5歳までは「夜8時までに就寝」が鉄則…帰宅後30分で寝かしつけを始める小児科医の子育てルール

2024年5月25日(土)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

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子育てで大切なことは何か。小児科医で『子育てを変えれば脳が変わる こうすれば脳は健康に発達する』(PHP研究所)を書いた成田奈緒子さんは「脳の発達にあった育児をすることが大切だ。5歳までは早寝早起きを徹底しないと、自律神経や体内時計がうまく働かず、学力低下や不登校などの問題につながる」という——。(聞き手・構成=ライター・村井裕美)(前編/全2回)
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■規則正しい生活リズムは教えないと身につかない


——成田さんは本の中で「子供が生まれて最初の5年間は『夜8時に寝る』生活を徹底すること」を提唱されていますが、それはなぜでしょうか?


子供、というか人間はそもそも、夜は寝て朝になれば起き、昼間活動する動物です。でも生まれてすぐはそれがまだきちんと脳内に刻み込まれていません。だから赤ちゃんは寝たり起きたり、起きたり寝たりを繰り返す不規則な生活をしているわけです。


そこでまず「人間という動物は、昼間は活動して夜は寝るものなんだ」ということを子供の脳に徹底的に刻み込みます。何も意識しなくても、朝に勝手に目が覚めて、夜は勝手に眠くなって、お腹も勝手に空いてくるという「体内時計」をしっかり働かせることのできる脳をまず1番最初に、生まれて5年間ぐらいで作り上げるのです。


もっとも、言葉の分からない生まれたての赤ちゃんに「早く寝て早く起きなさい」と言っても通じません。だから、五感から入る刺激で脳に教え込むんです。明るくなったら朝だよ、暗くなったら夜だよと、目から入る光の刺激で子供に生活リズムを教え込む作業を繰り返すのが、親たるものの役目です。


——それができないとどのような問題が起こるのでしょうか?


最初の5年間で育まれるのは、脳の土台の部分です。土台がしっかりしていないと、それ以降の「脳育て」もうまくいかなくなってしまうのです。


■脳の育ち方には順番がある


私は20年ぐらい前から、子供の脳は①からだの脳→②おりこうさんの脳→③こころの脳の順番に育てましょうと提唱しています。そうしないと、脳のバランスが崩れた状態になり、心身に症状が出てくるからです。なかなか一般の方には浸透しないのですが、専門家の方には結構注目していただいています。


まず、生まれてから5歳くらいまでの間に急速に発達するのが「からだの脳」です。これは脳の中でも、姿勢の維持や睡眠、食欲、呼吸や情動など、生命の維持に必要不可欠な身体機能を司るところです。自律神経の働きもコントロールしています。


この脳を育てるには、「夜は眠くなって寝る、朝も自然に目覚めて昼間に活動する」という生活リズムを刻み込むことが何より重要です。体内時計がしっかり働く脳を作り上げなくてはなりません。


その次に発達を始めるのが「おりこうさんの脳」です。「おりこうさんの脳」とは大脳新皮質のことで、勉強したり言葉を作ったり、スポーツで自分の意志で体をうまく動かしたりするための脳で、6〜14歳くらいの間に大きく育ちます。


そして10歳ぐらいになってくると、「おりこうさんの脳」の中でも最も高度な部分である前頭葉を使って、複雑な思考をしたり、他者を思いやるといったことができるようになってきます。私たちはこれを「こころの脳」と呼んでいます。


この子供の脳の発達の順序は私が発見したことではなく、常識です。そして、土台となる「からだの脳」が頑丈に育たなくては、順番通りにバランスよく育てることはできません。


図版=『子育てを変えれば脳が変わる こうすれば脳は健康に発達する』より

■早期教育が誤りである理由


私はいつも家に例えているのですが、その1階部分にあたるのが「からだの脳」です。1階が小さくて弱いのに、2階部分つまりお勉強やスポーツばかりを強化しようとしたらどうなるか。わらでできた脆弱な1階の上に、頑丈なレンガでできた2階を置こうとしても崩れてしまいますよね。つまり、塾に行かせて勉強を頑張らせているのに学習内容がいっこうに身に付かないというのも、睡眠を始めとする「からだの脳」がきちんとできていない時に起こりうる問題なのです。


「からだの脳」ができていないと、朝起きることが上手にできない。体内時計が働いていないから朝になっても目覚めないし、活動できない。そうすると学校にも行けなくなって不登校になったりすることもあります。


