どんどん結婚相手が減っていくのに…女性が男性に「自分より上」の学歴と年収を求め続ける本当の理由

2024年5月30日(木)16時15分 プレジデント社

未婚化が進む原因は何か。『少子化 女“性”たちの言葉なき主張』を上梓した雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんは「大卒・総合職の女性が増え、『自分より上』の学歴と年収を結婚相手に求める女性は相手を見つけにくくなっている。女性だけでなくその家族や社会全体がこうした昭和的結婚観を捨てる必要がある」という。亜細亜大学経済学部教授の権丈英子さんとの対談をお届けしよう——。

■戦前は女性が40代での出産が普通にあった


【海老原】女性が余裕ある人生を送れるように——そのためには、ヨコの改革で時間的余裕を、タテの改革で金銭的余裕を——というお話を伺いました。


タテ・ヨコと出て来たところで、語呂合わせではないのですが、「奥行き」についても考えてみたいところです。人生全体について、もっと余裕を持たせるにはどうしたらいいか、と。


先ほどからお話ししている「早婚・早産」論についてネットには、30代女性を「賞味期限切れ」と揶揄する投稿がたくさん見つかります。たとえば、年下の彼との結婚話が出ている36歳の女性の例。「孫の顔が見られないのは嫌だ、どんなにいい女性でも受け入れられない、と彼の両親が猛反対している」とか。


私はこうした状況に一石を投じたいのです。


実は40代になると子どもが産めなくなるという話は戦前にはありませんでした。40代の出生率(合計特殊出産率ではなく、年齢別出生数から算出した単純出生率)は、1925年だと0.4強、終戦直後でも0.3近くありました。それが1948〜1960年のたった12年間に急減少し、「40代は産まない」が常識化していきます。


妊孕率(子どもを産める力)に関する調査を見ても、40歳の女性のそれは、30歳と比べて7割以上もあり、思うほど落ちてはいません。確かに「3割弱低下」しますが、それも、元々不妊傾向だった女性が大きく数字を下げています。正常な女性の妊孕率はそれほど低下していません。しかも、こうした妊孕力調査は、1980年代までの「不妊治療がほぼなかった時代」の自然出生率についての話です。不妊治療が進歩したことを踏まえれば、現在の40代出産可能性はかなり高いでしょう。


■両親が年齢を理由に反対しても結婚すればいい


【権丈】まず、今の時代、両親がそうした理由で反対したとしても、結婚すればいいのではないかとは思います。せっかく素敵な人に巡り会えたのなら、その縁を大切にしてほしいですね。その上で、海老原さんのお話はこれから人生設計を考える女性たちにとって参考になる情報だと思います。女性がもっと余裕を持って人生を送り、やりたいことができるようになることは大切なことです。


一方で、妊娠・出産に関する正確な知識を持つ、相談できる人が周囲にいないことも、日本の女性にとっては不幸なことだと思います。たとえば、私が留学していたオランダでは家庭医という仕組みがあり、性に関することも親身に相談に乗ってくれていました。日本では病気にならないと医師に会えないようになっていますけど、何でも相談できる医師が身近にいたら助かる女性はたくさんいるはずです。


■人生に奥行きが持てる


【海老原】ありがとうございます。こうした話をすると、「でも、高齢だと障害発生確率が高まる」という不安を耳にしますね。確かにそれは事実でしょうが、40歳だとダウン症児の生まれる確率がまるで2人に1人のように勘違いされています。現実は、40歳出産で89人に1人、45歳だと24人に1人です。先ほどの妊孕力の件も、この障害発生の話も、いたずらに不安をあおるのではなく、こうした現実のデータをしっかり伝えることも重要でしょう。もちろんそれで終えず、対策や心の準備なども用意し、全部を知った上で、最善の選択肢を取れるようにしていけば、「30歳過ぎたら諦めた」「三十路女性は賞味期限切れだ」と考える人は少なくなっていくのではないでしょうか。


たとえば、胎児の障害については、出生前検査でわかります。現在は簡単な血液検査が妊娠6週間から可能です。かつてのように妊娠15週まで待って、肉体的負担の大きい羊水検査をしなければならないのとは異なります。もちろん、それで陽性が出る人もいるでしょう。その場合の対応や心の準備なども、示唆することが重要でしょう。


どうしても障害を受け入れられない方には、着床前診断という方法もあります。これは体外受精した複数の卵子に遺伝子検査を行うもので、正常な卵子のみを子宮に戻すことが可能となります。


「30歳までに産め」と強調するのではなく、こうした形で、女性の出産適齢期を伸ばし、人生に「奥行き」を広げてもらうことが必要だと考えています。


■今の40歳は昔の30歳


【権丈】そういう話も、先ほど話したように、医療制度の話に関連するように思えます。プライマリ・ケア医が不在の日本は、ちょっと残念ですね。


先ほど、1920年代に40代の女性の出生率が高かったという話がありましたよね。あの頃は、まだ寿命が短かったんですよ。


でも今は、当時と比べて、日本人ははるかに若返っています。2017年1月に、日本老年学会・老年医学会が共同で、日本人が5歳から10歳は若返ったという科学的データに基づいて、高齢者は75歳からにするべきだという高齢者再定義の提言を行っていました。今の40歳は、その先の余命の長さを考えても、昔の30歳くらいの気持ちでいいのではないでしょうか。


