ジャニーズ依存症のテレビは変われるのか、番組編成表が示す持ちつ持たれつ

2023年5月24日(水)6時0分 JBpress

ジャニーズ事務所の創業者、故ジャニー喜多川氏による所属タレントへの性加害についてメディアが連日、大きく取り上げている。しかし、以前は疑惑が報道されても追随するメディアが限られていたこともあり、新聞やテレビに対する不信感が募っているようだ。メディアの「ご都合主義」は、新聞離れやテレビ離れの加速にとどまらず、魅力ある企業としてメディア、とりわけジャーナリストを目指そうとする若者の減少につながるのではないかと危惧している。

(岡部 隆明:就職コンサルタント、元テレビ朝日人事部長)


「新聞購読の学生は1%」と新聞学科の先生が嘆く

 先日、都内の某大学を訪れ、就職先としてマスコミやエンターテインメント関連企業を志望する学生が多い学部で教鞭を執っている5人の先生と意見交換しました。

 最近の大学生の特徴や傾向を聞いてみたところ、全員が「娯楽志向」と断言しました。大学生にとってはYouTubeが身近な存在で、YouTuberになるために映像技術を習得したい人が多いそうです。

 そして社会に出て働くことを考える段階になると、テレビ番組やCMの制作、映画製作、音楽ライブの運営、ドラマや舞台の美術など、クリエイティブな仕事を志望するとのことでした。

 一方、娯楽志向の裏返しとして「ジャーナリズムへの関心の低下が著しい」と先生方が嘆いていたのは印象的でした。マスコミに興味がある学生たちが集まっているにもかかわらず、テレビをほとんど見ず、新聞を全く読まず、ニュースに触れないで生活している学生が散見されるそうです。

 中には「上智大学文学部新聞学科の学生で『新聞を購読しているのは1%』だと、上智大学の先生から聞いて驚いた」という話もありました。「1%」という数字が調査に基づくものか、それとも先生が体感で言っているのかはわかりませんが、新聞学科の学生ですらほとんどが購読していないことは間違いないようです。


世間に見透かされたジャニーズ事務所への忖度

 社会に難題が山積し、AIの進化で本物と見分けがつかないフェイクニュースが増えています。だからこそ、ジャーナリズムはますます重要になり、ジャーナリストの存在価値は高まると思います。記者という仕事はやりがいに満ちているはずなのに、それを目指す若者が減っているという話を聞くのは残念です。

「テレビを見ないのだから、テレビ局の報道記者になろうと考えるはずがない」と結論づけてしまえば終わってしまう話なのかもしれません。しかし、そんな単純な話で片付けるべきではなく、メディアとしての存在意義と将来性が問われていることを噛みしめる必要があると切実に思います。

 そうした中で、メディアに対して批判や不信感を招くような事態になっています。ジャニーズ事務所の問題を長きにわたって黙殺してきたためです。

 これまで各放送局ともに、ニュース番組やワイドショーの放送時間を増やしてきました。視聴者が本当に必要としている情報なのかどうか定かではありませんが、当たり障りなく時間を埋めるのに好都合なのは、これらでしょうか。コメンテーターの感想、やたらと詳しい天気予報、脈絡もなく取り上げられるグルメ情報、人気野球選手の一挙手一投足など・・・。

 それらに時間を割くことは否定しません。ただ、ジャニー喜多川氏の性加害問題を取り上げるタイミングが遅いばかりか、いまだに消極的な報道姿勢であることには疑問を抱きます。

 ジャニーズ事務所に忖度していること、そして、横並び意識で様子見をしていることを世間に見透かされてしまっています。だから、ジャニーズ事務所の問題だけではなく、それを伝えなかったメディアの問題だ、という厳しい声が強くなっています。


「稲垣メンバー」が象徴する密接不可分な関係

 ジャニーズ事務所に忖度していると言えば、「稲垣メンバー」という言葉を思い出します。2001年、SMAPのメンバーだった稲垣吾郎氏が道路交通法違反と公務執行妨害の容疑で現行犯逮捕された際に、テレビのニュースで「稲垣容疑者」ではなく「稲垣メンバー」と伝えたことです。

 当時、テレビ朝日の事務系セクションにいた私は、「稲垣メンバー」というニュースを見た瞬間、「こんなことありなのか?」と驚き、あきれました。しかし、やがて「そういうこともあるんだな」とジャニーズ事務所と放送局の「力学」を想像し、高いレベルの政治判断なのだろうと大人の事情を理解してしまいました。

