法を選択しましょう。


■人気と入試難度が高まっている背景


2010年代後半以降、MARCH附属高校の入試難度が顕著に上昇し、高校受験市場において大きな変動をもたらしました。この現象の背後には、文部科学省による私立大学の定員厳格化が影響しています。


入学定員を超過する入学者を厳しく取り締まった結果、一時期、私立大学全体の入試難度が上昇しました。


この情報がメディアによって大きく取り上げられ、受験生や親の不安を煽る形となり、結果としてMARCH附属校の人気と入試難度が高まりました。


早慶附属校ではなく、MARCH附属校に人気が集中するのには、「実力養成ルート」と「中学準拠ルート」の双方の受験生が受けやすいという高校受験特有の構造にあります。


「実力養成ルート」
入試の得点力強化や、将来の難関大学受験に向けた実力養成に全振りした学習ルートです。公立中学校のカリキュラムに準拠せず、塾やコースによっては高校課程にも踏み込む発展的な学習を進めます。勉強が得意な中学生、自立学習が身についていて、定期テスト勉強は自分でできるタイプの子に向いています。やりようによっては、中高一貫校のトップランナーと互角以上の力をつけることもできます。ただし、向き不向きがはっきりしています。


「中学準拠ルート」
公立中学校のカリキュラムに準拠して学習をしていくスタイルです。高校受験のメリットである「中学の授業が役に立つ」ことを最大限に生かして、中学校の授業をしっかりと理解して、定期テストで高得点を取りながら内申点を確保し、入試の得点力を強化していく。高校受験の王道であり標準ルートです。


出所=『「中学受験」をするか迷ったら、最初に知ってほしいこと

■高校受験唯一の「レッドオーシャン」


早慶附属校は「実力養成ルート」でないと対応が難しいため、附属校人気が過熱しても、その難しさから受験者数があまり増えません。


それに対して、MARCH附属校は受験の参入障壁が低く、中学準拠ルートの受験生も含んだ、より幅広い学習背景を持つ生徒が受験することになります。都立進学指導重点校への進学を目指す生徒も、高校受験をするときにMARCH附属校を併願校として選択する傾向にあります。


二つの学習ルートの受験生がなだれ込んだ結果、MARCH附属校は高校受験市場における唯一の「レッドオーシャン」、つまり非常に競争が激しい市場へと変化しました。


いまや、都立進学指導重点校から早慶大や中堅国立大学を狙える学力層でないと、高校受験でMARCH附属には到達しないのが現実なのです。


■MARCH附属高の合格者は最上位クラス


MARCH附属校のレッドオーシャン化は、現場で教えている私もひしひしと感じます。20年前の合格者平均点が、現在では合格者最低点になった感覚です。


その激戦ぶりを象徴する資料があります。難関私立大附属校受験に強い、ある大手塾の校舎のクラス別合格先の一覧です。


4クラスのうちの最上位クラスは選抜制です。


日比谷、西、渋谷幕張、開成、慶應女子、早稲田本庄、早稲田実業、早稲田高等学院、明大明治、明大中野、中央大高校、立教新座とそうそうたる顔ぶれが並びます。早慶附属だけでなく、MARCH附属校も最上位クラスが稼いでいることがわかります。


これが2番手以下のクラスになると、景色は一変します。


MARCH附属校の合格はごく少数を除いて消え、日大、東海大、専修大、駒澤大、国士舘大といった中堅私立大の附属校か、併願優遇で押さえ校として利用される中堅〜中下位の私立高校が並びます。


■中堅都立高校レベルでも散ってしまう


一方で、3番手や4番手のクラスであっても、手堅く都立高校を志望してきた生徒は、3番手系以上の都立高校への進学を果たしています。3番手系の都立高校は、真ん中の学力を保てばMARCHに進学できます。


出所=『「中学受験」をするか迷ったら、最初に知ってほしいこと

ここに、MARCH附属校を目指すことの大きなリスクが浮き彫りになります。


手堅く都立高校を狙えば、3番手系以上の都立高校に進学できた学力層が、「早慶附属は無理でもMARCH附属なら」という淡い夢を抱き、高校入試で最も激戦のMARCH附属市場に参戦して、ほとんどの受験生が散っているのです。