■自分より条件のいい男性を選ぶ女性たちは相手が見つかりにくい


【海老原】女性のライフサイクルは大きく変わりました。それに応じて、今流に妊娠や出産についてもアップデートすべきという話をしてきました。さて、最後となりますが、私は「女性の心の中に残り続ける昭和の残像」について話を移したいと思います。それは、「女性は今でも、自分より条件が良い男性を選ぶ」という話です。良いか悪いかは抜きにして、これが未婚・晩婚の大きな要因になっていると私は考えています。


昭和の頃であれば、女性は高卒・短卒が主で、仕事も事務などのサポート職が一般的でした。当然、大卒・総合職が多い男性と比べれば、多くの女性は学歴・職歴ともに劣ることになり、ゆえに、「周りを見渡せば、自分より条件が良い男性」がゴロゴロしていたわけです。ところが、学歴・職歴がどんどん男女平等化し、収入面でも近づいている昨今では、女性にとって「自分より条件の良い」男性は必然、少なくなっています。当然、昔の意識のままでは、相手が見つかりにくくなるわけです。


■職場結婚が30年間減少し続けているワケ


【海老原】「結婚相手をどこで見つけたか(きっかけ)」というデータを見ると、面白い傾向に気づきます。「職場」が30年間一貫して減少し続けているのです。その他の「友人や兄弟姉妹」「学校」「街中」「趣味」「アルバイト」「幼馴染」などは調査年毎に上下しており、激減しそうに思われがちな「見合い」でさえ、2000年以降は底打ちしている状況です。即ち職場婚の減少が、結婚関連での大きな変化であったとわかるでしょう。つまり、ここ30年間の結婚の減少は、即ち職場婚の減少とも言い替えられるわけです。


確かにこの時期、会社の風土は変わりましたが、それにしてもおかしい。だって、この間に職場では、25歳から39歳の適齢期女性の従業員が激増しているのです。そうして、男女比が1:1という理想に近づいています。確率的には過去よりも出会う確率が上がっているのに、なぜ職場婚が減っているのか?


そこに先ほどの「昭和の残像」が悪さしていると思えてなりません。


実際、出生動向調査を見ると、女性が男性に求める要素としては、「経済力」が高位安定していて、1992年の88.7%だったものが、2021年には91.6%とさらに上昇しています。「職業」も同様で、77.9%から80.7%に。「学歴」は54.6%から51.7%と少々下がっていますが、男性が女性に「学歴」を求める割合(20%台)と比べると、各段に高くなっています。


■魅力的な相手がいないうえに、独身でも困らない社会になった


【権丈】面白いデータですね。女性がなぜ自分より年収や学歴が高い人を選ぶのかという問題ですね。


結婚にあたっては男女ともに魅力的なパートナーを選ぼうとします。その魅力ですが、多くは将来性、経済力といったところでしょうか。この場合、学歴というのがそれらを示す代理指標になり得ます。いま流にいうと家事ができることも付け加えておくべきでしょう。趣味や価値観が合って一緒にいて楽しいことも重要です。自分のことを尊重してくれることも必須になります。稼ぐ能力は高くても、稼いだお金を全部自分で使ってしまうような人は当てはまらないですよね。


これらをクリアする魅力的な配偶者を見つけようとしてもなかなか見つからない。それどころか、昔と比べ、社会の仕組みや風潮が、独身でいても困らないように大きく変わっています。お金は自分で稼げるし、家事も家電製品が普及し軽労働化しているし、業者にお金を払って頼むこともできる。町に出れば手頃な値段で外食できますし、コンビニをはじめ、1人暮らし向けの弁当や総菜が揃っているお店がたくさんあります。男女ともに、昔ほど「結婚しなさい」という親や周囲の人からのプレッシャーも強くありません。独身生活を続けても差し当たり困らない。


写真=iStock.com/William_Potter
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/William_Potter

■男女ともに結婚の魅力は低下している


【権丈】ここ数十年の間に女性にとってのワークの魅力は高まったのに、要は個人にとって結婚というライフイベントの魅力が以前より低下しているわけです。今は、結婚や子どもをもつことの魅力、ワーク・ライフ・バランスにおけるライフの魅力をいかに高めていくかが重要になっています。結婚のパートナー探しも大変ですよね。自分にぴったりの魅力的なパートナーを探すのには時間もかかりますし、ある程度付き合って確かめる必要もあります。マッチングアプリの普及はそうしたパートナーの探索コストを下げます。私たちの時代には想像もできなかったのですが、今はかなり利用されていますね。もっと普及するのではないでしょうか。


■高学歴・高収入女性と低学歴・低収入男性が結婚市場に残る


【海老原】権丈先生の言う通り、学歴・収入で男女は差が少なくなり、金銭・日常生活で独身者が自由になってきたということは否定しませんが、それだけでは説明できない部分が大きいと私は思っています。


生涯未婚率のデータを見ると、女性は低年収者が低く、高年収者が高い。逆に男性は低年収者が高く、高年収者が低いと真逆になっています。男女差ないのであれば、権丈先生の話も違和感なく受け止められるのですが、この違い、どうお考えでしょうか?