 30歳代の若造だった私には、どうすることもできなかったに違いありませんが、一視聴者と何ら変わらない、単なる傍観者だった自分自身を振り返ると情けなく思います。

 絶大な影響力のあるジャニーズ事務所と放送局との密接不可分な関係はなお継続中です。そこで今回、放送局がジャニーズ事務所をいかに頼りにしているか、現状を数量的に捉えてみたくなりました。

 5月14日(日)から20日(土)の1週間、NHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビの6つの放送局の番組編成表を調べてみました。


プライムタイムを「占拠」するジャニーズ

 一般的に視聴率が高い「プライムタイム」と呼ばれる19時から23時までの4時間、ジャニーズ事務所に所属するタレントが出演している番組をチェックし、番組単位(19時〜20時の番組に出演があれば1時間)でカウントしました。

◆放送時間合計 : 1日4時間 × 7日間 × 6局 = 168時間
◆出演番組合計 : 58.5時間

58.5 ÷ 168 × 100 = 34.8%

 私が算出した結果、プライムタイムの番組にジャニーズ事務所のタレントが出演している割合は約35%であることがわかりました。3分の1以上の番組に出演しているということです。ニュース番組や野球中継を除いて、バラエティーとドラマに絞ってみると約44.2%になりました。実に半分近くです。

 また、この1週間について19時台、20時台・・・というように1時間ごとの時間帯で番組編成表を横串にして眺めてみると、ジャニーズのタレントが「出演していない」時間帯は17日(水)の19時台だけでした。つまり、プライムタイムのほとんどすべての時間帯で、どこかの放送局に誰かが出演しているということです。

 まるで松本清張の長編推理小説『点と線』のようだと思いました。東京駅13番線プラットホームから15番線プラットホームが見通せるのは、1日の中で4分間しかないということが謎解きの重要ポイントでした。

 以上のデータからも、放送局がジャニーズ事務所に依存している状況がわかります。特に、民放はジャニーズのタレントを起用したい事情があります。


「自然消滅」を期待していたか

 昔も今も変わらず、多くのスポンサーは若い女性を最も重要なターゲットとしています。したがって、若い女性が見る番組に広告出稿(CMを流す)したい傾向があります。そのため、ジャニーズのタレントは放送局にとって非常にありがたい存在と言えます。

 プライムタイムはCM料が高く、収益にも大きな影響を与えるので、ジャニーズ事務所に忖度せざるをえない、がんじがらめの状況なのです。

 そうした背景もあって、週刊文春や、BBCといった外国メディアがジャニーズ事務所の問題を取り上げ、世論が盛り上がっても、放送局はしばらく「様子見」の態度を取ることを優先したのではないでしょうか。

 また、世論の怒りの矛先は、特定の放送局でなく、新聞も含めたメディア全般の不作為に向いていたので、「赤信号みんなで渡れば怖くない」という感じがあったように思います。

 各放送局は問題が鎮静化し、自然消滅することを期待していたかもしれません。しかし、被害にあったという証言者が次々に現れて、風向きが変わりました。

 そして、TBSのニュース番組『news23』でキャスターがメディアの責任を語ったり、NHKが『クローズアップ現代』で掘り下げたりしたことで、逆にこの問題を取り上げないと乗り遅れてしまうというような空気が生まれつつあります。


「見ざる、聞かざる、言わざる」だった放送局

 事務所と放送局の動向は引き続き注目されますが、スポンサーがどういう対応をするのかについても関心があります。

 不祥事やトラブルに対して非常に潔癖なスポンサーがあると聞いたことがあります。スポンサーによって、企業理念やスタンスの差異はあるでしょうが、この問題の展開次第で、スポンサーの対応も変わってくると思います。

 ジャニーズ事務所の問題について、放送局は日光東照宮の三猿のように「見ざる、聞かざる、言わざる」のスタンスを貫きたかったことでしょう。しかし、そうはいかない状況になって、これからの対応に厳しい視線が注がれることになります。

 世論が騒いでも明日の放送に支障はないけれども、タレント事務所やスポンサーに反感を買ってしまったら、放送に影響が出て、収益も大きな打撃を食らってしまう・・・だから忖度するという「ご都合主義」も世間からすでに見抜かれています。

 ジャーナリスト志望者の減少とジャニーズ事務所問題に対するメディアの不作為。これらはそれぞれ「点」としての事象ですが、「線」で結ばれると不幸でしかないと憂慮します。なぜなら、人材獲得競争が激化する中で、メディアに存在価値を見出せず、有能な人材が集まらないからです。本来あるべきジャーナリズムの機能について、メディア関係者はあらためて自らを問い直さねばなりません。

筆者:岡部 隆明

JBpress

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