いま不動産投資家も注目する「木造マンション」が続々と増えているワケ

2023年6月30日(金)6時0分 JBpress

 マンションといえば、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造などが当たり前だが、最近はSDGsの時代を反映して、「木造マンション」が増えている。それも分譲から賃貸まであり、低層だけではなく中高層の物件も登場している。木造マンションにはどんなメリット、デメリットがあるのか。


2021年から「木造マンション」の表記が可能に

「木造マンション」とは、構造躯体や壁、床などに木材を使用した中高層の居住用の建築物のこと。CLTと呼ばれる直交集成材(ひき板を繊維方向が直交するように積層接着したパネル)やJAS規格に基づく耐火集成材を用いて建てたり、木造と鉄筋コンクリート造を組み合わせたハイブリッド構造で建築されたりする建物を指す。

 従来、木造の集合住宅は「アパート」という表記しかできなかったのだが、2021年12月、大手賃貸募集サイト事業者や住宅メーカーなどが共同で広告等の掲載ルールを改訂。次の基準を満たせば、「木造マンション」と表記できるようになった。

(1)共同住宅であること
(2)3階建て以上であること
(3)住宅性能評価書を取得した建物であり、以下の条件の両方を満たしていること
・劣化対策等級(構造躯体等)が等級3
・耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)等級3または、耐火等級【延焼の恐れのある部分(開口部以外)】が等級4、もしくは耐火構造

 アパートではなく、マンションと表記できるようになれば、消費者の受け止め方は格段に向上するため、今後は木造マンションが急速に増加するのではないかと期待されている。

 掲載ルールを改訂した背景には、さまざまな事情がある。

 第一に世界的なSDGsの機運を受けて、木造建築物への関心が高まっていることが挙げられる。林野庁の『令和元年度森林・林業白書』によると、住宅1戸あたりの材料製造時に発生する二酸化炭素の排出量は、木造が5.1トンなのに対して、鉄筋コンクリート造は21.8トンもある。木造は鉄筋コンクリート造の4分の1程度ですみ、カーボンニュートラルの実現に適している。

 第二に、鉄筋コンクリート造などに比べて軽量であり、地盤によっては鉄筋コンクリート造のように深く杭を打つ必要がなく、基礎工事が容易になるという。安全・安心で予算も削減できるメリットがあるのだ。

 また、木造マンションの普及は、高齢化や人材難などで衰退する一方の林業の活性化や再生を促す効果も期待できる。資源が乏しい日本ではあるが、国土の7割近くを森林が占める先進国のなかでは有数の森林大国であり、これを生かさない手はない。


家賃が高くても満室稼働が続く三井ホーム「MOCXION稲城」

 環境問題への意識の高まりから、木造マンションに関心を持つ消費者も増えているという。周辺相場に比べて分譲マンションの価格や賃貸住宅の賃料が若干高くなったとしても、環境問題への貢献度の高い木造マンションを選びたいという人が増えているのだ。

 たとえば、野村不動産が2021年3月に竣工した「プラウド神田駿河台(東京・神田)」は、12階〜14階でCLT耐震壁と耐火集成材を使用しており、わが国初となる14階建ての木造ハイブリッド高層分譲マンションだ。

 同マンションは60年の定期借地権付で、坪単価は500万円台から700万円台と高額物件だったが、予定通りに完売した。地球環境にやさしいマンションに住みたいという人が購入に動いたといわれている。

 また、木造マンションがアパートではなくマンションと表記できるようになったため、大手ハウスメーカーも木造賃貸住宅の分野に注力している。

 特に力を入れているのが、2×4住宅をメインとする三井ホームだ。木造住宅のメーカーとして、「木」に関する豊富な知見を有しているだけでなく、三井不動産グループが北海道を中心に広大な森林資源を持っているという強みもある。

 三井ホームが手掛ける木造マンションの第1弾は、2021年11月に竣工した総戸数51戸の賃貸住宅「MOCXION(モクシオン)稲城」(東京都稲城市)だ。

 全住戸50m2以上の2LDKで、賃料は共益費込みで13万円〜となっている。稲城市の賃貸相場からみるとやや高めの設定だが、2023年6月現在、満室で稼働しており、空きが出てもすぐに入居者が決まる人気物件となっている。

 続いて同社は今年5月に「MOCXION(モクシオン)四谷三丁目」(東京都新宿区)を竣工。総戸数16戸の賃貸住宅で、専有面積は21m2台から31m2台。家賃は21m2台が10万4000円、30m2台が14万6000円などとなっており、ここも高めの設定になっている。

