バンダイナムコアミューズメントがDXで拓くアミューズメントビジネスの新境地

2023年6月14日(水)6時0分 JBpress

 コロナ禍で甚大な影響を受けたアミューズメント業界。この分野の大手であり、ゲームセンターやテーマパークの運営、「太鼓の達人」やプライズゲームなどの業務用ゲーム機の企画・販売などを行うバンダイナムコアミューズメントも例外ではなかった。同社では、アミューズメントビジネスの新しい可能性を見出すべく、2022年4月にDX部を立ち上げ、本腰を入れてOMO(Online Merges with Offline)に取り組んでいる。アミューズメントビジネスの未来を展望すべく、同社DX部の責任者を務める菅野和民氏にインタビューした。

——アミューズメント業界の現状をお聞かせください。


菅野和民氏(以下敬称略) かつてゲームセンターが華やかなりし頃、業務用のゲームが一番ハイスペックである時代がありました。そこから家庭用ゲーム機、携帯電話、スマホとハードが進化するにつれて、徐々に業務用のゲームの市場は小さくなっていきましたが、ある程度のタイミングで底を打ち、ここ10年ぐらいはやや上昇傾向にあると感じます。

 ゲームセンターのあり方も変わってきており、現在、5000億円のゲームセンターの運営市場のうち、6、7割をプライズゲーム(景品を獲得することをゲームの主目的としたアーケードゲーム)領域が占めています。それによって、キャラクターグッズや“キャラクターを通じての体験”などを求めてご利用いただく方の比率が上がり、20年前にくらべて女性のお客さまも増え、客層がかなり変わりました。さまざまな世代の方がキャラクターに慣れ親しんでいただける時代になったことで裾野が広がり、そこが起点となって回復傾向にあると考えています。

——そんななか、2022年4月、御社にDX部が発足しました。

菅野 バンダイナムコグループのなかでバンダイナムコアミューズメントは、ゲームセンターやテーマパークのような「リアルエンターテインメント領域」を担当しています。これらはお客さまに施設を訪れていただく必要があるため、ここ数年のコロナ禍で非常に厳しい状況に陥りました。そうしたなか、特命担当として、グループ企業から2020年に異動してきたのが、常務の香川(誠二)です。われわれは香川直轄の部隊として、DX部発足前から特命業務のプロジェクトに携わっていました。

 さまざまな施策を行うなかで上がってきた課題が、インフラやデジタルビジネスの基盤が事業部ごとにバラバラであるということです。このままではイノベーションが起こらないばかりか、サイロ化してしまって会社としての総合力も出せないと。それを解決するための組織として発足したのがDX部です。当社の部署は事業部に所属していますが、DX部は香川の直轄部隊であるのが特徴です。

——DX部が取り組んでいる事業を教えてください。

菅野 事業として大きいのは、バンダイナムコアミューズメントのポータルサイト「ナムコパークス」の開発・運営です。

 ナムコパークスの中心となっているのは、キャラクターイベントです。リアルな場で実施している物販やくじ引きといったものをeコマースでもご提供しましょうというところから始まりました。現在は、ナムコパークスにまつわるIPイベントやIPグッズといった販売、また、会員システムや顧客分析などにも着手しています。

 現在、ナムコパークスに「ガシャポンオンライン」がありますが、こちらは当社単体の事業ではありません。もともとは、グループ会社のバンダイが別のサイトで運営していました。オンラインでも、われわれのプラットフォームであるナムコパークスが担当することをバンダイと合意できたので、共同事業として運営しています。これにより、OMO(Online Merges with Offline)の素地が整ってきたと思います。

——OMOで、リアルとオンラインが相互に作用するのはどういった部分だとお考えですか。

菅野 OMOについて自分なりに調べたり、お話を聞いたりしましたが、一番フィットしたのは、オンラインだろうがオフラインだろうが、「利用者にとってそのときに一番利用しやすい状況を作り出すこと」だという捉え方です。つまり、OMOは手法ではなく状況であると。

 例えば、オンでもオフでも、ある程度自在にできる状況を作り出すことでIPの価値が高まり、IPを軸にプライズゲームやカードゲームなど横に広げていくことも可能です。

 その間に入り、お客さまとの接点を持てるのが「バンダイナムコID」(バンダイナムコグループのサービスを利用できる共通ID)です。IDを登録していただくことで、お客さまの購買動向がわかるという企業側のメリットもありますが、顧客側もバンダイナムコグループのサービスを利用できたり、お得なサービスなども利用しやすくなるというメリットがあります。

 これは香川の受け売りですが、クレーンゲームやガシャポン、一番くじ(オリジナルグッズが当たるハズレなしのキャラクターくじ)といったものは、取引のプロセスが少しだけ複雑であるぶん、そこに体験や遊びがあります。つまり、CX(顧客体験)型のリテールですよね。われわれはその定義に基づいて活動しており、ナムコパークスにしても「とるモ」(バンダイナムコ公式オンラインクレーンゲーム)にしても、“体験”としてどうおもしろいかというところを含めて開発しています。

 それをお客さまがどう評価しているか、今後どう伸びていくかというところはまさに試行錯誤中ですが、単にモノを手に入れるだけでなく「プロセス全般を含めて商品である」、その概念が、リアルとオンライン共通のコンセプトかなと思います。