また「からだの脳」と「おりこうさんの脳」がきちんと育っていなければ、その次の「こころの脳」のバランスも崩れてしまいます。すると人を思いやることができなかったり、他の人に対して暴言を吐いてしまったりする可能性もあります。複雑な思考ができないわけですから、年齢が上がって学校で習う学習内容が高度になっていくにつれ、勉強について行けなくなってしまうとか、実にさまざまな問題が出てきます。


図版=『子育てを変えれば脳が変わる こうすれば脳は健康に発達する』より

■問題を抱える子に共通する睡眠不足


——親が悩んでいることの原因の多くは、元をたどれば睡眠のリズム、つまり「からだの脳」がちゃんと育っていないことにある、ということでしょうか。


私が主宰している親子支援事業の「子育て科学アクシス」には、いろんな問題を抱えたお子さんたちが来られますが、私たちがまず聞くのは睡眠の状況です。するとほとんど全てのお子さんが何らかの睡眠の問題を抱えています。それも時間的な意味での睡眠不足だけではなくて、質の低下といった問題がある場合がほとんどなのです。


写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

■睡眠を整えると問題が消えていく


——文部科学省によれば、2022年度の不登校の小中学生は約30万人と過去最多を記録し、前年度比で22%増という急増ぶりです。また、同じく2022年の文科省のデータでは、小中学校の児童・生徒のうち、発達障害の可能性のある子供の割合は8.8%で、こちらも10年前と比べて2.2ポイント増えています。


「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)という本にも書いたのですが、これほど急激に増えるというのは理にかなわないと思っています。


アクシスにはいわゆる発達障害とか不登校も含め、何らかの問題を抱えて相談に来る方が多いのですが、睡眠の改善、つまり「からだの脳」を作り変えるように生活を整えていただくと、けっこう多くの問題が消えていくんです。


勉強の問題や心の問題、問題行動や起立性調節障害という自律神経の不調など、お子さんが抱えている問題はさまざまなのですが、睡眠を整えるとその辺りがきれいに消えていく例が多いのです。


■帰宅後30分で寝かしつけする方法


——早寝早起きが大切だということはわかりました。しかし、共働きだと夜8時に子どもを寝かせるのは難しいのではないでしょうか。


私自身が共働きで、子供を産んだ時は大学病院の医師でした。とにかく忙しくて、生後50日から子供は保育園に行かせましたし、お迎えが7時を過ぎることもありましたが、それでも8時に寝かせる習慣づけは徹底してやっていました。だから絶対にできます。


家に帰るのが7時半だったとしても、8時に寝るまでの30分間で、「死なないためにやらなくてはならないこと」は終わらせられるんですよ。そして「死なないためにやらなければならないこと」というのは基本、ご飯を食べることだけです。


あと30分で寝るだけですし、あまり重い食事を取ると寝付きが悪くなるので、わが家の場合、子供が小さい時の夕食は主に納豆ご飯でした。納豆のパックを開けて混ぜるだけでいいんですから、とても簡単ですよ。あとはご飯を冷凍しておけば、2分ぐらいチンするとほかほかになります。計2分30秒ぐらいで食事のできあがりです。子供は納豆ご飯が大好きでしたし、納豆は栄養バランスもとてもいいですしね。


それだけでは足りないなと思ったら、お漬物とかお味噌汁があればいいんです。お味噌汁も、インスタントならお湯をかけるだけでできますし。とは言うものの、子供が小さいうちはそこまで必要ありませんでした。


写真=iStock.com/viennetta
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/viennetta

——お風呂はどうしていたんですか?


お風呂は入らなくても死にません。入れる日は入ってもいいんですけど、入る時間がない時は温かいお湯で蒸しタオルを作って体を拭いていました。パジャマに着替える時に「今日はお風呂入らないけど、こうやってキレイキレイしようね」と言いながら蒸しタオルで拭くと、子供はとても喜ぶんですよ。スキンシップにもなりますし、遊びにもなります。そして一緒に布団に入ってしまうんです。


■親も一緒に就寝が鉄則


——成田さんもその時間に寝てらしたんですか。


そうです。子供だけ先に寝かせようなんて考えてはだめです。子供は1日親と会ってなかったわけで、一緒にいたいじゃないですか。そこで、親が子供と一緒に布団に入ればスキンシップができます。「一緒に寝られて楽しいね」って親が笑顔で言えば、子供も楽しい気持ちになります。