大学附属校を希望していて、早慶附属校レベルまで学力で突き抜けることができそうにない場合、MARCH附属校受験は、レッドオーシャンに突っ込む覚悟が必要です。今後、どうなるかはわかりませんが、しばらくは人気の高止まりが続くような気がします。


どうしてもMARCH附属校への志望変更を強く望む場合、先ほど紹介した法政第二や法政国際の書類選考入試を検討するのがいいでしょう。積み重ねてきた学習の方向性と入試のギャップを冷静に分析して、無理のない範囲での志望校選択を心がけましょう。


■「日東駒専」附属校に受かるボーダーライン


中学受験では、保護者の中に「12歳で大学を確定させたくない」という意識が働くため、中堅私立大の附属校は選ばれにくいようです。しかし、大学進学が現実味を帯びる15歳になると、中堅私立大の附属校もリアルな選択肢に昇格します。


中堅私立大の代表格が「日東駒専」(日本大、東洋大、駒澤大、専修大)です。スペースの関係上、ここでは最大勢力である日本大学の附属校について見ていきましょう。


日本大学の附属校は全国にあまたあり、東京からの通学圏だけでも、日本大学高校・中学校(日大日吉)、日大櫻丘、日大鶴ヶ丘、日大豊山、日大豊山女子、日大藤沢、日大習志野、日大第一、日大第二、日大第三、目黒日大などがあります。高校からしか入れない附属校も多いため、日東駒専の附属校は高校受験が主戦場といえます。


進学ルートは大きく二つに分かれます。一つは内申点を活用した推薦や単願です。高校によって差はありますが、おおむね5科目オール4が合格の目安です。


もう一つは学力検査による一般入試です。これも高校によって差はありますが、Vもぎ偏差値58ぐらいの学力があると合格を目指せます。これは、3番手系都立高校の豊多摩高校、城東高校、上野高校、調布北高校と同じくらいの学力です。


■「附属校に入れば安泰」とは限らない


大学受験ルートとも比べてみましょう。現在の日東駒専のボリュームゾーンは中堅系の都立高校です。豊島高校、石神井高校、広尾高校、深川高校、雪谷高校、小平南高校あたりをイメージしてください。



東京高校受験主義『「中学受験」をするか迷ったら、最初に知ってほしいこと』(Gakken)

たとえば、Vもぎの合格者平均偏差値53の小平南高校は、国公立大、早慶上智理科大、MARCHに現役で上位約20%が進学しています。それに次ぐ学力層が、成城大、成蹊大、明治学院大などに、さらに続く中間層が日本大や専修大の日東駒専に進学します。


大学受験で日本大に行ける都立高校はVもぎ偏差値53、高校受験で日大附属校に行くには偏差値58前後。この偏差値「5」の差が、附属校であることの安心を買うコストです。


ただし近年、どこの大学附属校も、附属生の学力低下が問題化して、内部進学の基準を厳格化しています。入学後に遊んでしまった結果、内部進学基準に達せず、行き場を失った友人が泣いていたなんて話を卒業生から聞いたこともあります。高校で勉強をサボってしまうと、附属校でも痛い目に遭うので、お気をつけて。


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東京高校受験主義(東田高志)
塾講師
Xで4万5000フォロワーのいる教育系インフルエンサー。首都圏の受験情報を毎日配信している。実生活では、20年のキャリアを持つ塾講師。長年、学校と塾の変化を見続け、現場を知り尽くし、小・中学生を教えてきた。おもに首都圏を中心とした教育ウォッチャーでもある。教え子のなかには、中学受験の撤退組、全滅組がおり、中学受験が合わなかったと感じる子どもをたくさん見てきた。保護者からも毎日「中学受験やめるべきでしょうか」と悩みが寄せられる。その疑問に答える形で、「選択肢の1つとして、高校受験もよい面が多い」とおすすめする『「中学受験」をするか迷ったら、最初に知ってほしいこと』(Gakken)の執筆を決意した。フィールドワークとして都内各地の公立中学校や都立高校を訪問し、区議会議員とのコラボイベントも開催している。
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(塾講師 東京高校受験主義(東田高志))

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