——OMOを推進するために、ほかに取り組んでいることはありますか。

菅野 「バンダイナムコ Fan Fun Spot」というアプリです。デジタルの活用法としてサプライチェーンの距離を縮めることはよくありますが、それをリアルの領域にも取り入れたもので、商品・サービスを開発するメーカー側とお客さまの距離を縮めることを目的に開発しました。

 エンターテインメントの業界では、データに基づいたモノ作りというのは受け入れられにくく、作り手の感性や思いなどを市場に問うて、それが受け入れられたらヒットするという側面があります。なので、単にデータに基づいて作るのではなく、作り手が思ったものをそのまま市場に届けて、お客さまも生の反応をなるべく早く正確に作り手に返す。このサイクルをぐるぐる回していくことで、グループ全体の生産性を上げることが当社のOMOだと思っています。

 バンダイナムコ Fan Fun Spotは、それを実現させるためのツールの1つです。アプリを介して、お客さまが購入された後のご利用状況といったデータを分析した結果を含めて作り手に返す。そうすることで、作り手とお客さまの距離をぐっと縮めることができるのです。

 開発側は、そこの距離が縮まることでよりよい商品・サービスの開発につなげることができます。リアルだけでなくデジタルの接点も作っておけば、商品・サービスの量も質も頻度も高まります。それによってグループとしての生産性が上がり、われわれもそれをお客さまに提供できるようになるという、多くのメリットが生まれる。そのような構造ですね。

——現在、DX部が直面している課題はありますか。

菅野 最近は、事業側のシステムのセキュリティーも大きな課題になっています。もともと、当社のような企業はサイバー攻撃の対象になりにくい業界だったのですが、今はあらゆる領域で増えているという背景があります。また、eコマースなどを始めたことで個人情報を扱うことが増えてきました。どのようにして時流や状況に合ったレベルにセキュリティー面をキャッチアップしていくかというところが、目下の課題の1つですね。

 もう1つは、人材育成です。当社は業務用ゲームのインフラも担っていますが、今後は海外展開に力を入れて、ゲーム機をよりグローバルに販売していこうという動きがあります。また、DX部にはいろいろな事業の生産性を上げていくという役割があり、事業同士、事業と機能、社内と社外などをつなぐ存在でなければいけません。そういう意味でも、ITや企画といった専門スキルと、異文化コミュニケーション能力の両方を備えつつ、ビジネス理解もきちんとできる人材を育てる必要があります。

 デジタルもそうですが、専門領域になると“わからないのでおまかせします”となりがちなのがよくないと思っています。例えばエンジニアは、「要件に沿ってきっちり作る」というスタイルの人が多いんです。でも、本当は「求められているニーズや解決すべき点を見つけて一緒に解決する」というスタンスが理想なんですよね。DX部のメンバーにはそういった話をよくしています。それを実現するためには、まずこちらから歩み寄り、どうしたらもっと便利になるのか、お客さまが喜んでくれるのか、ということを一緒に考えられる関係性を築くことが大事なのかなと思います。

 DX部には約50名が在籍していますが、正社員が半分と派遣社員や業務委託によるプロフェッショナルの方々で構成しています。データも含めたコミュニケーションや事業の部分は正社員が担って、専門領域は社外のプロフェッショナルが担うという形で業務を行っています。ただ、“この仕事を担当するのは○○課”というやり方ではなく、一人ひとりに明確なミッションを振って、その人が社外の方も含めたチームを構成しながらフレキシブルに動けるのが特徴です。

——そういったプロジェクトマネジメントは、大事なスキルですよね。

菅野 そうですね。私自身は、10年ほど前からプロジェクトマネジメントを学んで実践してきましたが、社内業務だけだとあまり必要ありませんでした。でも、システムやグループ連携となると、国をまたぐこともあるほか、違う価値観やプロフェッショナリズムを持つ方と合同チームになることも多くなります。そうなると、既存の正社員だけで構成された組織とはまったく違うマネジメントが必要とされます。デジタルリテラシーも、“プロジェクトマネジメントを行うために必須なリテラシーの1つ”という位置づけで捉えています。

——最後に、DX部としての今後の展望をお聞かせください。

菅野 DX部は、既存の組織を集めて1本化した部隊で、新たなミッションも背負いながら最適化を進めるのが職務です。ただ、その最適化の先に何があるのかというところは見いだす必要があると思っています。

 そのためには、全社として、あるいはグループとして、ある程度共通のリテラシーや基盤があるなか、デジタルがあるのが当たり前の状況で、全員が自分たちのサービス・商品の展開を考えられるようになるのが理想形だと思います。DX部として成果・実績を出しながら、いろいろな人を巻き込んでいければと思います。

 そして、DX部から巣立ったメンバーが各事業体で活躍し、より連携を高めていった結果、グループのサービス・商品が重層的にグローバルに提供されるようになる。その一翼を担えるような存在になれたらうれしいですね。そのためには、今取り組んでいる体験型のリテール施設「バンダイナムコ Cross Store」やオフィシャルショップを中心としたOMOの展開をまずは成功させることだと思っています。

筆者:林 桃

JBpress

「アミューズ」をもっと詳しく

「アミューズ」のニュース

「アミューズ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