8時に寝る癖がついていれば、電気を消してちょっとおしゃべりしているうちに、親も子もすとんと寝てしまいますよ。


■家事時間や自分時間は早朝に確保


——そのころの成田さんは夜8時に寝て、家事の時間や自分の時間をどこで取っていらしたのですか。


夜8時に子供と一緒に寝て、3時ぐらいに起きていました。まずお風呂に入って、それから家事をいろいろやって、時にはちょっと仕事をしたりして、4時くらいから夜の分までご飯を作っていました。うちでは朝、調理をするので一番重い食事は朝食なんです。


■早く寝かせるためにシッターを利用


——仕事でどうしても夜、遅くなってしまう時はどうしたらいいでしょうか?。


私はベビーシッターを活用していました。


夫が単身赴任しちゃったんですよ。当初は夫と共同で、早く帰れる方が子供と一緒に8時に寝るようにしていたのですが、ワンオペになるとそれが意外と大変で。帰りが遅くなる日は前もって分かっていたので、そういう日はシッターさんをお願いしていました。


写真=iStock.com/koumaru
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/koumaru

シッターさんには小学校低学年までお世話になりましたが、必ず8時に寝かせるようにお願いしていました。私の帰りが夜の9時くらいになる日もあったんですが、子供はさっさとご飯を食べて寝ていて、シッターさんはリビングで本を読みながら待ってくださっているといった感じでした。


ご飯は作り置きです。朝に作ったのを小皿に分けておいて、子供がその中から今日食べたいものを何品か選び、シッターさんに電子レンジで温めていただいて食べていました。


■まずは30分早く起こすことから始めよう


——今までそういう生活をしていなかった家庭で、早寝早起きの習慣を付けるにはどうしたらいいのでしょうか。「今日から保育園から帰ったらすぐ寝ようね」みたいなことは可能なのでしょうか。


夜早く寝かせることから始めるのはやめた方がいいです。習慣がついてない子供だとすごく嫌がるし、親もイライラしてしまいます。


まず最初は朝、いつもよりも30分なり1時間なり早く起こすところから始めましょう。怒鳴ったり叩いたりして起こすのではなく、子供が大好きな動画とか食べ物とか音楽とかを全部用意しておいて、楽しく起こすのがコツですね。


小さい子だったら抱っこして、「ママと一緒にちょっとお日様浴びに行こうか」とか声をかけてベランダに出てみましょう。お日様を浴びながら好きな音楽を聞かせるのもいいでしょう。とにかく親が「朝はすごく楽しいぞ」というのを演出してあげるのです。


あと大事なのが、昼寝が長くなりすぎないように保育園にお願いしておくことです。初めは睡眠時間がいつもより短いので、3時間ぐらい昼寝しかねません。そうすると夜眠くならず、いつまでたっても早寝早起きの習慣がつきません。保育園には「すみませんが今日のお昼寝は1時間程度で終わらせて、あとは頑張って起こしておいてください」とお願いしましょう。


そして家に帰ったら、夕食は納豆ご飯か何かでちゃちゃっと済ませます。ご飯を食べ終わった頃には、子供はすごく眠くなっているはずなので、親も一緒に寝てしまいましょう。最初は安定しないと思いますが、3日ぐらい続けるとだいぶ変わってきて、1週間ぐらいで定着します。



成田奈緒子『子育てを変えれば脳が変わる こうすれば脳は健康に発達する』(PHP研究所)

早寝早起きをし、たっぷりと睡眠を取る重要性は、小児科医なら全員知っていることなんです。小児科の教科書にちゃんと書いてありますから。


教科書には「5歳の子には11時間寝かさなければならない」と書いてあります。夜7時に寝て朝6時に起きれば11時間睡眠で教科書通りになりますが、それは日本のお子さんたちには難しいでしょう。私が子育てをしていた時も、保育園に預けながら、忙しい仕事をしながら11時間寝かせるのは無理だと思いました。だから、そんな無理をしろとは皆さんにも言いません。8時に寝かしつけて、6時に起こす。10時間の睡眠を5歳で目指す。これで大丈夫です。もちろん、6時とか7時に寝かせることのできるお家があるんだったら、それはそれでいいんですよ。


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成田 奈緒子(なりた・なおこ)
文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表
小児科医・医学博士・公認心理士。1987年神戸大学卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(共著、合同出版)など多数。
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(文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子)

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