「高年収者は一人で生きていけるが、低年収者は誰かに頼らなければならない」のであれば、男女ともに結婚は年収と逆相関となるでしょう。ところが、低年収の女性は男性に受け入れられるのに、低年収の男性は女性に受け入れられておりません。


【権丈】欧米諸国に関する研究によると、男女の学歴差があるときは、男性のほうが学歴が高いという組み合わせが多かったのですが、やや遅れて女性の学歴も高まってくると、概ね同程度の学歴での組み合わせが増えてきます。結婚も男女の役割分業の観点からは補完的な組み合わせが望ましいと考えられますが、実際には、同類婚といって、同じ学歴や社会階層同士の結婚が広がっています。マッチングアプリは、同類をマッチさせるツールですから、その普及は、同類婚を広めることになるのではないでしょうか。先にも話しましたが、とにかく今は、過渡期ですね。


写真=iStock.com/AH86
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86

■なぜ低学歴・低年収の男性は受け入れられないのか


【海老原】ネットには典型的な投稿が多々見られます。30代後半の女性で、結婚相手のことを親に話したら、「相手の学歴が自分より下」「サラリーマンではない」といった理由で、会う前から否定されたといった。これ、女性の問題ではなく、社会の問題だと思うんです。



海老原嗣生『少子化 女“性”たちの言葉なき主張』(プレジデント社)

今でも、生涯賃金は女性より男性が圧倒的に上です。とすると、結婚時点で女性が高収入だったとしても、その先長く考えるなら、やはり「将来性が高い(=学歴・職業が良い)男性を選ぶべき」と思ってしまうでしょう。また、昨今はイクメンが増えてきたとはいえ、家事・育児負担は未だに女性に偏っています。


高年収の女性が、低年収の男性と結婚したとしても、彼が家事育児の大半を担ってくれる可能性は高くありません。だから、女性は仕事を今まで通りに続けられない可能性が高い。仮に、もしそんな「髪結いの亭主」でも良いと考えたとしても、今度は、世間の理解が得られないでしょう。こうした問題が錯綜し、それが親兄弟・友人などの心で増幅され、未婚女性に向かってくるわけです。


「昭和の心」は色濃く残る。そしてその裏には、女性にとっての不都合がまだまだ残っている。時間はかかるけれど、そこをしっかり正していくべきだと、強く思っています。


■男女の収入差がある社会で、相手に稼ぎを求めるのは当然


【権丈】男女の収入差があり、男性の魅力の一つとして稼ぎが重要だと判断しますので、そうした点があるのは不思議ではないと思います。


先ほどの繰り返しになりますが、周囲に祝福されて結婚したいと思うのは自然な感情ですから、昭和の残像を色濃く残す親の意見を感じたときは難しいですね。といってもやはり、自分の人生は、自分で考えて決めることを大事にしてほしいと思います。先に、ゴールディンさんやヒラリー・クリントンさんの話をしましたが、彼女たちは、前の世代のようになりたくないという自立心を持って、自分の人生を若いときから準備してきました。『サピエンス全史』では、20万年以上続くホモサピエンスの歴史の中では性差別が一般的であったことが延々と述べられています。私たちが今、目の前で観察している現象は、極めて特異な歴史の屈折点にあるといえますね。


写真=iStock.com/78image
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/78image

私たちの時代もそうでしたが、20歳の頃と40歳、60歳の頃とは、何を正しいとするかの規範も異なる別世界を生きることになります。前の世代との意識の距離も生まれ、その時その時の選択が難しい、少々過酷な時代でもあります。


20歳の頃に目の前の状況に最適な選択が、時代の変化の中で時代遅れになり、人生を後悔しなくてもすむように、自分で考えていく。それが今、一番大切なことだと思います。そして私たちは、政策的に、そうした生き方を社会からサポートしていく。それも大切なことですね。


海老原さんのご著書を多くの人が手に取って、自らの人生設計のあり方、そして社会のあり方を考えてもらえればと思います。どうもありがとうございました。


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権丈 英子(けんじょう・えいこ)
亜細亜大学経済学部教授
慶應義塾大学商学部卒業、慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学、アムステルダム大学Ph.D(経済学)。アムステルダム大学研究員、亜細亜大学准教授を経て、現在、亜細亜大学理事・経済学部長・教授。公務:仕事と生活の調和推進官民トップ会議構成員、同評価部会部会長、労働政策審議会雇用環境・均等分科会、同労働条件分科会、社会保障審議会児童部会等の委員を歴任。現在は財政制度等審議会財政制度分科会、中央最低賃金審議会等の委員。著書:『ちょっと気になる「働き方」の話』(2019)、『もっと気になる社会保障』(2022、共著)、Balancing Work and Family Life in Japan and Four European Countries(2004)。
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海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト
1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。
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(亜細亜大学経済学部教授 権丈 英子、雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生 構成=海老原嗣生、荻野進介)

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