 それでも、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)など地球環境にやさしい仕様や新築の賃貸住宅としては希少なペット可などの対応策を盛り込んでいるため、三井ホームでは「竣工から半年程度で満室にできるではないか」と話している。


CO2排出削減、耐久性アップ、衝撃音低減の「驚きの特徴」

「MOCXION四谷三丁目」は東京23区内で三井ホームが手掛けた初のオール木造のマンションとなっており、次のような特徴を持つ。

●脱炭素社会への貢献

 構造を木造とすることで、SDGs、ESG投資などに対応した建物となる。原材料の製造過程でCO2の排出がなく、鉄筋コンクリート造や鉄骨造に比べて軽量で、加工・運搬も容易であるため、建設時のCO2排出量も大幅に削減できる。

 同時に高い断熱性によって「ZEH-M Oriented(ゼッチ・マンション・オリエンテッド)」*注を取得。一次エネルギー消費量を26%削減し、分譲マンション並みの断熱性を確保している。

*注/断熱性能などを大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入によって室内環境の質を維持しながら大幅な省エネルギーを実現させ、かつ、共用部を含むマンション全体での一次エネルギー消費量を20%以上削減することを目指したマンションのこと

 木造メーカーとしてのメリットを生かすため、随所に木のあたたかみを取り入れているのも入居者には大きな魅力だろう。

●快適性・安全性

 優れた耐久性により住宅性能表示制度の最高等級3を取得、建物の75年〜90年の耐久性を実現している。また、9.8キロワットの太陽光発電パネルを搭載し、3.5キロワットの蓄電池を設置することで、停電時も通電が可能なレジリエンス機能を確保している。

●都市部でも施工可能

 都心の住宅密集地で大型車両が入れない場所でも、小型のクレーンを独自開発することで施工性を高め、当初予定より1カ月程度工期を短縮することができたという。

 木造だと遮音性に不安を感じる人がいるかもしれないが、「MOCXION四谷三丁目」では、上下階の遮音性を高めるため、三井ホームが独自開発した「高性能遮音床システムMute(ミュート)」を採用している。

 これにより、上階の衝撃音の伝播を低減させ、鉄筋コンクリート造と同等クラスの遮音性能を確保している。木造ならではのあたたかみや歩行感などを残し、入居者の快適な暮らしを実現させているのだ。


不動産投資で高利回りが狙える「優良物件」

三井ホームでは今後も2023年8月に「パークアクシス北千束MOCXION」(東京都大田区)、2024年2月に「(仮称)旭区大宮三丁目計画」(大阪市旭区)でモクシオンの竣工を予定している。このほかいくつかの案件の商談も進んでおり、木造マンションの建設が今後も続きそうだ。

 賃貸住宅については、住宅を建てたり、購入したりして運用することで収益の確保を目指す投資家の間でも、木造マンションのメリットがかなり理解されるようになってきたという。

 先の「MOCXION四谷三丁目」や「MOCXION稲城」もそうだが、三井ホームによると、「投資家が賃貸住宅の建設・運用を検討するにあたり、地球環境に貢献する社会的な意義の大きい木造マンションに共感し、三井ホームで建てることになった」という経緯があるそうだ。

 しかも社会貢献度の高い木造マンションは、エリアの相場賃料より高くても価値が認められ、入居者に選ばれる可能性が高い。投資家としても得られる賃料が多くなり、投資額に対する賃料収入を意味する利回りも高くなる。

 そうした点を考慮すれば、今後も木造マンションが増えることは間違いないだろう。賃貸住宅の運用で収益の確保を目指す投資家、賃貸住宅への入居を考えている人などはぜひとも注目しておきたい動きといえるだろう。


木造マンションの本格普及に向けた課題

 ただ、いいことばかりではない。課題やデメリットもあり、それを克服しないことには本格的な普及には至らないかもしれない。

 今後、木造マンションを施工できる住宅メーカーやゼネコンがどの程度出てくるのかという問題がある。

 資材価格が高止まりしている現在、資材を調達して施工できても建築費は高くならざるを得ず、分譲マンションなら価格の上昇、賃貸マンションなら賃料の上昇につながる。木造マンションを施工できるメーカー、ゼネコンが増え、スケールメリットによる建築費のコストダウンなどを実現できないと増加にはつながらない。

 現在は多少高くても環境問題への意識の高い投資家や入居者などから支持されているが、そうした人たちがどこまで広がるか先行きも不透明だ。

 木造マンションが今後本格的に発展するためには、安定価格での資材の調達、施工メーカーの拡大、建築費の抑制などをいかに克服していくのか、業界を挙げての取り組みが必要になりそうだ。

筆者:山下 和之

JBpress

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